その薬、発作を悪化させていませんか―欠神発作とフェノバルビタールの落とし穴
第101回医師国家試験 F問題 第57問
国試問題にチャレンジ
てんかんの発作型と抗けいれん薬の組合せで誤っているのはどれか。
- a.欠神発作 ―― フェノバルビタール
- b.脱力発作 ―― バルプロ酸ナトリウム
- c.強直間代発作 ―― フェニトイン
- d.ミオクロニー発作 ―― クロナゼパム
- e.West症候群〈点頭てんかん〉 ―― ACTH
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
てんかんの薬物治療は、発作型とてんかん症候群に合わせて薬を選ぶことが原則です。欠神発作の治療薬はエトスクシミドやバルプロ酸(ラモトリギン)であり、フェノバルビタール、フェニトイン、カルバマゼピンは無効でむしろ悪化させうるため、「欠神発作―フェノバルビタール」は誤った組合せです。バルプロ酸は脱力・ミオクロニー・強直間代などの全般発作に幅広く有効で、ミオクロニー発作にはクロナゼパム、強直間代発作にはフェニトインも有効、West症候群にはACTH療法が用いられます。ナトリウムチャネル遮断薬が焦点発作には有用でも欠神・ミオクロニー発作を悪化させうるという知識は、処方ミスを防ぐうえで臨床的に重要です。発作型と薬の対応、さらに各薬の副作用までを整理しておくことが、てんかん診療の土台になります。
解答・解説
正解はaです
てんかんの薬物治療は、まず発作型(焦点発作か全般発作か、全般発作ならどのタイプか)とてんかん症候群を見極め、それに合う薬を選ぶのが原則である。発作型に合わない薬を使うと効かないばかりか、発作をかえって増やすことがある。 本問は「誤っている組合せ」を選ぶ問題である。各組合せについて、その薬がその発作型に対して有効で、実際に選択されうるかを考える。 判断の鍵になるのは次の2点である。 ・欠神発作とミオクロニー発作は、ナトリウムチャネル遮断薬(フェニトイン、カルバマゼピンなど)やフェノバルビタールが効かない、あるいは悪化させうる特殊な全般発作である。欠神発作にはエトスクシミド、バルプロ酸(必要に応じてラモトリギン)を用いる。 ・バルプロ酸は全般発作全般(欠神、ミオクロニー、脱力、強直間代)に幅広く有効な広域スペクトルの薬である。 この観点から、欠神発作にフェノバルビタールを組み合わせたものが誤りとなる。
選択肢考察
- ○a. 欠神発作 ―― フェノバルビタール
誤った組合せであり、これが正解である。欠神発作は視床と大脳皮質を結ぶ回路の異常な同期(T型カルシウムチャネルが関与)で生じ、脳波で3Hz棘徐波複合を示す。治療薬はT型カルシウムチャネルを抑えるエトスクシミドや、広域スペクトルのバルプロ酸が第一選択であり、ラモトリギンも用いられる。フェノバルビタール(バルビツール酸系)は欠神発作に無効であり、むしろ欠神発作を悪化させうる。同様にフェニトイン、カルバマゼピンも欠神発作には無効・増悪因子となるため避ける。
- ×b. 脱力発作 ―― バルプロ酸ナトリウム
正しい組合せである。脱力発作は全身または頭部・体幹の筋緊張が突然失われて転倒する全般発作で、Lennox-Gastaut症候群などでよくみられる。全般発作に広く有効なバルプロ酸ナトリウムが第一に用いられ、クロナゼパムなどのベンゾジアゼピン系も併用される(ほかにラモトリギン、ルフィナミドなども選択肢となる)。転倒による外傷を防ぐため保護帽の着用も行われる。
- ×c. 強直間代発作 ―― フェニトイン
正しい組合せである。フェニトインは電位依存性ナトリウムチャネルを遮断して異常興奮の広がりを抑える薬で、強直間代発作(焦点発作から両側強直間代発作へ進展するものを含む)に有効である。全般強直間代発作の第一選択は現在ではバルプロ酸であり(妊娠可能年齢の女性では催奇形性を考慮してラモトリギンやレベチラセタムが優先される)、フェニトインやフェノバルビタールは代替薬として位置づけられるが、有効な組合せであることに変わりはない。なおフェニトインは静注製剤(およびそのプロドラッグのホスフェニトイン)がてんかん重積状態の治療にも使われる。
- ×d. ミオクロニー発作 ―― クロナゼパム
正しい組合せである。ミオクロニー発作は四肢や体幹が一瞬ピクッと収縮する全般発作で、若年ミオクロニーてんかんなどでみられる。治療にはバルプロ酸が第一選択で、クロナゼパム(ベンゾジアゼピン系、GABA-A受容体の作用を増強する)やレベチラセタムも有効である。一方、カルバマゼピンやフェニトインはミオクロニー発作を悪化させることがあり避けるべきである。
- ×e. West症候群〈点頭てんかん〉 ―― ACTH
正しい組合せである。West症候群は主に乳児期(生後3〜11か月ころ)に発症し、てんかん性スパズム(頭部前屈・四肢の屈曲などを数秒ごとにシリーズで繰り返す発作)、脳波のヒプスアリスミア(高振幅の徐波と棘波が無秩序に混在する所見)、精神運動発達の停止・退行を三主徴とする。通常の抗てんかん薬は効きにくく、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)療法が最も有効な治療の一つである。ビタミンB6大量療法、バルプロ酸、ゾニサミド、ベンゾジアゼピン系が並行・先行して用いられることもあり、結節性硬化症が原因の場合はビガバトリンが特に有効である。ACTH療法には感染症、高血圧、電解質異常、脳の萎縮様変化などの副作用があり、慎重な管理を要する。
主な発作型と薬の選択(概略)
・焦点発作(焦点起始両側強直間代発作を含む): カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタムなどが第一選択。ほかにゾニサミド、トピラマート、フェニトインなど。 ・全般強直間代発作: バルプロ酸が第一選択(妊娠可能年齢の女性ではラモトリギン、レベチラセタムを優先)。フェニトイン、フェノバルビタールなども有効。 ・欠神発作: エトスクシミド、バルプロ酸、ラモトリギン。 ・ミオクロニー発作: バルプロ酸、クロナゼパム、レベチラセタム。 ・脱力発作・強直発作: バルプロ酸、ラモトリギン、ベンゾジアゼピン系など。 ・West症候群: ACTH療法、ビタミンB6、バルプロ酸、ゾニサミド、ビガバトリン(結節性硬化症合併例)。
発作を悪化させうる組合せ
・欠神発作: フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、ガバペンチンなど。 ・ミオクロニー発作: フェニトイン、カルバマゼピン、ガバペンチンなど。 ナトリウムチャネル遮断薬は焦点発作には有用だが、特発性全般てんかんの欠神・ミオクロニー発作を悪化させる点が重要である。
主な薬の副作用
・バルプロ酸: 肝障害、高アンモニア血症、膵炎、催奇形性(神経管閉鎖不全)。 ・フェニトイン: 歯肉増殖、多毛、小脳失調、眼振、非線形の薬物動態(少量の増量で血中濃度が急上昇)。 ・カルバマゼピン: 皮疹(Stevens-Johnson症候群)、低ナトリウム血症、骨髄抑制。 ・エトスクシミド: 消化器症状、眠気。
POINT
・欠神発作の治療薬はエトスクシミド、バルプロ酸(ラモトリギン)。 ・フェノバルビタール、フェニトイン、カルバマゼピンは欠神発作に無効で、悪化させうる。 ・バルプロ酸は全般発作に幅広く有効な第一選択薬。 ・ミオクロニー発作にはバルプロ酸、クロナゼパム。 ・West症候群(てんかん性スパズム・ヒプスアリスミア・発達退行)にはACTH療法。
