StudyMed医師国家試験

菌が来るのか、毒が来るのか―表皮剝脱毒素で読み解くとびひとSSSS

第101回医師国家試験 F問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第12問

細菌の外毒素が起こす皮膚病変はどれか。2つ選べ。

  1. a.丹毒
  2. b.瘭疽
  3. c.伝染性膿痂疹
  4. d.蜂巣炎〈蜂窩織炎〉
  5. e.ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、細菌による皮膚病変を「病変をつくっている主役は何か」という視点で分ける問題だ。菌そのものが組織の中で増えて炎症を起こすタイプと、菌が出す外毒素が病変の主体になるタイプがある。この区別さえできれば、迷わず解けるよ。
医学生医学生
外毒素というと、微生物学の講義で習った破傷風毒素やボツリヌス毒素のような、菌体の外に分泌されるタンパク質毒素ですね。
ドクタードクター
その通り。皮膚で特に重要なのが、黄色ブドウ球菌がつくる表皮剝脱毒素だ。これはセリンプロテアーゼの一種で、表皮の細胞同士をつなぐデスモソームの構成タンパク質、デスモグレイン1を切断する。
医学生医学生
デスモグレイン1というと、天疱瘡の講義で出てきました。落葉状天疱瘡の抗原でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。デスモグレイン1は表皮の上層、顆粒層あたりに多く発現している。だから毒素で切られると、表皮の浅いところで細胞がはがれ、薄くて破れやすい水疱や表皮剝離ができる。落葉状天疱瘡と同じく浅い部位で裂けるんだ。
医学生医学生
その毒素が局所で働くのが、とびひですか。
ドクタードクター
そう。伝染性膿痂疹のうち、小児に多い水疱性膿痂疹は黄色ブドウ球菌が原因で、表皮剝脱毒素が感染局所で働いて弛緩性の水疱をつくり、破れてびらんや痂皮になる。だから伝染性膿痂疹は正解だ。一方で、厚い痂皮が主体の痂皮性膿痂疹は主にA群β溶血性レンサ球菌によるもので、機序が違う点は押さえておこう。
医学生医学生
同じ毒素が全身に回ったらどうなるんでしょう。
ドクタードクター
それがブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群、SSSSだ。鼻腔、咽頭、結膜、臍などの感染巣で菌が毒素をつくり、それが血流に乗って全身の皮膚に届く。主に乳幼児にみられ、発熱とともに口囲や眼囲が赤くなって放射状の亀裂や痂皮ができ、全身に痛みを伴う紅斑が広がる。軽くこするだけで表皮がずれるNikolsky現象が陽性になる。
医学生医学生
全身の皮膚がはがれているのに、そこから菌が出てこないこともあるんですか。
ドクタードクター
そう、水疱やびらんの部分からは通常、菌は検出されない。遠くの感染巣で作られた毒素そのものが病変をつくっているからだ。まさに外毒素による皮膚病変の典型で、これも正解になる。ちなみに毒素の排泄が落ちている腎機能障害の成人にも、まれに起こる。
医学生医学生
では丹毒と蜂巣炎は、菌が組織の中で増えているほうですね。小児科の実習ではよく区別がつかなかったのですが、深さが違うんでしたっけ。
ドクタードクター
そうだね。丹毒は主にA群β溶血性レンサ球菌が真皮浅層で増殖する急性化膿性炎症で、顔面や下腿に境界明瞭で光沢のある鮮紅色の浮腫性紅斑が急に広がる。蜂巣炎は黄色ブドウ球菌やレンサ球菌が真皮深層から皮下脂肪組織に広がるもので、境界は不明瞭になる。どちらも菌の増殖による感染症で、外毒素が主体ではない。
医学生医学生
瘭疽も指先の化膿なので、同じく菌の増殖による感染症ですね。
ドクタードクター
正解。瘭疽は指趾の末節に、小さな傷などから黄色ブドウ球菌やレンサ球菌が入り込んで起こる化膿性炎症だ。ズキズキする強い痛みや膿瘍形成があり、進むと骨や腱鞘に及ぶこともある。これも外毒素の病変ではない。
医学生医学生
浅いほうから、膿痂疹は表皮、丹毒は真皮浅層、蜂巣炎は真皮深層から皮下、さらに深いと壊死性筋膜炎、という並びで覚えておきます。
ドクタードクター
いい整理だね。発展として、SSSSと中毒性表皮壊死症、TENの鑑別は臨床で必ず問われる。SSSSは乳幼児に多く、裂ける位置は顆粒層付近と浅く、粘膜病変はほとんどない。TENは主に薬剤が原因で、表皮全層が壊死し、粘膜病変を高頻度に伴って死亡率も高い。
医学生医学生
SSSSで粘膜がやられにくいのは、粘膜にはデスモグレイン1が少ないからですか。
ドクタードクター
その通り。粘膜ではデスモグレイン3が多く、接着を補っているから毒素でははがれにくい。皮膚がはがれていて粘膜が無事ならSSSSを、粘膜までただれていれば薬剤性のTENを、とまず考える。ほかにもTSST-1によるトキシックショック症候群や、レンサ球菌の発赤毒素による猩紅熱など、外毒素が皮膚に表れる病気はいろいろあるから、あわせて整理しておこう。

まとめ

細菌による皮膚病変は、菌が組織内で増殖して炎症を起こすものと、菌が産生する外毒素が病変の主体となるものに分けて考えると整理しやすい。黄色ブドウ球菌の表皮剝脱毒素は表皮上層のデスモグレイン1を切断して浅い水疱をつくり、局所で作用すれば水疱性の伝染性膿痂疹、感染巣から血行性に全身へ及べばブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)となる。SSSSは乳幼児に多く、Nikolsky現象陽性で粘膜病変はほぼなく、病変部から菌は通常検出されない点が、薬剤性で粘膜病変を伴い表皮全層が壊死するTENとの鑑別に役立つ。一方、丹毒・蜂巣炎・瘭疽は菌の組織内増殖による化膿性炎症であり、病変の深さや部位の違いで区別する。「菌が来ているのか、毒が来ているのか」という視点は、皮膚感染症の病態理解と、全身管理や鑑別診断の判断に直結する。

解答・解説

正解はc, eです

細菌による皮膚病変は、大きく「菌そのものが組織内で増殖し炎症を起こすもの」と「菌が産生する外毒素(菌体外に分泌されるタンパク質毒素)が病変の主体となるもの」に分けて考えると整理しやすい。 外毒素による皮膚病変の代表は、黄色ブドウ球菌が産生する表皮剝脱毒素(exfoliative toxin:ET)によるものである。ETはセリンプロテアーゼの一種で、表皮の細胞同士を接着するデスモソームの構成タンパク質であるデスモグレイン1を切断する。デスモグレイン1は表皮の上層(顆粒層付近)に多く発現しているため、表皮の浅い部分で細胞間の接着が失われ、薄く破れやすい水疱や表皮剝離が生じる。 ・毒素が感染局所で作用すると、水疱性の伝染性膿痂疹(とびひ)となる。 ・鼻腔・咽頭・結膜・臍などの感染巣で産生された毒素が血流に乗って全身の皮膚に及ぶと、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)となる。 一方、丹毒・蜂巣炎・瘭疽は、細菌が真皮・皮下組織・指趾末節などに侵入して増殖し、化膿性・蜂巣状の炎症を起こす感染症であり、病変の主体は外毒素ではない。したがって、正解は伝染性膿痂疹とブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群である。

選択肢考察

  1. ×a.  丹毒

    丹毒は主にA群β溶血性レンサ球菌(化膿レンサ球菌)が真皮浅層に感染して起こる急性化膿性炎症である。顔面や下腿に、境界が明瞭で光沢のある鮮紅色の浮腫性紅斑が急速に拡大し、発熱や局所の熱感・疼痛を伴う。菌が真皮で増殖することによる感染症であり、外毒素が主体となる病変ではないため誤りである。

  2. ×b.  瘭疽

    瘭疽は指趾の末節(爪の周囲や指腹)に生じる急性化膿性炎症で、主に黄色ブドウ球菌やレンサ球菌が小外傷などから侵入して起こる。爪囲の発赤・腫脹、拍動性の強い疼痛、膿瘍形成を来し、進行すると骨や腱鞘に波及することもある。菌の組織内増殖による化膿性感染症であり、外毒素による病変ではないため誤りである。

  3. ○c.  伝染性膿痂疹

    伝染性膿痂疹(とびひ)のうち、小児に多い水疱性膿痂疹は黄色ブドウ球菌が原因である。菌が産生する表皮剝脱毒素が感染局所でデスモグレイン1を切断するため、表皮の浅い層(角層下〜顆粒層)に弛緩性の水疱が生じ、破れてびらん・痂皮となる。病変形成に外毒素が直接関わっており、正しい。なお、厚い痂皮を主体とする痂皮性膿痂疹は主にA群β溶血性レンサ球菌によるもので、機序が異なる点も押さえておく。

  4. ×d.  蜂巣炎〈蜂窩織炎〉

    蜂巣炎は真皮深層から皮下脂肪組織にかけてのびまん性の化膿性炎症で、主に黄色ブドウ球菌やレンサ球菌が小外傷・足白癬などの皮膚バリアの破綻部から侵入して起こる。境界が不明瞭な発赤・腫脹・熱感・圧痛が広がり、発熱などの全身症状を伴うことが多い。菌が組織内で増殖して起こる感染症であり、外毒素による病変ではないため誤りである。

  5. ○e.  ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群

    ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)は、主に乳幼児にみられる。鼻腔・咽頭・結膜・臍などの感染巣で増殖した黄色ブドウ球菌が表皮剝脱毒素を産生し、それが血流を介して全身の皮膚に到達して、表皮上層のデスモグレイン1を切断する。発熱とともに口囲・眼囲の発赤と放射状の亀裂・痂皮が現れ、全身に有痛性の紅斑が広がり、わずかな摩擦で表皮がずれて剝がれる(Nikolsky現象陽性)。水疱・びらん部から菌は通常検出されず、病変は外毒素そのものによって生じるので、正しい。毒素の排泄が低下している腎機能障害のある成人にもまれに発症する。

表皮剝脱毒素とデスモグレイン

・表皮剝脱毒素(ETA、ETBなど)はデスモグレイン1だけを特異的に切断する。 ・デスモグレイン1は表皮上層に、デスモグレイン3は表皮下層と粘膜に多い。粘膜ではデスモグレイン3が接着を補うため、SSSSや水疱性膿痂疹では粘膜病変がほとんどみられない。 ・同じくデスモグレイン1が標的となる自己免疫疾患に落葉状天疱瘡があり、表皮の浅い部分で裂隙ができる点が共通している。

SSSSと中毒性表皮壊死症(TEN)の鑑別

・SSSS:乳幼児に多い。表皮剝離の部位は顆粒層付近(浅い)。粘膜病変はほぼない。原因は黄色ブドウ球菌の外毒素。抗菌薬で治療し、予後は小児では良好である。 ・TEN:主に薬剤が原因。表皮全層の壊死(深い)。粘膜病変を高頻度に伴う。死亡率が高い。

その他の外毒素が関わる皮膚・全身病変

・毒素性ショック症候群(TSS):黄色ブドウ球菌のTSST-1などのスーパー抗原による。発熱、びまん性紅斑、低血圧、回復期の落屑。 ・猩紅熱:A群β溶血性レンサ球菌の発赤毒素による。びまん性の紅斑、いちご舌、回復期の落屑。 ・レンサ球菌性毒素性ショック症候群:A群β溶血性レンサ球菌による劇症型感染症で、壊死性筋膜炎を伴うことがある。

細菌の組織内増殖による皮膚感染症の深さ

伝染性膿痂疹(表皮)< 丹毒(真皮浅層)< 蜂巣炎(真皮深層〜皮下組織)< 壊死性筋膜炎(筋膜)。瘭疽は指趾末節の化膿性炎症である。

POINT

・黄色ブドウ球菌の表皮剝脱毒素はデスモグレイン1を切断し、表皮上層に水疱をつくる ・毒素が局所で作用すると水疱性膿痂疹、血行性に全身の皮膚に及ぶとSSSS ・SSSSは乳幼児に多く、Nikolsky現象陽性、粘膜病変はほぼなく、病変部から菌は通常検出されない ・丹毒・蜂巣炎・瘭疽は菌の組織内増殖による化膿性炎症で、外毒素が主体の病変ではない ・痂皮性膿痂疹は主にA群β溶血性レンサ球菌による

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。