StudyMed医師国家試験

しこりのない血性乳頭分泌―拡張した乳管が指し示す乳管内乳頭腫

第103回医師国家試験 A問題 第46問

国試問題にチャレンジ

第103回 A問題 第46問

49歳の女性。1週前からの右乳房乳頭からの分泌を主訴に来院した。右乳房に腫瘤は触知しないが,圧迫すると乳頭から血性の分泌液を認める。マンモグラムで異常を認めない。超音波検査で拡張した乳管像を認める。  最も考えられるのはどれか。

  1. a.乳腺炎
  2. b.乳腺症
  3. c.乳腺線維腺腫
  4. d.乳腺管内乳頭腫
  5. e.乳腺葉状腫瘍

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は乳頭分泌から乳腺疾患を絞り込む問題だ。カギは分泌の「性状」と「片側か両側か」、そして腫瘤を触れるかどうか。画像所見の組み合わせにも注目しよう。まず、乳頭分泌を診たときに最初に何を確認するかな。
医学生医学生
乳汁なのか血が混じっているのか、でしょうか。
ドクタードクター
そう、性状は大事だね。加えて、片側か両側か、一本の乳管からか複数の乳管からか、も確認する。両側・複数乳管からの乳汁様分泌なら、高プロラクチン血症や薬剤性など内分泌的な原因を考える。
医学生医学生
内分泌の講義で、プロラクチノーマやドパミン拮抗薬で乳汁漏出が起こると習いました。
ドクタードクター
その通り。一方で、片側・単一乳管からの血性分泌は、乳管の中に病変があるサインなんだ。その二大原因が乳管内乳頭腫と乳癌、特に乳管内に広がる非浸潤性乳管癌だ。
医学生医学生
血性と聞くとまず癌が怖いです。でもマンモグラフィで異常がないなら、癌は否定的と考えていいですか。
ドクタードクター
そこは注意が必要だね。マンモグラフィで腫瘤影や石灰化がなくても、乳管内の小さな癌は十分ありうる。だから「癌を否定できる」のではなく、「選択肢の中で最も考えやすいもの」を選ぶという姿勢だ。今回は腫瘤を触れず、超音波で乳管が拡張している。これは何を意味するだろう?
医学生医学生
乳管の中に何かがあって、分泌物がたまって広がっている、ということでしょうか。
ドクタードクター
いい読みだ。乳管内乳頭腫は乳管上皮が線維血管性の芯をもって乳頭状に増殖する良性腫瘍で、40〜50歳代に多い。乳頭近くの太い乳管にできることが多く、小さいので触れにくい。もろい血管を含むから出血しやすく、片側の血性分泌が主症状になる。今回の所見にぴったり合うね。
医学生医学生
では乳腺症はどうですか。年齢的にはありそうですし、分泌が出ることもあると聞きました。
ドクタードクター
鋭いね。乳腺症は30〜40歳代に多いエストロゲン優位を背景とした良性変化で、乳頭分泌を伴うこともある。ただ典型的には、月経周期に関連した乳房痛や、両側性で境界不明瞭な硬結が主体で、分泌も複数乳管からの漿液性が多い。片側の血性分泌と乳管拡張の組み合わせは、乳管内の限局した病変のほうを強く示唆するんだ。
医学生医学生
線維腺腫は、OSCEの乳房診察の練習で「境界明瞭でよく動くしこり」として出てきました。
ドクタードクター
そう、線維腺腫は10歳代後半から30歳代に多い良性腫瘍で、弾性硬・表面平滑・可動性良好な腫瘤として触れるのが典型。乳頭分泌は通常伴わない。葉状腫瘍も同じ線維上皮性腫瘍だけど、間質の増殖がより強く、急速に大きくなる腫瘤をつくるのが特徴だ。どちらも腫瘤が主役だから、しこりのない今回とは合わないね。
医学生医学生
乳腺炎は、授乳中のお母さんの乳房が赤く腫れて痛む病気ですよね。
ドクタードクター
そのイメージで正しい。乳汁うっ滞によるものや、黄色ブドウ球菌などによる化膿性のものがあり、発赤・腫脹・疼痛・発熱が主体で、分泌があれば膿性のことが多い。炎症所見のない今回は当てはまらない。
医学生医学生
つまり、片側・血性・しこりなし・乳管拡張という組み合わせで乳管内乳頭腫を選ぶけれど、乳癌は常に頭に置いておく、ということですね。
ドクタードクター
その通り。実際の診療では、分泌液の細胞診や分泌液中のCEA測定、乳管造影、乳管内視鏡、MRI、超音波ガイド下の針生検などで乳癌を除外してから診断する。乳管造影では陰影欠損や乳管の途絶がみられることがある。
医学生医学生
病理で乳頭腫と乳頭癌を見分けるポイントはありますか。病理実習で二相性が大事と言われた気がします。
ドクタードクター
まさにそれ。乳管内乳頭腫では上皮細胞と筋上皮細胞の二相性が保たれているのに対し、癌ではそれが失われるのが重要な鑑別点だ。また、乳頭近くに単発する中枢型が多いけれど、末梢乳管に多発するタイプは乳癌との関連がより強いとされる。治療は、癌が否定できれば経過観察も可能で、分泌が続く場合や診断が確定しない場合は責任乳管を切除する。血性乳頭分泌を見たら「まず良性」と決めつけず、必ず精査につなげることが臨床では何より大切だよ。

まとめ

片側・単一乳管からの血性乳頭分泌は乳管内病変を示すサインで、乳管内乳頭腫と乳癌(特に非浸潤性乳管癌)が二大原因です。乳管内乳頭腫は40〜50歳代に多く、乳頭近くの太い乳管に生じて触知しにくく、超音波で乳管拡張や乳管内の充実性病変を認めるのが典型です。線維腺腫や葉状腫瘍は触知できる腫瘤、乳腺炎は発赤・疼痛などの炎症症状、乳腺症は両側性の痛みと硬結や複数乳管からの漿液性分泌が主体である点で区別できます。ただし画像で異常が乏しくても乳癌は否定できないため、分泌液細胞診・CEA、乳管造影、乳管内視鏡、MRI、生検などで癌を除外することが欠かせません。乳頭分泌を性状・片側性・乳管数で整理する考え方は、乳腺外来での初期対応の基本となります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・49歳の女性(閉経前後の年代。乳癌や乳腺症も多い年齢層である)。 ・1週前からの右乳頭からの分泌。片側性である。 ・右乳房に腫瘤は触れないが、圧迫すると乳頭から血性分泌液が出る。 ・マンモグラフィ(乳房X線撮影)では腫瘤影や微細石灰化などの異常がない。 ・超音波検査で拡張した乳管がみられる。

診断へのプロセス

乳頭分泌をみたら、まず「生理的か病的か」「片側か両側か」「単一の乳管からか複数の乳管からか」「性状(乳汁様、漿液性、血性)」を確認する。両側・複数乳管からの乳汁様分泌は高プロラクチン血症や薬剤性などの内分泌的な原因を考えるのに対し、片側・単一乳管からの血性分泌は乳管内に病変があることを示し、乳管内乳頭腫と乳癌(特に乳管内に広がる非浸潤性乳管癌)が二大原因となる。 本例は片側の血性分泌で、腫瘤を触れず、マンモグラフィでも異常がなく、超音波で乳管拡張を認める。乳管内の小さな病変が分泌物を生じて乳管を拡張させている像として典型的であり、選択肢の中では乳腺管内乳頭腫が最も考えられる。乳腺炎、線維腺腫、葉状腫瘍は、炎症所見や触知できる腫瘤を主体とする疾患であり、本例に合わない。

臨床上の注意

血性乳頭分泌は乳癌の重要な徴候でもあり、画像で異常が乏しくても癌を否定することはできない。実際の診療では、分泌液の細胞診や分泌液中のCEA測定、乳管造影、乳管内視鏡、MRI、超音波ガイド下の針生検などを行い、乳癌を除外したうえで乳管内乳頭腫と診断する。

選択肢考察

  1. ×a.  乳腺炎

    乳腺炎は乳腺の炎症であり、乳房の発赤・腫脹・熱感・疼痛を主症状とし、発熱を伴うことも多い。授乳期に乳汁がうっ滞して生じるうっ滞性乳腺炎や、細菌(主に黄色ブドウ球菌)の感染による化膿性乳腺炎が代表的である。分泌物がある場合は膿性であることが多い。本例は授乳期ではなく炎症症状もないため、該当しない。

  2. ×b.  乳腺症

    乳腺症は30〜40歳代に多い、エストロゲン優位の内分泌環境を背景とした乳腺の良性変化(乳管・小葉の増生、嚢胞形成、線維化など)の総称である。月経周期に関連する乳房痛や、境界不明瞭で硬さが変動するしこり(硬結)を両側性・多発性に触れることが多い。乳頭分泌を伴うこともあるが、通常は複数の乳管からの漿液性分泌が主体である。本例のように片側の血性分泌で、超音波で拡張乳管を認める所見は、乳管内の限局した病変をより強く示唆する。

  3. ×c.  乳腺線維腺腫

    線維腺腫は乳管上皮と間質がともに増殖する良性腫瘍で、10歳代後半〜30歳代の若い女性に好発する。弾性硬、表面平滑、境界明瞭でよく動く腫瘤として触れるのが典型であり、乳頭分泌は通常伴わない。超音波では境界明瞭な楕円形の低エコー腫瘤、マンモグラフィでは境界明瞭な腫瘤影としてみられ、古くなると粗大な石灰化を伴うことがある。腫瘤を触れず、画像で腫瘤像のない本例とは合わない。

  4. ○d.  乳腺管内乳頭腫

    乳管内乳頭腫は、乳管の上皮が線維血管性の芯をもって乳管内に乳頭状に増殖する良性腫瘍で、40〜50歳代に多い。多くは乳頭近くの太い乳管(主乳管)にでき、小さいため腫瘤として触れないことが多い。もろい血管を含むため出血しやすく、片側・単一乳管からの血性(または漿液性)分泌が主症状となる。病変の圧迫で分泌が出ること、マンモグラフィで異常が乏しいこと、超音波で乳管拡張や拡張乳管内の充実性病変を認めることは本症に典型的であり、本例の所見とよく合致する。

  5. ×e.  乳腺葉状腫瘍

    葉状腫瘍は線維腺腫と同じく上皮と間質からなる線維上皮性腫瘍であるが、間質成分の増殖がより強く、40歳代前後に多い。急速に増大して大きな腫瘤(ときに10cmを超える)を形成するのが特徴で、良性・境界病変・悪性に分類され、局所再発しやすい。通常は乳頭分泌を主症状とせず、画像でも分葉状の大きな腫瘤影として描出される。腫瘤を触れない本例とは合わない。

乳頭分泌の鑑別

・両側性、複数乳管、乳汁様:高プロラクチン血症(プロラクチノーマ、ドパミン拮抗薬などの薬剤性、甲状腺機能低下症など)、生理的(妊娠・授乳)。 ・両側性、複数乳管、漿液性:乳腺症などの良性変化が多い。 ・片側性、単一乳管、血性または漿液性:乳管内乳頭腫、乳癌(非浸潤性乳管癌など)を考え、精査が必要である。 ・膿性:乳腺炎、乳輪下膿瘍。

乳管内乳頭腫

・病理:乳管内に線維血管性の芯をもつ乳頭状の上皮増殖。上皮細胞と筋上皮細胞の二相性が保たれている点が、乳頭癌との鑑別で重要である。 ・発生部位:乳頭近くの太い乳管に単発するもの(中枢型)が多い。末梢の乳管に多発するものは、乳癌との関連がより強いとされる。 ・症状:片側性の血性・漿液性乳頭分泌。腫瘤は小さく触れにくい。 ・検査:分泌液細胞診、分泌液CEA(乳癌で高値になりやすい)、超音波(乳管拡張、乳管内の充実性病変)、乳管造影(陰影欠損や乳管の途絶)、乳管内視鏡、MRI、針生検。 ・治療:乳癌との鑑別がつけば経過観察も可能。分泌が続く場合や診断が確定しない場合は、責任乳管を切除する(乳管腺葉区域切除など)。

乳房の主な良性疾患の好発年齢と特徴

・線維腺腫:10歳代後半〜30歳代。境界明瞭・可動性良好な腫瘤。 ・葉状腫瘍:40歳代前後。急速増大する大きな腫瘤、再発しやすい。 ・乳腺症:30〜40歳代。月経周期に関連した痛み、両側性の硬結。 ・乳管内乳頭腫:40〜50歳代。片側性の血性乳頭分泌。 ・乳腺炎:授乳期に多い。発赤・腫脹・疼痛・発熱。

POINT

・片側・単一乳管からの血性乳頭分泌は、乳管内乳頭腫と乳癌(非浸潤性乳管癌など)を考える。 ・乳管内乳頭腫は40〜50歳代に多く、腫瘤を触れにくく、超音波で乳管拡張や乳管内病変を認める。 ・血性分泌では乳癌の除外が必須(分泌液細胞診・CEA、乳管造影、乳管内視鏡、MRI、生検)。 ・線維腺腫・葉状腫瘍は触知できる腫瘤、乳腺炎は炎症症状、乳腺症は両側性の痛みと硬結が主体。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。