アセチルコリンが冠動脈を締めつける?―内皮機能が分ける「拡張」と「攣縮」
第102回医師国家試験 D問題 第8問
国試問題にチャレンジ
冠攣縮性狭心症を誘発するのはどれか。
- a.リドカイン
- b.ベラパミル
- c.アセチルコリン
- d.アミノフィリン
- e.イソプロテレノール
対話形式の解説
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医学生まとめ
冠攣縮性狭心症は冠動脈の一過性の攣縮で虚血を起こす病気で、夜間から早朝の安静時発作が特徴ですが、非発作時には心電図や冠動脈造影が正常のことが多いため、冠動脈内にアセチルコリンやエルゴノビンを投与する誘発試験で診断を確かめます。アセチルコリンは正常な内皮ではNOを介して血管を拡げますが、内皮機能が障害された冠動脈では平滑筋への直接作用で攣縮を起こし、この違いが誘発試験の原理です。ベラパミルなどのカルシウム拮抗薬は攣縮を予防する側の薬で予防の第一選択、発作時は硝酸薬を用い、β遮断薬の単独使用は攣縮を悪化させうるため避けます。喫煙が重要な危険因子であり禁煙も欠かせません。同じ薬が内皮の状態によって正反対の作用を示すという理解は、血管生理と病態をつなぐ重要な視点です。
解答・解説
正解はcです
テーマ
冠攣縮性狭心症(vasospastic angina:VSA)の誘発試験に使う薬剤を問う問題である。
冠攣縮性狭心症とは
冠動脈が一過性に強く収縮(攣縮)して心筋虚血を起こす狭心症である。夜間から早朝にかけての安静時に発作が起こりやすい。発作中に心電図でST上昇がみられる型は異型狭心症(Prinzmetal狭心症)と呼ばれる。発作が起きていないときには心電図も冠動脈造影も正常のことが多く、診断が難しい。そのため、薬剤を使って冠攣縮を意図的に起こし、診断を確定する「冠攣縮誘発試験」が行われる。
考え方
冠攣縮の誘発に使われる代表的な薬剤は、アセチルコリンとエルゴノビン(エルゴメトリン)である。冠動脈造影の際に冠動脈内へ投与し、攣縮が起こるかどうかを確かめる。ほかの選択肢は、抗不整脈薬、VSAの治療薬、気管支拡張薬、β刺激薬であり、どれも冠攣縮を誘発する目的では使わない。なかでもベラパミルは攣縮を抑える側の薬であり、誘発とは逆の作用をもつ。
選択肢考察
- ×a. リドカイン
リドカインはVaughan Williams分類のIb群抗不整脈薬で、Naチャネルを遮断する。心室頻拍などの心室性不整脈の治療に使う。局所麻酔薬としても広く使われる。冠動脈の緊張にはほとんど影響せず、冠攣縮の誘発には使わない。
- ×b. ベラパミル
ベラパミルは非ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬である。血管平滑筋へのCa2+流入を抑えて冠動脈を拡げるので、冠攣縮を予防する働きをもつ。誘発とは逆の作用であり、誤りである。VSAの発作予防にはカルシウム拮抗薬が第一選択である。ベラパミルは房室結節の伝導も抑えるので、上室性頻拍の治療や心房細動の心拍数調節にも使われる。
- ○c. アセチルコリン
アセチルコリンは冠攣縮誘発試験の標準的な薬剤であり、これが正解である。血管内皮が正常なら、アセチルコリンは内皮から一酸化窒素(NO)を放出させ、血管を拡げる。VSAの冠動脈では内皮の機能が落ちているのでNOが十分に出ない。すると、平滑筋のムスカリン受容体への直接作用が勝ち、強い収縮(攣縮)が起こる。冠動脈造影の際に、左右の冠動脈内へ段階的に増量して注入する。一過性の完全または亜完全閉塞(90%を超える狭窄)が起こり、いつもの胸痛や虚血性の心電図変化を伴えば陽性と判定する。かつてはエルゴノビンが主に使われていたが、現在はアセチルコリンが使われることが多い。
- ×d. アミノフィリン
アミノフィリンはテオフィリン製剤で、ホスホジエステラーゼ阻害作用とアデノシン受容体拮抗作用をもつ。気管支喘息などで気管支拡張薬として使う。冠攣縮の誘発には使わない。アデノシン受容体を遮断するので、アデノシンやジピリダモールを使った薬物負荷心筋シンチグラフィで副作用が出たときの拮抗薬として使われることがある。
- ×e. イソプロテレノール
イソプロテレノールはβ1受容体とβ2受容体の両方を刺激する薬(非選択的β刺激薬)である。心拍数と心収縮力を高めるので、徐脈性不整脈(高度房室ブロックなど)の一時的な治療に使う。電気生理学的検査で頻拍を誘発するときにも使われる。β2刺激で血管は拡がる方向に働くため、冠攣縮の誘発には使わない。なお、逆にβ遮断薬はα受容体を介した収縮を相対的に強めるので、冠攣縮を悪化させることがある。VSAでβ遮断薬を単独で使うのは避ける。
冠攣縮性狭心症の特徴
・発作は夜間から早朝の安静時に起こりやすい。自律神経のバランスが変わる時間帯であることが関係するとされる。 ・危険因子として喫煙が特に重要である。日本人を含む東アジア人に多い。 ・責任血管は右冠動脈が多い。 ・発作時の心電図では一過性のST上昇(貫壁性の虚血)またはST低下がみられ、発作が治まると元に戻る。 ・発作は硝酸薬(ニトログリセリン舌下)で速やかに治まる。
診断
・発作時の心電図変化を捉えることが大切で、ホルター心電図が役立つ。 ・発作時の心電図が得られない場合は、冠動脈造影の際にアセチルコリンまたはエルゴノビンを投与する誘発試験を行う。非薬物的な誘発法として過換気負荷もある。
治療
・発作時:硝酸薬(ニトログリセリン舌下など) ・予防:カルシウム拮抗薬が第一選択である。長時間作用型の硝酸薬やニコランジルを併用することもある。 ・禁煙が不可欠である。 ・β遮断薬の単独使用は攣縮を悪化させることがあるので避ける。
POINT
・冠攣縮の誘発試験には、アセチルコリン(またはエルゴノビン)を冠動脈内に投与する。 ・アセチルコリンは、内皮が正常なら血管を拡げ、内皮機能が障害されていると血管を収縮させる。 ・VSAの予防の第一選択はカルシウム拮抗薬、発作時は硝酸薬を使う。β遮断薬の単独使用は避ける。 ・VSAの特徴:夜間から早朝の安静時発作、一過性ST上昇、喫煙が危険因子、右冠動脈に多い。
