「昨夜のことは覚えていません」―せん妄の正体は"意識のくもり"にある
第101回医師国家試験 F問題 第7問
国試問題にチャレンジ
せん妄について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.幻視が出現する。
- b.意識障害を認める。
- c.追想が可能である。
- d.見当識は保たれる。
- e.常同姿勢を呈する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
せん妄は、身体疾患・薬剤・アルコール離脱などを背景に急性に生じる軽度〜中等度の意識障害(意識変容)で、注意の障害と1日の中での変動、夜間の増悪が特徴です。意識障害を本態とするため見当識障害を伴い、回復後はその間の出来事を追想できず、幻覚は幻視が中心で、アルコール離脱では小動物幻視がみられます。常同姿勢は緊張病の症状であり、せん妄の特徴ではありません。対応の基本は原因の除去と環境調整で、ベンゾジアゼピン系薬は原則避けますが、アルコール離脱せん妄では第一選択となります。見逃されやすい低活動型や認知症との合併も含め、「せん妄の本質は意識障害」という軸で理解しておくことが、病棟での早期発見と適切な対応につながります。
解答・解説
正解はa, bです
せん妄(delirium)は、身体疾患・薬物・アルコール離脱などを背景として急に起こる、軽度から中等度の意識障害を基盤とする症候群である。意識の「くもり」(意識混濁)に加えて、注意の障害、見当識障害、錯覚・幻覚(特に幻視)、不安・興奮といった精神症状が「上乗せ」される状態であり、専門的には意識変容と呼ばれる。 本問を解くには、せん妄の本質が「意識障害」であることを押さえ、そこから派生する特徴を順に考えればよい。 ・意識が障害されているので、時間・場所・人物に関する見当識が失われる。 ・意識が障害された期間の体験は記憶に残りにくく、回復後に思い出せない(追想不能、健忘)。 ・症状は数時間〜数日の単位で急に出現し、1日の中でも変動する。夕方から夜間に悪化しやすい(夜間せん妄)。 ・幻覚は幻視が多く、小動物や虫、人影などが見えると訴える。 一方、常同姿勢は緊張病(カタトニア)でみられる精神運動の異常であり、せん妄の典型像とは異なる。以上から、幻視の出現と意識障害の存在を述べた2つの選択肢が正しい。
選択肢考察
- ○a. 幻視が出現する。
正しい。せん妄では錯覚や幻覚が生じやすく、その中心は幻視である。「壁を虫が這っている」「部屋に知らない人がいる」などと訴え、それにおびえて興奮することが多い。アルコール離脱せん妄(振戦せん妄)では小動物が多数見える幻視(小動物幻視)が特徴的とされる。統合失調症の幻覚が幻聴中心であるのと対比して覚えておくとよい。
- ○b. 意識障害を認める。
正しい。せん妄は軽度から中等度の意識混濁を基盤とする意識障害(意識変容)であり、これが本態である。注意を一点に向けたり保ったりすることができなくなり、意識レベルは時間とともに変動する。DSM-5の診断基準でも、注意と意識(環境に対する認識)の障害が短期間に出現し、1日の中で変動することが中核に置かれている。
- ×c. 追想が可能である。
誤り。意識障害下の体験は十分に記銘されないため、回復後にせん妄中の出来事を思い出せないことが多い(全健忘または部分健忘)。夜間に大声を出したり点滴を抜いたりしても、翌朝本人に尋ねると覚えていないのが典型である。
- ×d. 見当識は保たれる。
誤り。意識障害のため見当識障害を伴うのが通常である。特に時間の見当識が早期から障害されやすく、重くなると場所、さらに人物の見当識も失われる。入院中の高齢者が病院を自宅と思い込む、といった形で現れる。
- ×e. 常同姿勢を呈する。
誤り。常同姿勢(同じ姿勢を長時間とり続ける)は、昏迷、カタレプシー、拒絶症などとともに緊張病(カタトニア)でみられる症状であり、統合失調症の緊張型や重症うつ病などで出現する。せん妄では不安・焦燥を伴って落ち着きなく動き回る精神運動興奮(過活動型)がよくみられ、逆に活動が低下してぼんやりする低活動型もあるが、常同姿勢はせん妄の特徴ではない。
せん妄の特徴(DSM-5の要点)
・注意の障害(注意を向ける・保つ・切り替える能力の低下)と意識(環境の認識)の障害 ・短期間(数時間〜数日)で発症し、1日の中で重症度が変動する ・記憶欠損、見当識障害、言語障害、知覚障害(錯覚・幻覚)などの認知障害を伴う ・既存の認知症などではうまく説明できない ・身体疾患、物質の中毒・離脱、薬剤などによる直接的な生理学的結果であることが示唆される
病型
過活動型(興奮・幻覚が目立つ)、低活動型(活動性低下、傾眠、無関心。見逃されやすく、うつ病と誤られやすい)、混合型。
危険因子・誘因
高齢、認知症、脳器質疾患、感染症、脱水・電解質異常、低酸素、手術(術後せん妄)、ICU入室、ベンゾジアゼピン系薬・抗コリン薬・オピオイドなどの薬剤、アルコール離脱、疼痛、睡眠障害、感覚遮断(眼鏡・補聴器がないなど)。
認知症との違い
せん妄は急性発症・日内変動・意識障害あり・多くは可逆的。認知症は緩徐進行・意識は清明・持続的。ただし認知症はせん妄の最大の危険因子で、両者はしばしば合併する。
対応
原因となる身体疾患や薬剤の同定と除去が第一である。環境調整(昼夜のリズムづくり、時計・カレンダーの設置、家族の付き添い、眼鏡・補聴器の使用)を行い、興奮が強い場合は抗精神病薬を少量用いる。ベンゾジアゼピン系薬はせん妄を悪化させうるため原則として避けるが、アルコール離脱せん妄では第一選択となる。
POINT
・せん妄=軽度〜中等度の意識障害(意識混濁)に幻覚・興奮などが加わった意識変容。 ・急性発症、日内変動、夜間に悪化しやすい。 ・幻覚は幻視が多い(アルコール離脱では小動物幻視)。 ・見当識障害を伴い、回復後は追想不能(健忘)。 ・常同姿勢は緊張病(カタトニア)の症状。
