3か月で急に増えた「老人のいぼ」―Leser-Trélat徴候が告げる胃癌
第102回医師国家試験 E問題 第44問
国試問題にチャレンジ
66歳の男性。皮疹を主訴に来院した。3か月前から体幹に軽度の瘙痒を伴う皮疹が多発してきた。体幹の写真(A)と皮疹の拡大像(B)とを別に示す。 基礎疾患として最も考えられるのはどれか。

- a.胃癌
- b.肺気腫
- c.肝硬変
- d.慢性腎炎
- e.サルコイドーシス
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
脂漏性角化症は中高年に生じる境界明瞭な褐色〜黒色の角化性隆起病変で、加齢とともに誰にでもみられる良性腫瘍です。しかし、これが数か月の短期間に瘙痒を伴って急速に多発する場合はLeser-Trélat徴候とよばれ、内臓悪性腫瘍、特に胃癌をはじめとする腺癌の合併を示唆するデルマドロームとなります。腫瘍由来のTGF-αなどの増殖因子が表皮増殖を促すと考えられており、同じく胃癌と関連の深い悪性黒色表皮腫とセットで覚えておくとよいでしょう。肺気腫、肝硬変、慢性腎炎、サルコイドーシスにはそれぞれ別の皮膚所見があり、脂漏性角化症の急速な多発とは結びつきません。ありふれた皮疹でも「出現の速さ」に注目して上部消化管内視鏡を含む全身検索につなげる姿勢が、悪性腫瘍の早期発見に役立ちます。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・66歳の男性、高齢。 ・3か月前という短期間のうちに、体幹に軽い瘙痒を伴う皮疹が多発してきた。 ・体幹の写真(A)では、背部・体幹に褐色〜黒褐色の小丘疹・小結節が多数散在している。 ・拡大像(B)では、個々の皮疹は境界明瞭で、表面がややざらついた(疣状・角化性の)褐色の隆起性病変であり、皮膚に貼り付けたような外観を呈する。
診断へのプロセス
境界明瞭な褐色〜黒色の角化性隆起病変は、脂漏性角化症(老人性疣贅)の典型像である。脂漏性角化症自体は加齢とともに誰にでも生じるごくありふれた良性腫瘍であり、通常は長い年月をかけて少しずつ増える。ところが本例では、わずか3か月で瘙痒を伴いながら急速に多発・増大している。このように脂漏性角化症が短期間に多発し、しばしば瘙痒を伴う現象をLeser-Trélat(レーザー・トレラ)徴候とよび、内臓悪性腫瘍の存在を示唆するデルマドローム(内臓疾患の存在を反映する皮膚病変)として知られる。
設問の考え方
Leser-Trélat徴候の背景となる悪性腫瘍は腺癌が多く、なかでも胃癌が最も代表的である。そのほか大腸癌などの消化管の癌、乳癌、肺癌、悪性リンパ腫なども報告されている。腫瘍細胞が産生する増殖因子(TGF-αなど)が表皮角化細胞の増殖を促すことが機序として考えられている。したがって本例では、上部消化管内視鏡検査をはじめとする全身の悪性腫瘍の検索が必要となり、選択肢の中で基礎疾患として最も考えられるのは胃癌である。
選択肢考察
- ○a. 胃癌
短期間に瘙痒を伴って多発した脂漏性角化症はLeser-Trélat徴候であり、内臓悪性腫瘍、特に腺癌の合併を示唆する。基礎疾患として最も頻度が高く代表的なのが胃癌である。同じく胃癌などの腺癌に関連するデルマドロームである悪性黒色表皮腫と合併することもある。
- ×b. 肺気腫
肺気腫(慢性閉塞性肺疾患)は喫煙などによる肺胞壁の破壊を本態とする非腫瘍性疾患であり、脂漏性角化症の急速な多発とは関連しない。肺気腫で問題となる身体所見はばち指(ただし肺気腫単独では目立たない)やチアノーゼなどである。
- ×c. 肝硬変
肝硬変に関連する皮膚所見としては、クモ状血管腫、手掌紅斑、黄疸、腹壁静脈怒張(メドゥーサの頭)、女性化乳房、胆汁うっ滞に伴う瘙痒などがある。脂漏性角化症の多発はこれに含まれない。
- ×d. 慢性腎炎
慢性腎臓病・腎不全に伴う皮膚病変としては、皮膚瘙痒症、皮膚の乾燥、色素沈着、後天性穿孔性皮膚症などが知られるが、脂漏性角化症の急速な多発とは関係がない。
- ×e. サルコイドーシス
サルコイドーシスは全身に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を生じる原因不明の疾患である。皮膚病変としては、肉芽腫そのものが皮膚にできる皮膚サルコイド(結節型・局面型・びまん浸潤型〈びまん性に浸潤するlupus pernioなど〉・皮下型)や瘢痕浸潤、非特異的病変としての結節性紅斑があるが、脂漏性角化症の多発とは関連しない。
脂漏性角化症(老人性疣贅)
・表皮の角化細胞が増殖してできる良性腫瘍で、中高年の顔面・頭部・体幹に好発する。加齢とともに増え、80歳以上ではほぼ全員にみられる。 ・境界明瞭な褐色〜黒色の扁平隆起〜疣状の結節で、皮膚に貼り付けたような外観をとる。ダーモスコピーでは面皰様開孔、稗粒腫様嚢腫、脳回様構造などが特徴。 ・悪性化はまれだが、黒色の病変は悪性黒色腫や基底細胞癌との鑑別が必要である。 ・治療は液体窒素による凍結療法、炭酸ガスレーザー、外科的切除など。
Leser-Trélat徴候
・数か月程度の短期間に脂漏性角化症が急速に多発・増大する現象で、しばしば瘙痒を伴う。 ・内臓悪性腫瘍(腺癌が多く、特に胃癌、ほか大腸癌、乳癌、肺癌、悪性リンパ腫など)の合併を示唆する。 ・腫瘍が産生するTGF-αなどの増殖因子が表皮の増殖を促すと考えられている。 ・悪性黒色表皮腫と同時にみられることがある。 ・脂漏性角化症自体はありふれているため、単に数が多いだけで悪性腫瘍とは結びつけず、「急速な出現・増加」が重要な手がかりとなる。
内臓悪性腫瘍と関連する主な皮膚病変(デルマドローム)
・悪性黒色表皮腫:腋窩・頸部などの間擦部の色素沈着と乳頭状の皮膚肥厚。胃癌などの腺癌との関連が強い。 ・Leser-Trélat徴候:上記。 ・皮膚筋炎:特に中高年発症例で悪性腫瘍(胃癌、肺癌、卵巣癌など)の合併が多い。抗TIF1-γ抗体陽性例で悪性腫瘍の合併が高率。 ・後天性魚鱗癬:悪性リンパ腫(特にHodgkinリンパ腫)などに伴う。 ・紅皮症:悪性リンパ腫(菌状息肉症、Sézary症候群など)や内臓悪性腫瘍に伴うことがある。 ・匍行性迂回状紅斑(erythema gyratum repens):年輪状に移動する紅斑で、肺癌などとの関連が強い。 ・遊走性壊死性紅斑:グルカゴノーマに特徴的。 ・腫瘍随伴性天疱瘡:悪性リンパ腫、Castleman病、胸腺腫などに伴う。 ・Trousseau症候群(遊走性血栓性静脈炎):膵癌など腺癌に伴う凝固亢進状態。 ・そのほか、汎発性の帯状疱疹や、ヒ素曝露と関連したBowen病(多発例)でも内臓悪性腫瘍の検索が考慮されることがある。
POINT
・脂漏性角化症:中高年の境界明瞭な褐色〜黒色の角化性隆起病変(良性)。 ・短期間に瘙痒を伴って多発 → Leser-Trélat徴候 → 内臓悪性腫瘍(特に胃癌などの腺癌)を検索する。 ・胃癌に関連するデルマドロームとして、悪性黒色表皮腫とLeser-Trélat徴候をセットで覚える。 ・中高年発症の皮膚筋炎も悪性腫瘍合併に注意(抗TIF1-γ抗体)。
