StudyMed医師国家試験

好中球がつくる「水平線」―前房蓄膿で見抜くBehçet病のぶどう膜炎

第102回医師国家試験 A問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第102回 A問題 第15問

Behçet病でみられるのはどれか。

  1. a.感音難聴
  2. b.前房蓄膿
  3. c.虹彩結節
  4. d.夕焼け眼底
  5. e.豚脂様角膜後面沈着物

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、Behçet病の眼所見を問う問題だ。選択肢にはぶどう膜炎で見られる所見がずらりと並んでいるけれど、実はそれぞれが特定の疾患と結びついている。カギは「肉芽腫性か、非肉芽腫性か」という炎症の性状と、「何が標的になっている病気か」という視点の2つだ。
医学生医学生
ぶどう膜炎といえば、眼科の講義で「三大ぶどう膜炎」を習いました。サルコイドーシス、原田病、Behçet病でしたよね。
ドクタードクター
その通り。わが国で頻度の高いぶどう膜炎の原因として、この3つは必ず押さえておきたい。まず炎症の性状で分けると、サルコイドーシスと原田病は肉芽腫性、Behçet病は非肉芽腫性だ。Behçet病の炎症の主役は何の細胞だと思う?
医学生医学生
Behçet病は好中球の機能亢進が背景にあると習いました。針反応もそれと関係していましたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。好中球が前房内に大量に遊走すると、重力で下方に沈んで、水平面(ニボー)をつくる。これが前房蓄膿で、Behçet病の眼症状を代表する所見なんだ。だから正解は前房蓄膿だ。
医学生医学生
膿が下にたまって線ができるイメージですね。Behçet病の前房蓄膿には何か特徴がありますか。
ドクタードクター
Behçet病の前房蓄膿はさらさらしていて、頭の位置を変えると移動しやすいことが知られている。そして発作的に強い炎症を繰り返すのも特徴だ。では、ほかの選択肢を見ていこう。豚脂様角膜後面沈着物はどうかな。
医学生医学生
名前からして脂っぽい沈着物ですよね。Behçet病でも炎症が強ければ出てきそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけどころ。豚脂様角膜後面沈着物は、マクロファージ由来の類上皮細胞が角膜内皮にくっついたもので、大きく灰白色の塊に見える。これは肉芽腫性ぶどう膜炎の所見で、サルコイドーシスや原田病、結核などでみられる。Behçet病の角膜後面沈着物は細かい点状で、豚脂様にはならないんだ。炎症の「強さ」ではなく「質」の違いということだね。
医学生医学生
なるほど。虹彩結節も同じ肉芽腫性の仲間ですか。
ドクタードクター
そうだね。類上皮細胞などが瞳孔縁に集まればKoeppe結節、虹彩実質の表面ならBusacca結節と呼ぶ。サルコイドーシスで典型的で、原田病でもみられることがある。好中球主体のBehçet病では出てこない。
医学生医学生
残る感音難聴と夕焼け眼底は、どちらも原田病のキーワードだった気がします。
ドクタードクター
その通り。原田病はメラノサイトに対する自己免疫疾患なんだ。メラノサイトがいる場所を思い浮かべると、症状がまとめて理解できる。どこにあるか挙げられるかな。
医学生医学生
ぶどう膜のほかに、内耳、髄膜、皮膚や毛髪……だから難聴、頭痛と髄液細胞増多、白斑や白髪が出るんですね。
ドクタードクター
完璧だ。そして回復期には脈絡膜のメラノサイトが失われて色素が抜け、眼底全体が赤橙色になる。これが夕焼け状眼底だ。Behçet病ではメラノサイトは標的にならないから、この2つは原田病の所見として整理しておこう。
医学生医学生
肉芽腫性の所見ならサルコイドーシスか原田病、メラノサイト関連なら原田病、好中球が目立てばBehçet病、という分け方ですね。
ドクタードクター
その整理で国試はかなり戦える。臨床的な話も少ししておこう。Behçet病の眼病変は前眼部だけでなく、網膜血管炎を伴う網膜ぶどう膜炎を起こし、発作を繰り返すうちに網脈絡膜萎縮や視神経萎縮に至って失明の原因になりうる。だから発作の予防が大切なんだ。
医学生医学生
治療はステロイドが中心でしょうか。
ドクタードクター
発作時はステロイドの点眼や結膜下注射で消炎する。予防にはコルヒチンやシクロスポリンを用い、難治例では抗TNF-α抗体のインフリキシマブやアダリムマブが使われ、視力予後が大きく改善した。注意したいのは、全身性ステロイドを単独で長く使うと、減量時に眼発作を誘発しうる点だ。
医学生医学生
臨床実習の膠原病内科で、口内炎を繰り返している患者さんに眼科受診を勧めていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい経験だね。Behçet病の主症状は口腔粘膜の再発性アフタ、皮膚症状、眼症状、外陰部潰瘍の4つ。口腔内アフタはほぼ全例にみられる初発症状として最多のものだ。HLA-B51との関連も合わせて覚えておくと、全身疾患としてのBehçet病の姿が見えてくるよ。

まとめ

Behçet病のぶどう膜炎は好中球が主体の非肉芽腫性炎症であり、前房内に遊走した好中球が下方にたまって水平面をつくる前房蓄膿が特徴的です。一方、豚脂様角膜後面沈着物や虹彩結節は類上皮細胞が集まる肉芽腫性ぶどう膜炎の所見で、サルコイドーシスや原田病でみられます。感音難聴や回復期の夕焼け状眼底は、メラノサイトを標的とする自己免疫疾患である原田病の特徴です。Behçet病では網膜血管炎を伴う網膜ぶどう膜炎の反復により失明に至りうるため、コルヒチンや抗TNF-α抗体などによる発作予防が重要になります。「炎症の性状」と「標的となる細胞」で三大ぶどう膜炎を整理することは、ぶどう膜炎の鑑別全般の土台になります。

解答・解説

正解はbです

わが国で頻度の高いぶどう膜炎の原因疾患として、サルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病(以下、原田病)、Behçet病の三つがよく知られ、三大ぶどう膜炎と呼ばれる。これらを見分けるうえでまず押さえるべきなのは、炎症の性状が「肉芽腫性」か「非肉芽腫性」かという分類である。 肉芽腫性ぶどう膜炎(サルコイドーシス、原田病など)では、マクロファージ由来の類上皮細胞が集まるため、大きく脂っぽい豚脂様角膜後面沈着物や、虹彩表面・瞳孔縁の虹彩結節がみられる。これに対し、Behçet病は好中球が主体の非肉芽腫性ぶどう膜炎であり、角膜後面沈着物は細かく、前房内に遊走した好中球が重力で下方にたまって水平面(ニボー)を形成する前房蓄膿が特徴的である。 さらに原田病は、メラノサイトに対する自己免疫疾患であるため、眼(ぶどう膜)以外に内耳(感音難聴・耳鳴)、髄膜(頭痛・髄液細胞増多)、皮膚・毛髪(白斑・白髪・脱毛)といったメラノサイトの存在する臓器が侵され、回復期には脈絡膜の色素が失われて夕焼け状眼底となる。 このように各所見を疾患に対応づけると、Behçet病にみられるのは前房蓄膿である。

選択肢考察

  1. ×a.  感音難聴

    感音難聴は原田病の代表的な眼外症状である。原田病ではメラノサイトを標的とする自己免疫反応により、メラノサイトが存在する内耳が障害され、難聴や耳鳴、めまいを生じる。Behçet病の主症状(口腔内アフタ、皮膚症状、眼症状、外陰部潰瘍)や副症状には含まれず、ぶどう膜炎に感音難聴を伴えばまず原田病を考える。

  2. ○b.  前房蓄膿

    Behçet病のぶどう膜炎は好中球の機能亢進を背景とした非肉芽腫性炎症で、発作的に強い炎症を繰り返すのが特徴である。前房内に大量に遊走した好中球が下方に沈み、水平面(ニボー)を形成したものが前房蓄膿である。Behçet病の前房蓄膿は粘稠度が低く、頭位を変えると移動しやすいことも知られる。なお、眼底では網膜血管炎を伴う網膜ぶどう膜炎を起こし、発作の反復により網脈絡膜萎縮や視神経萎縮に至って失明の原因となりうる。

  3. ×c.  虹彩結節

    虹彩結節は、類上皮細胞などが虹彩の瞳孔縁(Koeppe結節)や虹彩実質表面(Busacca結節)に集まってできる小さな結節で、肉芽腫性ぶどう膜炎の所見である。サルコイドーシスで典型的にみられ、原田病でもみられることがある。好中球主体の非肉芽腫性炎症であるBehçet病ではみられない。

  4. ×d.  夕焼け眼底

    夕焼け状眼底は原田病の回復期にみられる所見である。脈絡膜のメラノサイトが炎症で破壊され色素が減少するため、眼底全体が赤橙色の夕焼けのような色調を呈する。Behçet病ではメラノサイトは標的とならず、この所見は生じない。

  5. ×e.  豚脂様角膜後面沈着物

    豚脂様角膜後面沈着物は、マクロファージや類上皮細胞が角膜内皮面に付着した、大きく灰白色で脂肪の塊のようにみえる沈着物であり、肉芽腫性ぶどう膜炎(サルコイドーシス、原田病、結核など)の所見である。Behçet病の角膜後面沈着物は細かい点状であり、豚脂様とはならない。

Behçet病の概要

口腔・皮膚・眼・外陰部を中心に急性炎症発作を繰り返す原因不明の全身性炎症性疾患である。好中球機能の亢進と、HLA-B51との関連が知られる。20〜40歳代に多く、シルクロード沿いの地域に多発する。 主症状は次の4つである。 1. 口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍(ほぼ全例でみられ、初発症状として最多) 2. 皮膚症状:結節性紅斑様皮疹、皮下の血栓性静脈炎、毛嚢炎様皮疹・痤瘡様皮疹。皮膚の被刺激性亢進(針反応陽性) 3. 眼症状:虹彩毛様体炎(前房蓄膿を伴うことがある)、網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)、その結果としての網脈絡膜萎縮・視神経萎縮 4. 外陰部潰瘍 副症状には関節炎、副睾丸炎、消化器病変(回盲部潰瘍)、血管病変、中枢神経病変などがあり、腸管型・血管型・神経型は特殊病型として重症化しうる。

眼病変の治療

発作時は副腎皮質ステロイド点眼や結膜下注射で消炎する。発作の予防にはコルヒチンやシクロスポリンを用い、難治例では抗TNF-α抗体(インフリキシマブ、アダリムマブ)が用いられ、視力予後が大きく改善した。全身性のステロイド単独長期投与は、減量時に眼発作を誘発しうるため慎重に扱う。

三大ぶどう膜炎の鑑別

・サルコイドーシス:肉芽腫性。豚脂様角膜後面沈着物、虹彩結節、隅角結節、雪玉状硝子体混濁、網膜静脈周囲炎。両側肺門リンパ節腫脹、血清ACE高値。 ・原田病:肉芽腫性。両眼性の汎ぶどう膜炎と多発性の漿液性網膜剝離で急性発症。感音難聴、頭痛・髄液細胞増多、白斑・白髪・脱毛。回復期に夕焼け状眼底。HLA-DR4と関連。 ・Behçet病:非肉芽腫性。前房蓄膿、網膜血管炎を伴う網膜ぶどう膜炎、発作の反復。口腔内アフタ、皮膚症状、外陰部潰瘍。

POINT

・Behçet病のぶどう膜炎は好中球主体の非肉芽腫性で、前房蓄膿が特徴。 ・豚脂様角膜後面沈着物・虹彩結節は肉芽腫性ぶどう膜炎(サルコイドーシス、原田病)の所見。 ・感音難聴・夕焼け状眼底は原田病(メラノサイトを標的とする自己免疫疾患)の所見。 ・Behçet病の主症状は口腔内アフタ、皮膚症状、眼症状、外陰部潰瘍の4つ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。