StudyMed医師国家試験

いびきは「どこが狭いか」を語る音―アデノイドと睡眠時無呼吸を見抜く耳鼻科の視点

第101回医師国家試験 F問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第22問

いびきが診断の手掛かりになるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.副鼻腔炎
  2. b.アデノイド
  3. c.気管狭窄症
  4. d.ポリープ様声帯
  5. e.睡眠時無呼吸症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、いびきという身近な症状がどの疾患の診断の手掛かりになるかを問う問題だ。ポイントは、いびきがどこで、どうして鳴る音なのかを理解すること。そこがわかれば、選択肢は狭窄部位ごとに整理できる。まず、いびきはどこで生じる音だと思う?
医学生医学生
鼻が詰まるといびきをかくイメージがあるので、鼻の奥でしょうか。
ドクタードクター
鼻閉は確かにいびきを悪化させるけれど、音の主な発生源は咽頭なんだ。睡眠中は咽頭を広げる筋肉、たとえばオトガイ舌筋の緊張が下がり、仰向けだと舌根や軟口蓋が重力で後ろに落ち込む。狭くなった通り道を空気が速く流れると内圧が下がって、軟口蓋や口蓋垂、咽頭側壁が震える。これがいびきの正体だ。
医学生医学生
生理学の講義で習ったベルヌーイ効果ですね。狭いところほど流速が上がって壁が引き寄せられる、と。
ドクタードクター
その通り。だから「いびきが診断の手掛かりになる疾患」とは、睡眠中に咽頭レベルの狭窄を起こし、いびきが主症状や受診のきっかけになる疾患ということになる。では選択肢を見ていこう。アデノイドはどうかな。
医学生医学生
アデノイドは上咽頭の咽頭扁桃ですよね。小児科実習で、口を開けたままの子を見て指導医の先生が「アデノイド顔貌だね」と言っていました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。咽頭扁桃は3〜6歳ごろに生理的に最も大きくなり、思春期にかけて縮む。病的に肥大すると後鼻孔や上咽頭が狭くなり、鼻呼吸ができずに口呼吸、そして大きないびきが出る。保護者が「子どものいびきがひどい」と連れてくるのが典型的な受診パターンで、まさにいびきが診断の入り口になる疾患だ。
医学生医学生
睡眠時無呼吸症候群は、いびきと無呼吸がセットというイメージがあります。
ドクタードクター
そうだね。大部分を占める閉塞性睡眠時無呼吸では、上気道が狭くなる段階でいびきが鳴り、完全に塞がると気流が止まって無呼吸になる。呼吸が再開するときに、あえぐような大きないびきとともに息を吹き返す。家族から「大きないびきの合間に息が止まっている」と指摘されて受診する例が非常に多く、習慣性のいびきは本症を疑う最も重要な手掛かりなんだ。だから正解はアデノイドと睡眠時無呼吸症候群の2つ。
医学生医学生
副鼻腔炎も鼻が詰まるので、いびきの原因になりそうで迷いました。
ドクタードクター
鋭い迷い方だね。鼻閉から口呼吸になり、いびきを悪化させる要因にはなりうる。でも副鼻腔炎の主症状は膿性鼻汁、鼻閉、後鼻漏、頬部痛や頭重感、嗅覚障害で、診断は鼻内視鏡やCTで副鼻腔の粘膜肥厚や液体貯留を確認して行う。いびきは副鼻腔炎に特徴的な所見ではなく、診断の手掛かりにはならないんだ。
医学生医学生
気管狭窄症も気道が狭くなる病気ですが、いびきとは違うんですか。
ドクタードクター
狭窄の場所が違うと音も変わる。声門より下の気管が狭くなると、聞こえるのは吸気性喘鳴、いわゆるstridorで、労作時や夜間の呼吸困難を伴う。原因は長期挿管や気管切開後の瘢痕、腫瘍、甲状腺腫などによる外からの圧迫などだ。咽頭の軟部組織が震えるいびきとは成り立ちが別物だね。
医学生医学生
ポリープ様声帯は声帯の病気なので、症状は声のほうに出そうです。
ドクタードクター
その通り。ポリープ様声帯はラインケ浮腫とも呼ばれ、声帯粘膜下のラインケ腔に浮腫が生じて両側の声帯全長がぶよぶよと膨らむ。喫煙との関連が強く、中高年の女性喫煙者に多い。主症状は低く粗い嗄声で、女性では声が男性のように低くなるのが特徴だ。高度になれば呼吸困難もありうるけれど、いびきが手掛かりになる疾患ではない。
医学生医学生
咽頭ならいびき、声門なら嗄声、気管なら吸気性喘鳴、細い気管支なら呼気性のwheeze。狭窄部位と音を対応させればいいんですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。ここから臨床で役立つ発展知識を加えよう。睡眠時無呼吸症候群の確定診断は終夜睡眠ポリグラフ検査で、1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計である無呼吸低呼吸指数、AHIで重症度を評価する。成人では5以上が異常、15以上が中等症、30以上が重症とされる。
医学生医学生
治療はCPAPのイメージですが、子どもも同じですか。
ドクタードクター
成人では減量や飲酒制限、側臥位睡眠などの生活指導に加え、中等症以上ではCPAPが中心で、軽〜中等症ではマウスピース型の口腔内装置も使われる。一方、小児の閉塞性睡眠時無呼吸はアデノイドや口蓋扁桃の肥大が原因であることが多く、アデノイド切除術や口蓋扁桃摘出術が第一選択になる。原因が違えば治療も変わるんだ。
医学生医学生
いびきを放っておくと、どんな問題が起こるんでしょうか。
ドクタードクター
成人の睡眠時無呼吸は高血圧、心房細動、心不全、脳卒中、2型糖尿病などとの関連が知られ、日中の眠気による交通事故の危険も高まる。小児ではアデノイドによる耳管の圧迫で滲出性中耳炎を起こしたり、睡眠の質の低下から日中の集中力低下や成長障害につながったりすることもある。「たかがいびき」と流さず、肥満や小顎、扁桃肥大といった背景と合わせて評価する姿勢が大切だよ。

まとめ

いびきは、睡眠中に筋緊張が低下して狭くなった咽頭を空気が通る際に、軟口蓋や咽頭壁が振動して生じる音です。そのため、いびきが診断の糸口となる代表的な疾患は、小児のアデノイド増殖症と閉塞性睡眠時無呼吸であり、後者は家族が指摘する「いびきと呼吸停止」から疑われ、終夜睡眠ポリグラフ検査のAHIで重症度を評価します。一方、声帯病変は嗄声、気管狭窄は吸気性喘鳴、副鼻腔炎は膿性鼻汁や鼻閉が主症状で、いびきは特徴的な所見ではありません。治療は成人ではCPAPや生活指導、小児ではアデノイド切除術・口蓋扁桃摘出術が中心となります。「狭窄部位と音・症状を対応させる」考え方は、上気道から下気道までの呼吸器症状を鑑別するうえでの基本になります。

解答・解説

正解はb, eです

いびき(鼾)は、睡眠中に狭くなった上気道(鼻腔・咽頭)を空気が通過する際に、軟口蓋・口蓋垂・咽頭側壁などの軟部組織が振動して生じる音である。睡眠中は咽頭周囲の筋緊張が低下し、仰臥位では舌根や軟口蓋が重力で後方へ落ち込むため、もともと上気道に狭い部分があるとそこで気流が乱れていびきが出やすくなる。 したがって「いびきが診断の手掛かりになる」疾患とは、睡眠中の上気道(特に咽頭レベル)の狭窄をきたし、いびきが主要症状あるいは受診のきっかけとなる疾患である。 考え方の軸は狭窄部位と、それに対応する音・症状の違いである。 ・咽頭レベルの狭窄(アデノイド増殖症、口蓋扁桃肥大、閉塞性睡眠時無呼吸など)→ いびき ・喉頭・声門レベルの病変(声帯ポリープ、ポリープ様声帯など)→ 嗄声(声がれ) ・声門下〜気管レベルの狭窄 → 吸気性喘鳴(stridor)、呼吸困難 ・鼻副鼻腔の炎症 → 鼻閉、膿性鼻汁、後鼻漏、頭重感 この整理に当てはめると、いびきが典型的な症状であり診断の糸口となるのはアデノイド(咽頭扁桃肥大)と睡眠時無呼吸症候群の2つである。

選択肢考察

  1. ×a.  副鼻腔炎

    副鼻腔炎の主症状は膿性鼻汁、鼻閉、後鼻漏、頬部痛や頭重感、嗅覚障害などである。鼻閉を介していびきを悪化させる要因にはなり得るが、いびきは副鼻腔炎に特徴的な所見ではなく、診断の手掛かりとして用いられることはない。診断は症状に加え、鼻内視鏡所見や画像検査(CTなど)で副鼻腔の粘膜肥厚・液体貯留を確認して行う。

  2. ○b.  アデノイド

    アデノイドは上咽頭後壁にある咽頭扁桃のことで、生理的に3〜6歳頃に最も大きくなり、その後は思春期にかけて縮小する。病的に肥大した状態(アデノイド増殖症)では上咽頭・後鼻孔が狭くなり、鼻呼吸が妨げられるため、いびき、口呼吸、睡眠時の呼吸停止(小児の閉塞性睡眠時無呼吸)が生じる。長期化するとアデノイド顔貌(口を開けた締まりのない顔つき)、耳管開口部の圧迫による滲出性中耳炎、睡眠障害による日中の集中力低下や成長障害をきたす。保護者が「子どものいびきがひどい」と訴えて受診することが多く、いびきは診断の重要な手掛かりとなる。

  3. ×c.  気管狭窄症

    気管狭窄症は声門より下の下気道(気管)が狭くなる病態で、原因として長期挿管・気管切開後の瘢痕、気管腫瘍、外からの圧迫(甲状腺腫、縦隔腫瘍など)、先天性狭窄などがある。狭窄部を気流が通過する際に聴取されるのは喘鳴(stridor)であり、労作時や夜間の呼吸困難を伴う。いびきは主に咽頭レベルの軟部組織の振動音であり、気管狭窄の診断の手掛かりにはならない。

  4. ×d.  ポリープ様声帯

    ポリープ様声帯(ラインケ浮腫)は、声帯粘膜の直下にあるラインケ腔に浮腫が生じ、両側声帯全長がぶよぶよと膨らむ良性疾患である。喫煙との関連が強く、声の酷使も誘因となり、中高年の喫煙者、特に女性に多い。主症状は低く粗い(粗糙性)嗄声で、女性では声が男性のように低くなることが特徴である。高度になれば呼吸困難をきたすこともあるが、声門レベルの病変であり、いびきが診断の手掛かりになることはない。

  5. ○e.  睡眠時無呼吸症候群

    睡眠時無呼吸症候群(SAS:sleep apnea syndrome)の大部分を占める閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)では、睡眠中に上気道が狭窄・閉塞を繰り返す。狭窄の段階では大きないびきが生じ、完全に閉塞すると気流が止まって無呼吸となり、呼吸再開時に再び大きないびきやあえぐような呼吸が起こる。家族やベッドパートナーから「大きないびきと、その合間に息が止まっている」と指摘されて受診する例が多く、習慣性のいびきは本症を疑う最も重要な手掛かりである。ほかに日中の過度の眠気、起床時の頭痛、夜間頻尿などを伴い、肥満、小顎、扁桃肥大などが危険因子となる。診断は終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)で行う。

いびきの発生機序

睡眠中は咽頭拡張筋(オトガイ舌筋など)の緊張が低下し、仰臥位では舌根・軟口蓋が後方へ偏位するため、上気道が狭くなる。狭い部位を通る気流が速くなると内腔の圧が下がり(ベルヌーイ効果)、軟口蓋や咽頭壁が振動していびき音が生じる。狭窄がさらに進んで気道が完全に閉じると無呼吸となる。

いびきの原因・増悪因子

・鼻腔:アレルギー性鼻炎、鼻中隔弯曲症、鼻ポリープなどによる鼻閉(口呼吸を招き、いびきを増悪させる) ・上咽頭:アデノイド増殖症(小児) ・中咽頭:口蓋扁桃肥大、軟口蓋・口蓋垂の過長、巨舌 ・全身・生活因子:肥満(咽頭周囲の脂肪沈着)、小顎・下顎後退、飲酒、睡眠薬の服用、加齢、仰臥位

閉塞性睡眠時無呼吸の概要

・無呼吸は10秒以上の気流停止、低呼吸は気流の明らかな低下に酸素飽和度低下や覚醒を伴うものと定義される。 ・1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数を無呼吸低呼吸指数(AHI)といい、成人ではAHI 5以上で異常、5〜15未満が軽症、15〜30未満が中等症、30以上が重症とされる。 ・合併症として高血圧、心房細動などの不整脈、心不全、脳卒中、2型糖尿病などとの関連が知られ、日中の眠気による交通事故の危険も高まる。 ・治療は減量、飲酒制限、側臥位睡眠などの生活指導、中等症以上では持続陽圧呼吸療法(CPAP)が中心で、軽〜中等症では口腔内装置(マウスピース)も用いられる。小児では原因がアデノイド・口蓋扁桃肥大であることが多く、アデノイド切除術・口蓋扁桃摘出術が第一選択となる。

狭窄部位と症状の対応

・咽頭:いびき、睡眠時無呼吸 ・声門:嗄声、高度なら呼吸困難 ・声門下〜気管:吸気性喘鳴(stridor)、呼吸困難 ・細い気管支:呼気性の笛声音(wheeze)

POINT

・いびきは睡眠中の上気道(主に咽頭)狭窄による軟部組織の振動音である。 ・いびきが診断の糸口となる代表疾患は、小児のアデノイド増殖症(口蓋扁桃肥大)と閉塞性睡眠時無呼吸である。 ・声帯病変は嗄声、気管狭窄は喘鳴、副鼻腔炎は膿性鼻汁・鼻閉が主症状であり、いびきは特徴的所見ではない。 ・睡眠時無呼吸症候群の確定診断は終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)で、AHIにより重症度を評価する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。