月経は来ているのに出てこない―周期的な腹痛が教える処女膜閉鎖症
第101回医師国家試験 G問題 第42問
国試問題にチャレンジ
14歳の女子。1年前から毎月ほぼ同時期に腹部膨満感と下腹部痛とが出現し,次第に増強するので来院した。初経は発来していない。恥骨上6cmに達する腫瘤を触知する。乳房や陰毛の発育は正常である。 この患者に行うのはどれか。2つ選べ。
- a.外陰視診
- b.超音波検査
- c.染色体検査
- d.GnRH試験
- e.経腹壁腫瘤内容穿刺
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
二次性徴が正常なのに初経がなく、周期的な下腹部痛と下腹部腫瘤を伴う場合は、月経は起きているのに経血の流出路がふさがった潜伏月経(月経モリミナ)を考え、最多の原因は処女膜閉鎖症です。検査は外陰視診で閉鎖した膜や経血による青紫色の膨隆を確認し、経腹超音波(必要に応じてMRI)で腟・子宮・卵管への貯留を評価します。染色体検査やGnRH試験は二次性徴に異常がある原発性無月経で行うもので、本例では優先されず、盲目的な腫瘤穿刺は損傷や感染の危険があり治療にもなりません。治療は処女膜切開術で、放置は感染や子宮内膜症、不妊につながりうるため早期対応が重要です。原発性無月経を「二次性徴の有無」で振り分ける考え方は、思春期の月経異常を診る際の基本となります。
解答・解説
正解はa, bです
所見の整理
・14歳の女子で、初経はまだない。 ・1年前から、毎月ほぼ同じ時期に腹部膨満感と下腹部痛が起こり、次第に強くなっている。 ・恥骨上6cmに達する下腹部腫瘤を触れる。 ・乳房と陰毛の発育は正常で、二次性徴は年齢相応に進んでいる。
診断へのプロセス
1. 乳房の発育はエストロゲンの作用を、陰毛の発育は副腎・卵巣由来のアンドロゲンの作用を示す。二次性徴が正常なので、視床下部-下垂体-卵巣系は正常に働いており、排卵周期もすでに始まっていると考えられる。つまり、中枢や卵巣の異常による無月経ではない。 2. 毎月周期的に起こる下腹部症状は、子宮内膜が周期的に剥がれて出血していることを示唆する。しかし外に経血が出てこない。これは、実際には月経が来ているのに経血の流出路がふさがっている状態であり、潜伏月経(偽無月経)と呼ばれる。周期的な腹痛などの月経様症状があるのに出血がみられない状態を月経モリミナという。 3. 流出路がふさがると、経血は腟にたまり(腟留血腫)、さらに子宮(子宮留血腫)や卵管(卵管留血腫)にまで広がる。恥骨上6cmの腫瘤は、経血で拡張した腟・子宮と考えられる。 4. 原因として最も多いのは処女膜閉鎖症で、ほかに腟横中隔や腟閉鎖(腟欠損)などがある。
設問への考え方
閉塞部位と腫瘤の正体を確かめる検査を選ぶ。外陰視診で処女膜や腟口の状態(閉鎖の有無、経血による青紫色の膨隆)を確認する。超音波検査で骨盤内の貯留液の分布(腟・子宮・卵管)と、子宮・卵巣の形態を評価する。内分泌系の精査(染色体検査・負荷試験)は、二次性徴が正常である以上、優先されない。盲目的な穿刺は治療にならず、感染の危険がある。処女膜閉鎖症であれば、治療は処女膜切開術による経血の排出である。
選択肢考察
- ○a. 外陰視診
処女膜閉鎖症では、腟口部が膜で閉じており、たまった経血により青紫色〜暗赤色に膨隆して見えることが多い。外陰視診は非侵襲的で、閉塞部位の推定にそのまま役立つ。原発性無月経(初経の遅れ)の診察では、外陰部の形態を見ることはもともと基本である。陰核肥大など外性器の異常(先天性副腎過形成など)や、陰毛・腟の状態を確認できる。本例でもまず行うべき診察である。
- ○b. 超音波検査
下腹部腫瘤の正体を非侵襲的に確かめられる。経腹超音波で、腟・子宮内に貯留した液体(腟留血腫・子宮留血腫)や、卵管への拡張(卵管留血腫)を観察できる。子宮・卵巣の有無と形態、腫瘍性病変との鑑別も可能である。性交経験のない若年者なので、経腟でなく経腹または経直腸で行う。閉塞部位や腟の長さを詳しく評価するには MRI も有用である。
- ×c. 染色体検査
染色体検査は、Turner症候群(45,X)による性腺形成不全や、アンドロゲン不応症(46,XY、旧称:精巣性女性化症候群)が疑われる原発性無月経で行う。Turner症候群では卵巣機能不全のため乳房発育が乏しい。アンドロゲン不応症では乳房は発育するが、陰毛・腋毛が乏しい。本例は乳房・陰毛とも正常で、周期的な症状と腫瘤から経血の流出障害が考えられる。処女膜閉鎖症は染色体異常によるものではないため、優先して行う検査ではない。
- ×d. GnRH試験
GnRH試験は、GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)を投与して、LH・FSH(ゴナドトロピン)の分泌反応をみる検査である。ゴナドトロピン低値の無月経で、障害部位が視床下部か下垂体かを区別するのに用いる。本例は二次性徴が正常で、周期的な腹痛から排卵周期もあると推定される。中枢性の無月経は考えにくく、行う必要はない。
- ×e. 経腹壁腫瘤内容穿刺
腫瘤の内容は貯留した経血と考えられ、診断のために穿刺する必要はない。腹壁から盲目的に穿刺すると、腸管や膀胱の損傷、腹腔内への経血の漏れ、細菌感染(腟留膿腫・子宮留膿腫)などの危険がある。また閉塞が残る限り経血は再び貯留するため、治療にもならない。治療は、閉塞部の切開(処女膜閉鎖症なら処女膜切開術)で経血を腟から排出させることである。
無月経の定義
・原発性無月経:満18歳になっても初経が起こらないもの。 ・続発性無月経:これまであった月経が3か月以上停止したもの。 ・初経が遅れ、15歳以上18歳未満で初経をみたものを遅発月経という。 ・本例は14歳でまだ原発性無月経の定義には当たらない。しかし周期的な症状と腫瘤があり、器質的な流出路閉塞として早期に対応すべき状態である。
潜伏月経(偽無月経)を起こす主な疾患
・処女膜閉鎖症:最も多い。外陰視診で膨隆した膜がみられる。治療は処女膜切開術(十字切開など)。 ・腟横中隔:腟の途中に横に張った隔壁がある。視診では処女膜は正常にみえる。 ・腟閉鎖・腟欠損:Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser(MRKH)症候群では子宮も欠損するため、経血の貯留は起こらない。 ・子宮頸管閉鎖:まれ。 経血の逆流により、子宮内膜症の発生と関連するとされる。放置すると、留血腫の感染や、卵管障害による将来の不妊の原因になりうる。
原発性無月経の鑑別の進め方
1. 二次性徴(乳房・陰毛)の有無を確認する。 2. 二次性徴が正常 → 流出路の異常(処女膜閉鎖、腟横中隔、MRKH症候群)を考え、外陰視診・超音波・MRI を行う。 3. 乳房は発育するが陰毛・腋毛が乏しい → アンドロゲン不応症を疑い、染色体検査を行う。 4. 乳房の発育がない → FSH・LH を測定する。高値なら性腺形成不全(Turner症候群など)で、染色体検査を行う。低値なら視床下部・下垂体性(Kallmann症候群など)で、GnRH試験などを行う。
POINT
・二次性徴は正常なのに初経がなく、周期的な下腹部痛と下腹部腫瘤がある → 月経モリミナ(潜伏月経)で、処女膜閉鎖症をまず考える。 ・検査は外陰視診と超音波検査(必要に応じて MRI)。 ・治療は処女膜切開術。盲目的な腫瘤穿刺は行わない。 ・内分泌検査(染色体検査・GnRH試験)は、二次性徴に異常がある原発性無月経で行う。
