骨を削るホルモン、骨を守るホルモン―続発性骨粗鬆症を内分泌から読み解く
第102回医師国家試験 I問題 第27問
国試問題にチャレンジ
骨粗鬆症の原因となるのはどれか。2つ選べ。
- a.Addison病
- b.原発性アルドステロン症
- c.甲状腺機能亢進症
- d.性腺機能低下症
- e.褐色細胞腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
骨粗鬆症には加齢や閉経による原発性と、疾患や薬剤による続発性があり、続発性の内分泌性原因は「骨吸収を促すホルモンの過剰」か「骨を守るホルモンの欠乏」として理解できます。甲状腺機能亢進症では骨代謝回転が亢進して吸収優位となり、性腺機能低下症ではエストロゲン欠乏により破骨細胞が活性化するため、いずれも骨量が減少します(男性でもテストステロン由来のエストロゲンが骨を守っています)。副腎疾患で骨粗鬆症を起こすのは糖質コルチコイド過剰のCushing症候群やステロイド薬であり、Addison病、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫は古典的な原因には含まれません。若年者や男性、年齢に比して骨密度が著しく低い例では続発性を疑って原因検索を行うことが、根本的な治療につながります。
解答・解説
正解はc, dです
骨粗鬆症は、閉経や加齢を背景とする原発性骨粗鬆症と、特定の疾患や薬剤が原因となる続発性骨粗鬆症に分けられる。本問は続発性骨粗鬆症の原因となる内分泌疾患を2つ選ぶ問題である。 骨は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成を絶えず繰り返しており(骨リモデリング)、吸収が形成を上回る状態が続くと骨量が減少する。内分泌疾患による骨粗鬆症は、このバランスを崩すホルモンの過剰・欠乏として理解できる。 ・骨量を減らす方向に働くホルモン異常:甲状腺ホルモン過剰、副甲状腺ホルモン(PTH)過剰、糖質コルチコイド過剰、性ホルモン(エストロゲン・テストステロン)欠乏、GH欠乏など。 この観点から選択肢を見ると、甲状腺ホルモン過剰(甲状腺機能亢進症)と性ホルモン欠乏(性腺機能低下症)が典型的な続発性骨粗鬆症の原因である。副腎疾患では、骨粗鬆症の原因として重要なのは糖質コルチコイドの「過剰」(Cushing症候群)であり、その欠乏であるAddison病ではない。アルドステロン過剰やカテコラミン過剰は古典的な骨粗鬆症の原因としては扱われない。
選択肢考察
- ×a. Addison病
誤り。Addison病は副腎皮質の破壊による慢性副腎皮質機能低下症で、糖質コルチコイド(コルチゾール)が欠乏する。骨粗鬆症を引き起こすのは糖質コルチコイドの過剰状態(Cushing症候群やステロイド薬の長期投与)であり、骨芽細胞の機能抑制・アポトーシス促進、腸管でのカルシウム吸収低下、腎でのカルシウム排泄増加などを介して骨量が減少する。Addison病はその逆の病態であり、骨粗鬆症の原因としては挙げられない(ただし治療として補充する糖質コルチコイドが過量になると骨量減少の要因となりうる)。
- ×b. 原発性アルドステロン症
誤り。原発性アルドステロン症は副腎皮質からのアルドステロン(鉱質コルチコイド)の自律的過剰分泌により、高血圧・低カリウム血症・代謝性アルカローシスをきたす疾患である。古典的には続発性骨粗鬆症の原因疾患には含まれない。なお近年、アルドステロン過剰が尿中カルシウム排泄の増加や二次的なPTH上昇を介して骨量減少・骨折リスク上昇に関与しうるとの報告もあるが、甲状腺機能亢進症や性腺機能低下症のような確立した原因とはいえず、本問では誤りとして扱う。
- ○c. 甲状腺機能亢進症
正しい。甲状腺ホルモンは破骨細胞と骨芽細胞の双方を活性化して骨代謝回転(骨リモデリングの速度)を高めるが、骨吸収の亢進が骨形成を上回るため、骨量が減少する。Basedow病(Graves病)などの甲状腺中毒症では、尿中カルシウム排泄の増加や骨吸収マーカー・ALP(アルカリホスファターゼ)の上昇がみられ、骨密度低下・骨折リスク上昇をきたす。甲状腺ホルモン薬の過量投与(医原性甲状腺中毒症)も同様の原因となる。
- ○d. 性腺機能低下症
正しい。エストロゲンは破骨細胞の分化・活性化を抑え、骨吸収を抑制する方向に働く。エストロゲンが欠乏すると骨吸収が亢進して骨量が減少し、これが閉経後骨粗鬆症の主な機序である。男性でもテストステロンの一部はアロマターゼによりエストロゲンに変換されて骨量維持に働くため、性腺機能低下症は男女ともに骨粗鬆症の原因となる。原因としては、Klinefelter症候群、Turner症候群、Kallmann症候群、Sheehan症候群などの下垂体機能低下症、高プロラクチン血症、神経性やせ症(神経性食欲不振症)による無月経、早発卵巣不全、両側卵巣摘出などがある。また、GnRHアゴニスト(前立腺癌・子宮内膜症の治療)やアロマターゼ阻害薬(乳癌の治療)による性ホルモン低下も骨量減少をきたす。
- ×e. 褐色細胞腫
誤り。褐色細胞腫は副腎髄質や傍神経節のクロム親和性細胞に由来するカテコラミン産生腫瘍で、高血圧(発作性または持続性)、頭痛、動悸、発汗、高血糖などをきたす。交感神経系が骨代謝に影響しうることは基礎研究で示されているものの、褐色細胞腫は臨床的に骨粗鬆症の原因疾患としては扱われない。
骨粗鬆症の定義
骨強度(骨密度と骨質の両者を反映する)の低下により、骨折の危険性が増大した骨格疾患である。わが国の診断基準では、脆弱性骨折(椎体・大腿骨近位部など)の有無と骨密度(若年成人平均値:YAMに対する割合)を組み合わせて診断し、骨折がない場合はYAMの70%以下(またはTスコア−2.5以下)を骨粗鬆症とする。
続発性骨粗鬆症の主な原因
・内分泌性:原発性副甲状腺機能亢進症、甲状腺機能亢進症、Cushing症候群、性腺機能低下症、糖尿病(主に骨質の劣化による)、成長ホルモン分泌不全症など。 ・栄養性:神経性やせ症、吸収不良症候群、胃切除後、ビタミンC欠乏(壊血病)など。 ・薬剤性:ステロイド薬(最多で最重要)、甲状腺ホルモン過量、GnRHアゴニスト、アロマターゼ阻害薬、長期のヘパリン投与、一部の抗てんかん薬、プロトンポンプ阻害薬などが挙げられ、ワルファリン(ビタミンK拮抗)も関連が指摘される。 ・不動性:長期臥床、麻痺、宇宙飛行など。 ・先天性:骨形成不全症、Marfan症候群など。 ・その他:関節リウマチ、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アルコール多飲、喫煙など。
臨床的意義
骨粗鬆症患者、特に若年者・男性・閉経前女性や、骨密度の低下が年齢に比して著しい場合には、続発性骨粗鬆症を疑い、原因疾患の検索(血清Ca・P、PTH、甲状腺機能、性ホルモンなど)を行う。原因の治療により骨量の回復が期待できることがある。
POINT
・続発性骨粗鬆症の内分泌性原因:甲状腺機能亢進症、原発性副甲状腺機能亢進症、Cushing症候群(糖質コルチコイド過剰)、性腺機能低下症(男女とも)。 ・甲状腺ホルモンは骨代謝回転を亢進させ、骨吸収優位となって骨量が減る。 ・エストロゲン欠乏は破骨細胞の活性化を招き骨吸収が亢進する(閉経後骨粗鬆症と同じ機序)。 ・副腎皮質で骨粗鬆症を起こすのは糖質コルチコイドの「過剰」(Cushing症候群)であり、Addison病ではない。 ・薬剤性ではステロイド薬が最重要。
