瞳孔を動かす2つの筋―括約筋と散大筋の神経支配から散瞳・縮瞳を読み解く
第102回医師国家試験 B問題 第35問
国試問題にチャレンジ
正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.瞳孔径は加齢とともに大きくなる。
- b.瞳孔散大筋はコリン作動性である。
- c.瞳孔括約筋は動眼神経支配を受ける。
- d.近見によって縮瞳する。
- e.眼圧上昇によって縮瞳する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
瞳孔括約筋はEdinger-Westphal核から動眼神経を経由する副交感神経にアセチルコリン(ムスカリン受容体)で支配されて縮瞳を、瞳孔散大筋は上頸神経節を経る交感神経にノルアドレナリン(α1受容体)で支配されて散瞳を起こします。近くを見るときには輻輳・調節・縮瞳からなる近見反応が生じ、縮瞳によって焦点深度が深くなります。加齢では瞳孔はむしろ小さくなり、急性緑内障発作のような急激な眼圧上昇では括約筋の虚血により中等度散瞳となる点は誤りやすいポイントです。動眼神経麻痺の散瞳、Horner症候群の縮瞳、Argyll Robertson瞳孔の対光-近見反応解離、薬物や中毒による瞳孔変化も同じ神経支配の理解で説明できます。瞳孔所見は意識障害や脳動脈瘤、中毒の診断にも直結するため、2つの筋と自律神経の関係をしっかり押さえておくことが臨床の基礎になります。
解答・解説
正解はc, dです
瞳孔の大きさを決める2つの筋(瞳孔括約筋と瞳孔散大筋)の神経支配と、瞳孔径を変化させる生理的・病的要因を問う問題である。
瞳孔を動かす2つの筋
虹彩には2種類の平滑筋がある。瞳孔縁を輪状に取り巻く瞳孔括約筋は、収縮すると瞳孔を小さくする(縮瞳)。一方、虹彩の後面に放射状に並ぶ瞳孔散大筋は、収縮すると瞳孔を大きくする(散瞳)。 ・瞳孔括約筋:副交感神経支配。中脳のEdinger-Westphal核(動眼神経副核)から出た節前線維が動眼神経(第III脳神経)に乗って眼窩へ入り、毛様体神経節でシナプスを変え、節後線維が短毛様体神経を通って括約筋に達する。伝達物質はアセチルコリン(ムスカリン受容体、主にM3)である。 ・瞳孔散大筋:交感神経支配。視床下部から下行した線維が脊髄の毛様体脊髄中枢(C8〜T2付近)を経て上頸神経節に至り、節後線維が内頸動脈に沿って上行し、長毛様体神経を通って散大筋に達する。伝達物質はノルアドレナリン(α1受容体)である。
瞳孔径を変える要因
縮瞳を起こすもの:明るい光(対光反射)、近くを見ること(近見反応)、睡眠、加齢、副交感神経刺激薬(ピロカルピンなど)、オピオイドなど。 散瞳を起こすもの:暗所、交感神経の緊張(驚き・痛み・恐怖)、抗コリン薬(アトロピン、トロピカミドなど)、交感神経刺激薬(フェニレフリンなど)、動眼神経麻痺、急激な眼圧上昇など。 こうした「どちらの筋が、どちらの自律神経で、どの伝達物質によって動くか」を整理すると、各選択肢の正誤は判断しやすい。
選択肢考察
- ×a. 瞳孔径は加齢とともに大きくなる。
逆である。瞳孔径は加齢とともに小さくなる(老人性縮瞳)。加齢により瞳孔散大筋の萎縮や虹彩実質の線維化・硬化が進み、交感神経による散瞳が起こりにくくなるためと考えられている。高齢者で暗所での瞳孔が小さく、散瞳薬を点眼しても開きにくいのはこのためである。瞳孔が最も大きいのは思春期〜若年成人の頃である。
- ×b. 瞳孔散大筋はコリン作動性である。
瞳孔散大筋は交感神経に支配され、節後線維の終末からはノルアドレナリンが放出されてα1受容体に作用する(アドレナリン作動性)。コリン作動性(アセチルコリンを伝達物質とする)なのは、副交感神経支配の瞳孔括約筋の方である。臨床では、α1刺激薬のフェニレフリンが散大筋を収縮させて散瞳を、ムスカリン受容体刺激薬のピロカルピンが括約筋を収縮させて縮瞳をもたらす。
- ○c. 瞳孔括約筋は動眼神経支配を受ける。
瞳孔括約筋を支配する副交感神経線維は、Edinger-Westphal核から起こり動眼神経の中を走行して毛様体神経節に至り、節後線維(短毛様体神経)が括約筋に分布する。したがって瞳孔括約筋は動眼神経(に含まれる副交感神経)の支配を受けるといえる。動眼神経麻痺で患側の瞳孔が散大し対光反射が消失するのはこのためであり、特に内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤による圧迫では、神経の表層を走る副交感線維が早期に障害され、散瞳が目立ちやすい。
- ○d. 近見によって縮瞳する。
近くの物を見るときには、両眼の輻輳(寄り目)、調節(毛様体筋の収縮による水晶体の厚みの増加)、縮瞳の3つが同時に起こる。これを近見反応(近見反射、輻輳反射)と呼ぶ。縮瞳によって焦点深度が深くなり、近くの物体が鮮明に見えやすくなる。いずれも動眼神経を介する反応であり、神経梅毒などでみられるArgyll Robertson瞳孔では対光反射が消失する一方で近見反応による縮瞳は保たれる(対光-近見反応解離)。
- ×e. 眼圧上昇によって縮瞳する。
急激な眼圧上昇ではむしろ散瞳する。代表例が急性緑内障発作(急性原発閉塞隅角症)で、眼圧が40〜50mmHg以上に達すると虹彩の血流が障害されて瞳孔括約筋が虚血・麻痺に陥り、瞳孔は中等度に散大して対光反射が減弱・消失する。逆に、散瞳(暗所・抗コリン薬など)は閉塞隅角眼で隅角をさらに狭め、発作の誘因となるため注意を要する。
瞳孔に関わる反射
・対光反射:光刺激 → 視神経 → 視蓋前域(中脳) → 両側のEdinger-Westphal核 → 動眼神経 → 毛様体神経節 → 瞳孔括約筋。光を当てた側の縮瞳を直接反射、反対側の縮瞳を間接反射(共感性反射)という。 ・近見反応:輻輳・調節・縮瞳の3要素からなる。
瞳孔異常の代表例
・Horner症候群:交感神経経路の障害。患側の縮瞳、眼瞼下垂(上瞼板筋=Müller筋の麻痺による軽度のもの)、顔面の発汗低下。 ・動眼神経麻痺:散瞳、対光反射消失、眼瞼下垂(上眼瞼挙筋麻痺による高度のもの)、眼球の外下方偏位。 ・Argyll Robertson瞳孔:両側の縮瞳、対光反射消失、近見反応保持。神経梅毒が代表的。 ・Adie瞳孔(瞳孔緊張症):毛様体神経節以降の障害による片側の散瞳。対光反射は消失ないし緩慢で、近見反応は緩徐かつ持続性。低濃度ピロカルピンに過敏に縮瞳する(脱神経過敏)。
瞳孔径に影響する主な薬物
・縮瞳:ピロカルピン(ムスカリン刺激)、コリンエステラーゼ阻害薬、有機リン中毒、モルヒネなどのオピオイド ・散瞳:アトロピン・トロピカミド(抗コリン)、フェニレフリン(α1刺激)、コカイン、アンフェタミン
POINT
・瞳孔括約筋:副交感神経(動眼神経経由、毛様体神経節)、アセチルコリン → 縮瞳 ・瞳孔散大筋:交感神経(上頸神経節)、ノルアドレナリン・α1受容体 → 散瞳 ・近見反応=輻輳+調節+縮瞳 ・加齢で瞳孔は小さくなる。 ・急激な眼圧上昇(急性緑内障発作)では中等度散瞳・対光反射減弱となる。
