StudyMed医師国家試験

「内視鏡で治せる」の境界線―静脈瘤と総胆管結石、そして届かない胆嚢

第102回医師国家試験 G問題 第35問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第35問

消化管内視鏡による治療が適応となるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.食道静脈瘤
  2. b.胃悪性リンパ腫
  3. c.進行大腸癌
  4. d.総胆管結石
  5. e.胆嚢結石

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、消化管内視鏡が「診断の道具」だけでなく「治療の道具」として使われる疾患を選ぶ問題だ。着眼点はひとつ、「内視鏡で局所に処置をすれば、それで治療目的を達成できるか」。この物差しで各疾患を見ていこう。
医学生医学生
内視鏡治療というと、まずESDやポリペクトミーが浮かびます。消化器内科の実習で胃のESDを見学しました。
ドクタードクター
いい出発点だね。ただ内視鏡治療はもっと幅広い。大きく分けると、出血を止める「止血」、早期癌やポリープを取る「切除」、十二指腸乳頭から胆管・膵管にアプローチする「胆膵系の処置」、そして異物除去や狭窄の拡張・ステント留置などがある。まずは止血の代表、食道静脈瘤から考えよう。
医学生医学生
肝硬変で門脈圧が上がって、食道の粘膜下の静脈が側副血行路として膨らんだものですよね。破れると大量吐血になると習いました。
ドクタードクター
そう。そして治療の中心はまさに内視鏡なんだ。静脈瘤をゴムのOリングで縛って壊死・脱落させる内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)と、硬化剤を注入して血栓化させる内視鏡的硬化療法(EIS)がある。破裂時の緊急止血にも、出血リスクの高い静脈瘤の予防的治療にも使われるよ。
医学生医学生
病変が粘膜のすぐ下にあって、内視鏡で直接見て処置できるから、ということですね。
ドクタードクター
その通り。次は胆膵系だ。総胆管結石はどう治療する?
医学生医学生
胆管の中の石なので、手術かと思っていました……でも、乳頭から入れるんでしたっけ。
ドクタードクター
そこがポイント。側視鏡を十二指腸まで進めて、乳頭から胆管にカニュレーションするERCPを行う。乳頭括約筋を切開するEST、またはバルーンで乳頭を拡げるEPBDで出口を広げて、バスケットやバルーンカテーテルで石を引き出すんだ。大きな石は機械的に砕いてから除去する。これが第一選択だよ。
医学生医学生
総胆管結石は無症状でも取るんでしたか。
ドクタードクター
原則として取る。胆管炎や閉塞性黄疸、膵炎の原因になるからね。急性胆管炎を合併していれば、まず内視鏡的胆道ドレナージで減圧を優先することもある。では、同じ「結石」でも胆嚢結石はどうだろう。
医学生医学生
胆嚢も乳頭から届きそうな気がしますが……。
ドクタードクター
そう考えたくなるけれど、胆嚢は胆嚢管という細く屈曲した管の先にあって、消化管内視鏡から直接到達して石を取り出すことは通常できない。有症状なら腹腔鏡下胆嚢摘出術が標準で、無症状なら経過観察が原則だ。手術が難しい例では、小さなコレステロール結石に対するウルソデオキシコール酸の溶解療法や体外衝撃波結石破砕療法が選ばれることもある。
医学生医学生
腹腔鏡も「内視鏡」ですけど、消化管内視鏡とは別物なんですね。ひっかけられそうです。
ドクタードクター
まさにそこ。腹腔鏡は腹腔内に入れる外科の内視鏡で、消化管内視鏡治療ではない。次に胃悪性リンパ腫はどうかな。
医学生医学生
胃のMALTリンパ腫はピロリ菌が関係していて、除菌で治ることがあると血液内科の講義で聞きました。
ドクタードクター
よく覚えているね。MALTリンパ腫はH. pylori陽性なら除菌療法が第一選択で、無効例には放射線療法などを行う。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫ならR-CHOP療法などの化学療法が中心だ。粘膜下や胃壁全層、リンパ節に広がりうる病気だから、内視鏡で局所を切って治すものではないんだ。
医学生医学生
進行大腸癌も、内視鏡ではなく手術ですね。
ドクタードクター
そう。癌が固有筋層以深に浸潤した進行癌はリンパ節転移の可能性が高いので、リンパ節郭清を伴う外科切除が標準になる。内視鏡的切除の対象は、粘膜内癌か粘膜下層への浸潤が1000μm未満にとどまる早期癌だ。ただし、進行大腸癌で腸閉塞を起こしたときに大腸ステントを内視鏡的に留置することはある。
医学生医学生
それは癌を治すというより、閉塞を一時的に解除する処置ということですね。
ドクタードクター
その理解で正しい。姑息的な処置であって根治治療ではない。だから今回の答えは、食道静脈瘤と総胆管結石の2つだ。
医学生医学生
「病変に内視鏡が届くか」と「局所処置で完結するか」、この2つを満たすものが内視鏡治療の適応だと整理できました。
ドクタードクター
いいまとめだ。臨床的な注意点もいくつか。食道静脈瘤の治療後も門脈圧亢進そのものは残るから、再発のフォローや肝硬変の管理が欠かせない。また総胆管結石を截石しても、胆嚢結石が残っていれば再び胆管に落ちてくるおそれがあるので、截石後に胆嚢摘出術を行うことが多い。そしてERCPには術後膵炎という代表的な合併症がある。処置後の腹痛やアミラーゼ上昇には注意しよう。
医学生医学生
内視鏡で済む治療でも、その後の全体の管理まで考える必要があるんですね。
ドクタードクター
その通り。内視鏡治療は低侵襲で強力な武器だけど、どこまでが守備範囲かを知っておくことが、外科や血液内科へ適切につなぐ判断にも直結するんだ。

まとめ

消化管内視鏡による治療は、止血(出血性潰瘍、食道・胃静脈瘤)、切除(早期癌・腺腫)、胆膵処置(ERCPを用いた総胆管結石の截石・胆道ドレナージ)などが代表的な適応です。食道静脈瘤はEVLやEISで直接治療でき、総胆管結石は乳頭からEST・EPBDを行って截石するのが第一選択です。一方、胃悪性リンパ腫は除菌療法や化学療法、進行大腸癌はリンパ節郭清を伴う外科切除、胆嚢結石は腹腔鏡下胆嚢摘出術が基本で、消化管内視鏡治療の対象にはなりません。「内視鏡が病変に届き、局所処置で治療目的を達成できるか」という物差しを持つと、各疾患の治療選択を体系的に整理できます。

解答・解説

正解はa, dです

消化管内視鏡は診断だけでなく、多くの疾患で治療手段としても用いられる。本問は、各疾患の標準的な治療法の中に内視鏡治療が含まれるかどうかを問うている。 内視鏡治療の代表的な対象は次のように整理できる。 ・止血:出血性消化性潰瘍、食道・胃静脈瘤(結紮術・硬化療法) ・切除:リンパ節転移の可能性がきわめて低い早期癌(食道・胃・大腸)、ポリープ(腺腫) ・胆膵系の処置:総胆管結石の截石、胆道・膵管のドレナージやステント留置(内視鏡的逆行性胆管膵管造影:ERCPを用いる) ・その他:異物除去、狭窄の拡張やステント留置など 考え方の鍵は、「内視鏡で局所処置をすれば治療目的を達成できるか」である。食道静脈瘤は内視鏡で直接結紮・硬化でき、総胆管結石は十二指腸乳頭から内視鏡的に摘出できるため、いずれも内視鏡治療が標準的な選択肢となる。一方、全身性に広がりうる悪性リンパ腫は薬物療法(または除菌療法・放射線療法)、リンパ節転移を伴いうる進行癌は外科手術、胆嚢内の結石は胆嚢摘出術が基本であり、内視鏡による根治的治療の対象ではない。

選択肢考察

  1. ○a.  食道静脈瘤

    食道静脈瘤は、肝硬変などによる門脈圧亢進症で側副血行路として食道の粘膜下静脈が拡張したもので、破裂すると大量出血をきたす。治療・予防の中心は内視鏡治療であり、静脈瘤をゴムのOリングで縛って血流を遮断・壊死脱落させる内視鏡的静脈瘤結紮術(endoscopic variceal ligation:EVL)と、静脈瘤内または周囲に硬化剤を注入して血栓化・線維化させる内視鏡的硬化療法(endoscopic injection sclerotherapy:EIS)が広く行われる。出血時の緊急止血にも、出血リスクの高い静脈瘤に対する予防的治療にも用いられる。

  2. ×b.  胃悪性リンパ腫

    胃悪性リンパ腫は主にMALTリンパ腫(粘膜関連リンパ組織リンパ腫)とびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である。MALTリンパ腫の多くはHelicobacter pylori感染が関与しており、第一選択は除菌療法で、無効例には放射線療法などを行う。DLBCLではリツキシマブを含む化学療法(R-CHOP療法など)が中心で、必要に応じて放射線療法を加える。粘膜下や胃壁全層、リンパ節に広がる疾患であり、内視鏡による局所切除で治すものではない。外科手術も現在は穿孔や制御困難な出血などの合併症時に限られる。

  3. ×c.  進行大腸癌

    進行癌とは癌の浸潤が固有筋層以深に及ぶものであり、リンパ節転移の可能性が高いため、リンパ節郭清を伴う外科的切除(遠隔転移がある場合は化学療法などとの組み合わせ)が標準治療である。内視鏡的切除(ポリペクトミー、内視鏡的粘膜切除術:EMR、内視鏡的粘膜下層剥離術:ESD)の対象は、粘膜内癌または粘膜下層への軽度浸潤(1000μm未満)にとどまる早期大腸癌である。なお、進行大腸癌による腸閉塞に対して内視鏡的に大腸ステントを留置することはあるが、これは閉塞の解除を目的とした一時的・姑息的処置であり、癌の治療とはいえない。

  4. ○d.  総胆管結石

    総胆管結石は胆管炎や閉塞性黄疸、膵炎の原因となるため、原則として無症状でも除去の対象となる。第一選択は内視鏡的治療であり、側視鏡を十二指腸まで進めて乳頭から胆管に到達し(ERCP)、乳頭括約筋を切開する内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy:EST)やバルーンで乳頭を拡張する内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)を行ったうえで、バスケットカテーテルやバルーンカテーテルで結石を摘出する。大きな結石は機械的砕石具などで砕いてから除去する。急性胆管炎を伴う場合は、内視鏡的胆道ドレナージを先行させることもある。

  5. ×e.  胆嚢結石

    胆嚢結石は胆嚢内にある結石であり、消化管内視鏡から直接到達して除去することは通常できない。症状(胆石発作など)を伴う例や胆嚢炎を起こした例では、腹腔鏡下胆嚢摘出術が標準治療である。手術を望まない、あるいは困難な症例の一部では、ウルソデオキシコール酸による経口胆石溶解療法(胆嚢機能が保たれた小さなコレステロール結石が対象)や体外衝撃波結石破砕療法(ESWL)が選択されることがある。無症状の胆嚢結石は原則として経過観察である。腹腔鏡手術は内視鏡の一種を用いるが、消化管内視鏡による治療ではない。

消化管内視鏡治療の主な適応

・消化管出血:出血性潰瘍(クリップ、熱凝固、エピネフリン加高張食塩水局注など) ・静脈瘤:食道静脈瘤(EVL・EIS)、胃静脈瘤(組織接着剤の注入など) ・腫瘍:早期食道癌・早期胃癌・早期大腸癌、腺腫(EMR・ESD・ポリペクトミー) ・胆膵:総胆管結石(EST・EPBD後の截石)、閉塞性黄疸・胆管炎(ENBD・EBSなどの胆道ドレナージ) ・その他:異物除去、良性・悪性狭窄に対するバルーン拡張やステント留置、胃瘻造設(PEG)

胆石症の部位別治療の整理

・胆嚢結石:有症状なら腹腔鏡下胆嚢摘出術。一部で経口溶解療法、ESWL。無症状は経過観察が原則。 ・総胆管結石:内視鏡的截石(ERCP下でEST/EPBD)が第一選択。困難例では経皮経肝的治療や外科手術。胆嚢結石を合併していれば、截石後に胆嚢摘出術を行うことが多い。 ・肝内結石:経皮経肝胆道鏡、肝切除など。

胃悪性リンパ腫の治療

・MALTリンパ腫:H. pylori陽性なら除菌療法が第一選択。除菌無効・陰性例では放射線療法など。 ・DLBCL:R-CHOP療法などの化学療法±放射線療法。

早期大腸癌の内視鏡治療の適応

粘膜内癌または粘膜下層軽度浸潤癌(SM浸潤1000μm未満)で、大きさ・肉眼型を問わず一括切除できるもの。

POINT

・食道静脈瘤:EVL(結紮術)・EIS(硬化療法)が治療の中心。 ・総胆管結石:ERCP下でEST/EPBDを行い、内視鏡的に截石するのが第一選択。 ・胆嚢結石:腹腔鏡下胆嚢摘出術が標準(消化管内視鏡治療の対象ではない)。 ・胃MALTリンパ腫はH. pylori除菌、DLBCLは化学療法。 ・内視鏡的切除の対象は早期癌であり、進行癌は外科切除が基本。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。