尿の通り道は同じ顔をしている―移行上皮から生まれる腫瘍を見抜く
第101回医師国家試験 F問題 第50問
国試問題にチャレンジ
移行上皮に発生するのはどれか。2つ選べ。
- a.腎盂腫瘍
- b.膀胱腫瘍
- c.前立腺腫瘍
- d.精巣腫瘍
- e.陰茎腫瘍
対話形式の解説
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ドクターまとめ
移行上皮(尿路上皮)は腎杯・腎盂から尿管、膀胱、近位尿道までを覆い、伸展に応じて形を変える特殊な上皮で、腎盂癌・尿管癌・膀胱癌の大部分はここから生じる尿路上皮癌(旧称:移行上皮癌)です。これに対し、前立腺癌は腺上皮由来の腺癌、精巣腫瘍は胚細胞腫瘍、陰茎癌は重層扁平上皮由来の扁平上皮癌が大部分であり、腎細胞癌も尿細管由来で腎盂癌とは発生母地が異なります。前立腺の「移行領域」は前立腺肥大症の好発部位を指す区分で、移行上皮とは無関係である点も紛らわしいので注意が必要です。尿路上皮癌は無症候性肉眼的血尿で見つかることが多く、喫煙や芳香族アミンが危険因子で、尿路内に多発・再発しやすいため長期の経過観察が欠かせません。「臓器→上皮→組織型」という対応で考える習慣は、全身の腫瘍の病理と臨床を理解する土台になります。
解答・解説
正解はa, bです
移行上皮(transitional epithelium)は、尿の通り道である尿路の内腔を覆う特殊な上皮である。尿がたまって臓器が伸び縮みしても対応できるように、細胞の形や層の厚さを変えられる性質をもつ。現在は「尿路上皮(urothelium)」とよばれるのが一般的であり、そこから発生する癌も、かつての「移行上皮癌」から「尿路上皮癌(urothelial carcinoma)」へと呼び名が変わっている。 移行上皮(尿路上皮)で覆われている範囲は、腎杯・腎盂から尿管・膀胱を経て、尿道の近位部(男性では前立腺部尿道まで)である。したがって、腎盂・尿管・膀胱に発生する悪性腫瘍は、その大部分(約90%以上)が尿路上皮癌である。 一方、泌尿器・男性生殖器の他の臓器の腫瘍は、それぞれの臓器を構成する組織を反映した組織型をとる。前立腺は腺組織なので腺癌、精巣は精子をつくる胚細胞から生じる胚細胞腫瘍、陰茎は皮膚と同じ扁平上皮に覆われているので扁平上皮癌が多い。 本問は「臓器 → 覆っている上皮 → そこから生じる代表的な癌の組織型」という対応を整理していれば解ける。
選択肢考察
- ○a. 腎盂腫瘍
腎盂は腎杯から続く尿路の起始部で、内腔は移行上皮(尿路上皮)で覆われている。そのため、腎盂腫瘍の大部分は移行上皮癌(尿路上皮癌)である。一部に扁平上皮癌がみられ、長期の結石や感染による慢性刺激で上皮が扁平上皮に置き換わる扁平上皮化生を背景に生じる。尿路上皮癌は同じ上皮が続く尿管・膀胱にも多発しやすい(多中心性発生)。このため腎盂尿管癌の標準手術は、腎尿管全摘除術に膀胱部分切除を加えたものであり、術後は膀胱内の再発も定期的に調べる。なお、同じ「腎の腫瘍」でも、腎実質の尿細管上皮から発生する腎細胞癌(多くは淡明細胞型の腺癌)とは発生母地が異なる点に注意する。
- ○b. 膀胱腫瘍
膀胱の粘膜は移行上皮(尿路上皮)で覆われており、膀胱癌の約90%以上は移行上皮癌(尿路上皮癌)である。代表的な症状は、痛みを伴わない肉眼的血尿(無症候性肉眼的血尿)である。危険因子として最も重要なのは喫煙で、そのほかβ-ナフチルアミンやベンジジンなどの芳香族アミンへの職業的な曝露、シクロホスファミドなどがある。扁平上皮癌は少ないが、ビルハルツ住血吸虫症(エジプトなどの流行地)や長期の尿道カテーテル留置による慢性炎症を背景に生じる。腺癌はまれで、胎生期の尿膜管の遺残から生じる尿膜管癌などがある。
- ×c. 前立腺腫瘍
前立腺は分泌液をつくる腺組織(腺管と腺房)からなる臓器であり、前立腺癌の大部分は腺房の上皮から発生する腺癌である。主に辺縁領域(peripheral zone)に発生するため直腸診で触れやすく、腫瘍マーカーとしてPSA(前立腺特異抗原)が用いられる。前立腺の中を通る前立腺部尿道や太い導管の開口部付近は尿路上皮で覆われているため、膀胱癌の前立腺への進展や、ごくまれな原発性の尿路上皮癌は起こりうる。しかし「前立腺腫瘍」として代表的なのは腺癌であり、移行上皮に発生する腫瘍とはいえない。なお、前立腺の「移行領域(transition zone)」は前立腺肥大症の好発部位を指す解剖学的な区分であり、移行上皮とは無関係である。
- ×d. 精巣腫瘍
精巣腫瘍の約90〜95%は、精細管内で精子をつくる胚細胞(生殖細胞)から発生する胚細胞腫瘍である。セミノーマ(精上皮腫)と非セミノーマ(胎児性癌、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、奇形腫など)に分けられる。残りの一部は、ライディッヒ細胞腫やセルトリ細胞腫などの性索間質腫瘍や、高齢者に多い悪性リンパ腫である。精巣に移行上皮は存在せず、移行上皮由来の腫瘍は生じない。
- ×e. 陰茎腫瘍
陰茎の亀頭や包皮は、皮膚と同様の重層扁平上皮で覆われており、陰茎癌のほとんどは扁平上皮癌である。包茎による恥垢の貯留や慢性炎症、HPV(ヒトパピローマウイルス、特に16型)の感染が危険因子で、亀頭や冠状溝、包皮内板に好発する。陰茎の中を通る尿道の近位部には尿路上皮もあるが、通常「陰茎腫瘍」は扁平上皮癌を指し、移行上皮に発生する腫瘍ではない。
尿路の上皮と主な癌の組織型
腎実質(尿細管):単層立方上皮 → 腎細胞癌(淡明細胞型が最多) 腎杯・腎盂・尿管・膀胱:移行上皮(尿路上皮) → 尿路上皮癌が大部分 前立腺部尿道:移行上皮(尿路上皮) 尿道の遠位側:多列円柱上皮を経て、外尿道口付近は重層扁平上皮 → 尿道癌の組織型は部位で異なる
男性生殖器の腫瘍
前立腺:腺上皮 → 腺癌 精巣:胚細胞 → 胚細胞腫瘍(セミノーマ・非セミノーマ) 陰茎:重層扁平上皮 → 扁平上皮癌
移行上皮(尿路上皮)の特徴
尿が少なく臓器が縮んでいるときは細胞が何層にも重なって厚く見え、尿がたまって伸展すると層が薄く平たくなる。最も内腔側の大型の細胞(傘細胞、umbrella cell)は、尿中の成分が組織に染み込まないようにするバリアとして働く。
尿路上皮癌の臨床的特徴
・無症候性肉眼的血尿が最も多い初発症状である ・同じ上皮が連続する腎盂・尿管・膀胱に多発・再発しやすい(多中心性・異時性発生) ・尿細胞診や膀胱鏡、CTウログラフィーで評価する ・最大の危険因子は喫煙で、芳香族アミン(染料・ゴム工業など)への曝露も重要である
POINT
・移行上皮(尿路上皮)は腎盂・尿管・膀胱・近位尿道を覆う ・腎盂癌・尿管癌・膀胱癌の大部分は尿路上皮癌(旧称:移行上皮癌) ・前立腺癌は腺癌、精巣腫瘍は胚細胞腫瘍、陰茎癌は扁平上皮癌が大部分 ・腎細胞癌(尿細管由来)と腎盂癌(尿路上皮由来)は発生母地が異なる ・尿路上皮癌は尿路内に多発・再発しやすい
