StudyMed医師国家試験

アセチルコリンが冠動脈を締めつける?―内皮機能が分ける「拡張」と「攣縮」

第102回医師国家試験 D問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第102回 D問題 第8問

冠攣縮性狭心症を誘発するのはどれか。

  1. a.リドカイン
  2. b.ベラパミル
  3. c.アセチルコリン
  4. d.アミノフィリン
  5. e.イソプロテレノール

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は冠攣縮性狭心症の診断で使う「誘発試験」の薬剤を問う問題だ。ポイントは、発作がないときには検査が正常に見えやすいこの病気を、どうやって確定診断するかという点。まず冠攣縮性狭心症がどんな病気か、思い出せるかな。
医学生医学生
冠動脈が一時的にけいれんするように縮んで虚血を起こす狭心症ですよね。夜間から早朝の安静時に発作が起こりやすいと習いました。
ドクタードクター
その通り。発作中にST上昇を示すタイプは異型狭心症、Prinzmetal狭心症とも呼ばれる。厄介なのは、発作のないときは心電図も冠動脈造影も正常のことが多いこと。だから薬で攣縮を意図的に起こして確かめる「冠攣縮誘発試験」が行われるんだ。
医学生医学生
循環器内科の実習でカテーテル室を見学したとき、造影中に何か薬を冠動脈に入れていた気がします。でも、どの薬が攣縮を起こすのかは自信がないです。
ドクタードクター
代表はアセチルコリンとエルゴノビンの2つ。現在はアセチルコリンが使われることが多い。冠動脈造影の際に左右の冠動脈内へ段階的に増量して注入し、一過性の高度狭窄や閉塞が起こって、いつもの胸痛や虚血性の心電図変化を伴えば陽性と判断する。
医学生医学生
でも、薬理学の講義ではアセチルコリンは内皮からNOを出させて血管を拡げると習いました。収縮させるというのは逆じゃないですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。そこがこの問題の核心なんだ。内皮が正常なら、アセチルコリンは内皮のムスカリン受容体を介してNOを放出させ、血管は拡張する。ところが冠攣縮を起こす冠動脈では内皮機能が落ちていてNOが十分に出ない。すると平滑筋への直接作用が勝って、強い収縮が起こる。
医学生医学生
つまり、正常な血管では拡がり、内皮が傷んだ血管では縮む。その差を利用して病的な血管をあぶり出すわけですね。
ドクタードクター
まさにそう。では他の選択肢も見ていこう。まずベラパミルはどうだろう。
医学生医学生
カルシウム拮抗薬ですよね。冠動脈を拡げる方向なので、誘発ではなくむしろ予防になるのでは。
ドクタードクター
正解。血管平滑筋へのCa2+流入を抑えて攣縮を防ぐ側の薬で、冠攣縮性狭心症の発作予防ではカルシウム拮抗薬が第一選択になる。誘発とは真逆だね。ベラパミルは房室結節の伝導も抑えるから、上室性頻拍の治療や心房細動の心拍数調節にも使われる。
医学生医学生
リドカインは局所麻酔薬のイメージが強いです。抗不整脈薬としても使うんでしたっけ。
ドクタードクター
そう、Vaughan Williams分類のIb群で、Naチャネルを遮断して心室性不整脈に使う。冠動脈の緊張にはほとんど影響しないから、誘発には使わない。アミノフィリンはどうかな。
医学生医学生
喘息の気管支拡張薬ですよね。CBTの勉強で、薬物負荷心筋シンチのときに出てきた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。テオフィリン製剤で、ホスホジエステラーゼ阻害とアデノシン受容体拮抗の作用をもつ。アデノシン受容体を遮断するので、アデノシンやジピリダモールによる負荷検査で副作用が出たときの拮抗薬として使われることがある。冠攣縮の誘発とは関係ない。
医学生医学生
イソプロテレノールは心拍数を上げる薬なので、心臓に負担をかけて攣縮を誘発しそうにも思えますが。
ドクタードクター
そう考えたくなるけれど、β1とβ2を両方刺激する非選択的β刺激薬で、β2刺激は血管を拡げる方向に働く。徐脈性不整脈の一時的な治療や、電気生理学的検査で頻拍を誘発するときに使う薬だ。誘発するのは頻拍であって、冠攣縮ではないんだね。
医学生医学生
逆にβ遮断薬は冠攣縮性狭心症で注意が必要だと聞いたことがあります。
ドクタードクター
大事な臨床ポイントだ。β遮断薬はβ2を介した血管拡張を抑え、α受容体を介した収縮を相対的に強めるので、攣縮を悪化させることがある。だから冠攣縮性狭心症にβ遮断薬を単独で使うのは避ける。器質的狭窄による労作性狭心症とは対応が違うところだね。
医学生医学生
ほかに押さえておくべき特徴はありますか。
ドクタードクター
喫煙が特に重要な危険因子で、日本人を含む東アジア人に多く、責任血管は右冠動脈が多いとされる。発作時の心電図を捉えるにはホルター心電図が役立ち、非薬物的な誘発法として過換気負荷もある。治療は発作時に硝酸薬の舌下、予防にカルシウム拮抗薬、そして禁煙が不可欠だ。
医学生医学生
夜明け前の胸痛で受診した喫煙者がいたら、冠攣縮を疑って、β遮断薬を安易に出さないよう気をつけます。

まとめ

冠攣縮性狭心症は冠動脈の一過性の攣縮で虚血を起こす病気で、夜間から早朝の安静時発作が特徴ですが、非発作時には心電図や冠動脈造影が正常のことが多いため、冠動脈内にアセチルコリンやエルゴノビンを投与する誘発試験で診断を確かめます。アセチルコリンは正常な内皮ではNOを介して血管を拡げますが、内皮機能が障害された冠動脈では平滑筋への直接作用で攣縮を起こし、この違いが誘発試験の原理です。ベラパミルなどのカルシウム拮抗薬は攣縮を予防する側の薬で予防の第一選択、発作時は硝酸薬を用い、β遮断薬の単独使用は攣縮を悪化させうるため避けます。喫煙が重要な危険因子であり禁煙も欠かせません。同じ薬が内皮の状態によって正反対の作用を示すという理解は、血管生理と病態をつなぐ重要な視点です。

解答・解説

正解はcです

テーマ

冠攣縮性狭心症(vasospastic angina:VSA)の誘発試験に使う薬剤を問う問題である。

冠攣縮性狭心症とは

冠動脈が一過性に強く収縮(攣縮)して心筋虚血を起こす狭心症である。夜間から早朝にかけての安静時に発作が起こりやすい。発作中に心電図でST上昇がみられる型は異型狭心症(Prinzmetal狭心症)と呼ばれる。発作が起きていないときには心電図も冠動脈造影も正常のことが多く、診断が難しい。そのため、薬剤を使って冠攣縮を意図的に起こし、診断を確定する「冠攣縮誘発試験」が行われる。

考え方

冠攣縮の誘発に使われる代表的な薬剤は、アセチルコリンとエルゴノビン(エルゴメトリン)である。冠動脈造影の際に冠動脈内へ投与し、攣縮が起こるかどうかを確かめる。ほかの選択肢は、抗不整脈薬、VSAの治療薬、気管支拡張薬、β刺激薬であり、どれも冠攣縮を誘発する目的では使わない。なかでもベラパミルは攣縮を抑える側の薬であり、誘発とは逆の作用をもつ。

選択肢考察

  1. ×a.  リドカイン

    リドカインはVaughan Williams分類のIb群抗不整脈薬で、Naチャネルを遮断する。心室頻拍などの心室性不整脈の治療に使う。局所麻酔薬としても広く使われる。冠動脈の緊張にはほとんど影響せず、冠攣縮の誘発には使わない。

  2. ×b.  ベラパミル

    ベラパミルは非ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬である。血管平滑筋へのCa2+流入を抑えて冠動脈を拡げるので、冠攣縮を予防する働きをもつ。誘発とは逆の作用であり、誤りである。VSAの発作予防にはカルシウム拮抗薬が第一選択である。ベラパミルは房室結節の伝導も抑えるので、上室性頻拍の治療や心房細動の心拍数調節にも使われる。

  3. ○c.  アセチルコリン

    アセチルコリンは冠攣縮誘発試験の標準的な薬剤であり、これが正解である。血管内皮が正常なら、アセチルコリンは内皮から一酸化窒素(NO)を放出させ、血管を拡げる。VSAの冠動脈では内皮の機能が落ちているのでNOが十分に出ない。すると、平滑筋のムスカリン受容体への直接作用が勝ち、強い収縮(攣縮)が起こる。冠動脈造影の際に、左右の冠動脈内へ段階的に増量して注入する。一過性の完全または亜完全閉塞(90%を超える狭窄)が起こり、いつもの胸痛や虚血性の心電図変化を伴えば陽性と判定する。かつてはエルゴノビンが主に使われていたが、現在はアセチルコリンが使われることが多い。

  4. ×d.  アミノフィリン

    アミノフィリンはテオフィリン製剤で、ホスホジエステラーゼ阻害作用とアデノシン受容体拮抗作用をもつ。気管支喘息などで気管支拡張薬として使う。冠攣縮の誘発には使わない。アデノシン受容体を遮断するので、アデノシンやジピリダモールを使った薬物負荷心筋シンチグラフィで副作用が出たときの拮抗薬として使われることがある。

  5. ×e.  イソプロテレノール

    イソプロテレノールはβ1受容体とβ2受容体の両方を刺激する薬(非選択的β刺激薬)である。心拍数と心収縮力を高めるので、徐脈性不整脈(高度房室ブロックなど)の一時的な治療に使う。電気生理学的検査で頻拍を誘発するときにも使われる。β2刺激で血管は拡がる方向に働くため、冠攣縮の誘発には使わない。なお、逆にβ遮断薬はα受容体を介した収縮を相対的に強めるので、冠攣縮を悪化させることがある。VSAでβ遮断薬を単独で使うのは避ける。

冠攣縮性狭心症の特徴

・発作は夜間から早朝の安静時に起こりやすい。自律神経のバランスが変わる時間帯であることが関係するとされる。 ・危険因子として喫煙が特に重要である。日本人を含む東アジア人に多い。 ・責任血管は右冠動脈が多い。 ・発作時の心電図では一過性のST上昇(貫壁性の虚血)またはST低下がみられ、発作が治まると元に戻る。 ・発作は硝酸薬(ニトログリセリン舌下)で速やかに治まる。

診断

・発作時の心電図変化を捉えることが大切で、ホルター心電図が役立つ。 ・発作時の心電図が得られない場合は、冠動脈造影の際にアセチルコリンまたはエルゴノビンを投与する誘発試験を行う。非薬物的な誘発法として過換気負荷もある。

治療

・発作時:硝酸薬(ニトログリセリン舌下など) ・予防:カルシウム拮抗薬が第一選択である。長時間作用型の硝酸薬やニコランジルを併用することもある。 ・禁煙が不可欠である。 ・β遮断薬の単独使用は攣縮を悪化させることがあるので避ける。

POINT

・冠攣縮の誘発試験には、アセチルコリン(またはエルゴノビン)を冠動脈内に投与する。 ・アセチルコリンは、内皮が正常なら血管を拡げ、内皮機能が障害されていると血管を収縮させる。 ・VSAの予防の第一選択はカルシウム拮抗薬、発作時は硝酸薬を使う。β遮断薬の単独使用は避ける。 ・VSAの特徴:夜間から早朝の安静時発作、一過性ST上昇、喫煙が危険因子、右冠動脈に多い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。