StudyMed医師国家試験

心臓の「迂回路」に選ばれる血管、選ばれない血管―冠動脈バイパス術のグラフト選び

第102回医師国家試験 D問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第102回 D問題 第7問

冠動脈バイパス術に用いないのはどれか。

  1. a.内胸動脈
  2. b.橈骨動脈
  3. c.大伏在静脈
  4. d.気管支動脈
  5. e.右胃大網動脈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は冠動脈バイパス術、いわゆるCABGで使うグラフトについての問題だ。「用いないもの」を選ぶ設問だから、まずグラフトに求められる条件を考えると答えが見えてくるよ。CABGがどんな手術か、説明できるかな。
医学生医学生
狭くなったり詰まったりした冠動脈の先に、別の血管をつないで血流の迂回路をつくる手術ですよね。
ドクタードクター
その通り。では、その迂回路に使う血管にはどんな条件が必要だと思う?
医学生医学生
冠動脈につなげるくらいの太さと長さがあること……でしょうか。
ドクタードクター
いいね。それに加えて、採取しても体に大きな支障が出ないこと、つまり代わりの血流路があること。そして長い年月にわたって詰まらずに開存し続けること。この3つが大切なんだ。この条件で選択肢を見ていこう。まずは内胸動脈から。
医学生医学生
解剖実習で胸骨の裏を縦に走っているのを見ました。鎖骨下動脈の枝ですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。内胸動脈は根元を鎖骨下動脈につないだまま、先端だけを冠動脈へ吻合できる有茎グラフトとして使える。大動脈への吻合が要らず、動脈硬化も起こしにくい。10年後の開存率は90%を超えるとされ、左内胸動脈を左前下行枝につなぐのがCABGの標準なんだ。
医学生医学生
一番信頼されているグラフトなんですね。大伏在静脈もよく使うと聞いたことがあります。
ドクタードクター
大伏在静脈は下肢の表在静脈で、長く太いものを簡単に採れるし、深部静脈が代償するから採取後の影響も少ない。多枝をつなぐときや緊急手術で重宝する。ただ、本来は静脈だから、動脈圧にさらされると内膜肥厚や動脈硬化性変化が進み、10年後には半数前後が閉塞するとされる。長期開存性は動脈グラフトに劣るんだ。
医学生医学生
橈骨動脈を採ってしまって、手は大丈夫なんですか。
ドクタードクター
手は尺骨動脈からも血流を受けているから、採取は可能なんだ。ただし事前にAllenテストなどで尺骨動脈側の血流が十分かを確かめる。
医学生医学生
OSCEの練習で、橈骨動脈と尺骨動脈を同時に圧迫して手の色の戻りを見るテストをやりました。こんなところで使うんですね。
ドクタードクター
そう、まさにそれ。橈骨動脈は大動脈と冠動脈をつなぐ遊離グラフトとして使う。筋層が厚くて攣縮を起こしやすいから、カルシウム拮抗薬などの血管拡張薬を併用するのがポイントだ。
医学生医学生
右胃大網動脈は胃の血管ですよね。心臓からずいぶん遠い気がします。
ドクタードクター
そう感じるのも自然だね。右胃大網動脈は胃十二指腸動脈から分かれて胃の大弯に沿って走る。胃は他の動脈からも豊富に血流を受けるから採取できるんだ。根元をつないだまま横隔膜を通して心臓の下面に導き、主に右冠動脈系などに吻合する。開腹操作が加わるのが短所だけれど、動脈グラフトとして良好な開存性が期待できる。日本の心臓外科医が臨床応用を報告したことでも知られているよ。
医学生医学生
そうすると、残る気管支動脈が使わない血管ということですね。でも同じ動脈なのに、なぜ使えないんでしょう。
ドクタードクター
正解だよ。気管支動脈は胸部下行大動脈や肋間動脈から分かれて気管支や肺を栄養する血管で、通常は径が1〜2 mm程度と細く、冠動脈へ十分な血流を送るには小さすぎる。しかも肺門部の深い位置にあって、グラフトとして採取するのは現実的ではない。最初に挙げた条件を満たさないわけだ。
医学生医学生
気管支動脈といえば、呼吸器内科の実習で喀血の患者さんに塞栓術をしていました。
ドクタードクター
いい経験だね。臨床で気管支動脈が問題になるのはまさにそこだ。気管支拡張症や肺結核後遺症、非結核性抗酸菌症、肺癌などでは気管支動脈が拡張して喀血の出血源になり、気管支動脈塞栓術の対象になる。また肺血流が乏しいFallot四徴症などのチアノーゼ性先天性心疾患では、側副血行路として拡張することもある。
医学生医学生
使うグラフトは動脈が内胸・橈骨・右胃大網、静脈が大伏在で、長期成績は動脈、特に内胸動脈が一番、と整理できました。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床での注意点も加えておこう。両側の内胸動脈を使うと胸骨の血流が減るため、糖尿病患者などでは胸骨の感染リスクが上がる。また、左冠動脈主幹部病変や、糖尿病を合併した多枝病変などでは、カテーテル治療よりCABGが推奨されることが多い。人工心肺を使う方法と、心臓を動かしたまま行うオフポンプCABGがあることも知っておくといいね。
医学生医学生
グラフトの選び方には、採りやすさと長持ちのバランスや、患者さんの背景まで関わってくるんですね。
ドクタードクター
その通り。どの血管を、どの冠動脈に、どうつなぐかを考えるのが心臓外科医の腕の見せどころなんだ。

まとめ

冠動脈バイパス術(CABG)のグラフトには、冠動脈に吻合できる太さと長さ、採取後に代わりの血流路があること、長期の開存性という条件が求められます。実際に用いられるのは、動脈グラフトとして内胸動脈・橈骨動脈・右胃大網動脈、静脈グラフトとして大伏在静脈であり、長期開存性は動脈グラフト、とくに左内胸動脈-左前下行枝吻合が最も優れています。大伏在静脈は採取しやすい反面、長期開存性で劣り、橈骨動脈は採取前のAllenテストと攣縮対策が重要です。気管支動脈は細く深部にあるためグラフトには用いず、臨床的には喀血に対する気管支動脈塞栓術の対象として重要になります。各グラフトの特徴を「採取のしやすさ」と「長持ち」の観点で理解しておくことは、虚血性心疾患の治療選択を考えるうえでの基礎となります。

解答・解説

正解はdです

冠動脈バイパス術(CABG:coronary artery bypass grafting)は、狭窄・閉塞した冠動脈の病変部より末梢側へ、別の血管(グラフト)をつないで新たな血流路をつくる手術である。グラフトとして使う血管には、次の条件が求められる。 ・冠動脈に吻合できる適度な太さと長さがあること ・採取しても体に大きな支障が出ないこと(代わりの血流路があること) ・長期間にわたり開存し続けること(開存性:patency) 実際に用いられるのは、動脈グラフトとして内胸動脈・橈骨動脈・右胃大網動脈、静脈グラフトとして大伏在静脈である。一般に動脈グラフトは長期の開存性に優れ、静脈グラフトは採取しやすいが長期開存性で劣る。気管支動脈は肺・気管支を栄養する細い血管で、通常は径が小さすぎ、採取も現実的でないため、グラフトとしては用いない。本問は「用いないもの」を選ぶ設問である。

選択肢考察

  1. ×a.  内胸動脈

    内胸動脈(ITA:internal thoracic artery、内乳動脈ともいう)は鎖骨下動脈から分かれて胸骨の裏側を下行する動脈で、CABGで最も重要なグラフトである。中枢側を鎖骨下動脈につないだまま末梢側を冠動脈へ吻合できる(有茎グラフト)ため、大動脈への吻合が不要である。動脈硬化を起こしにくく、10年後の開存率は90%を超えるとされ、左内胸動脈を左前下行枝に吻合する方法はCABGの標準となっている。小児の川崎病による冠動脈病変にも、成長に伴って伸びる利点から用いられる。用いるグラフトであり、本問の正解ではない。

  2. ×b.  橈骨動脈

    橈骨動脈(RA:radial artery)は前腕の動脈で、手は尺骨動脈からも血流を受けるため採取が可能である。採取前にはAllenテストなどで尺骨動脈からの血流が十分かを確認する。径が比較的太く長さも得やすい動脈グラフトであり、大動脈から冠動脈へつなぐ遊離グラフトとして使う。筋層が厚く攣縮(スパズム)を起こしやすいため、術中・術後にカルシウム拮抗薬などの血管拡張薬を用いる。内胸動脈ほどではないが広く用いられるグラフトであり、正解ではない。

  3. ×c.  大伏在静脈

    大伏在静脈(SVG:saphenous vein graft)は下肢の表在静脈で、長く太いものを容易に採取でき、下肢の深部静脈が血流を代償するため採取後の影響も少ない。多数の枝をつなぐ場合や緊急手術で素早くグラフトを準備したい場合に有用で、CABGの初期から現在まで広く使われている。ただし本来は静脈であり、動脈圧にさらされると内膜肥厚や動脈硬化性変化が進み、10年後には半数前後が閉塞するなど、長期開存性は動脈グラフトより劣る。用いるグラフトであり、正解ではない。

  4. ○d.  気管支動脈

    気管支動脈は胸部下行大動脈(または肋間動脈)から分かれて気管支や肺組織を栄養する動脈である。通常は径が1〜2 mm程度と細く、冠動脈へ吻合して十分な血流を送るには小さすぎる。また肺門部の深い位置にあり、グラフトとして採取することも現実的ではない。このためCABGには用いない。なお気管支動脈は、気管支拡張症などの慢性炎症性肺疾患や、肺血流が減少するチアノーゼ性先天性心疾患(Fallot四徴症など)では側副血行路として拡張することがあり、喀血の出血源として気管支動脈塞栓術の対象になる。

  5. ×e.  右胃大網動脈

    右胃大網動脈(GEA:gastroepiploic artery)は胃十二指腸動脈から分かれ、胃の大弯に沿って走る動脈である。胃は他の動脈からも豊富に血流を受けるため採取が可能で、根元をつないだまま横隔膜を通して心臓の下面へ導き、主に右冠動脈系や回旋枝の遠位部へ吻合する有茎動脈グラフトとして用いる。1980年代後半に日本の須磨久善らが臨床応用を報告したグラフトとして知られる。開腹操作が加わる点が短所だが、動脈グラフトとして良好な開存性が期待できる。用いるグラフトであり、正解ではない。

CABGの主なグラフトの比較

・内胸動脈(左右):有茎で使用。長期開存性が最も優れる。左内胸動脈を左前下行枝へ吻合するのが基本。両側を使うと胸骨の血流が減り、糖尿病患者などで胸骨感染のリスクが上がる。 ・橈骨動脈:遊離グラフト。攣縮しやすい。採取前に尺骨動脈側の血流を確認する。 ・右胃大網動脈:有茎で使用。右冠動脈系などの下壁領域に用いる。開腹操作が必要。 ・大伏在静脈:遊離グラフト。採取が容易で長さを確保しやすいが、長期開存性は劣る。

CABGの適応の考え方

左冠動脈主幹部病変や、糖尿病を合併した多枝病変(特に3枝病変)などでは、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)よりCABGが推奨されることが多い。人工心肺を使う方法と、心臓を拍動させたまま行うオフポンプCABG(OPCAB)がある。

気管支動脈が臨床で問題になる場面

・喀血(気管支拡張症、肺結核後遺症、非結核性抗酸菌症、肺癌など):気管支動脈造影と塞栓術(BAE:bronchial artery embolization)が行われる。 ・肺血流が乏しいチアノーゼ性先天性心疾患:側副血行として拡張する。

POINT

・CABGのグラフト:内胸動脈、橈骨動脈、右胃大網動脈(以上動脈)、大伏在静脈(静脈)。 ・長期開存性は動脈グラフト、特に内胸動脈が最良。左内胸動脈-左前下行枝吻合が標準。 ・大伏在静脈は採取しやすいが長期開存性に劣る。 ・気管支動脈は細く、グラフトには用いない。臨床的には喀血に対する塞栓術の対象として重要。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。