酸が来たらアルカリで迎え撃つ―膵液の重炭酸を動かすホルモンはどれか
第103回医師国家試験 E問題 第2問
国試問題にチャレンジ
膵液中の重炭酸イオンの分泌を刺激するのはどれか。
- a.セクレチン
- b.グルカゴン
- c.ソマトスタチン
- d.コレシストキニン
- e.pancreatic polypeptide〈PP〉
対話形式の解説
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医学生まとめ
膵液は、腺房細胞が分泌する消化酵素と、導管細胞が分泌する重炭酸イオンに富む水分の2成分からなります。十二指腸内に酸が流入してpHが下がるとS細胞からセクレチンが放出され、導管細胞でcAMPとCFTRを介して重炭酸分泌を促し、胃酸を中和します。一方、コレシストキニンは脂肪酸やアミノ酸を刺激にI細胞から分泌され、胆嚢収縮と膵酵素分泌を担い、ソマトスタチンや膵ポリペプチドは膵外分泌を抑制し、グルカゴンは血糖を上げる膵島ホルモンです。「酸にはアルカリでセクレチン、脂肪・蛋白には酵素と胆汁でコレシストキニン」と刺激と目的をセットで覚えると、消化管ホルモン全体の整理や、嚢胞性線維症・ガストリノーマなどの病態理解にもつながります。
解答・解説
正解はaです
膵外分泌を調節する消化管ホルモンの作用を問う問題である。 膵液は、腺房細胞から分泌される消化酵素(アミラーゼ、リパーゼ、トリプシノーゲンなど)と、導管上皮細胞から分泌される重炭酸イオン(HCO3−)に富む水分の2成分からなる。前者を主に促すのがコレシストキニン(CCK)、後者を主に促すのがセクレチンである。 酸性の胃内容物が十二指腸に入り、十二指腸内のpHが約4.5以下に下がると、十二指腸・上部空腸の粘膜にあるS細胞からセクレチンが血中へ放出される。セクレチンは膵導管細胞に作用し、細胞内cAMPを増やしてCFTR(嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子)を介したCl−分泌と、Cl−/HCO3−交換によるHCO3−分泌を高める。こうして分泌されたアルカリ性の膵液が胃酸を中和し、膵酵素が働きやすい中性付近の環境をつくるとともに、十二指腸粘膜を酸から守る。 「酸を中和するためのアルカリ(重炭酸)=セクレチン」「脂肪・蛋白を消化するための酵素と胆汁=コレシストキニン」と、刺激となる食物成分と目的をセットで覚えると整理しやすい。
選択肢考察
- ○a. セクレチン
正しい。セクレチンは十二指腸・空腸上部のS細胞から、主に十二指腸内の酸(pH低下)を刺激として分泌される。膵導管細胞に作用して、重炭酸イオンと水に富むアルカリ性膵液の分泌を強く促進し、十二指腸に流入した胃酸を中和する。このほか、胆管上皮からの重炭酸分泌促進、胃酸分泌とガストリン放出の抑制作用もある。なおセクレチンは1902年に発見された最初のホルモンとして知られる。
- ×b. グルカゴン
誤り。グルカゴンは膵ランゲルハンス島のA(α)細胞から分泌される内分泌ホルモンで、低血糖時に肝臓でのグリコーゲン分解と糖新生を促進して血糖を上昇させる。脂肪分解やケトン体産生も促す。膵外分泌に対してはむしろ抑制的に働き、重炭酸イオン分泌を刺激する作用はない。
- ×c. ソマトスタチン
誤り。ソマトスタチンは視床下部、膵島のD(δ)細胞、消化管のD細胞などから分泌され、広範な抑制作用をもつ。成長ホルモン、インスリン、グルカゴン、ガストリン、セクレチン、CCKなどの分泌を抑え、胃酸分泌や膵外分泌も抑制する。重炭酸イオン分泌を刺激するのではなく抑制する側のホルモンである。この性質を利用して、ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド)が先端巨大症や神経内分泌腫瘍の治療に用いられる。
- ×d. コレシストキニン
誤り。コレシストキニン(CCK)は十二指腸・空腸上部のI細胞から、脂肪酸やアミノ酸・ペプチドの刺激で分泌される。主な作用は、胆嚢の収縮とOddi括約筋の弛緩による胆汁排出の促進、および膵腺房細胞からの消化酵素分泌の促進である。セクレチンの重炭酸分泌作用を増強する効果はあるが、CCK単独では重炭酸イオン分泌の刺激作用は弱く、重炭酸分泌の主役はセクレチンである。
- ×e. pancreatic polypeptide〈PP〉
誤り。膵ポリペプチド(PP)は膵島のPP細胞(F細胞)から、主に食事摂取や迷走神経刺激に応じて分泌される。膵外分泌(酵素・重炭酸の分泌)や胆嚢収縮を抑制する方向に働くと考えられており、重炭酸イオン分泌を刺激するものではない。
主な消化管ホルモンの整理
・ガストリン:胃前庭部G細胞。刺激=蛋白・アミノ酸、胃の伸展、迷走神経。作用=胃酸分泌促進、胃粘膜増殖。胃内pH低下で抑制される。 ・セクレチン:十二指腸・空腸S細胞。刺激=十二指腸内の酸。作用=膵からの重炭酸・水分泌促進、胃酸分泌抑制。 ・コレシストキニン(CCK):十二指腸・空腸I細胞。刺激=脂肪酸・アミノ酸。作用=胆嚢収縮、Oddi括約筋弛緩、膵酵素分泌促進、胃排出抑制。 ・GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド):十二指腸・空腸K細胞。作用=グルコース依存性のインスリン分泌促進。 ・GLP-1:回腸・大腸L細胞。作用=インスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制、胃排出抑制、食欲抑制。 ・ソマトスタチン:D細胞。多くのホルモン分泌と消化液分泌を抑制。 ・モチリン:十二指腸・空腸M細胞。空腹期の伝播性収縮(MMC)を誘発。
膵外分泌の2成分
・腺房細胞:消化酵素(CCKと迷走神経アセチルコリンで促進) ・導管細胞:HCO3−と水(セクレチンで促進、cAMP・CFTRを介する) 嚢胞性線維症ではCFTRの異常により導管からの水・重炭酸分泌が障害され、粘稠な膵液による膵管閉塞から膵外分泌不全をきたす。
臨床との関連
セクレチン負荷試験は膵外分泌機能の評価や、ガストリノーマ(Zollinger-Ellison症候群、セクレチン投与でガストリンが逆説的に上昇)の診断に用いられてきた。
POINT
・膵液の重炭酸イオン(アルカリ)分泌を促すのはセクレチン(S細胞、十二指腸内の酸が刺激)。 ・膵酵素分泌と胆嚢収縮を促すのはコレシストキニン(I細胞、脂肪酸・アミノ酸が刺激)。 ・ソマトスタチンとPPは膵外分泌を抑制する。 ・グルカゴンは膵島A細胞から分泌される血糖上昇ホルモンである。
