胆嚢に忍び込むのは誰か―「腸から上ってくる菌」で解く胆嚢炎の起因菌
第102回医師国家試験 D問題 第17問
国試問題にチャレンジ
胆嚢炎の起因菌として多いのはどれか。2つ選べ。
- a.グラム陽性球菌
- b.グラム陰性桿菌
- c.嫌気性菌
- d.結核菌
- e.真菌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性胆嚢炎の多くは胆石の嵌頓による胆汁うっ滞から始まり、そこに十二指腸から胆道を上行する腸内細菌が二次感染して炎症が進行します。そのため起因菌は大腸菌やクレブシエラなどのグラム陰性桿菌が最多で、バクテロイデスやクロストリジウムなどの嫌気性菌との混合感染も多くみられます。グラム陽性球菌では腸球菌が重要でセファロスポリン系が無効な点に注意が必要ですが、結核菌や真菌はまれです。ガス産生菌による気腫性胆嚢炎は壊疽・穿孔の危険が高く、緊急対応を要します。「感染経路から起因菌を推測し、抗菌薬選択と感染巣のコントロールにつなげる」という考え方は、胆道感染症の診療全体の基礎となります。
解答・解説
正解はb, cです
急性胆嚢炎の大部分(約90%)は胆嚢結石を伴う結石性胆嚢炎である。結石が胆嚢頸部や胆嚢管にはまり込む(嵌頓する)と胆汁の流出が妨げられ、胆嚢内圧の上昇、胆汁成分による化学的な粘膜障害、胆嚢壁の血流障害が起こる。このように傷んだ胆嚢に二次的に細菌感染が加わることで炎症が進行・重症化すると考えられている。したがって発症の初期から必ず細菌が関与しているわけではなく、胆汁培養で細菌が検出されるのは報告により30〜70%程度とされる。 感染経路の中心は、十二指腸から胆道をさかのぼる上行性感染(ほかに門脈経由の感染も考えられている)である。そのため起因菌は腸内細菌叢を構成する菌が主体となる。腸内で最も代表的な好気性菌(通性嫌気性菌)は大腸菌・クレブシエラなどのグラム陰性桿菌であり、胆汁培養でも最も多く分離される。これに加えて、腸管内に大量に存在する嫌気性菌(バクテロイデス属、クロストリジウム属など)も検出され、複数菌による混合感染となることが多い。 本問では「腸内細菌由来の菌が上行して感染する」という病態を押さえれば、グラム陰性桿菌と嫌気性菌が選べる。結核菌や真菌は腸内細菌叢の主体ではなく、胆嚢炎の起因菌としてはまれである。
選択肢考察
- ×a. グラム陽性球菌
ブドウ球菌やレンサ球菌による胆嚢炎は少ない。ただし、グラム陽性球菌の中でも腸内細菌叢の一員である腸球菌(Enterococcus属)は胆汁培養で比較的よく分離され、高齢者、胆道手術・胆道ドレナージ後、抗菌薬の使用歴がある例では特に注意が必要である。腸球菌はセファロスポリン系抗菌薬が効かない(自然耐性)ため、重症例や院内発症例では治療方針に影響する。とはいえ、古典的な整理としての主な起因菌は、グラム陰性桿菌と嫌気性菌である。
- ○b. グラム陰性桿菌
胆嚢炎の起因菌として最も多いのは大腸菌(Escherichia coli)である。次いでクレブシエラ(Klebsiella属)が多く、ほかにエンテロバクター、プロテウスなどの腸内細菌科のグラム陰性桿菌が分離される。いずれも腸内に常在し、十二指腸乳頭から胆道を上行して感染する。グラム陰性桿菌は細胞壁にエンドトキシン(内毒素)をもつため、菌血症から敗血症性ショックに進むことがあり、重症化の主な原因となる。
- ○c. 嫌気性菌
腸管内には好気性菌をはるかに上回る数の嫌気性菌が存在する。胆汁培養ではバクテロイデス属(Bacteroides fragilisなど)やクロストリジウム属(Clostridium perfringensなど)が分離され、多くはグラム陰性桿菌との混合感染である。頻度はグラム陰性桿菌より低いが、高齢者、胆道と腸管をつなぐ手術(胆道再建術)後、重症例では検出率が高くなる。クロストリジウムなどのガス産生菌は、胆嚢壁や内腔にガスがたまる気腫性胆嚢炎の原因となり、壊疽・穿孔を来しやすい。
- ×d. 結核菌
結核菌は腸内細菌叢の構成菌ではなく、胆嚢炎の起因菌としてはきわめてまれである。特殊な菌による胆嚢炎としてはチフス菌(Salmonella Typhi)などの報告があり、チフス菌は胆嚢に持続感染して保菌者の原因となることが知られるが、いずれも頻度は低い。
- ×e. 真菌
カンジダ(Candida属)などの真菌が胆汁から検出されることはあるが、長期の抗菌薬投与、免疫不全、長期留置カテーテルなどの特殊な背景がある場合に限られ、胆嚢炎の起因菌としてはまれである。
急性胆嚢炎の成因
・結石性胆嚢炎:約90%を占める。胆嚢結石の頸部・胆嚢管への嵌頓による胆汁うっ滞が引き金となる。 ・無石胆嚢炎:残りの約5〜10%。重症外傷・熱傷、大手術後、長期絶食・中心静脈栄養、敗血症などの重症患者に多い。胆汁うっ滞と胆嚢壁の虚血が主因で、壊疽や穿孔を来しやすい。
胆道感染症(胆嚢炎・胆管炎)の主な起因菌
・グラム陰性桿菌:大腸菌、クレブシエラ、エンテロバクター、プロテウス、シトロバクターなど(最多) ・嫌気性菌:バクテロイデス、クロストリジウムなど(混合感染が多い) ・グラム陽性球菌:腸球菌が主体。ブドウ球菌・レンサ球菌は少ない。 ・結核菌、真菌、チフス菌などはまれ。
抗菌薬選択への影響
起因菌が腸内細菌であることから、初期治療(経験的治療)ではグラム陰性桿菌を確実にカバーし、重症度や背景(胆道再建後、高齢、重症)に応じて嫌気性菌や腸球菌への有効性も考慮する。代表的な選択としてはペニシリン系+β-ラクタマーゼ阻害薬、セファロスポリン系(必要に応じてメトロニダゾールを併用)などがある。治療では抗菌薬に加え、胆嚢摘出術や胆嚢ドレナージといった感染巣のコントロールが重要である。
気腫性胆嚢炎
クロストリジウムなどのガス産生菌による胆嚢炎で、糖尿病患者や高齢男性に多い。胆嚢壁・内腔のガス像が画像で確認でき、壊疽・穿孔の危険が高いため、緊急の外科的治療を考慮する。
POINT
・胆嚢炎・胆管炎の起因菌は、胆道を上行する腸内細菌が主体である。 ・最多はグラム陰性桿菌(大腸菌>クレブシエラ)で、嫌気性菌(バクテロイデス、クロストリジウム)がこれに加わる混合感染が多い。 ・グラム陽性球菌では腸球菌が重要(セファロスポリン系が無効)。 ・結核菌・真菌はまれ。 ・クロストリジウムなどのガス産生菌は気腫性胆嚢炎の原因となる。
