出血で脈は速くなる―代償反応から読み解く出血性ショックの症候
第103回医師国家試験 C問題 第9問
国試問題にチャレンジ
出血性ショックの症候でないのはどれか。
- a.意識混濁
- b.皮膚湿潤
- c.四肢冷感
- d.徐脈
- e.血圧低下
対話形式の解説
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ドクターまとめ
出血性ショックでは循環血液量の減少により心拍出量が低下し、交感神経系の代償反応として頻脈、末梢血管収縮による四肢冷感・蒼白、交感神経刺激による冷汗(皮膚湿潤)が生じます。代償が破綻すると血圧低下、脳灌流低下による意識混濁、腎灌流低下による乏尿が現れるため、徐脈は典型的な症候ではありません。頻脈は血圧低下より先に出ることが多く、血圧が保たれていてもショックは否定できないので、ショック指数(心拍数÷収縮期血圧)も参考にします。β遮断薬内服者や末期の心停止直前では例外的に徐脈がみられうること、低血圧+徐脈+温かい皮膚なら神経原性ショックを考えることも押さえておきましょう。症候を代償機序から理解しておくと、救急の現場でショックを早期に見抜く力につながります。
解答・解説
正解はdです
ショックとは、全身の組織・臓器への血流(灌流)が低下し、細胞が必要とする酸素やエネルギー基質(ブドウ糖など)を供給できなくなった結果、臓器障害が進行していく急性の循環不全である。出血性ショックは循環血液量減少性ショックの代表で、血管内の血液量が減るうえにヘモグロビン(酸素の運び手)も失われるため、組織への酸素供給が二重に障害される。 出血によって静脈還流が減り、1回拍出量と心拍出量が低下すると、圧受容体反射によって交感神経系が強く興奮し、副腎髄質からもカテコールアミンが放出される。この代償反応を理解すれば、各症候は筋道立てて説明できる。 ・血圧は「心拍出量×末梢血管抵抗」で決まる。心拍出量を保つために心拍数を増やし(頻脈)、抵抗を上げるために皮膚や四肢の末梢血管を収縮させる(四肢冷感・皮膚蒼白)。 ・交感神経(コリン作動性の汗腺支配)の刺激で発汗が起こり、冷えた皮膚が汗でじっとり湿る(冷汗・皮膚湿潤)。 ・代償が追いつかなくなると血圧が低下し、脳血流が減って意識が障害される。腎血流の低下は乏尿を招く。 したがって、出血性ショックでみられるのは頻脈であり、徐脈は典型的な症候ではない。本問は「症候でないもの」を選ぶ否定形の設問である点にも注意する。
選択肢考察
- ×a. 意識混濁
出血性ショックの症候である。脳は酸素とブドウ糖の供給低下に特に弱い臓器であり、血圧低下によって脳灌流が保てなくなると、不穏・興奮、見当識障害、傾眠を経て意識混濁から昏睡へと進む。初期には不安や落ち着きのなさとして現れることが多く、意識状態の変化はショックの重症度を知る重要な指標となる。
- ×b. 皮膚湿潤
出血性ショックの症候である。代償的に亢進した交感神経が汗腺を刺激するため発汗が起こる。末梢血管が収縮して皮膚温が下がっているため、汗は冷汗となり、皮膚は冷たくじっとりと湿った状態になる。ショックの5徴(5P)の一つである「冷汗」に相当する。
- ×c. 四肢冷感
出血性ショックの症候である。交感神経の興奮とカテコールアミンの作用で皮膚・四肢の末梢血管が収縮し、血流が脳や心臓などの重要臓器へ優先的に振り分けられる(血流の再分配)。その結果、体幹部の熱が血流によって末梢へ運ばれにくくなり、四肢は冷たく、皮膚は蒼白になる。毛細血管再充満時間(爪床を圧迫して離したあと色が戻るまでの時間、正常2秒以内)の延長もみられる。
- ○d. 徐脈
出血性ショックの症候ではない。循環血液量が減って1回拍出量が低下すると、心拍出量(1回拍出量×心拍数)を維持するために交感神経を介して心拍数が増加し、頻脈となる。頻脈は血圧低下より早く現れることが多く、出血の早期発見に役立つ。ただし例外として、β遮断薬を内服している患者やペースメーカ装着者、高齢者では頻脈が目立たないことがある。また、大量出血の末期で心停止が迫った状態や、迷走神経反射が加わった場合には徐脈を呈することもあり、これは極めて危険な徴候である。これらは典型像ではないため、「出血性ショックの症候」としては徐脈は誤りとなる。
- ×e. 血圧低下
出血性ショックの症候である。循環血液量の減少によって心拍出量が低下し、代償機構で支えきれなくなると血圧が低下する。臨床的には収縮期血圧90mmHg未満、または普段の血圧から30mmHg以上の低下がショックの目安として用いられる。ただし、出血の初期には頻脈と末梢血管収縮によって血圧が保たれることがあり(代償性ショック)、血圧が正常だからといってショックを否定してはならない。拡張期血圧が上昇して脈圧が小さくなる変化が先に現れることもある。
ショックの分類
・循環血液量減少性ショック:出血、脱水、熱傷など ・心原性ショック:急性心筋梗塞、重症不整脈、心筋炎など ・心外閉塞・拘束性ショック:心タンポナーデ、緊張性気胸、肺塞栓症など ・血液分布異常性ショック:敗血症性、アナフィラキシー、神経原性(脊髄損傷)など
ショックの5徴(5P)
・蒼白(pallor) ・虚脱(prostration) ・冷汗(perspiration) ・脈拍触知不能(pulselessness) ・呼吸不全(pulmonary insufficiency)
出血量と症候の目安(成人)
外傷初期診療で用いられる分類では、おおむね次のように整理される。 ・循環血液量の15%未満の出血:症状はほとんどない。 ・15~30%:頻脈、脈圧の減少、軽い不安がみられるが、収縮期血圧は保たれることが多い。 ・30~40%:明らかな頻脈と血圧低下、頻呼吸、尿量減少、意識の変化が出現する。 ・40%超:高度の頻脈と血圧低下、意識障害、尿量のほぼ消失をきたし、生命の危機が迫る。 成人の循環血液量は体重のおよそ7~8%(約70mL/kg)である。
ショック指数(shock index)
心拍数÷収縮期血圧で求める簡便な指標。正常は0.5~0.7程度で、1.0前後でおよそ1L、2.0前後でおよそ2Lの出血が推定される。
神経原性ショックとの違い
脊髄損傷による神経原性ショックでは交感神経の遮断により末梢血管が拡張し、血圧低下とともに徐脈を呈し、四肢は温かく乾いていることが多い。徐脈・皮膚温暖を伴う低血圧をみたら、出血性ショックとは異なる機序を考える手がかりになる。
出血性ショックの初期対応
気道・呼吸の確保と酸素投与、太い静脈路を確保して細胞外液補充液(乳酸リンゲル液など)の急速投与、輸血の準備を行い、同時に出血源の検索と止血(圧迫止血、手術、カテーテル塞栓術など)を急ぐ。
POINT
・出血性ショックでは交感神経系の代償反応により、頻脈、末梢血管収縮(四肢冷感・蒼白)、冷汗(皮膚湿潤)が生じる。 ・徐脈は典型的な症候ではない(β遮断薬内服者や末期の心停止直前では例外的にみられうる)。 ・代償が破綻すると血圧低下、脳灌流低下による意識障害、腎灌流低下による乏尿が出現する。 ・頻脈は血圧低下より早く現れることが多く、血圧が保たれていてもショックを否定できない。 ・低血圧+徐脈+温かい皮膚は神経原性ショックを示唆する。 ・ショック指数(心拍数÷収縮期血圧)1.0で約1Lの出血を推定する。
