片側か両側か―胸部X線の陰影分布で見分ける定型肺炎と非定型肺炎
第103回医師国家試験 D問題 第2問
国試問題にチャレンジ
両側肺に浸潤陰影をみることが多い病原体はどれか。2つ選べ。
- a.肺炎球菌
- b.肺炎桿菌
- c.レジオネラ属菌
- d.黄色ブドウ球菌
- e.肺炎マイコプラズマ
対話形式の解説
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ドクターまとめ
肺炎は、肺胞内で増殖し一側の肺葉・区域に広がる定型肺炎(肺炎球菌、肺炎桿菌、黄色ブドウ球菌など)と、気道上皮や間質を主体に両側性・多発性の陰影を生じやすい非定型肺炎に大別されます。両側肺に浸潤影をみることが多いのは、非定型肺炎の原因となるレジオネラ属菌と肺炎マイコプラズマです。レジオネラは循環式浴槽などから感染し、急速進行性の重症肺炎に低ナトリウム血症や意識障害などの肺外症状を伴い、マイコプラズマは若年者の頑固な乾性咳嗽と乏しい聴診所見が特徴で、いずれもβ-ラクタム系が無効なためマクロライド系やニューキノロン系などを用います。一方、肺炎球菌と肺炎桿菌は大葉性肺炎が典型で、黄色ブドウ球菌は空洞や膿瘍形成が特徴です。病原体の性質から陰影の分布と有効な抗菌薬を結びつけて理解することは、市中肺炎の初期治療を適切に選ぶための基盤となります。
解答・解説
正解はc, eです
テーマ
肺炎の起炎微生物と胸部画像所見(陰影の分布)の関係を問う問題である。
考え方
肺炎は、原因微生物によって大きく次の2つに分けて考える。 1. 定型肺炎(一般細菌性肺炎):肺炎球菌、肺炎桿菌(クレブシエラ)、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌、モラクセラ・カタラーリスなど、グラム染色で確認でき、β-ラクタム系抗菌薬が有効な一般細菌による肺炎。細菌が肺胞内で増殖し、滲出液が肺胞孔(Kohn孔)を通って隣の肺胞へ広がるため、一側肺の一つの肺葉または区域に限局した浸潤影(大葉性肺炎・区域性肺炎)を示すことが多い。 2. 非定型肺炎:肺炎マイコプラズマ、クラミジア(クラミドフィラ)・ニューモニエ、オウム病クラミジア、レジオネラ属菌など、細胞壁をもたない、または細胞内寄生性で、グラム染色で捉えにくく、β-ラクタム系が無効な病原体による肺炎。気道上皮や間質を主体に病変が広がり、気管支周囲の陰影、すりガラス影、斑状の浸潤影が両側性・多発性に出現しやすい。 したがって、両側肺に浸潤影をみることが多いのは非定型肺炎の原因微生物であるレジオネラ属菌と肺炎マイコプラズマである。
選択肢考察
- ×a. 肺炎球菌
誤り。肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)はグラム陽性双球菌で、市中肺炎の起炎菌として最も頻度が高い。典型的には一側の一つの肺葉全体に均一な浸潤影が広がる大葉性肺炎を呈し、陰影内に気管支透亮像(air bronchogram:空気を含んだ気管支が浸潤影の中で黒く抜けて見える所見)を伴う。高熱、悪寒戦慄、錆色の膿性痰が特徴で、尿中抗原検査で迅速診断できる。高齢者や脾摘後では重症化しやすい。
- ×b. 肺炎桿菌
誤り。肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)はグラム陰性桿菌で、アルコール多飲者、糖尿病患者、高齢者などに肺炎を起こしやすい。一般細菌性肺炎として一側の大葉性分布をとることが多く、右上葉に好発する。炎症による浸出が強く肺葉が腫大し、葉間裂が下方に膨隆する所見(bulging fissure sign)や、暗赤色の粘稠な痰(currant jelly sputum:スグリゼリー状痰)が特徴とされる。膿瘍形成をきたしやすい。
- ○c. レジオネラ属菌
正しい。レジオネラ属菌(主にLegionella pneumophila)は細胞内寄生性のグラム陰性桿菌で、非定型肺炎の原因となる。循環式浴槽、温泉、冷却塔、加湿器などの汚染水のエアロゾルを吸入して感染し、ヒトからヒトへの感染はない。浸潤影は急速に進行して多肺葉・両側性に広がることが多く、重症化して呼吸不全に至りやすい。高熱、比較的徐脈、意識障害などの中枢神経症状、下痢、低ナトリウム血症、CK上昇、肝機能障害など肺外症状を伴うことが特徴である。尿中抗原検査(主に血清群1を検出)やBCYE培地(活性炭入り特殊培地)での培養で診断する。β-ラクタム系は細胞内に移行しにくく無効で、ニューキノロン系やマクロライド系を用いる。
- ×d. 黄色ブドウ球菌
誤り。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)はグラム陽性球菌で、一般細菌性肺炎に分類される。インフルエンザ罹患後の二次性肺炎や院内肺炎(MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を含む)の起炎菌として重要である。毒素や酵素による組織破壊性が強く、気管支肺炎の形で始まり、空洞形成、肺膿瘍、膿胸、気胸を合併しやすい。右心系の感染性心内膜炎(静注薬物使用者など)や血管内カテーテル感染から血行性に広がる場合には、両側に多発する結節影(敗血症性肺塞栓)を示すことがあるが、一般的な肺炎の陰影分布として両側浸潤影が多いとはいえない。
- ○e. 肺炎マイコプラズマ
正しい。肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)は細胞壁をもたない微生物で、非定型肺炎の代表である。小児〜若年成人に多く、家庭や学校で飛沫感染により流行する。気管支・細気管支の上皮に感染するため、画像では気管支壁の肥厚、小葉中心性の粒状影、すりガラス影、斑状の浸潤影がみられ、両側性・多発性に出現することが多い。症状は頑固な乾性咳嗽が目立つ一方、聴診所見に乏しく、白血球数は正常範囲のことが多い。寒冷凝集素の上昇や、多形紅斑、溶血性貧血、心筋炎、脳炎などの肺外合併症が知られる。細胞壁がないためβ-ラクタム系は無効で、マクロライド系(耐性株ではテトラサイクリン系やニューキノロン系)を用いる。
定型肺炎と非定型肺炎
・定型(細菌性)肺炎:肺炎球菌、インフルエンザ菌、肺炎桿菌、黄色ブドウ球菌、モラクセラ・カタラーリスなど。膿性痰、グラム染色で起炎菌を確認でき、白血球増加、聴診でcoarse crackles。画像は大葉性・区域性の浸潤影が多い。β-ラクタム系が有効。 ・非定型肺炎:肺炎マイコプラズマ、クラミジア・ニューモニエ、オウム病クラミジア(鳥との接触歴)、レジオネラ属菌、Q熱コクシエラなど。乾性咳嗽、痰が少なくグラム染色で菌が見えない、白血球増加が軽度、聴診所見に乏しい。画像は両側性・多発性のすりガラス影や斑状影が多い。マクロライド系・テトラサイクリン系・ニューキノロン系が有効で、β-ラクタム系は無効。
日本呼吸器学会の鑑別項目(市中肺炎)
①年齢60歳未満、②基礎疾患がない、あるいは軽微、③頑固な咳がある、④胸部聴診上所見が乏しい、⑤痰がない、あるいは迅速診断法で原因菌が証明されない、⑥末梢血白血球数が10,000/μL未満。6項目中4項目以上を満たせば非定型肺炎を疑う(①〜⑤の5項目では3項目以上)。この鑑別法は主にマイコプラズマとクラミジアを想定したもので、レジオネラ肺炎は重症化しやすく細菌性肺炎と区別しにくいため、尿中抗原検査などで別に評価する。
画像所見の分布パターン
・大葉性肺炎(肺胞性肺炎):肺葉全体の均一な浸潤影。肺炎球菌、肺炎桿菌、レジオネラ(初期)。 ・気管支肺炎:気管支に沿った斑状・小葉中心性の陰影。黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマ。 ・間質性肺炎型:両側のすりガラス影・網状影。ウイルス、ニューモシスチス、非定型病原体の一部。 ・空洞形成:黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、嫌気性菌、結核菌。
POINT
・両側性・多発性の浸潤影は非定型肺炎(マイコプラズマ、レジオネラなど)で多い。 ・一般細菌性肺炎(肺炎球菌、肺炎桿菌)は一側の大葉性・区域性分布が典型。 ・黄色ブドウ球菌は空洞・肺膿瘍・膿胸を起こしやすく、血行性では両側多発結節影をとる。 ・レジオネラ:循環式浴槽・温泉、急速進行性の重症肺炎、低Na血症、意識障害、尿中抗原。 ・マイコプラズマ:若年者、頑固な乾性咳嗽、白血球正常、寒冷凝集素。 ・非定型肺炎にはβ-ラクタム系が無効で、マクロライド系・ニューキノロン系・テトラサイクリン系を用いる。
