口が開かない喉の痛み―「膿は出す」が鉄則の扁桃周囲膿瘍
第103回医師国家試験 A問題 第47問
国試問題にチャレンジ
24歳の男性。2日前から急激に増強する嚥下痛と開口障害とを主訴に来院した。1週前から咽頭痛を自覚していた。体温38.4℃。白血球12,800。CRP 5.7mg/dL。咽頭所見(A)と頸部造影CT(B)とを別に示す。 直ちに行うのはどれか。2つ選べ。

- a.生検
- b.気道確保
- c.切開排膿
- d.抗菌薬投与
- e.中心静脈栄養
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
急性扁桃炎に続いて片側の軟口蓋膨隆、口蓋垂の健側偏位、開口障害、含み声が出現したら扁桃周囲膿瘍を考えます。開口障害は内側翼突筋への炎症波及によるもので、造影CTで辺縁が造影される低吸収域を認めれば膿瘍形成と判断できます。治療の基本は穿刺・切開排膿と、嫌気性菌を含む混合感染を想定した抗菌薬の点滴静注で、脱水には末梢輸液で対応します。上気道閉塞の徴候がなければ気道確保は不要ですが、深頸部膿瘍や縦隔炎、喉頭浮腫への進展に備えて呼吸状態を観察し続けることが重要です。「膿瘍は排膿」「気道は所見で判断」という原則は、頸部感染症全般の救急対応の土台になります。
解答・解説
正解はc, dです
所見の整理
・24歳の男性(扁桃周囲膿瘍は20〜30歳代の青壮年男性に多い)。 ・1週前からの咽頭痛に続き、2日前から急に強くなる嚥下痛と開口障害(口が開けにくい状態)が出現している:急性扁桃炎の経過中に炎症が扁桃の外へ広がったことを示唆する。 ・体温38.4℃、白血球12,800/μL、CRP 5.7mg/dL:細菌感染による強い炎症がある。 ・咽頭所見(A):右側(写真の向かって左)の口蓋弓から軟口蓋にかけて発赤を伴う著明な膨隆があり、口蓋垂は反対側(左)へ押しやられている。左右非対称の腫脹が特徴である。 ・頸部造影CT(B):右扁桃の外側(扁桃周囲間隙)に、辺縁が造影され内部が低吸収の領域(膿瘍)を認め、咽頭腔は圧排されて変形している。気道の内腔は保たれている。
診断へのプロセス
急性扁桃炎に続いて、片側性の軟口蓋の膨隆、口蓋垂の偏位、開口障害、含み声(口の中に物を含んだような声)、流涎などがみられれば扁桃周囲膿瘍を考える。開口障害は、炎症が扁桃の外側にある内側翼突筋に波及して筋が攣縮するために起こる。造影CTで被膜状に造影される低吸収域を確認すれば、蜂窩織炎(扁桃周囲炎)の段階ではなく膿瘍が形成されていると判断できる。以上から本例は右扁桃周囲膿瘍と診断される。
設問の考え方
膿瘍は膿が貯留した閉鎖腔であり、抗菌薬だけでは内部に十分移行しにくいため、膿を外へ出すこと(ドレナージ)が治療の要となる。したがって「直ちに行う」べきものは、穿刺吸引または切開による排膿と、原因菌を想定した抗菌薬の点滴静注である。あわせて、嚥下困難による脱水に対して輸液を行う。一方、本例では呼吸困難や上気道狭窄を示す所見はなく、画像上も気道は保たれているため、現時点で気道確保は不要である。ただし、膿瘍が副咽頭間隙や喉頭へ広がると気道狭窄や深頸部膿瘍・縦隔炎へ進展しうるため、治療開始後も呼吸状態を注意深く観察する。
選択肢考察
- ×a. 生検
生検は悪性腫瘍(扁桃癌や悪性リンパ腫など)が疑われるときに組織診断のために行う検査である。本例は急性扁桃炎に続く急性の経過で、発熱と炎症反応高値を伴い、造影CTで膿瘍の所見が明らかなため、細菌感染による膿瘍と診断でき、生検は不要である。なお、治療後も腫脹が引かない場合や、発熱を伴わない片側性の扁桃腫大が続く場合には、腫瘍を鑑別するために生検を検討する。
- ×b. 気道確保
本例には呼吸困難、吸気性喘鳴、陥没呼吸などの上気道閉塞の徴候はなく、CTでも咽頭腔は圧排されているものの気道は保たれている。扁桃周囲膿瘍だけで気管挿管や気管切開が必要になることはまれであり、現時点で気道確保は不要である。ただし、膿瘍が副咽頭間隙や咽後間隙へ広がったり、喉頭浮腫を合併したりした場合には気道確保が必要となるため、注意深い経過観察は欠かせない。
- ○c. 切開排膿
膿瘍の治療の基本は排膿である。まず最も膨隆した部位を穿刺して膿を確認・吸引し、続いて同部位を粘膜切開して膿を排出する。排膿により膿瘍内の圧が下がって疼痛や開口障害が速やかに軽快し、治癒までの期間も短くなる。採取した膿は細菌培養・薬剤感受性検査に提出し、抗菌薬選択に役立てる。膿瘍を繰り返す例では、炎症が落ち着いた後に口蓋扁桃摘出術を行うことがあり、状況によっては急性期に扁桃摘出を行う施設もある。
- ○d. 抗菌薬投与
起炎菌はA群β溶血性レンサ球菌などのレンサ球菌、黄色ブドウ球菌に加えて、口腔内の嫌気性菌(Prevotella属、Fusobacterium属など)が関与する混合感染が多い。そのため、嫌気性菌もカバーできる薬剤(β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系、あるいはペニシリン系やセフェム系にクリンダマイシンを併用するなど)を点滴静注で開始する。排膿と抗菌薬は並行して行う治療の両輪であり、培養結果が出れば必要に応じて薬剤を調整する。
- ×e. 中心静脈栄養
強い嚥下痛で経口摂取が困難となり脱水に傾きやすいため、末梢静脈からの輸液は必要である。しかし、排膿と抗菌薬投与を行えば多くは数日で疼痛や開口障害が改善し、経口摂取を再開できる。長期間の栄養管理を前提とする中心静脈栄養は、感染などの合併症の危険もあり、本例では不要である。
扁桃周囲膿瘍とは
口蓋扁桃の被膜と咽頭収縮筋の間(扁桃周囲間隙)に膿がたまった状態である。急性扁桃炎が扁桃被膜を越えて広がり、まず扁桃周囲炎(蜂窩織炎)となり、さらに膿瘍を形成する。多くは片側性で、上極(軟口蓋側)に生じることが多い。20〜30歳代の男性に多く、小児では比較的少ない。喫煙がリスク因子として知られる。
症状・所見
・強い咽頭痛(患側優位)、嚥下痛、耳への放散痛。 ・開口障害:内側翼突筋への炎症波及による。 ・含み声、流涎(唾液を飲み込めないため)。 ・発熱、患側頸部リンパ節腫脹。 ・患側の軟口蓋・前口蓋弓の発赤・膨隆、口蓋垂の健側への偏位。
検査
造影CTで、辺縁が造影される低吸収域(膿瘍)を確認する。膿瘍の広がり(副咽頭間隙・咽後間隙への進展)や気道狭窄の評価にも有用である。穿刺で膿が引ければ診断は確定する。
治療
・穿刺吸引・切開排膿。 ・抗菌薬の点滴静注(嫌気性菌を含む混合感染を想定)。 ・輸液による脱水補正、鎮痛。 ・反復例では待機的に口蓋扁桃摘出術。
合併症
副咽頭間隙膿瘍、咽後膿瘍などの深頸部膿瘍、降下性壊死性縦隔炎、喉頭浮腫による気道閉塞、内頸静脈血栓性静脈炎(Lemierre症候群)、敗血症など。糖尿病など易感染性の背景がある患者では重症化しやすい。
鑑別疾患
・扁桃周囲炎:膿瘍形成前の段階。抗菌薬が治療の中心となる。 ・急性喉頭蓋炎:強い咽頭痛の割に咽頭所見が乏しく、含み声、呼吸困難をきたす。気道確保が重要。 ・伝染性単核球症:両側の扁桃腫大と白苔、頸部リンパ節腫脹、肝脾腫、異型リンパ球増加。 ・扁桃の悪性腫瘍(扁桃癌、悪性リンパ腫):発熱の乏しい片側性の扁桃腫大・潰瘍。生検で診断する。
POINT
・急性扁桃炎に続く片側性の軟口蓋膨隆、口蓋垂偏位、開口障害、含み声は扁桃周囲膿瘍を示す。 ・開口障害は内側翼突筋への炎症波及による。 ・造影CTで辺縁が造影される低吸収域があれば膿瘍と判断する。 ・治療は穿刺・切開排膿+抗菌薬の点滴静注(嫌気性菌を含む混合感染を想定)+輸液。 ・呼吸困難がなければ気道確保は不要だが、深頸部膿瘍・縦隔炎・気道狭窄への進展に注意する。 ・反復例では待機的に口蓋扁桃摘出術を行う。
