大量吐血でショック―「まず安定化、そして内視鏡」が鉄則、バリウムはなぜ禁忌か
第102回医師国家試験 H問題 第26問
国試問題にチャレンジ
40歳の男性。仕事中,大量に吐血して搬入された。意識は清明。体温36.1℃。脈拍120/分,整。血圧76/50 mmHg。顔面は蒼白。腹部は平坦,軟。上腹部に圧痛を認めるが,筋性防御は認めない。血液所見:赤血球260万,Hb 8.4 g/dL,Ht 26%,白血球12,000,血小板23万。 対応として適切でないのはどれか。
- a.酸素投与
- b.静脈路確保
- c.膀胱カテーテル挿入
- d.上部消化管造影
- e.上部消化管内視鏡検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
大量吐血に頻脈と血圧低下を伴う場合は、出血性ショックを伴う上部消化管出血として扱い、ショック指数などの循環動態で重症度を判断します。出血直後のHbは出血量を過小評価するため、検査値だけで安心してはいけません。初期対応は酸素投与、太い静脈路を2本以上確保しての急速輸液と輸血準備、膀胱カテーテルによる尿量モニタリングで全身状態を安定させ、並行して緊急上部消化管内視鏡で出血源の同定と止血を行います。バリウムによる上部消化管造影は止血ができず、残存バリウムが内視鏡・手術・IVRの妨げとなり、ショック患者の移動も危険なため、急性出血時には行いません。「安定化しながら診断と治療を同時に進める」という考え方は、消化管出血に限らず救急診療全般の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・40歳男性、仕事中に大量吐血して救急搬送 → 上部消化管出血(トライツ靱帯より口側の食道・胃・十二指腸からの出血)。 ・脈拍120/分、血圧76/50 mmHg、顔面蒼白 → 循環血液量減少性(出血性)ショック。ショック指数(脈拍数÷収縮期血圧)は120/76≒1.6で、推定出血量はおよそ1.5 L以上(循環血液量の30%以上)に達している可能性がある。 ・意識清明 → 現時点で気道・意識は保たれている。 ・腹部は平坦・軟、上腹部に圧痛あり、筋性防御なし → 消化性潰瘍などを疑わせるが、穿孔による腹膜炎の所見はない。 ・Hb 8.4 g/dL、Ht 26% → 貧血を認める。急性出血の直後は血液が濃縮されたまま失われるため、Hbは実際の出血量より遅れて低下する。すでにこの値であることは出血が多量であることを示す。 ・白血球12,000/μLの軽度上昇は、出血やストレスに対する反応としてもみられる。
原因疾患の見当
成人の大量吐血の原因としては、胃・十二指腸潰瘍が最も多く、そのほか食道・胃静脈瘤破裂、マロリー・ワイス症候群(嘔吐に伴う食道胃接合部の裂創)、急性胃粘膜病変、胃癌などがある。仕事中の発症からストレス潰瘍なども想定されるが、原因の確定は内視鏡で行う。
設問の考え方
出血性ショックを伴う上部消化管出血では、まず全身状態の安定化(気道確保・酸素投与、太い静脈路の確保と急速輸液、輸血の準備、尿量を含むモニタリング)を行い、そのうえで可及的速やかに上部消化管内視鏡検査で出血源を特定し、内視鏡的止血を試みる。一方、バリウムを用いる上部消化管造影は、止血ができず、残存バリウムが後の内視鏡や手術、血管造影(IVR)の妨げとなり、ショック患者に体位変換や移動を強いる危険もあるため、急性出血時には行わない。したがって、適切でない対応は上部消化管造影である。
選択肢考察
- ×a. 酸素投与
適切な対応である。出血により酸素を運ぶヘモグロビンが減り、ショックで組織灌流も低下しているため、末梢組織への酸素供給を少しでも増やす目的で酸素を投与する。大量吐血では誤嚥の危険もあるため、気道の状態に注意し、意識低下や吐血の持続で気道が守れない場合は気管挿管も考慮する。
- ×b. 静脈路確保
適切な対応であり、最優先で行うべき処置の一つである。ショック状態であり出血が続く可能性も高いため、太い留置針で末梢静脈路を2本以上確保し、細胞外液(乳酸リンゲル液、生理食塩液など)の急速輸液を開始する。同時に血液型判定・交差適合試験のための採血を行い、赤血球製剤などの輸血を準備する。
- ×c. 膀胱カテーテル挿入
適切な対応である。尿量は腎血流、すなわち臓器灌流の指標であり、ショック患者では輸液・輸血が十分かを判断するために時間尿量を正確に測る必要がある。膀胱留置カテーテルを挿入し、成人でおおむね0.5 mL/kg/時以上の尿量が保たれることを目標に管理する。
- ○d. 上部消化管造影
適切でない対応である。バリウムを用いた上部消化管造影は、出血源の同定能力が内視鏡に劣るうえ、止血処置ができない。さらに、胃内に残ったバリウムが内視鏡の視野を妨げ、手術や血管造影による止血の妨げにもなる。ショック状態の患者を透視台に移し体位変換を繰り返すこと自体も危険である。このため、活動性の消化管出血に対して造影検査は行わない。
- ×e. 上部消化管内視鏡検査
適切な対応である。上部消化管出血では、内視鏡検査が出血源の診断と治療(クリップ法、薬剤局注法、熱凝固法、静脈瘤に対する内視鏡的静脈瘤結紮術など)を同時に行える第一選択の手技である。本例のようにショックを伴う場合は、輸液・輸血で循環動態の安定化を図りながら、できるだけ早期(緊急)に施行する。
上部消化管出血の初期対応の流れ
①ABC(気道・呼吸・循環)の評価と安定化:酸素投与、必要時は気管挿管(意識障害や大量吐血で誤嚥リスクが高い場合)。 ②太い末梢静脈路を2本以上確保し、細胞外液の急速輸液。血液型・交差適合試験を提出し輸血を準備する。 ③モニタリング:心電図、血圧、SpO2、膀胱カテーテルによる尿量測定。 ④病歴聴取:消化性潰瘍の既往、NSAIDs・抗血栓薬の内服、飲酒歴・肝疾患(静脈瘤)、嘔吐の先行(マロリー・ワイス症候群)など。 ⑤循環動態を安定させつつ、緊急上部消化管内視鏡で出血源の同定と止血を行う。 ⑥内視鏡で止血困難な場合は、血管造影による塞栓術(IVR)や外科手術を検討する。
ショック指数(shock index)
脈拍数÷収縮期血圧で求める。1.0で約1 L、1.5で約1.5 L、2.0で約2 Lの出血が目安とされる。本例は約1.6であり、大量出血が示唆される。
上部消化管出血の主な原因と治療
・胃・十二指腸潰瘍:最多。内視鏡的止血後はプロトンポンプ阻害薬(PPI)を投与し、ヘリコバクター・ピロリ陽性なら止血後に除菌を行う。 ・食道・胃静脈瘤破裂:肝硬変を背景とする。内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)や硬化療法(EIS)、バルーンタンポナーデ(S-Bチューブ)など。 ・マロリー・ワイス症候群:飲酒後の激しい嘔吐に続く吐血が典型。多くは自然止血する。 ・急性胃粘膜病変(AGML):ストレス、NSAIDs、アルコールなどが誘因。
吐血と下血の性状
胃内に停滞した血液は胃酸で塩酸ヘマチンに変化し、コーヒー残渣様となる。鮮紅色の大量吐血は、出血量が多いか出血の勢いが強いことを示す。上部消化管出血は、便としてはタール便(黒色便)となることが多い。
POINT
・大量吐血+頻脈・血圧低下 → 出血性ショックを伴う上部消化管出血。 ・まず酸素投与、太い静脈路の確保(2本以上)と急速輸液・輸血準備、尿量モニタリングで全身状態を安定させる。 ・出血源の診断と止血は緊急上部消化管内視鏡で行う。 ・急性の消化管出血では上部消化管造影(バリウム)は行わない(止血できず、後の内視鏡・手術・IVRの妨げになる)。 ・出血直後のHbは実際の出血量を過小評価する。循環動態(ショック指数)で重症度を判断する。
