診断に行き詰まったら頭からつま先まで―不明熱を解く鍵はシステムレビュー
第101回医師国家試験 D問題 第6問
国試問題にチャレンジ
65歳の女性。発熱と全身倦怠感とを主訴に来院した。3週前からしばしば38℃台の発熱を繰り返していた。1週前に来院し診察といくつかの検査とを行ったが,診断が確定しないため入院した。喫煙10本/日を40年間。常用薬はない。既往歴と家族歴とに特記すべきことはない。 医療面接においてさらに行うのはどれか。
- a.輸血歴の聴取
- b.飲酒歴の聴取
- c.閉経時期の聴取
- d.禁煙意欲の確認
- e.システムレビュー
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
3週間以上続く38℃台の発熱が一定の精査でも診断に至らない場合は不明熱であり、感染症・悪性腫瘍・膠原病や血管炎などの非感染性炎症性疾患が主な原因群です。主訴・既往歴・家族歴・生活歴などを聴取しても手がかりがないときは、臓器系統ごとに症状を網羅的に確認するシステムレビューを行い、患者が自発的に訴えない症状や聞き漏らしを拾い上げます。顎跛行や頭痛から巨細胞性動脈炎、寝汗や体重減少から結核や悪性リンパ腫、血尿から腎細胞癌といったように、拾った一つの症状が次の精査の方向を決めます。輸血歴や飲酒歴、閉経時期は診断への寄与が小さく、禁煙意欲の確認は予防的介入であって診断のための情報収集とは目的が異なります。診断に行き詰まったときこそ系統的な病歴聴取と身体診察に立ち返る姿勢は、あらゆる診療科で通用する臨床推論の基本です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
65歳の女性が発熱と全身倦怠感を訴えている。3週前から38℃台の発熱を繰り返し、1週前の外来での診察と検査では診断がつかず入院となった。喫煙歴は10本/日×40年(ブリンクマン指数400)で、常用薬はなく、既往歴・家族歴にも特記事項はない。
臨床的な位置づけ
3週間以上続く38℃台の発熱で、一定の精査でも原因が判明しない状態は、不明熱(fever of unknown origin:FUO)に相当する。不明熱の原因は大きく、感染症(結核、感染性心内膜炎、深部膿瘍など)、悪性腫瘍(悪性リンパ腫、腎細胞癌、固形癌の転移など)、非感染性炎症性疾患(成人Still病、リウマチ性多発筋痛症・巨細胞性動脈炎、血管炎など)、その他(薬剤熱、詐熱など)に分けられる。高齢で長期の喫煙歴がある本例では、悪性腫瘍や巨細胞性動脈炎なども念頭に置く必要がある。
医療面接で何が残っているか
すでに主訴、現病歴、既往歴、家族歴、嗜好(喫煙)、常用薬は聴取されている。それでも手がかりが得られていない以上、患者自身が主訴と関係ないと考えて口にしていない症状を拾い上げる必要がある。そのための手法が、頭頸部・呼吸器・循環器・消化器・泌尿生殖器・筋骨格・皮膚・神経などの臓器系統ごとに症状の有無を網羅的に確認するシステムレビュー(review of systems:ROS)である。例えば、頭痛やあごの疲れ(顎跛行)があれば巨細胞性動脈炎を、寝汗や体重減少があれば結核や悪性リンパ腫を、肉眼的血尿や側腹部痛があれば腎細胞癌を、背部痛があれば化膿性脊椎炎を疑う契機となる。診断の絞り込みに行き詰まったときこそ、系統的な情報収集に立ち返ることが重要である。
選択肢考察
- ×a. 輸血歴の聴取
輸血歴は既往歴の一部として、B型・C型肝炎やHIVなどの輸血関連感染症を考える際に意味をもつ。しかし本例ではすでに既往歴に特記事項なしとされており、輸血歴単独の聴取で不明熱の原因に迫れる可能性は低い。聴取して悪いわけではないが、ここで優先して「さらに行う」べき項目とはいえない。
- ×b. 飲酒歴の聴取
飲酒歴は生活歴として通常聴取する項目であり、アルコール性肝障害などの評価に役立つ。しかし、飲酒歴そのものが3週間続く発熱の原因を絞り込む手がかりになることは少なく、単独で診断に結びつく可能性は低い。優先度は高くない。
- ×c. 閉経時期の聴取
閉経時期は女性の月経・生殖歴として聴取される情報で、骨粗鬆症や婦人科疾患のリスク評価などに関わる。65歳の女性の不明熱の診断に直接役立つ情報とはいえず、ここで優先すべき項目ではない。
- ×d. 禁煙意欲の確認
禁煙意欲の確認は禁煙指導(行動変容の段階の評価など)のために重要であるが、健康増進・予防のための介入であり、現在の発熱の原因を明らかにするための情報収集ではない。診断が確定していない現段階で医療面接として優先することではない。喫煙歴自体は肺癌などのリスク因子として診断上考慮すべきだが、それはすでに聴取済みである。
- ○e. システムレビュー
システムレビューは、全身を臓器系統ごとに区切り、各系統の症状の有無をもれなく確認する問診技法である。患者が重要でないと思って話していない症状や、医師が聞き落としていた症状を拾い上げることができる。外来での診察・検査で診断がつかない不明熱では、原因疾患が多岐にわたるため、この網羅的な聴取によって新たな手がかり(寝汗、体重減少、頭痛、関節痛、皮疹、血尿など)を得ることが診断の糸口となる。
医療面接で聴取する主な項目
・主訴、現病歴 ・既往歴(手術歴、輸血歴、アレルギー歴、服薬歴を含む) ・家族歴 ・社会歴・生活歴(職業、喫煙、飲酒、旅行歴、動物との接触、性交渉歴など) ・女性では月経・妊娠・出産歴 ・システムレビュー(ROS)
システムレビューで確認する系統の例
全身(発熱、体重変化、寝汗、倦怠感)、皮膚(皮疹、瘙痒)、頭頸部(頭痛、視力障害、咽頭痛、リンパ節腫脹)、呼吸器(咳、痰、血痰、呼吸困難)、循環器(胸痛、動悸、浮腫)、消化器(腹痛、下痢、血便、黄疸)、泌尿生殖器(排尿痛、血尿、不正出血)、筋骨格(関節痛、筋肉痛、腰背部痛)、神経(しびれ、麻痺、意識障害)、精神(抑うつ、不眠)など。
不明熱(FUO)
古典的定義(Petersdorf)では、38.3℃以上の発熱が何度も出現し、3週間以上持続し、1週間の入院精査でも診断がつかないものとされた。その後、入院に限らず一定の外来精査で診断がつかないものも含める改訂定義が用いられている。原因の主な内訳は、感染症、悪性腫瘍、非感染性炎症性疾患(膠原病・血管炎など)、その他(薬剤熱など)であり、最後まで原因不明にとどまる例も少なくない。診断の基本は、詳細な病歴聴取(システムレビュー、旅行歴、接触歴、薬剤歴)と繰り返しの身体診察である。
POINT
・既往歴・家族歴・生活歴を聴取しても診断がつかないときは、システムレビューで全身の症状を系統的に拾い上げる。 ・システムレビューは患者が自発的に訴えない症状や聞き漏らしを補う問診技法である。 ・3週間以上続く原因不明の38℃台の発熱は不明熱であり、感染症・悪性腫瘍・膠原病/血管炎が三大原因群である。 ・禁煙意欲の確認は予防的介入であり、診断のための情報収集とは目的が異なる。
