体重計が教える月経のサイン―「やせ」と視床下部性無月経
第102回医師国家試験 H問題 第5問
国試問題にチャレンジ
無月経と関連が深いのはどれか。
- a.やせ
- b.浮腫
- c.高血圧
- d.貧血
- e.蛋白尿
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
続発性無月経で最も多いのは視床下部性無月経であり、体重減少(やせ)、ストレス、過度の運動が主な誘因です。体重が減るとレプチン低下などを介してGnRHの律動的分泌が抑えられ、LH・FSHとエストロゲンが低下して排卵が止まり、神経性やせ症や女性アスリートの無月経も同じ機序で生じます。浮腫・高血圧・蛋白尿は月経を止める所見ではなく、貧血はむしろ過多月経の結果として生じ、Sheehan症候群の無月経も貧血ではなく下垂体壊死によるものです。体重減少性無月経は第2度無月経となることが多く、長期の低エストロゲン状態は骨粗鬆症をまねくため早期対応が重要です。無月経をみたらまず妊娠を除外し、次に体重や生活背景を確認するという姿勢は、婦人科診療の基本となります。
解答・解説
正解はaです
テーマ
無月経の原因となる、あるいは無月経に伴いやすい身体所見を選ぶ問題である。
無月経の定義
・原発性無月経: 満15歳以上で初経が起こらないもの(日本産科婦人科学会の2018年の用語改訂による。かつては満18歳になっても初経がないものとされていた)。頻度は低く、Turner症候群などの染色体異常や、性器の形成異常などの先天的な原因が多い。 ・続発性無月経: それまであった月経が3か月以上停止したもの。日常診療で遭遇する無月経の大部分はこちらである。なお、妊娠・産褥・授乳期の無月経は生理的無月経であり、診察ではまず妊娠を除外することが大原則である。
考え方
月経は、視床下部(GnRH: ゴナドトロピン放出ホルモン)→下垂体(LH・FSH: 黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン)→卵巣(エストロゲン・プロゲステロン)→子宮内膜という経路が正常に働いて起こる。続発性無月経で最も多いのは、この経路の最上位である視床下部の機能が低下するタイプ(視床下部性無月経)であり、その主要な誘因がダイエットなどによる体重減少、ストレス、過度の運動である。 体重が急激に、あるいは大きく減少すると、脂肪組織から分泌されるレプチンの低下などを介して視床下部からのGnRHの律動的な分泌が抑えられ、LH・FSHが低下して排卵が止まり、無月経となる(体重減少性無月経)。神経性やせ症(神経性食欲不振症)でも同じ機序で無月経が高頻度にみられる。 したがって「やせ」が無月経と最も関連が深い。浮腫・高血圧・貧血・蛋白尿は、いずれも無月経を直接引き起こす所見ではない。
選択肢考察
- ○a. やせ
やせは視床下部性無月経の代表的な原因である。体重減少によりエネルギーが不足すると、生体は生殖機能を後回しにする方向に働き、レプチン低下などを介して視床下部のGnRH分泌が抑制される。その結果、ゴナドトロピン(LH・FSH)とエストロゲンが低下して排卵が止まる。ダイエットによる体重減少性無月経、神経性やせ症、激しい運動を行う女性アスリートの無月経がこれにあたる。短期間での大きな体重減少ほど無月経になりやすく、低体重が長引くと体重を戻しても月経の回復に時間がかかることが多い。長期の低エストロゲン状態は骨量減少(骨粗鬆症)をまねくため、早期の対応が重要である。
- ×b. 浮腫
浮腫は心不全、腎疾患(ネフローゼ症候群など)、肝硬変、甲状腺機能低下症、妊娠などでみられる所見であり、浮腫そのものが月経を止めることはない。月経前にむくみを感じることはあるが(月経前症候群の症状の一つ)、無月経との直接の関連はない。
- ×c. 高血圧
高血圧が視床下部・下垂体・卵巣系の機能を抑制して無月経を起こすことはない。妊娠中には妊娠高血圧症候群として高血圧(しばしば蛋白尿を伴う)がみられるが、これは妊娠に伴う合併症であり、高血圧が無月経の原因となっているわけではない。
- ×d. 貧血
貧血は無月経の原因とはならない。月経と貧血の関係でむしろ重要なのは逆方向で、過多月経(子宮筋腫や子宮腺筋症など)による鉄欠乏性貧血である。なお、分娩時の大量出血による低血圧・ショックで下垂体前葉が壊死すると無月経をきたす(Sheehan症候群)が、これは下垂体の壊死が原因であり、貧血そのものによるものではない。
- ×e. 蛋白尿
蛋白尿は糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症などの腎障害を示す所見であり、蛋白尿自体が無月経を起こすことはない。進行した慢性腎不全では内分泌環境の乱れにより月経異常がみられることがあるが、それは腎機能低下全体の影響であり、無月経と関連が深い所見として挙げるのは適切でない。
体重と月経
やせだけでなく高度の肥満も排卵障害や無月経・月経不順の原因となる。肥満はインスリン抵抗性を介して多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とも関連が深い。体重は少なすぎても多すぎても月経に影響する。
女性アスリートの三主徴(FAT: female athlete triad)
利用可能エネルギー不足(食事による摂取エネルギーが運動による消費に見合わない状態)、視床下部性無月経、骨粗鬆症の3つをいう。持久系競技や審美系競技、体重階級制競技の選手に多い。
神経性やせ症(神経性食欲不振症)
思春期〜若年女性に多い摂食障害で、著しい低体重、体重増加への強い恐怖、ボディイメージの障害を特徴とする。無月経を伴うことが多い(DSM-5では診断基準から無月経の項目は削除された)。低体温、徐脈、低血圧、うぶ毛の増加、低カリウム血症(嘔吐や下剤乱用時)などを伴う。
無月経の程度による分類(ホルモン負荷試験)
・第1度無月経: 黄体ホルモン(ゲスターゲン)の投与のみで消退出血が起こるもの。ある程度のエストロゲン分泌が保たれている。排卵誘発にはクロミフェンが第一選択となる。 ・第2度無月経: 黄体ホルモン単独では出血せず、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモンの併用で消退出血が起こるもの。エストロゲン分泌が低下しており、クロミフェンは無効なことが多く、ゴナドトロピン製剤(hMG・FSH製剤とhCG)による排卵誘発が必要となる。体重減少性無月経や神経性やせ症では第2度無月経となることが多い。 ・両ホルモンを投与しても消退出血がない場合は、子宮性無月経(子宮内膜の異常)を考える。
原因部位による分類と代表的疾患
・視床下部性: 原発性ではKallmann症候群(嗅覚障害を伴うGnRH欠損)、Fröhlich症候群、Laurence-Moon-Biedl症候群。続発性では体重減少性無月経、神経性やせ症、ストレス性・運動性無月経、Chiari-Frommel症候群(分娩後の乳汁漏出を伴う無月経)、Argonz-del Castillo症候群(妊娠と無関係の乳汁漏出・無月経)など。 ・下垂体性: Sheehan症候群、下垂体腺腫(プロラクチノーマを含む。プロラクチノーマに伴う乳汁漏出・無月経はForbes-Albright症候群と呼ばれる)など。 ・卵巣性: 原発性ではTurner症候群など、続発性では早発卵巣不全(40歳未満での卵巣機能停止)、両側卵巣摘出後、化学療法・放射線治療後など。 ・子宮性: 原発性ではMayer-Rokitansky-Küster-Hauser症候群(子宮・腟の欠損)、続発性ではAsherman症候群(子宮腔癒着症)、子宮内膜炎後の癒着など。 ・腟・処女膜の異常(処女膜閉鎖、腟閉鎖)では月経血が体外に出ない潜伏月経となる。 ・その他: 甲状腺機能異常、高プロラクチン血症(薬剤性を含む)、PCOSなども重要な原因である。
POINT
・続発性無月経 = それまであった月経が3か月以上停止したもの。まず妊娠を除外する。 ・続発性無月経で最も多いのは視床下部性で、体重減少(やせ)、ストレス、過度の運動が主な誘因である。 ・体重減少性無月経・神経性やせ症では第2度無月経となることが多く、長期化すると骨粗鬆症をきたす。 ・浮腫・高血圧・貧血・蛋白尿は無月経の原因とならない。 ・原発性無月経の定義は、現在は満15歳以上で初経がないもの(かつては18歳)。
