左足から始まるけいれん―大脳鎌に貼りつく「脳の外」の腫瘍を見抜く
第103回医師国家試験 D問題 第34問
国試問題にチャレンジ
45歳の男性。けいれん発作を主訴に来院した。昨夜,左下肢から全身に波及するけいれん発作が起こり数分でおさまった。神経学的には異常を認めない。頭部造影MRIのT1強調冠状断像(A)と矢状断像(B)とを別に示す。 診断はどれか。

- a.髄膜腫
- b.髄芽腫
- c.胚細胞腫
- d.神経膠腫
- e.転移性脳腫瘍
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
成人初発のけいれん発作では、脳腫瘍などの器質的疾患をまず検索します。左下肢から始まる焦点発作は、運動野の体部位局在から右の中心傍小葉、すなわち傍矢状部・大脳鎌近傍の病変を示唆します。硬膜に広く付着し、境界明瞭で均一に強く造影される脳実質外腫瘍は髄膜腫の典型像で、dural tail signや骨肥厚、病理での渦巻き状配列と砂粒体も特徴です。リング状造影と強い浮腫なら膠芽腫や転移性脳腫瘍、小児の小脳虫部なら髄芽腫、若年者の松果体部・鞍上部なら胚細胞腫と、実質内外・部位・造影パターン・年齢の4点で鑑別を進めます。発作症状から病変部位を推定し画像で裏づける思考は、脳腫瘍診療の基本となります。
解答・解説
正解はaです
臨床所見の整理
・45歳で初めてのけいれん発作:成人になってから初発するてんかん発作では、脳腫瘍、脳血管障害、外傷後変化などの器質的疾患(症候性・構造的原因)をまず検索する必要がある。 ・左下肢から始まり全身に広がるけいれん:焦点起始の発作が両側性の強直間代発作へ進展したものである。発作が左下肢から始まることから、焦点は右大脳半球の下肢運動野付近にある。下肢の一次運動野は中心前回の最上部から大脳半球内側面(中心傍小葉)にあたり、右傍矢状部や大脳鎌の近くに病変があると推定できる。 ・神経学的異常なし:腫瘍が脳を外から圧迫するだけで、脳実質を大きく破壊していないことと合う。
画像所見
造影T1強調像の冠状断(A)と矢状断(B)で、右前頭〜頭頂部の傍矢状部に、境界明瞭で辺縁の整った腫瘤を認める。腫瘤は大脳鎌と円蓋部の硬膜に広い基部で接し、内部は均一に強く造影されている。腫瘤は脳実質を外側から圧排しているが、脳実質内に入り込んではおらず、脳実質外(硬膜由来)の腫瘍と判断できる。中心部の壊死を示すリング状造影はなく、周囲の脳実質への浸潤像もない。
診断の考え方
脳腫瘍の鑑別では、(1)脳実質内か実質外か、(2)発生部位、(3)造影パターン(均一か、リング状か)、(4)患者の年齢、の4点が重要である。硬膜に広く付着する実質外腫瘍で、均一に強く造影され、中年の成人に発生していることから、髄膜腫(大脳鎌または傍矢状洞髄膜腫)が最も考えられる。腫瘍の部位は、下肢から始まる焦点発作とも一致する。
選択肢考察
- ○a. 髄膜腫
正しい。髄膜腫はくも膜の表層細胞(くも膜帽細胞)から発生する脳実質外の腫瘍で、多くは良性(WHO grade 1)である。中年以降の女性に多いが男性にも発生する。好発部位は大脳円蓋部、傍矢状洞部、大脳鎌、蝶形骨縁、嗅溝などである。画像では硬膜に広く付着する境界明瞭な腫瘤として描出され、造影で均一に強く増強される。付着部の硬膜が尾を引くように線状に造影される所見(dural tail sign)や、隣接する頭蓋骨の肥厚(hyperostosis)を伴うこともある。本症例は大脳鎌近傍の傍矢状部にあり、下肢運動野を刺激して左下肢から始まるけいれんを起こしたと考えられる。
- ×b. 髄芽腫
誤り。髄芽腫は小児(特に10歳未満)に好発する悪性度の高い胎児性腫瘍で、典型的には小脳虫部から発生し第4脳室を占拠する。症状は水頭症による頭蓋内圧亢進症状(頭痛、嘔吐)や体幹失調である。髄液を介した播種を起こしやすい。本症例は45歳の成人で、テント上の大脳鎌近傍の実質外腫瘍であり、年齢・部位ともに合わない。
- ×c. 胚細胞腫
誤り。胚細胞腫(ジャーミノーマ)は10〜20歳代の若年者に多く、松果体部や神経下垂体部(鞍上部)など正中部に好発する。松果体部では中脳水道の圧迫による水頭症や上方注視麻痺(パリノー徴候)、鞍上部では尿崩症や視野障害をきたす。まれに基底核にも発生する。本症例は年齢・部位ともに典型像から外れる。
- ×d. 神経膠腫
誤り。神経膠腫(グリオーマ)はグリア細胞由来の脳実質内腫瘍で、脳実質の中に浸潤性に広がるため境界は不明瞭なことが多い。低悪性度のものは造影されにくく、膠芽腫などの高悪性度のものは壊死を伴う不整なリング状造影と強い周囲浮腫を示す。本症例のように硬膜に付着し均一に造影される境界明瞭な実質外腫瘤とは画像所見が異なる。
- ×e. 転移性脳腫瘍
誤り。転移性脳腫瘍は多くが脳実質内、特に灰白質と白質の境界部に発生し、多発することが多い。造影ではリング状造影を示すことが多く、腫瘍の大きさに比べて周囲の浮腫が強い。乳癌などでは硬膜転移が髄膜腫に似ることもあるが例外的であり、原発巣の既往がない本症例で、単発・均一造影の硬膜付着腫瘤を転移性腫瘍とみなすのは妥当でない。
髄膜腫の概要
・原発性脳腫瘍の中で最も頻度が高い腫瘍の一つ(成人の原発性脳腫瘍の約3分の1以上を占める)。 ・中高年の女性に多い(女性ホルモンとの関連が指摘されている)。放射線被曝や神経線維腫症2型も危険因子である。 ・発育は緩徐で、無症状のまま偶然発見されることも多い。症状は腫瘍による局所の圧迫症状(けいれん、片麻痺、視力障害、嗅覚障害など)や頭蓋内圧亢進症状である。
画像の特徴
・CT:等〜高吸収域、石灰化を伴うことがある。隣接する骨の肥厚。 ・MRI:境界明瞭、硬膜に広く付着、均一で強い造影効果、dural tail sign。腫瘍と脳の間に髄液や血管が挟まる所見(cleft)も実質外腫瘍の根拠になる。 ・血管造影:外頸動脈系(中硬膜動脈など)から栄養され、腫瘍濃染(sunburst appearance)を示す。
病理
渦巻き状(whorl)配列と、砂粒体(psammoma body)が特徴的である。
治療
症状のある例や増大傾向のある例では外科的摘出が第一選択で、付着部硬膜を含めた全摘出で再発を抑える。術前に栄養血管の塞栓術を行うことがある。無症状の小さな腫瘍は経過観察も選択肢となり、残存腫瘍や手術困難例には定位放射線治療を行う。けいれんには抗てんかん薬を用いる。
主な脳腫瘍の好発年齢・部位の整理
・髄膜腫:中高年女性、硬膜付着部(円蓋部、傍矢状洞、大脳鎌、蝶形骨縁) ・神経膠腫(膠芽腫):中高年、大脳半球の実質内 ・髄芽腫:小児、小脳虫部 ・毛様細胞性星細胞腫:小児、小脳半球(嚢胞と壁在結節) ・胚細胞腫:若年男性、松果体部・鞍上部 ・頭蓋咽頭腫:小児と中高年、鞍上部(石灰化) ・下垂体腺腫:成人、トルコ鞍 ・神経鞘腫:成人、小脳橋角部(聴神経) ・転移性脳腫瘍:中高年、皮髄境界、多発
POINT
・成人初発のけいれんでは脳腫瘍などの器質的疾患を検索する。 ・下肢から始まる焦点発作 → 反対側の中心傍小葉(傍矢状部・大脳鎌近傍)に病変。 ・硬膜に広く付着し、境界明瞭で均一に強く造影される実質外腫瘍 → 髄膜腫。dural tail signが参考になる。 ・リング状造影+強い浮腫 → 膠芽腫や転移性脳腫瘍、小児の小脳虫部 → 髄芽腫、若年者の松果体部・鞍上部 → 胚細胞腫。
