StudyMed医師国家試験

詰まった静脈をどう救うか―DVT治療の「4本柱」と紛れ込んだ別領域の手術

第102回医師国家試験 D問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第102回 D問題 第10問

深部静脈血栓症の治療で誤っているのはどれか。

  1. a.抗凝固療法
  2. b.血栓除去術
  3. c.血栓溶解療法
  4. d.リンパ管-静脈吻合術
  5. e.下大静脈フィルター留置

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は深部静脈血栓症、いわゆるDVTの治療法を問う問題だ。選択肢には静脈の治療が並んでいるけれど、一つだけ「別の病気のための手術」が混ざっている。治療の目的から逆算して考えると見抜きやすいよ。まず、DVTの何が一番怖いかな。
医学生医学生
血栓が剥がれて肺動脈に詰まる、肺血栓塞栓症だと思います。循環器内科の講義で、DVTとPTEはまとめて静脈血栓塞栓症と呼ぶと習いました。
ドクタードクター
その通り。だから治療の目的は、血栓をそれ以上大きくしないこと、肺へ飛ばさないこと、そして慢性期に下肢の腫れや色素沈着、潰瘍が残る血栓後症候群を減らすこと、の3つに整理できる。この目的に合う治療が並んでいるかを確認していこう。まず抗凝固療法は?
医学生医学生
これは基本中の基本ですよね。ただ、抗凝固薬って血栓そのものを溶かすわけではないですよね?
ドクタードクター
鋭いね。抗凝固薬は新しい血栓の形成と進展を抑える薬で、すでにある血栓は体が本来持つ線溶の働きで少しずつ溶けていく。それでも再発とPTEを防ぐ効果は大きいから、禁忌がなければ原則として行う。従来は未分画ヘパリンをAPTTで調整しながら始めてワルファリンに切り替える流れで、今はモニタリングが原則不要なDOACが広く使われているよ。
医学生医学生
ワルファリンはPT-INRで管理するんでしたね。CBTでもヘパリンとの対応をよく問われました。
ドクタードクター
そう、ヘパリンはAPTT、ワルファリンはPT-INR、とセットで覚えておこう。次に、血栓を積極的に減らす治療として血栓溶解療法と血栓除去術がある。これらはどんな場面で使うと思う?
医学生医学生
出血のリスクが高そうなので、全員にやるわけではなさそうです。
ドクタードクター
いい感覚だ。血栓溶解療法は血栓を早く減らして静脈弁を守り、血栓後症候群を減らすことが期待されるけれど、出血合併症が増える。だから腸骨大腿静脈に及ぶ重症例などに絞り、カテーテルで血栓に直接薬を届ける方法が中心になる。血栓除去術も同じく中枢側の大きな血栓が対象で、下肢がうっ血で紫色に腫れ上がって血流が危うくなる有痛性青股腫のような重症例では、下肢を救うために考慮される。
医学生医学生
血栓除去は、古くて硬くなった血栓のほうが取りやすいイメージがありました。
ドクタードクター
実は逆なんだ。時間が経って器質化した血栓は血管壁に固く癒着して取れにくい。だから対象は発症早期の新鮮な血栓だよ。では、下大静脈フィルターはどうかな。
医学生医学生
血栓を溶かすのではなく、肺に飛ぶ前に網で受け止める器具ですね。
ドクタードクター
そう。腎静脈より下の下大静脈に留置して、PTEを予防する。主な適応は、出血などで抗凝固療法ができない場合や、十分な抗凝固療法でも再発・進行する場合だ。ただしフィルター自体は血栓を治さないし、長く入れておくとフィルターに血栓が付いたりDVTが再発しやすくなったりするので、今は必要がなくなれば回収できるタイプが主流だ。
医学生医学生
そうすると残るのはリンパ管-静脈吻合術ですね。名前に「静脈」と入っているので一瞬迷いましたが、これはリンパ浮腫の手術でしたっけ。
ドクタードクター
正解。顕微鏡下で細いリンパ管を近くの細い静脈につなぎ、行き場を失ったリンパ液を静脈へ流す手術で、子宮がんや乳がんの術後などに起こる続発性リンパ浮腫が主な対象だ。深部静脈の血栓を減らすことも、肺へ飛ぶのを防ぐこともできないから、DVTの治療としては誤りになる。
医学生医学生
どちらも足がむくむ病気ですが、DVTは静脈の還流障害で、リンパ浮腫はリンパの流れの障害と、原因がまったく違うんですね。
ドクタードクター
そこを区別できれば完璧だ。臨床では、片側の下肢の腫れや痛みでDVTを疑ったら、Dダイマーで除外を考え、下肢静脈エコーでプローブで押しても静脈がつぶれないことや静脈内の血栓を確認する。造影CTならPTEの有無も同時に評価できる。
医学生医学生
外科の実習で、術後の患者さんに弾性ストッキングや間欠的空気圧迫を使って早期離床を促していたのも、DVT予防のためでしたね。
ドクタードクター
その通り。Virchowの3要素、つまり血流のうっ滞、血管内皮の障害、凝固能の亢進がそろいやすい術後や長期臥床では、予防が何より大切だ。発症した場合も、抗凝固療法を軸に、重症度に応じて溶解や除去、抗凝固ができなければフィルター、という段階的な考え方を身につけておこう。

まとめ

深部静脈血栓症の治療目的は、血栓の進展と再発の抑制、肺血栓塞栓症の予防、血栓後症候群の軽減の3点です。治療の基本は抗凝固療法(ヘパリンからワルファリン、または近年広く使われるDOAC)で、腸骨大腿静脈に及ぶ重症例ではカテーテル血栓溶解療法や発症早期の血栓除去術を考慮し、抗凝固療法ができない場合などには回収可能型の下大静脈フィルターでPTEを予防します。リンパ管-静脈吻合術は続発性リンパ浮腫に対する手術で、静脈内の血栓には効果がなく、DVTの治療ではありません。同じ「下肢のむくみ」でも静脈還流障害とリンパ還流障害は原因も治療も異なるため、病態から治療を選ぶ視点が重要です。術後や長期臥床ではVirchowの3要素を意識した予防も欠かせず、日常診療に直結する知識といえます。

解答・解説

正解はdです

テーマ

深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)の治療法を問う問題である。治療に含まれないものを一つ選ぶ。

DVTとは

DVTは、下肢や骨盤などの深部静脈に血栓ができる病気である。血栓ができやすくなる要因は、Virchowの3要素として整理される。 ・血流のうっ滞:長期臥床、手術後、長時間の座位 ・血管内皮の障害:手術、外傷、カテーテル ・血液凝固能の亢進:悪性腫瘍、妊娠、経口避妊薬、先天性の凝固異常 DVTで最も危険なのは、血栓が剥がれて肺動脈に詰まる肺血栓塞栓症(PTE)である。DVTとPTEは一連の病態であり、まとめて静脈血栓塞栓症(VTE)と呼ばれる。

治療の目的

DVTの治療の目的は次の三つである。 ・血栓がそれ以上大きくならないようにし、再発を防ぐ ・肺血栓塞栓症を予防する ・慢性期の後遺症である血栓後症候群(下肢の腫れ、色素沈着、潰瘍など)を減らす

考え方

この目的に沿う治療は、次の四つである。 ・抗凝固療法:治療の基本 ・血栓溶解療法:血栓を溶かす ・血栓除去術:血栓を取り除く ・下大静脈フィルター:血栓が肺へ飛ぶのを防ぐ 一方、リンパ管-静脈吻合術はリンパ浮腫に対する手術であり、静脈内の血栓には効果がない。したがってdが正解である。

選択肢考察

  1. ×a.  抗凝固療法

    抗凝固療法はDVT治療の基本であり、禁忌がなければ全例で行う。抗凝固薬は、血栓がそれ以上大きくなるのを抑え、再発と肺血栓塞栓症を防ぐ。すでにできた血栓は、体がもともと持つ線溶の働きで徐々に溶けていく。 【従来の方法】 急性期に未分画ヘパリンを点滴静注する。効果は活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)で調整し、正常の1.5〜2.5倍程度を目安にする。続いて、ワルファリンの内服に切り替える。ワルファリンの効果はPT-INRで調整する。 【現在の方法】 直接経口抗凝固薬(DOAC:エドキサバン、リバーロキサバン、アピキサバン)が広く使われている。DOACは効果のモニタリングが原則として不要である。 【治療期間】 ・手術や外傷など、一時的な誘因がある場合:3か月程度 ・がんが関連する場合や、誘因がはっきりしない場合:より長期の継続を考える いずれも治療として正しく、誤りではない。

  2. ×b.  血栓除去術

    血栓除去術は、腸骨静脈や大腿静脈などの中枢側に広がった急性期の大きな血栓に対して行われることがある。方法には、外科的な手術(Fogartyカテーテルを用いた摘除など)と、カテーテルによる経皮的な吸引・破砕がある。特に、有痛性青股腫(phlegmasia cerulea dolens)のように、静脈がほぼ完全に詰まって下肢の血流が危うくなった重症例では、下肢を救う目的で考慮される。血栓が器質化すると血管の壁に固く付いて取れにくくなる。そのため、発症から早い時期の新鮮な血栓が対象になる。DVTの治療として存在するので、誤りではない。

  3. ×c.  血栓溶解療法

    血栓溶解療法は、ウロキナーゼなどの血栓溶解薬を使い、急性期の血栓を積極的に溶かす治療である。血栓の量を早く減らし、静脈の弁が壊れるのを防ぐことで、血栓後症候群を減らすことが期待される。一方で、出血の合併症が増える。そのため、全例に行うのではなく、腸骨大腿静脈に血栓がある重症例などに限って行う。この場合、カテーテルで血栓に直接薬を届ける方法(カテーテル血栓溶解療法)が中心である。DVTの治療として存在するので、誤りではない。

  4. ○d.  リンパ管-静脈吻合術

    リンパ管-静脈吻合術(LVA)は、行き場を失ったリンパ液を静脈へ流す手術である。顕微鏡下で、直径1mm前後の細いリンパ管を近くの細い静脈につなぐ。子宮がんや乳がんの手術、放射線治療の後に起こる続発性リンパ浮腫が主な対象である。深部静脈に詰まった血栓を減らすことも、血栓が肺に飛ぶのを防ぐこともできない。DVTの治療法ではないので誤りであり、これが正解である。DVTによる下肢の腫れは静脈の還流障害によるもので、リンパ浮腫とは原因が異なる。

  5. ×e.  下大静脈フィルター留置

    下大静脈フィルターは、カテーテルを使って腎静脈より下の下大静脈に留置する傘のような器具である。下肢や骨盤の静脈から剥がれた血栓を受け止め、肺血栓塞栓症を防ぐ。主な適応は次のとおりである。 ・出血などで抗凝固療法ができない場合 ・十分な抗凝固療法を行ってもVTEが再発・進行する場合 フィルター自体は血栓を治療しないうえ、長く留置するとフィルターに血栓が付いたり、DVTが再発しやすくなったりする。そのため、全例に行うものではない。現在は後で抜去できるタイプ(回収可能型)が多く使われ、必要がなくなれば回収する。DVTの治療手段の一つであり、誤りではない。

DVTの症状と診断

・症状:片側の下肢の腫れ、痛み、皮膚の発赤や色調の変化。ふくらはぎを握ったときの痛みや、足首を背屈させたときのふくらはぎの痛み(Homans徴候)がみられることがある。ただし、無症状のことも多い。 ・検査:  Dダイマー(血栓が分解されたときに出る物質)は陰性であればDVTを否定するのに役立つ(除外診断)。陽性でも特異度は低い。  下肢静脈エコーで、プローブで押しても静脈がつぶれないこと(非圧縮性)や、静脈内の血栓を確認して診断する。  造影CTでは、肺血栓塞栓症の有無もあわせて評価できる。

治療の整理

・基本:抗凝固療法(ヘパリン→ワルファリン、またはDOAC) ・重症の中枢型DVT:カテーテル血栓溶解療法、血栓除去術(カテーテルによる治療または外科手術) ・肺血栓塞栓症の予防で、抗凝固療法ができない場合:下大静脈フィルター(回収可能型) ・補助療法:弾性ストッキングなどの圧迫療法(腫れの軽減)、早期の歩行

リンパ浮腫の治療

・保存療法:複合的理学療法(スキンケア、用手的リンパドレナージ、圧迫療法、運動療法)が基本である。 ・外科療法:リンパ管-静脈吻合術、血管柄付きリンパ節移植など。

POINT

・DVT治療の基本は抗凝固療法(ヘパリン→ワルファリン、またはDOAC)である。 ・重症の中枢型DVTには、血栓溶解療法(カテーテルによるもの)や血栓除去術を行う。 ・下大静脈フィルターは、抗凝固療法ができない場合などに肺血栓塞栓症を予防する目的で使う。 ・リンパ管-静脈吻合術はリンパ浮腫の治療であり、DVTには使わない。 ・薬効のモニタリング:未分画ヘパリンはAPTT、ワルファリンはPT-INR。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。