StudyMed医師国家試験

「昨夜のことは覚えていません」―せん妄の正体は"意識のくもり"にある

第101回医師国家試験 F問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第7問

せん妄について正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.幻視が出現する。
  2. b.意識障害を認める。
  3. c.追想が可能である。
  4. d.見当識は保たれる。
  5. e.常同姿勢を呈する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はせん妄の症候を問う問題だ。病棟で毎晩のように出会う、とても身近な病態だね。ポイントは一つだけ。せん妄の本質が何なのかを押さえれば、ほかの特徴はすべてそこから導けるんだ。まず、せん妄ってどんな状態だと思う?
医学生医学生
夜に急に興奮して点滴を抜いてしまう高齢の患者さん、というイメージです。認知症が悪化したようなものでしょうか。
ドクタードクター
そのイメージは臨床的には正しいけれど、「認知症の悪化」とは本質が違う。せん妄は、身体疾患や薬剤、アルコール離脱などを背景に急に起こる、軽度から中等度の意識障害なんだ。意識がうっすら曇っているところに、幻覚や興奮、不安といった精神症状が上乗せされている。これを意識変容と呼ぶよ。
医学生医学生
意識障害というと、JCSで刺激しても目を開けない、みたいな状態を思い浮かべてしまいます。目は開いて動き回っているのに意識障害なんですか。
ドクタードクター
そこが誤解しやすいところだね。せん妄の意識障害は昏睡のような「レベルの低下」ではなく、注意を一点に向けたり保ったりできない、周囲の状況を正しく認識できない、という形で現れる。しかもその程度が1日の中で変動し、夕方から夜にかけて悪くなりやすい。DSM-5でも、注意と意識の障害が短期間に出現して変動することが中核に置かれているんだ。だから「意識障害を認める」は正しい記述だよ。
医学生医学生
意識が曇っているなら、見当識も保てないですよね。
ドクタードクター
その通り。見当識障害を伴うのが普通で、特に時間の見当識が早くから崩れやすい。重くなると場所、さらに人物もわからなくなる。入院中なのに「ここは自分の家だ」と言い張るのが典型だね。だから「見当識は保たれる」は誤りだ。
医学生医学生
内科実習で、朝の回診のときに夜勤の看護師さんから「昨夜はかなり大変でした」と聞いたのに、患者さん本人はケロッとして「よく眠れました」と言っていて驚いたことがあります。
ドクタードクター
まさにせん妄らしいエピソードだ。意識が曇っている間の体験はうまく記銘されないから、回復後に思い出せない。全健忘か、部分的にしか覚えていない部分健忘になる。つまり「追想が可能である」は誤りだね。
医学生医学生
幻覚についてはどうですか。精神科の講義では、幻聴が統合失調症の代表だと習いました。
ドクタードクター
いい対比だね。統合失調症の幻覚は幻聴が中心だけれど、せん妄では錯覚や幻視が中心になる。「壁に虫が這っている」「部屋に知らない人がいる」と訴えて、それにおびえて興奮する。アルコール離脱で起こる振戦せん妄では、小さな虫や動物がたくさん見える小動物幻視が特徴的だ。だから「幻視が出現する」も正しい。
医学生医学生
残る常同姿勢は、緊張病の症状ではなかったでしょうか。
ドクタードクター
よく覚えているね。同じ姿勢を長時間とり続ける常同姿勢は、昏迷やカタレプシー、拒絶症などと並ぶ緊張病(カタトニア)の症状で、統合失調症の緊張型や重症うつ病でみられる。せん妄ではむしろ落ち着きなく動き回る精神運動興奮がよくみられるから、せん妄の特徴とはいえない。
医学生医学生
意識障害が本態で、そこから見当識障害と追想不能が出てきて、幻視が加わる。一つの軸でつながっているんですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。では臨床で大事な点をいくつか。まず病型として、興奮が目立つ過活動型のほかに、ぼんやりして活動が落ちる低活動型がある。低活動型は静かなので見逃されやすく、うつ病と間違われることもあるんだ。
医学生医学生
騒がないせん妄もあるんですね。認知症との区別はどう考えればいいですか。
ドクタードクター
せん妄は急性発症で日内変動があり、意識障害を伴い、原因を取り除けば多くは可逆的。認知症は緩徐に進行し、意識は清明で症状は持続的だ。ただし認知症はせん妄の最大の危険因子で、両者はよく合併するから、「認知症だから」で片づけないことが大切だよ。
医学生医学生
対応は、まず鎮静薬を使うのでしょうか。
ドクタードクター
第一は原因の同定と除去だ。感染症、脱水や電解質異常、低酸素、手術、そしてベンゾジアゼピン系薬や抗コリン薬、オピオイドなどの薬剤を見直す。そのうえで時計やカレンダーを置く、昼夜のリズムをつくる、眼鏡や補聴器を使ってもらう、家族に付き添ってもらうといった環境調整を行う。興奮が強ければ抗精神病薬を少量使う。ベンゾジアゼピン系薬はせん妄を悪化させうるので原則避けるけれど、アルコール離脱せん妄では例外的に第一選択になる点も覚えておこう。

まとめ

せん妄は、身体疾患・薬剤・アルコール離脱などを背景に急性に生じる軽度〜中等度の意識障害(意識変容)で、注意の障害と1日の中での変動、夜間の増悪が特徴です。意識障害を本態とするため見当識障害を伴い、回復後はその間の出来事を追想できず、幻覚は幻視が中心で、アルコール離脱では小動物幻視がみられます。常同姿勢は緊張病の症状であり、せん妄の特徴ではありません。対応の基本は原因の除去と環境調整で、ベンゾジアゼピン系薬は原則避けますが、アルコール離脱せん妄では第一選択となります。見逃されやすい低活動型や認知症との合併も含め、「せん妄の本質は意識障害」という軸で理解しておくことが、病棟での早期発見と適切な対応につながります。

解答・解説

正解はa, bです

せん妄(delirium)は、身体疾患・薬物・アルコール離脱などを背景として急に起こる、軽度から中等度の意識障害を基盤とする症候群である。意識の「くもり」(意識混濁)に加えて、注意の障害、見当識障害、錯覚・幻覚(特に幻視)、不安・興奮といった精神症状が「上乗せ」される状態であり、専門的には意識変容と呼ばれる。 本問を解くには、せん妄の本質が「意識障害」であることを押さえ、そこから派生する特徴を順に考えればよい。 ・意識が障害されているので、時間・場所・人物に関する見当識が失われる。 ・意識が障害された期間の体験は記憶に残りにくく、回復後に思い出せない(追想不能、健忘)。 ・症状は数時間〜数日の単位で急に出現し、1日の中でも変動する。夕方から夜間に悪化しやすい(夜間せん妄)。 ・幻覚は幻視が多く、小動物や虫、人影などが見えると訴える。 一方、常同姿勢は緊張病(カタトニア)でみられる精神運動の異常であり、せん妄の典型像とは異なる。以上から、幻視の出現と意識障害の存在を述べた2つの選択肢が正しい。

選択肢考察

  1. ○a.  幻視が出現する。

    正しい。せん妄では錯覚や幻覚が生じやすく、その中心は幻視である。「壁を虫が這っている」「部屋に知らない人がいる」などと訴え、それにおびえて興奮することが多い。アルコール離脱せん妄(振戦せん妄)では小動物が多数見える幻視(小動物幻視)が特徴的とされる。統合失調症の幻覚が幻聴中心であるのと対比して覚えておくとよい。

  2. ○b.  意識障害を認める。

    正しい。せん妄は軽度から中等度の意識混濁を基盤とする意識障害(意識変容)であり、これが本態である。注意を一点に向けたり保ったりすることができなくなり、意識レベルは時間とともに変動する。DSM-5の診断基準でも、注意と意識(環境に対する認識)の障害が短期間に出現し、1日の中で変動することが中核に置かれている。

  3. ×c.  追想が可能である。

    誤り。意識障害下の体験は十分に記銘されないため、回復後にせん妄中の出来事を思い出せないことが多い(全健忘または部分健忘)。夜間に大声を出したり点滴を抜いたりしても、翌朝本人に尋ねると覚えていないのが典型である。

  4. ×d.  見当識は保たれる。

    誤り。意識障害のため見当識障害を伴うのが通常である。特に時間の見当識が早期から障害されやすく、重くなると場所、さらに人物の見当識も失われる。入院中の高齢者が病院を自宅と思い込む、といった形で現れる。

  5. ×e.  常同姿勢を呈する。

    誤り。常同姿勢(同じ姿勢を長時間とり続ける)は、昏迷、カタレプシー、拒絶症などとともに緊張病(カタトニア)でみられる症状であり、統合失調症の緊張型や重症うつ病などで出現する。せん妄では不安・焦燥を伴って落ち着きなく動き回る精神運動興奮(過活動型)がよくみられ、逆に活動が低下してぼんやりする低活動型もあるが、常同姿勢はせん妄の特徴ではない。

せん妄の特徴(DSM-5の要点)

・注意の障害(注意を向ける・保つ・切り替える能力の低下)と意識(環境の認識)の障害 ・短期間(数時間〜数日)で発症し、1日の中で重症度が変動する ・記憶欠損、見当識障害、言語障害、知覚障害(錯覚・幻覚)などの認知障害を伴う ・既存の認知症などではうまく説明できない ・身体疾患、物質の中毒・離脱、薬剤などによる直接的な生理学的結果であることが示唆される

病型

過活動型(興奮・幻覚が目立つ)、低活動型(活動性低下、傾眠、無関心。見逃されやすく、うつ病と誤られやすい)、混合型。

危険因子・誘因

高齢、認知症、脳器質疾患、感染症、脱水・電解質異常、低酸素、手術(術後せん妄)、ICU入室、ベンゾジアゼピン系薬・抗コリン薬・オピオイドなどの薬剤、アルコール離脱、疼痛、睡眠障害、感覚遮断(眼鏡・補聴器がないなど)。

認知症との違い

せん妄は急性発症・日内変動・意識障害あり・多くは可逆的。認知症は緩徐進行・意識は清明・持続的。ただし認知症はせん妄の最大の危険因子で、両者はしばしば合併する。

対応

原因となる身体疾患や薬剤の同定と除去が第一である。環境調整(昼夜のリズムづくり、時計・カレンダーの設置、家族の付き添い、眼鏡・補聴器の使用)を行い、興奮が強い場合は抗精神病薬を少量用いる。ベンゾジアゼピン系薬はせん妄を悪化させうるため原則として避けるが、アルコール離脱せん妄では第一選択となる。

POINT

・せん妄=軽度〜中等度の意識障害(意識混濁)に幻覚・興奮などが加わった意識変容。 ・急性発症、日内変動、夜間に悪化しやすい。 ・幻覚は幻視が多い(アルコール離脱では小動物幻視)。 ・見当識障害を伴い、回復後は追想不能(健忘)。 ・常同姿勢は緊張病(カタトニア)の症状。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。