肺胞をつぶさない“見えない膜”―肺サーファクタントの5つの基本
第103回医師国家試験 G問題 第14問
国試問題にチャレンジ
肺サーファクタントで正しいのはどれか。
- a.糖脂質が含まれる。
- b.表面張力を低下させる。
- c.不足時には静脈内投与される。
- d.妊娠32週ころから産生される。
- e.Ⅰ型肺胞上皮細胞から分泌される。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
肺サーファクタントはII型肺胞上皮細胞が層板小体から分泌するリポ蛋白複合体で、脂質約90%(主成分はリン脂質のDPPC)と蛋白質約10%(SP-A〜D)からなり、糖脂質は主要な構成成分ではありません。気液界面の表面張力を下げ、特に呼気時に肺胞の虚脱を防ぐことで、ラプラスの法則による小肺胞の不安定さを打ち消し、肺コンプライアンスを高めます。胎児では妊娠24週ころに産生が始まり32〜34週ころから急増するため、早産児では不足して新生児呼吸窮迫症候群を起こしやすく、治療では人工肺サーファクタントを気管内に投与します。母体へのステロイド投与による肺成熟促進や羊水L/S比による評価も含め、呼吸生理と周産期医療をつなぐ重要なテーマです。
解答・解説
正解はbです
本問は肺サーファクタント(肺表面活性物質)の成分、産生細胞、作用、産生時期、補充療法の投与経路という基本事項を問う問題である。 肺胞の内面は薄い液体の層で覆われており、この気液界面には表面張力が働いて肺胞を縮めようとする。ラプラスの法則(P = 2T/r、P: 肺胞を広げておくのに必要な圧、T: 表面張力、r: 肺胞の半径)によれば、表面張力が一定なら半径の小さい肺胞ほど大きな圧が必要となり、つぶれやすい。肺サーファクタントは気液界面に並んで表面張力を下げ、特に呼気で肺胞が小さくなったときに表面張力を大きく低下させることで、肺胞の虚脱を防ぎ、肺胞の大きさを安定させている。 サーファクタントは約90%が脂質(その大部分はリン脂質で、主成分はジパルミトイルホスファチジルコリン[DPPC])、約10%が特異的な蛋白質(SP-A、SP-B、SP-C、SP-D)からなるリポ蛋白複合体であり、II型肺胞上皮細胞で合成・分泌される。胎児では妊娠24週ころから産生が始まり、妊娠32〜34週以降に急増して、およそ35週ころまでに成熟する。早産児ではこの量が足りず、新生児呼吸窮迫症候群(RDS)を発症しやすい。治療では人工肺サーファクタントを気管内に投与する。 これらの知識から、正しいのは「表面張力を低下させる」である。
選択肢考察
- ×a. 糖脂質が含まれる。
肺サーファクタントの組成は、重量でおよそ90%が脂質、10%が蛋白質である。脂質の大部分はリン脂質で、なかでもジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC、レシチンの一種)が最も多く、表面張力を下げる主役となる。そのほかホスファチジルグリセロール(PG)などのリン脂質や、コレステロールなどの中性脂質が含まれる。蛋白質成分はサーファクタント蛋白(SP-A〜D)である。糖脂質はサーファクタントの構成成分として挙げられないため、誤りである。
- ○b. 表面張力を低下させる。
肺サーファクタントの最も重要な働きは、肺胞内面の気液界面の表面張力を低下させることである。サーファクタント分子は界面に単分子膜をつくり、呼気で肺胞が縮んで膜が圧縮されるほど表面張力をより強く下げる。これにより、ラプラスの法則から予想される「小さい肺胞ほどつぶれやすい」という不安定さが打ち消され、呼気終末でも肺胞が虚脱しにくくなる。その結果、肺のコンプライアンス(膨らみやすさ)が高まって呼吸仕事量が減り、さらに肺胞への水分の滲み出し(肺水腫)も起こりにくくなる。
- ×c. 不足時には静脈内投与される。
サーファクタントは肺胞表面で働く物質であるため、補充する場合は気管挿管チューブなどを通して気管内に直接投与する。静脈内に投与しても肺胞表面に届かず効果はない。新生児呼吸窮迫症候群(RDS)では、ウシ肺由来の人工肺サーファクタントを気管内に注入すると、速やかに酸素化と肺コンプライアンスが改善する。なお、早産が予想される場合に母体へ副腎皮質ステロイド(ベタメタゾンなど)を投与するのは、サーファクタントそのものの補充ではなく、胎児のII型肺胞上皮細胞での産生を促して肺の成熟を早めるためである。
- ×d. 妊娠32週ころから産生される。
胎児のII型肺胞上皮細胞は妊娠24週ころからサーファクタントの産生を始める。その後、妊娠32〜34週ころから産生量が急速に増加し、およそ35週ころには出生後の呼吸に十分な量に達する。したがって「32週ころから産生される」は産生開始時期として誤りである。32週前後は「産生が急増する時期」と理解するとよい。この時期より前に生まれた早産児ほどRDSの発症率が高い。
- ×e. Ⅰ型肺胞上皮細胞から分泌される。
肺サーファクタントを合成・分泌するのはII型肺胞上皮細胞である。II型細胞は立方状の細胞で、細胞内にサーファクタントを蓄える層板小体(ラメラ小体)をもち、これを開口分泌で肺胞腔内へ放出する。一方、I型肺胞上皮細胞は非常に薄く扁平な細胞で、肺胞表面積の約95%を覆い、毛細血管との間でガス交換を行う場となっている。I型細胞はサーファクタントを分泌しない。また、II型細胞は肺胞上皮が傷害されたときに増殖してI型細胞へ分化し、上皮を修復する前駆細胞としての役割ももつ。
肺胞上皮細胞
・I型肺胞上皮細胞: 扁平で薄く、肺胞表面の約95%を覆う。ガス交換の場。 ・II型肺胞上皮細胞: 立方状で数は多いが表面積は約5%。層板小体をもち、サーファクタントを合成・分泌する。I型細胞の前駆細胞でもある。
肺サーファクタントの組成
・脂質 約90%: 大部分がリン脂質(主成分はDPPC)。ほかにホスファチジルグリセロール、コレステロールなど。 ・蛋白質 約10%: SP-A、SP-D(親水性。自然免疫に関与)、SP-B、SP-C(疎水性。界面での膜形成と表面張力低下を助ける)。
新生児呼吸窮迫症候群(RDS)
サーファクタント不足により肺胞が虚脱する疾患で、特に妊娠34週未満の早産児に多い。出生直後から多呼吸、呻吟(うめき声)、陥没呼吸、チアノーゼが進行する。胸部エックス線写真では肺野のすりガラス状陰影や気管支透亮像(エアブロンコグラム)を認める。治療は人工肺サーファクタントの気管内投与と呼吸管理(CPAPや人工呼吸)である。母体の糖尿病では高インスリン血症によってサーファクタント産生が遅れ、RDSのリスクが高まる。
胎児の肺成熟の評価と促進
・羊水のL/S比(レシチン/スフィンゴミエリン比): 2以上で肺成熟と判断する。 ・シェイクテスト(泡沫安定試験)、マイクロバブルテスト: 羊水や胃液に含まれるサーファクタントの量を泡の安定性で推定する簡便な検査。 ・早産が予想される場合、母体に副腎皮質ステロイドを投与して胎児の肺成熟を促進する(出生前ステロイド投与)。
POINT
・肺サーファクタントはII型肺胞上皮細胞が分泌し、肺胞の表面張力を下げて虚脱を防ぐ ・組成は脂質約90%(主にリン脂質、主成分DPPC)と蛋白質約10%(SP-A〜D) ・胎児では妊娠24週ころに産生開始、32〜34週ころから急増 ・不足(新生児RDS)には人工肺サーファクタントを気管内投与する ・早産が予想されるときは母体へのステロイド投与で肺成熟を促す
