炎症の嵐が臓器を次々と倒す―多臓器不全は「数値の向き」で読む
第103回医師国家試験 G問題 第16問
国試問題にチャレンジ
多臓器不全〈MOF〉でみられるのはどれか。3つ選べ。
- a.尿量減少
- b.低酸素血症
- c.乳酸アシドーシス
- d.血清アルブミン増加
- e.血清クレアチニン減少
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
多臓器不全(MODS)は、敗血症や重症外傷などの侵襲に対する過剰な全身性炎症反応を背景に、血管内皮障害や微小循環障害、組織低酸素が連鎖して複数の臓器が障害される病態です。腎障害では尿量が減少しクレアチニン・BUNが上昇し、肺障害(ARDS)では低酸素血症が、組織低灌流では嫌気性代謝による乳酸アシドーシスが生じます。アルブミンは肝での合成低下、負の急性期蛋白としての抑制、血管外漏出などにより低下します。臓器障害はSOFAスコアで評価され、治療は原因除去を最優先に循環・呼吸・腎機能を支持します。検査値の「増減の向き」を病態生理から説明できることが、集中治療での的確な重症度判断につながります。
解答・解説
正解はa, b, cです
多臓器不全(MOF: multiple organ failure)とは、重症外傷、広範囲熱傷、敗血症、ショック、重症急性膵炎、大手術などの強い侵襲をきっかけに、原因となった臓器とは別の複数の重要臓器(肺、腎、肝、心血管系、凝固系、中枢神経など)が同時または連続して機能不全に陥る状態である。現在では、臓器障害が段階的に進行し可逆的な時期もあることを重視して、多臓器機能障害症候群(MODS: multiple organ dysfunction syndrome)という呼び方も広く用いられる。 発症の中心にあるのは、侵襲に対する過剰な全身性炎症反応である。サイトカインなどの炎症性メディエーターが大量に放出されると、血管内皮が傷害されて血管透過性が亢進し、微小循環障害や微小血栓(DIC: 播種性血管内凝固)が生じる。その結果、各臓器への酸素供給が不足し、細胞のミトコンドリア機能も障害されて、臓器障害が連鎖的に広がる。 本問では、各臓器が障害されると検査値や臨床所見がどう変化するかを考えればよい。腎障害では尿量が減りクレアチニンが上昇する。肺障害では酸素化が悪化して低酸素血症となる。組織の酸素不足では嫌気性代謝が進み乳酸が蓄積する。肝障害・栄養障害・血管透過性亢進ではアルブミンは低下する。この「増えるか減るか」の向きを正しく判断することが解答の鍵である。
選択肢考察
- ○a. 尿量減少
腎臓は多臓器不全で障害されやすい臓器の一つである。ショックや循環不全による腎血流の低下(腎前性)に加え、炎症や虚血による尿細管障害(急性尿細管壊死)が起こると急性腎障害(AKI)となり、尿量が減少する。一般に、尿量が0.5 mL/kg/時未満の状態が続けば乏尿と判断され、AKIの診断基準(KDIGO基準など)にも用いられる。尿量は循環や腎機能を反映する指標として、集中治療で時間ごとに観察される。
- ○b. 低酸素血症
肺は多臓器不全で最も早期から障害されやすい臓器の一つである。全身性炎症によって肺の毛細血管の透過性が亢進し、肺胞内に蛋白を含む滲出液がたまる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を生じる。肺胞でのガス交換が妨げられ、酸素を投与しても改善しにくい低酸素血症となる。ARDSの重症度はPaO2/FIO2比(動脈血酸素分圧を吸入酸素濃度で割った値)で評価し、300 mmHg以下で診断される(200以下で中等症、100以下で重症)。
- ○c. 乳酸アシドーシス
ショックや微小循環障害によって組織への酸素供給が不足すると、細胞はミトコンドリアでの好気性代謝を十分に行えなくなり、嫌気性解糖に頼るようになる。この過程でピルビン酸から乳酸が大量に産生され、さらに肝障害があると乳酸の処理(代謝)も低下するため、血中乳酸が上昇し代謝性アシドーシス(アニオンギャップ開大性)となる。血中乳酸値は組織低灌流の重要な指標であり、敗血症性ショックの定義にも「適切な輸液後も平均動脈圧65 mmHg以上を保つのに血管収縮薬を要し、かつ血中乳酸値が2 mmol/L(18 mg/dL)を超える」という形で用いられている。
- ×d. 血清アルブミン増加
多臓器不全では血清アルブミンは低下する。その理由は複数ある。第一に、アルブミンは肝臓で合成されるため、肝障害があると合成が落ちる。第二に、強い炎症下では肝臓が急性期蛋白(CRPなど)の合成を優先し、アルブミンの合成が抑えられる(アルブミンは炎症で減少する「負の急性期蛋白」である)。第三に、血管透過性の亢進によってアルブミンが血管外へ漏れ出す。さらに、侵襲による蛋白異化の亢進や栄養摂取不足も低下に寄与する。したがって「増加」は誤りである。
- ×e. 血清クレアチニン減少
クレアチニンは筋肉で産生され、主に腎臓の糸球体で濾過されて尿中に排泄される。多臓器不全で急性腎障害を起こすと糸球体濾過量(GFR)が低下し、クレアチニンが排泄されずに血中にたまるため、血清クレアチニンは上昇する(BUN: 血中尿素窒素も同様に上昇する)。したがって「減少」は誤りである。血清クレアチニンは尿量とともにAKIの診断や、臓器障害の重症度評価(SOFAスコアの腎項目など)に用いられる。
多臓器不全(MOF)/多臓器機能障害症候群(MODS)の概要
・原因: 敗血症、ショック、重症外傷、広範囲熱傷、重症急性膵炎、大手術、心肺停止後など ・機序: 全身性炎症反応による血管内皮障害、血管透過性亢進、微小循環障害、DIC、組織低酸素、細胞のエネルギー代謝障害 ・予後: 障害臓器の数が増えるほど死亡率が高くなる
主な臓器障害とその指標
・呼吸: ARDS、低酸素血症(PaO2/FIO2比の低下) ・腎: 乏尿、血清クレアチニン・BUNの上昇 ・肝: 血清ビリルビン上昇、アルブミン低下、凝固因子の産生低下 ・凝固: 血小板減少、FDP・Dダイマー上昇(DIC) ・循環: 低血圧、血管収縮薬の必要 ・中枢神経: 意識障害(GCS: グラスゴー・コーマ・スケールの低下)
臓器障害の評価スコア
SOFA(sequential organ failure assessment)スコアは、呼吸(PaO2/FIO2)、凝固(血小板数)、肝(ビリルビン)、循環(平均血圧・血管収縮薬)、中枢神経(GCS)、腎(クレアチニン・尿量)の6項目を0〜4点で評価する。敗血症の定義(Sepsis-3)では、感染症に伴いSOFAスコアが2点以上急上昇した状態を敗血症としている。
治療の基本
原因(感染巣、壊死組織、出血など)の除去を最優先し、そのうえで輸液・血管収縮薬による循環の維持、人工呼吸による呼吸管理、腎代替療法(持続的血液濾過透析など)、栄養管理などで各臓器の機能を支持する。
POINT
・多臓器不全は侵襲による全身性炎症を背景に複数臓器が障害される致命的な病態 ・腎障害: 尿量減少、クレアチニン・BUN上昇 ・肺障害(ARDS): 低酸素血症 ・組織低灌流: 嫌気性代謝による乳酸アシドーシス(乳酸値は重症度・予後の指標) ・アルブミンは肝障害・炎症・血管透過性亢進により低下する ・臓器障害の評価にはSOFAスコアを用いる
