丸くなった赤血球は脾臓を通れない―遺伝性球状赤血球症を「病態の流れ」で解く
第101回医師国家試験 F問題 第40問
国試問題にチャレンジ
遺伝性球状赤血球症で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.伴性劣性遺伝である。
- b.赤血球膜脂質の欠損がある。
- c.脾腫がみられる。
- d.正色素性貧血を示す。
- e.赤血球浸透圧抵抗が減弱している。
対話形式の解説
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医学生まとめ
遺伝性球状赤血球症は、スペクトリン、アンキリン、バンド3などの膜骨格蛋白の異常により、二次的に膜脂質が失われて赤血球が球状化する先天性溶血性貧血で、多くは常染色体顕性遺伝です(X連鎖潜性はG6PD欠乏症)。変形能を失った球状赤血球は脾臓で捕捉・破壊されるため脾腫を認め、中等症以上では脾摘が有効です。表面積に余裕がないため赤血球浸透圧抵抗は減弱し、細胞内脱水によりMCHCが上昇して高色素性の傾向を示し、直接Coombs試験は陰性です。合併症としてビリルビン胆石やパルボウイルスB19感染による無形成発作があり、脾摘後は莢膜保有菌による重症感染症に注意が必要です。「原因→形態→検査→臨床」と病態の流れで理解すると、溶血性貧血全般の鑑別にも応用できます。
解答・解説
正解はc, eです
遺伝性球状赤血球症(hereditary spherocytosis:HS)は、赤血球膜を裏打ちする膜骨格蛋白の遺伝的異常によって赤血球が球状化し、主に脾臓で破壊される先天性溶血性貧血である。日本人の先天性溶血性貧血の中では最も頻度が高い。 本問は、HSの病態を「原因(遺伝形式・分子異常)→赤血球の形態変化→検査所見→臨床所見」という流れで整理できているかを問うている。
病態の流れ
1. 原因:アンキリン、バンド3、スペクトリン、プロテイン4.2などの膜骨格蛋白(あるいは膜骨格と脂質二重層をつなぐ蛋白)の異常。多くは常染色体顕性(優性)遺伝である。 2. 膜骨格と脂質二重層の結合が弱くなるため、脂質二重層が小胞として少しずつ失われ、細胞体積に対して表面積が減少する。 3. 表面積/体積比が小さくなった赤血球は中央の窪みを失い、球状になる(小型球状赤血球)。 4. 球状赤血球は変形能が低いため、脾臓の狭い間隙(脾索から脾洞への通過部)を通り抜けにくく、脾臓で捕捉・破壊される(血管外溶血)。 5. その結果、溶血性貧血・黄疸・脾腫・ビリルビン胆石が生じる。
検査所見
・赤血球浸透圧抵抗の減弱:球状赤血球は表面積に余裕がなく、低張液中でわずかに膨らんだだけで破裂するため、正常赤血球より高い食塩濃度で溶血が始まる。 ・MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)の上昇:細胞内の水分が相対的に減り、ヘモグロビンが濃縮されるため。 ・網赤血球増加、間接ビリルビン高値、LD上昇、ハプトグロビン低下など溶血の一般所見。 ・直接Coombs試験は陰性(自己免疫性溶血性貧血との鑑別点)。 このように病態を順に追えば、正しい選択肢は脾腫(c)と浸透圧抵抗の減弱(e)となる。
選択肢考察
- ×a. 伴性劣性遺伝である。
誤り。HSの大部分(約3/4)は常染色体顕性(優性)遺伝であり、男女ともに発症する。一部に常染色体潜性(劣性)遺伝や、家族歴のない新生変異による例もある。伴性(X連鎖)潜性遺伝をとる代表的な溶血性貧血はグルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠乏症であり、混同しないよう注意する。
- ×b. 赤血球膜脂質の欠損がある。
誤り。一次的な異常は膜脂質ではなく、膜骨格蛋白(スペクトリン、アンキリン、バンド3、プロテイン4.2など)にある。膜骨格による脂質二重層の支持が弱まる結果として、二次的に膜脂質が小胞状に失われ、表面積が減って球状化する。つまり膜脂質の喪失は「原因」ではなく「結果」である。また、陽イオン(Na+)の透過性亢進とそれを汲み出す能動輸送の亢進も伴い、エネルギー消費が増えることも赤血球の脆弱化に関与するとされる。
- ○c. 脾腫がみられる。
正しい。変形能を失った球状赤血球は脾臓の微小循環で捕捉され、マクロファージに貪食される。脾臓が溶血の主な場であり、処理の亢進によって脾臓は腫大するため、HSのほとんどの例で脾腫を認める。脾臓が溶血の主座であることから、中等症〜重症例では脾摘が有効であり、術後は球状赤血球自体は残るものの溶血と貧血は著明に改善する。
- ×d. 正色素性貧血を示す。
誤り。HSでは赤血球の表面積が失われると同時に細胞内の脱水が起こり、ヘモグロビンが濃縮されるため、MCHCが上昇する(多くは36 g/dL前後以上)。したがって正色素性ではなく、高色素性の傾向を示すのが特徴である。MCHCの上昇は他の貧血ではまれであり、HSを疑う手がかりとなる。なお、MCV(平均赤血球容積)は正常〜やや低値のことが多く、網赤血球が多いと正常域にとどまる。
- ○e. 赤血球浸透圧抵抗が減弱している。
正しい。赤血球浸透圧抵抗試験は、段階的に薄めた食塩水に赤血球を入れ、どの濃度から溶血が始まるかをみる検査である。正常赤血球は円盤状で表面積に余裕があるため、低張液中で水を取り込んで膨らんでもしばらくは破れない。一方、球状赤血球はすでに体積に対して表面積が最小に近いため、わずかな膨張で破裂し、正常より高い食塩濃度から溶血が始まる。これを浸透圧抵抗の減弱(浸透圧脆弱性の亢進)という。24時間37℃で保温した後に行うと、差がより明瞭になる。
遺伝性球状赤血球症の概要
・頻度:日本の先天性溶血性貧血で最多。 ・遺伝形式:常染色体顕性(優性)が主体。家族歴がない例もある。 ・原因蛋白:アンキリン、バンド3、スペクトリン(α・β)、プロテイン4.2など。日本人ではアンキリンやバンド3、プロテイン4.2の異常の報告が多い。
臨床像
・貧血、黄疸、脾腫が三主徴。 ・ビリルビン結石による胆石症を合併しやすい(若年者の胆石で本症を疑う)。 ・ヒトパルボウイルスB19感染により赤芽球が一過性に減少すると、赤血球産生が止まり急激に貧血が進む(無形成発作 aplastic crisis)。 ・感染などを契機に溶血が一時的に強まる溶血発作もある。
検査
・末梢血塗抹:中央の淡明部を欠く小型球状赤血球。 ・MCHC上昇、網赤血球増加、間接ビリルビン上昇、LD上昇、ハプトグロビン低下。 ・赤血球浸透圧抵抗減弱。EMA(エオシン-5'-マレイミド)結合能検査(フローサイトメトリー)で蛍光低下を認め、診断に有用。 ・直接Coombs試験陰性。
治療
・軽症は経過観察。葉酸需要が増えるため葉酸補充を行うことがある。 ・中等症以上では脾摘が有効。ただし脾摘後は肺炎球菌などの莢膜保有菌による重症感染症(脾摘後重症感染症)の危険が高まるため、可能であれば5〜6歳以降に行い、術前に肺炎球菌などのワクチン接種を行う。 ・胆石があれば胆嚢摘出を同時に検討する。
他の赤血球膜異常症との比較
・遺伝性楕円赤血球症:楕円形の赤血球。多くは溶血が軽く無症状。 ・発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH):後天性のPIGA遺伝子変異によるGPIアンカー型蛋白(CD55、CD59)の欠損で、補体による血管内溶血をきたす。膜異常だが遺伝性ではない点が異なる。
POINT
・遺伝性球状赤血球症は常染色体顕性(優性)遺伝が主体(X連鎖潜性はG6PD欠乏症)。 ・一次的異常は膜骨格蛋白(スペクトリン、アンキリン、バンド3など)で、膜脂質喪失は二次的変化。 ・脾臓で破壊される血管外溶血 → 脾腫、黄疸、胆石。脾摘が有効。 ・MCHC上昇(高色素性傾向)、赤血球浸透圧抵抗減弱、直接Coombs試験陰性。 ・パルボウイルスB19感染による無形成発作に注意。
