StudyMed医師国家試験

3か月で急に増えた「老人のいぼ」―Leser-Trélat徴候が告げる胃癌

第102回医師国家試験 E問題 第44問

国試問題にチャレンジ

第102回 E問題 第44問

66歳の男性。皮疹を主訴に来院した。3か月前から体幹に軽度の瘙痒を伴う皮疹が多発してきた。体幹の写真(A)と皮疹の拡大像(B)とを別に示す。  基礎疾患として最も考えられるのはどれか。

第102回 E問題 第44問の問題画像
  1. a.胃癌
  2. b.肺気腫
  3. c.肝硬変
  4. d.慢性腎炎
  5. e.サルコイドーシス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は皮膚の所見から体の中の病気を推理する問題だ。皮疹そのものはありふれたものだけど、注目してほしいのは「どんな経過で出てきたか」。皮膚が内臓疾患を映し出す、いわゆるデルマドロームの代表例を扱うよ。まず写真の皮疹は何に見えるかな。
医学生医学生
褐色から黒っぽい、ぽこっと盛り上がったできものがたくさんありますね。拡大像だと表面がざらついていて、皮膚に貼り付けたような感じです。
ドクタードクター
よく観察できているね。境界明瞭で、表面が疣状・角化性の褐色の隆起、そして「貼り付けたような」外観。これは脂漏性角化症、いわゆる老人性疣贅の典型像なんだ。
医学生医学生
皮膚科の講義で、80歳を超えるとほぼ全員にあると聞きました。それなら、ただの加齢変化ではないんですか。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だよ。脂漏性角化症自体は良性で、普通は何年もかけて少しずつ増えていく。ところがこの患者さんは、わずか3か月の間に、かゆみを伴いながら体幹に一気に多発している。この「短期間で急速に多発する」という経過に意味があるんだ。
医学生医学生
急に増えるというのが異常なんですね。何か名前がついていましたっけ。
ドクタードクター
Leser-Trélat徴候というよ。脂漏性角化症が短期間に多発・増大し、しばしば瘙痒を伴う現象で、内臓悪性腫瘍の存在を示唆するデルマドロームとして知られている。腫瘍が産生するTGF-αなどの増殖因子が表皮の角化細胞を刺激して増やす、という機序が考えられているんだ。
医学生医学生
背景になる悪性腫瘍で一番多いのは何でしょうか。CBTの問題集では胃癌とセットで出てきた気がします。
ドクタードクター
その記憶で正しい。背景は腺癌が多く、なかでも胃癌が最も代表的だ。ほかに大腸癌、乳癌、肺癌、悪性リンパ腫なども報告されている。だからこの選択肢の中では胃癌が最も考えられる基礎疾患になる。
医学生医学生
肺気腫はどうですか。高齢男性で喫煙歴があればありそうな病気ですけど。
ドクタードクター
頻度としてはありふれているけれど、肺気腫は肺胞壁が壊れる非腫瘍性の疾患で、脂漏性角化症の急速な多発とは関係がない。悪性腫瘍が産生する増殖因子という機序から考えると、腫瘍でない病気は結びつかないよね。
医学生医学生
肝硬変も皮膚所見がたくさんある病気ですよね。消化器内科の実習で手掌紅斑を見せてもらいました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。肝硬変のデルマドロームはクモ状血管腫、手掌紅斑、黄疸、腹壁静脈怒張、女性化乳房、胆汁うっ滞による瘙痒などで、いぼの多発はここに入らない。慢性腎炎も同様で、腎不全になると皮膚瘙痒症や乾燥、色素沈着、後天性穿孔性皮膚症などがみられるけれど、脂漏性角化症とは関係しない。
医学生医学生
サルコイドーシスは皮膚病変がありましたけど、あれは肉芽腫でしたよね。
ドクタードクター
その通り。皮膚サルコイドとして肉芽腫そのものが皮膚に結節や局面をつくったり、古い傷あとに浸潤したり、非特異的病変として結節性紅斑が出たりする。角化性のいぼが急に増えるのとは別物だ。
医学生医学生
つまり、見た目は普通の脂漏性角化症でも、急に増えたという経過があれば胃カメラを含めて全身の悪性腫瘍を探しに行く、ということですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。逆に、ただ数が多いだけで悪性腫瘍と結びつけるのは行き過ぎで、「急速な出現・増加」が手がかりになる。あわせて覚えておきたいのが悪性黒色表皮腫で、腋窩や頸部などの間擦部に色素沈着とビロード状・乳頭状の皮膚肥厚が生じる。これも胃癌などの腺癌と関連が強く、Leser-Trélat徴候と同時にみられることもあるよ。
医学生医学生
ほかに悪性腫瘍を疑う皮膚所見として覚えておくべきものはありますか。
ドクタードクター
中高年発症の皮膚筋炎は大事だね。特に抗TIF1-γ抗体陽性例で悪性腫瘍の合併が多い。ほかにも、グルカゴノーマの遊走性壊死性紅斑、悪性リンパ腫などに伴う腫瘍随伴性天疱瘡や後天性魚鱗癬、膵癌などの腺癌に伴うTrousseau症候群などがある。皮膚科の外来で「ちょっとかゆいいぼ」と言われても、経過を丁寧に聞くことで隠れた癌の早期発見につながることがあるんだ。
医学生医学生
皮膚だけ見て終わりにせず、問診で経過を確認するのが大切なんですね。

まとめ

脂漏性角化症は中高年に生じる境界明瞭な褐色〜黒色の角化性隆起病変で、加齢とともに誰にでもみられる良性腫瘍です。しかし、これが数か月の短期間に瘙痒を伴って急速に多発する場合はLeser-Trélat徴候とよばれ、内臓悪性腫瘍、特に胃癌をはじめとする腺癌の合併を示唆するデルマドロームとなります。腫瘍由来のTGF-αなどの増殖因子が表皮増殖を促すと考えられており、同じく胃癌と関連の深い悪性黒色表皮腫とセットで覚えておくとよいでしょう。肺気腫、肝硬変、慢性腎炎、サルコイドーシスにはそれぞれ別の皮膚所見があり、脂漏性角化症の急速な多発とは結びつきません。ありふれた皮疹でも「出現の速さ」に注目して上部消化管内視鏡を含む全身検索につなげる姿勢が、悪性腫瘍の早期発見に役立ちます。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・66歳の男性、高齢。 ・3か月前という短期間のうちに、体幹に軽い瘙痒を伴う皮疹が多発してきた。 ・体幹の写真(A)では、背部・体幹に褐色〜黒褐色の小丘疹・小結節が多数散在している。 ・拡大像(B)では、個々の皮疹は境界明瞭で、表面がややざらついた(疣状・角化性の)褐色の隆起性病変であり、皮膚に貼り付けたような外観を呈する。

診断へのプロセス

境界明瞭な褐色〜黒色の角化性隆起病変は、脂漏性角化症(老人性疣贅)の典型像である。脂漏性角化症自体は加齢とともに誰にでも生じるごくありふれた良性腫瘍であり、通常は長い年月をかけて少しずつ増える。ところが本例では、わずか3か月で瘙痒を伴いながら急速に多発・増大している。このように脂漏性角化症が短期間に多発し、しばしば瘙痒を伴う現象をLeser-Trélat(レーザー・トレラ)徴候とよび、内臓悪性腫瘍の存在を示唆するデルマドローム(内臓疾患の存在を反映する皮膚病変)として知られる。

設問の考え方

Leser-Trélat徴候の背景となる悪性腫瘍は腺癌が多く、なかでも胃癌が最も代表的である。そのほか大腸癌などの消化管の癌、乳癌、肺癌、悪性リンパ腫なども報告されている。腫瘍細胞が産生する増殖因子(TGF-αなど)が表皮角化細胞の増殖を促すことが機序として考えられている。したがって本例では、上部消化管内視鏡検査をはじめとする全身の悪性腫瘍の検索が必要となり、選択肢の中で基礎疾患として最も考えられるのは胃癌である。

選択肢考察

  1. ○a.  胃癌

    短期間に瘙痒を伴って多発した脂漏性角化症はLeser-Trélat徴候であり、内臓悪性腫瘍、特に腺癌の合併を示唆する。基礎疾患として最も頻度が高く代表的なのが胃癌である。同じく胃癌などの腺癌に関連するデルマドロームである悪性黒色表皮腫と合併することもある。

  2. ×b.  肺気腫

    肺気腫(慢性閉塞性肺疾患)は喫煙などによる肺胞壁の破壊を本態とする非腫瘍性疾患であり、脂漏性角化症の急速な多発とは関連しない。肺気腫で問題となる身体所見はばち指(ただし肺気腫単独では目立たない)やチアノーゼなどである。

  3. ×c.  肝硬変

    肝硬変に関連する皮膚所見としては、クモ状血管腫、手掌紅斑、黄疸、腹壁静脈怒張(メドゥーサの頭)、女性化乳房、胆汁うっ滞に伴う瘙痒などがある。脂漏性角化症の多発はこれに含まれない。

  4. ×d.  慢性腎炎

    慢性腎臓病・腎不全に伴う皮膚病変としては、皮膚瘙痒症、皮膚の乾燥、色素沈着、後天性穿孔性皮膚症などが知られるが、脂漏性角化症の急速な多発とは関係がない。

  5. ×e.  サルコイドーシス

    サルコイドーシスは全身に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を生じる原因不明の疾患である。皮膚病変としては、肉芽腫そのものが皮膚にできる皮膚サルコイド(結節型・局面型・びまん浸潤型〈びまん性に浸潤するlupus pernioなど〉・皮下型)や瘢痕浸潤、非特異的病変としての結節性紅斑があるが、脂漏性角化症の多発とは関連しない。

脂漏性角化症(老人性疣贅)

・表皮の角化細胞が増殖してできる良性腫瘍で、中高年の顔面・頭部・体幹に好発する。加齢とともに増え、80歳以上ではほぼ全員にみられる。 ・境界明瞭な褐色〜黒色の扁平隆起〜疣状の結節で、皮膚に貼り付けたような外観をとる。ダーモスコピーでは面皰様開孔、稗粒腫様嚢腫、脳回様構造などが特徴。 ・悪性化はまれだが、黒色の病変は悪性黒色腫や基底細胞癌との鑑別が必要である。 ・治療は液体窒素による凍結療法、炭酸ガスレーザー、外科的切除など。

Leser-Trélat徴候

・数か月程度の短期間に脂漏性角化症が急速に多発・増大する現象で、しばしば瘙痒を伴う。 ・内臓悪性腫瘍(腺癌が多く、特に胃癌、ほか大腸癌、乳癌、肺癌、悪性リンパ腫など)の合併を示唆する。 ・腫瘍が産生するTGF-αなどの増殖因子が表皮の増殖を促すと考えられている。 ・悪性黒色表皮腫と同時にみられることがある。 ・脂漏性角化症自体はありふれているため、単に数が多いだけで悪性腫瘍とは結びつけず、「急速な出現・増加」が重要な手がかりとなる。

内臓悪性腫瘍と関連する主な皮膚病変(デルマドローム)

・悪性黒色表皮腫:腋窩・頸部などの間擦部の色素沈着と乳頭状の皮膚肥厚。胃癌などの腺癌との関連が強い。 ・Leser-Trélat徴候:上記。 ・皮膚筋炎:特に中高年発症例で悪性腫瘍(胃癌、肺癌、卵巣癌など)の合併が多い。抗TIF1-γ抗体陽性例で悪性腫瘍の合併が高率。 ・後天性魚鱗癬:悪性リンパ腫(特にHodgkinリンパ腫)などに伴う。 ・紅皮症:悪性リンパ腫(菌状息肉症、Sézary症候群など)や内臓悪性腫瘍に伴うことがある。 ・匍行性迂回状紅斑(erythema gyratum repens):年輪状に移動する紅斑で、肺癌などとの関連が強い。 ・遊走性壊死性紅斑:グルカゴノーマに特徴的。 ・腫瘍随伴性天疱瘡:悪性リンパ腫、Castleman病、胸腺腫などに伴う。 ・Trousseau症候群(遊走性血栓性静脈炎):膵癌など腺癌に伴う凝固亢進状態。 ・そのほか、汎発性の帯状疱疹や、ヒ素曝露と関連したBowen病(多発例)でも内臓悪性腫瘍の検索が考慮されることがある。

POINT

・脂漏性角化症:中高年の境界明瞭な褐色〜黒色の角化性隆起病変(良性)。 ・短期間に瘙痒を伴って多発 → Leser-Trélat徴候 → 内臓悪性腫瘍(特に胃癌などの腺癌)を検索する。 ・胃癌に関連するデルマドロームとして、悪性黒色表皮腫とLeser-Trélat徴候をセットで覚える。 ・中高年発症の皮膚筋炎も悪性腫瘍合併に注意(抗TIF1-γ抗体)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。