膵頭部の「嚢胞」は本当に膵嚢胞か―ERCPが暴く先天性胆道拡張症と合流異常
第101回医師国家試験 G問題 第29問
国試問題にチャレンジ
20歳の男性。上腹部痛があり,近医での腹部超音波検査で異常を指摘され来院した。腹部に腫瘤を触知しない。ERCP写真(A)と腹部造影CT(B)とを示す。 みられるのはどれか。2つ選べ。

- a.総胆管の拡張
- b.胆管と膵管との合流異常
- c.膵管の拡張
- d.膵囊胞
- e.膵石
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
若年者の腹痛を契機に総胆管の嚢腫状拡張が見つかり、ERCPで十二指腸壁外での合流による長い共通管が確認されれば、膵胆管合流異常を伴う先天性胆道拡張症(戸谷分類I型)と診断できます。CTで膵頭部付近にみえる水濃度の丸い構造は、ERCPと対比すると拡張した膵内胆管であり、膵嚢胞と誤らないことが重要で、膵管拡張や膵石もみられません。合流部にOddi括約筋が作用しないため膵液と胆汁が相互に逆流し、胆道癌、胆管炎、胆石、膵炎の原因となります。治療は拡張胆管と胆嚢を切除して胆道を再建する分流手術で、胆管非拡張型では予防的胆嚢摘出が行われます。複数の画像を突き合わせて構造の連続性を確認する姿勢は、胆膵領域の読影全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はa, bです
所見の整理
・20歳の若年男性。上腹部痛があり、腹部超音波検査で異常を指摘された。腹部腫瘤は触知しない。 ・ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影:十二指腸乳頭から造影剤を注入して胆管と膵管を描出する検査):総胆管が紡錘状〜囊腫状に著明に拡張している。膵管と胆管は十二指腸壁の外側で合流しており、合流部から十二指腸乳頭までの共通管が異常に長い。主膵管には明らかな拡張や不整はみられない。 ・腹部造影CT:膵頭部付近に、造影されない水濃度の類円形構造がみられる。これはERCPで描出された拡張した総胆管(膵内胆管を含む)に相当する。膵実質内に石灰化(膵石)はなく、主膵管の拡張や、胆管とは別の膵囊胞も認めない。
診断へのプロセス
若年者で、腹痛を契機に総胆管の囊腫状拡張が見つかり、ERCPで長い共通管(膵胆管合流異常)が確認されることから、膵胆管合流異常を伴う先天性胆道拡張症(戸谷分類I型)と診断できる。 膵胆管合流異常とは、膵管と胆管が解剖学的に十二指腸壁外で合流する先天性の形成異常である。通常は十二指腸壁内の乳頭括約筋(Oddi括約筋)が合流部を取り囲んで両者の流れを調節しているが、合流が壁外にあると括約筋の作用が合流部に及ばず、膵液が胆道内へ、胆汁が膵管内へ相互に逆流する。先天性胆道拡張症の多くにはこの合流異常が合併している。
設問の考え方
画像から読み取れる所見を選ぶ問題である。CTで膵頭部付近に見える囊胞状の構造を膵囊胞と取り違えないことが重要で、ERCPと対比すれば、それが拡張した総胆管であるとわかる。
選択肢考察
- ○a. 総胆管の拡張
みられる。ERCPでは総胆管が囊腫状に著明に拡張して描出され、造影CTでも膵頭部付近に拡張した総胆管が低吸収の類円形構造として確認できる。先天性胆道拡張症の主要所見であり、総胆管が囊腫状または紡錘状に拡張するものは戸谷分類I型に相当する。
- ○b. 胆管と膵管との合流異常
みられる。ERCPで膵管が十二指腸壁より手前(壁外)で胆管に合流し、乳頭までの共通管が異常に長く描出されている。これが膵胆管合流異常の所見である。合流部に乳頭括約筋の作用が及ばないため膵液が胆道へ逆流し、胆汁中のアミラーゼが高値となる。逆流した膵液により胆道上皮が慢性的に傷害されることが、胆道癌の発生や胆管拡張に関与すると考えられている。
- ×c. 膵管の拡張
みられない。ERCPで描出された主膵管は正常径であり、CTでも主膵管の拡張は認めない。膵管の拡張は、慢性膵炎(膵石や狭窄を伴う)、膵頭部の腫瘍による閉塞、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)などでみられる所見である。
- ×d. 膵囊胞
みられない。CTで膵頭部付近にみえる囊胞状の構造は、ERCPと対比すると拡張した総胆管(膵内胆管部分を含む)であり、膵実質から生じた囊胞ではない。ERCP上も膵管と交通する囊胞は描出されておらず、CTの範囲にも胆管と別個の膵囊胞は認めない。
- ×e. 膵石
みられない。膵石は主に慢性膵炎(特にアルコール性)で膵管内に生じる炭酸カルシウム主体の結石で、CTでは膵管に沿った高吸収の石灰化として描出される。本例のCTでは膵実質・膵管内にそのような石灰化はみられない。
先天性胆道拡張症
・総胆管を含む肝外胆管が限局性に拡張する先天性の形成異常で、多くが膵胆管合流異常を合併する。 ・東アジア、特に日本に多く、女性に多い(男女比はおよそ1:3)。 ・小児では腹痛・黄疸・腹部腫瘤が古典的三主徴とされるが、三つそろうことは少ない。成人では腹痛のみ、あるいは無症状で画像検査で偶然見つかる例も多い。 ・戸谷分類:I型(総胆管の囊腫状・分節状・紡錘状拡張。最も多い)、II型(総胆管の憩室状拡張)、III型(総胆管末端の十二指腸内への囊腫状拡張、choledochocele)、IV-A型(肝内・肝外胆管の多発拡張)、IV-B型(肝外胆管の多発拡張)、V型(肝内胆管のみの拡張、Caroli病)。
膵胆管合流異常
・膵管と胆管が十二指腸壁外で合流する先天性の形成異常。ERCP、MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)、術中胆道造影などで長い共通管や異常な合流形態を確認して診断する。胆汁中のアミラーゼ高値は補助診断となる。 ・胆管拡張を伴う型(先天性胆道拡張症)と、胆管拡張を伴わない型がある。 ・膵液と胆汁の相互逆流により次の合併症を生じる:胆道癌(胆管拡張を伴う型では胆管癌と胆嚢癌、伴わない型では特に胆嚢癌)、胆管炎、胆石(蛋白栓を含む)、急性膵炎。
治療
・胆管拡張を伴う合流異常:発癌予防と膵液・胆汁の流れの分離を目的に、拡張した肝外胆管と胆嚢を切除し、胆道を空腸と吻合して再建する(肝管空腸吻合〈Roux-en-Y法〉などの分流手術)。拡張胆管を残すと、術後にそこから癌が発生するおそれがある。 ・胆管拡張を伴わない合流異常:胆嚢癌の発生頻度が高いため、予防的胆嚢摘出術が行われる。
ERCPの位置づけ
胆管・膵管の形態を詳細に評価できるが、侵襲的で膵炎などの偶発症がある。現在は診断目的にはまず非侵襲的なMRCPが選択されることが多く、ERCPは詳細評価や治療的処置が必要な場合に行われる。
POINT
・若年者の腹痛+総胆管の囊腫状拡張+長い共通管 → 膵胆管合流異常を伴う先天性胆道拡張症 ・膵胆管合流異常は十二指腸壁外での合流であり、乳頭括約筋が作用しないため膵液と胆汁が相互に逆流する。 ・CTで膵頭部の囊胞状構造を膵囊胞と誤らない(拡張した膵内胆管である)。 ・合併症として胆道癌(胆管癌・胆嚢癌)が重要。治療は拡張胆管切除+胆道再建(分流手術)。胆管非拡張型は予防的胆嚢摘出。
