頭頸部癌は「部位ごとの例外」で覚える―EBウイルス、重複癌、そして良性腫瘍の落とし穴
第103回医師国家試験 A問題 第8問
国試問題にチャレンジ
正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.上咽頭癌はEBウイルスとの関連性が深い。
- b.上顎洞癌で最も多いのは腺癌である。
- c.口腔癌で最も多いのは歯肉癌である。
- d.下咽頭癌はしばしば食道癌を合併する。
- e.喉頭乳頭腫は癌化しない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
頭頸部癌の大部分は扁平上皮癌で、喫煙と飲酒が共通の危険因子ですが、部位ごとに重要な特徴があります。上咽頭癌はEBウイルスと深く関連し、中国南部や東南アジアに多く、放射線感受性が高いため化学放射線療法が中心です。下咽頭癌は飲酒・喫煙を背景としたfield cancerizationにより食道癌を高率に合併するため、上部消化管内視鏡での食道の検索が欠かせません。上顎洞癌の最多組織型は扁平上皮癌、口腔癌の最多は舌癌であり、HPV6・11型による喉頭乳頭腫は良性でもまれに癌化します。原則と例外を部位ごとに整理し、ウイルスとの関連や重複癌を意識することは、国試対策にとどまらず頭頸部癌の早期発見と適切な検索につながります。
解答・解説
正解はa, dです
問われていること
頭頸部癌(上咽頭癌、上顎洞癌、口腔癌、下咽頭癌)と喉頭乳頭腫について、原因、最も多い組織型・発生部位、合併しやすい癌、悪性化の有無といった基本的な特徴を問う問題である。
整理のしかた
頭頸部癌の大部分は扁平上皮癌であり、喫煙と飲酒が最大の危険因子である。そのうえで、部位ごとに次のような「例外」や「特徴」が出題される。 ・上咽頭癌: 喫煙・飲酒より、EBウイルス(Epstein-Barrウイルス)感染や地域性(中国南部・東南アジア)が重要。組織は低分化〜未分化のものが多い。 ・中咽頭癌: ヒトパピローマウイルス(HPV)の関与するものが増えている。 ・下咽頭癌: 飲酒・喫煙との関係が強く、食道癌などの重複癌が多い。 ・口腔癌: 舌癌が最多。 ・上顎洞癌: 扁平上皮癌が最多。 良性腫瘍である喉頭乳頭腫はHPVが原因で、再発しやすく、まれに悪性化する点を押さえておく。 これらの知識をもとに、各記述が正しいかを判断する。
選択肢考察
- ○a. 上咽頭癌はEBウイルスとの関連性が深い。
上咽頭癌の発生にはEBウイルスが深く関わっている。とくに非角化型(低分化〜未分化)の上咽頭癌では、腫瘍細胞からほぼ全例でEBウイルスの遺伝子が検出され、血中のEBウイルス抗体価やEBウイルスDNA量は診断や治療効果の判定、再発の監視にも用いられる。 上咽頭癌は中国南部、台湾、東南アジアなどに多く、日本では比較的まれである。男性に多く(男女比はおよそ2〜3:1)、40〜70歳代に多い。EBウイルスのほか、塩漬けの魚など伝統的な保存食、ホルムアルデヒドへの曝露、HLAの型などの遺伝的素因も危険因子とされている。 なお、EBウイルスは上咽頭癌以外にも、伝染性単核球症、Burkittリンパ腫、Hodgkinリンパ腫の一部、節外性NK/T細胞リンパ腫(鼻型)、胃癌の一部などとの関連が知られている。
- ×b. 上顎洞癌で最も多いのは腺癌である。
上顎洞癌で最も多い組織型は扁平上皮癌であり、腺癌ではない。上顎洞は副鼻腔の癌のなかで最も多い発生部位であるが、癌そのものは頻度の低い疾患である。慢性副鼻腔炎の減少とともに、日本での発生数は減ってきている。 扁平上皮癌以外には、腺様嚢胞癌などの唾液腺型の癌や腺癌もみられるが、少数である。なお、鼻腔・篩骨洞に発生する腺癌は、木材の粉じん(木工作業)への曝露との関連が知られている。
- ×c. 口腔癌で最も多いのは歯肉癌である。
口腔癌で最も多いのは舌癌であり、口腔癌のおよそ半数前後を占める。歯肉癌は舌癌に次いで多い。 舌癌は舌の側縁(舌縁)に好発し、喫煙、飲酒、合わない義歯や欠けた歯による慢性的な刺激などが原因と考えられている。白板症(こすっても取れない白い病変)が前がん病変として重要である。 歯肉癌は上顎より下顎に多く、臼歯部に好発する。歯肉の下にはすぐ骨があるため、早い時期から顎の骨に浸潤しやすいという特徴がある。
- ○d. 下咽頭癌はしばしば食道癌を合併する。
下咽頭癌では、食道癌を同時あるいは時期をずらして合併すること(重複癌)が多い。報告によって差はあるが、下咽頭癌患者の2〜3割程度に食道癌がみられるとされる。これは転移ではなく、別々に発生した癌である。 その理由は、下咽頭と食道の粘膜がともに扁平上皮でできており、飲酒・喫煙という共通の発癌刺激に長年さらされているためである。このように、ある領域の粘膜全体に癌ができやすくなっている状態を「field cancerization(領域癌化)」とよぶ。とくに、少量の飲酒で顔が赤くなる体質(アルデヒド脱水素酵素2〈ALDH2〉の活性が低い人)で大量飲酒をする人は、アセトアルデヒドがたまりやすく、下咽頭癌と食道癌の危険が高い。 そのため、下咽頭癌と診断されたら上部消化管内視鏡検査で食道を調べ、逆に食道癌の患者では咽頭・喉頭の観察を行うことが勧められる。
- ×e. 喉頭乳頭腫は癌化しない。
喉頭乳頭腫はまれに癌化(扁平上皮癌への悪性転化)することがあるため、「癌化しない」は誤りである。 喉頭乳頭腫はヒトパピローマウイルス(HPV)、主に6型と11型の感染で生じる良性腫瘍である。小児に発症する若年型(主に幼児期に発症し、多発しやすく、再発を繰り返す。出産時に母親の産道からウイルスが感染する経路が考えられている)と、成人に発症する成人型に分けられる。症状は嗄声(声がれ)が主で、大きくなると気道を狭めて呼吸困難をおこす。気管や肺に広がることもある。 悪性化は全体としてはまれだが、成人型や喫煙者、放射線治療を受けた例では悪性化に注意が必要とされる。治療は内視鏡下の切除(レーザーなど)が中心で、再発が多いため長期の経過観察が欠かせない。
頭頸部癌の全体像
頭頸部癌は、口腔、咽頭(上・中・下)、喉頭、鼻・副鼻腔、唾液腺、甲状腺などに生じる癌の総称である(甲状腺は別に扱われることも多い)。組織型の大半は扁平上皮癌で、飲酒と喫煙が共通の危険因子である。発声・嚥下・構音・呼吸といった生活に欠かせない機能にかかわる部位であるため、根治性と機能温存の両立が治療上の大きな課題になる。
咽頭癌の部位別の特徴
・上咽頭癌: EBウイルスが関与。低分化〜未分化癌が多く、放射線や化学療法がよく効く。頭蓋底に近く手術が難しいため、化学放射線療法が治療の中心である。初発症状として、頸部リンパ節の腫れ、耳管が塞がることによる滲出性中耳炎(耳閉感)、鼻出血、脳神経症状(外転神経麻痺など)が知られる。 ・中咽頭癌: 喫煙・飲酒に加え、HPV(主に16型)の関与するものが増えている。HPV関連の中咽頭癌は比較的若い人にもみられ、予後がよい。p16という蛋白の免疫染色が代わりの指標として使われる。 ・下咽頭癌: 梨状陥凹に最も多い。飲酒・喫煙との関係が強く、男性に多い。初期は症状が乏しく、進行してから見つかりやすいため予後が悪い。食道癌などの重複癌が多い。
口腔癌
舌癌が最多で、歯肉癌、口腔底癌、頬粘膜癌が続く。舌癌は舌縁に好発し、頸部リンパ節に転移しやすい。前がん病変として白板症や紅板症がある。
上顎洞癌
扁平上皮癌が最多。進行すると頬の腫れ、歯の痛み、眼球突出、複視など、上顎洞を取り囲む構造への進展による症状が出る。治療は手術、放射線、動注化学療法(腫瘍を養う動脈から抗癌薬を流す方法)を組み合わせる。
ウイルスと頭頸部の腫瘍
・EBウイルス: 上咽頭癌 ・HPV 16型など(高リスク型): 中咽頭癌 ・HPV 6型・11型(低リスク型): 喉頭乳頭腫、尖圭コンジローマ
POINT
・上咽頭癌: EBウイルスと関連。中国南部・東南アジアに多い。低分化〜未分化で放射線感受性が高く、化学放射線療法が中心。 ・上顎洞癌: 最多の組織型は扁平上皮癌。 ・口腔癌: 最多は舌癌(舌縁に好発)、次いで歯肉癌。 ・下咽頭癌: 飲酒・喫煙と関連し、食道癌などの重複癌が多い → 上部消化管内視鏡で食道を必ず調べる。 ・喉頭乳頭腫: HPV 6/11型が原因の良性腫瘍。再発を繰り返し、まれに癌化する。
