StudyMed医師国家試験

頭痛と嘔吐の裏に潜む眼の緊急事態―急性緑内障発作は「まず眼圧を下げる」

第101回医師国家試験 D問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第101回 D問題 第24問

63歳の女性。頭痛,嘔気および右眼の霧視と充血とを主訴に来院した。処置をして2時間後に症状の改善が得られた後,レーザーを用いて再発予防手術を行った。術後の右前眼部写真を別に示す。 初診時に行った処置はどれか。

第101回 D問題 第24問の問題画像
  1. a.抗菌薬点眼
  2. b.散瞳薬点眼
  3. c.β遮断薬経口投与
  4. d.浸透圧利尿薬点滴
  5. e.副腎皮質ステロイド点滴

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、頭痛・嘔気と片眼の霧視・充血という組み合わせから疾患を見抜き、初診時の処置を選ぶ問題だ。ヒントは2つ。症状の組み合わせと、術後の前眼部写真に写っている「レーザーで行った再発予防手術」の痕跡だね。
医学生医学生
頭痛と嘔気だけ聞くと、くも膜下出血とか脳の病気を先に考えてしまいそうです。
ドクタードクター
実はそれがこの病気の怖いところなんだ。中高年女性の片眼に急な霧視と充血、そこに頭痛と悪心・嘔吐がそろったら、まず急性原発閉塞隅角緑内障、いわゆる急性緑内障発作を考える。眼圧の急上昇で三叉神経や迷走神経の反射が起き、頭痛や嘔吐が前面に出るから、脳外科や消化器の病気と間違われやすい。
医学生医学生
霧視は、角膜がむくむからでしたっけ。
ドクタードクター
そう、高眼圧で角膜浮腫が起きて、かすんだり、光の周りに虹の輪が見える虹視症が出たりする。では写真を見てみよう。瞳孔は正円で、上方の虹彩周辺部に小さな黒い孔が開いている。これは何の痕だと思う?
医学生医学生
レーザー虹彩切開術の孔ですね。眼科の講義で、房水のバイパスを作る手術だと習いました。
ドクタードクター
正解。房水は毛様体でつくられ、後房から瞳孔を通って前房に出て、隅角から排出される。前房が浅い眼では瞳孔縁で虹彩と水晶体が密着して、房水が前房へ流れにくくなる。これが瞳孔ブロックで、後房の圧が上がって周辺の虹彩が前に膨らみ、隅角をふさいでしまう。虹彩に孔を開ければ、房水が瞳孔を通らずに前房へ抜けられる。
医学生医学生
この手術をしたということは、やはり急性緑内障発作だった、と裏づけられるわけですね。でも、来院してすぐレーザーをしないのはなぜですか。
ドクタードクター
発作の最中は角膜がむくんで濁っているし、虹彩も高眼圧で虚血に陥っているから、レーザーがうまく当たらないんだ。だからまず薬で眼圧を一気に下げて角膜の透明性を取り戻し、それからレーザーを行う。問題文の「処置をして2時間後に改善し、その後レーザー」という流れはまさにこれだ。
医学生医学生
薬で急速に下げる……となると、浸透圧利尿薬の点滴でしょうか。
ドクタードクター
その通り。マンニトールやグリセリンを点滴すると血漿浸透圧が上がって、主に硝子体から水分が血管内へ引き出される。硝子体の容積が減ると水晶体と虹彩が後ろに下がって隅角が開きやすくなり、眼圧が速やかに下がる。効果はおおむね30〜60分で最大になり、数時間で弱まるから、その間にレーザーにつなげるんだ。
医学生医学生
散瞳薬はどうでしょう。瞳孔を広げれば、虹彩と水晶体のくっつきが外れそうな気もしますが。
ドクタードクター
そこは逆なんだ。散瞳すると周辺の虹彩が厚くなって隅角側に寄り、閉塞がむしろ悪化する。暗い場所や散瞳作用のある薬が発作の誘因になるくらいだから、発作時に散瞳薬は禁忌。使うのは反対の縮瞳薬、ピロカルピン点眼だよ。
医学生医学生
CBTの勉強で「抗コリン薬は緑内障に禁忌」と覚えたのは、この散瞳作用のせいなんですね。β遮断薬は緑内障の薬だった気がしますが。
ドクタードクター
β遮断薬は房水産生を抑える薬として、チモロールなどの点眼で使う。経口で眼圧下降を狙う使い方はしないから、選択肢としては不適切だね。点眼でも全身に吸収されるので、喘息や徐脈の患者では注意が必要だ。
医学生医学生
抗菌薬点眼とステロイド点滴は、充血を感染や炎症と見誤った選択肢ですね。
ドクタードクター
そう。本態は隅角閉塞による房水の流出障害で、感染でも炎症性疾患でもない。どちらも眼圧は下がらない。ステロイド点眼はレーザー後の虹彩炎などに補助的に使うことはあるけれど、初期治療の主役ではないよ。発展として押さえておきたいのは、初期の薬物治療はほかにアセタゾラミドの静注・内服や房水産生抑制の点眼も組み合わせること。そして根本治療としては、レーザー虹彩切開術のほか、最近は水晶体再建術、つまり白内障手術で厚くなった水晶体を薄い眼内レンズに替え、前房を深くする方法が選ばれる場面も増えている。
医学生医学生
反対の眼はどうするんですか。
ドクタードクター
大事な視点だね。僚眼も同じように前房が浅いことが多く、発作の危険が高いから、予防的なレーザー虹彩切開術などを検討する。それから、頭痛と嘔吐で救急外来に来た人の眼が赤くてかすんでいたら、一度は眼圧を疑う習慣をつけておこう。

まとめ

中高年女性の片眼に急な霧視・充血が生じ、頭痛や悪心・嘔吐を伴う場合は、急性原発閉塞隅角緑内障(急性緑内障発作)を疑います。発作時は角膜浮腫と虹彩の虚血でレーザーが困難なため、まずマンニトールやグリセリンなどの高浸透圧薬点滴、アセタゾラミド、ピロカルピン点眼などで眼圧を急速に下げ、その後レーザー虹彩切開術(または水晶体再建術)で瞳孔ブロックを解除して再発を防ぎます。散瞳薬や抗コリン作用をもつ薬は発作を誘発するため禁忌であり、β遮断薬は点眼で用い、抗菌薬やステロイドは眼圧を下げる処置になりません。僚眼にも発作のリスクがあるため予防的治療を検討します。頭痛・嘔吐という全身症状の陰に隠れた眼の緊急疾患を見逃さないことは、救急外来でも重要な臨床判断です。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・63歳の女性。頭痛・嘔気という全身症状に加え、右眼の霧視(かすみ)と充血が急に出現している。 ・初診時の処置により2時間後に症状が改善し、その後レーザーによる「再発予防手術」を行っている。 ・術後の前眼部写真では、瞳孔は正円で、上方の虹彩周辺部に小さな黒い孔(切開孔)が認められる。これはレーザー虹彩切開術(LI:laser iridotomy)で作られた孔である。

診断へのプロセス

中高年女性の片眼に、急激な霧視・充血と、頭痛・悪心嘔吐がそろう場合、まず急性原発閉塞隅角緑内障(いわゆる急性緑内障発作)を考える。虹彩が前方へ押し出されて隅角(房水の出口)がふさがり、眼圧が急上昇(しばしば40〜60 mmHg以上)する病態である。高眼圧による角膜浮腫で霧視や虹視症(光の周りに虹の輪が見える)が生じ、三叉神経・迷走神経反射により頭痛や嘔吐をきたす。このため頭蓋内疾患や消化器疾患と誤診されやすい。 レーザー虹彩切開術は、虹彩に孔を開けて後房から前房への房水の抜け道(バイパス)を作り、瞳孔ブロックを解除して隅角閉塞の再発を防ぐ手術である。術後写真で虹彩に孔があることからも、急性緑内障発作であったことが裏づけられる。

設問の考え方

急性緑内障発作では、視神経障害や角膜内皮障害が不可逆になる前に、ただちに眼圧を下げることが最優先である。しかし発作時は角膜浮腫や高眼圧による虹彩の虚血のため、すぐにレーザーを行うことは難しい。そこで、まず薬物で眼圧を下げ角膜の透明性を回復させてから、根本治療・再発予防としてレーザー虹彩切開術を行う。 初診時の薬物治療の中心は、①高浸透圧薬(マンニトールやグリセリンの点滴)、②炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミドの静注・内服)、③縮瞳薬(ピロカルピン点眼)、④房水産生を抑える点眼薬(β遮断薬など)である。選択肢の中では浸透圧利尿薬の点滴がこれに該当する。

選択肢考察

  1. ×a.  抗菌薬点眼

    充血はみられるが、本例は細菌性結膜炎や角膜炎などの感染症ではなく、隅角閉塞による眼圧上昇が原因である。抗菌薬点眼では眼圧は下がらず、発作は改善しない。

  2. ×b.  散瞳薬点眼

    散瞳すると周辺部の虹彩が厚くなって隅角側へ寄り、隅角閉塞をさらに悪化させる。散瞳は閉塞隅角緑内障の発作の誘因そのものであり、発作時には禁忌である。発作時に用いるのは逆に縮瞳薬(ピロカルピン)で、虹彩を瞳孔側へ引っ張って隅角を開かせる効果を期待する。

  3. ×c.  β遮断薬経口投与

    β遮断薬は毛様体での房水産生を抑えて眼圧を下げる薬として、緑内障治療では点眼薬(チモロールなど)として用いる。経口投与は眼圧下降を目的とした方法ではなく、急性発作の治療として行わない。なお、β遮断薬は点眼でも全身に吸収されるため、気管支喘息や徐脈・心不全のある患者では注意が必要である。

  4. ○d.  浸透圧利尿薬点滴

    マンニトール(D-マンニトール)やグリセリン(濃グリセリン・果糖液)などの高浸透圧薬を点滴すると、血漿浸透圧が上昇し、眼内(主に硝子体)の水分が血管内へ引き出される。硝子体の容積が減ると水晶体・虹彩が後方へ下がって隅角が開きやすくなり、眼圧が急速に下がる(点滴開始後おおむね30〜60分で効果が最大となる)。効果は数時間で減弱するため、眼圧が下がり角膜の透明性が戻った間にレーザー虹彩切開術を行う。本例の「処置をして2時間後に症状が改善し、その後レーザー手術を行った」という経過に合致する。

  5. ×e.  副腎皮質ステロイド点滴

    急性緑内障発作の本態は隅角閉塞による房水の流出障害であり、炎症性疾患ではない。副腎皮質ステロイドの全身投与では眼圧は下がらない。なお、発作後やレーザー虹彩切開術後の眼内炎症(虹彩炎)に対してステロイド点眼を補助的に用いることはあるが、初診時に眼圧を下げる処置としては不適切である。

原発閉塞隅角緑内障の病態

房水は毛様体で産生され、後房から瞳孔を通って前房へ流れ、隅角(線維柱帯)からSchlemm管を経て眼外へ排出される。遠視眼・高齢・女性・加齢による水晶体の厚みの増加などで前房が浅いと、瞳孔縁で虹彩と水晶体が密着して房水が前房へ流れにくくなる(相対的瞳孔ブロック)。すると後房圧が上がって周辺部の虹彩が前方へ膨らみ(膨隆虹彩)、隅角をふさいで眼圧が急上昇する。 発作の誘因として、暗所(散瞳)、うつむき姿勢、精神的ストレス、散瞳作用のある薬剤(抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、一部の感冒薬・抗不安薬など)が知られる。

急性緑内障発作の所見

・自覚症状:急激な眼痛・頭痛、悪心・嘔吐、霧視、虹視症。 ・他覚所見:毛様充血を含む強い充血、角膜浮腫、浅前房、中等度散瞳した対光反射の消失・減弱した瞳孔、著明な眼圧上昇。眼球を触ると硬い。

急性発作の治療の流れ

1.薬物による眼圧下降 ・高浸透圧薬点滴:D-マンニトール、濃グリセリン。心不全・腎不全の患者では循環血漿量の増加に注意し、グリセリンは糖を含むため糖尿病患者で注意する。 ・炭酸脱水酵素阻害薬:アセタゾラミドの静注・内服で房水産生を抑える。副作用に低カリウム血症、代謝性アシドーシス、手足のしびれなど。 ・縮瞳薬:ピロカルピン点眼。ただし眼圧が非常に高いと瞳孔括約筋が虚血で反応しにくいため、ある程度眼圧が下がってから効果が出やすい。 ・房水産生抑制の点眼:β遮断薬、α2作動薬、炭酸脱水酵素阻害薬点眼など。 2.根本治療・再発予防 ・レーザー虹彩切開術:虹彩周辺部(通常は上眼瞼に隠れる上方)に小孔を開け、房水の迂回路を作って瞳孔ブロックを解除する。 ・周辺虹彩切除術(観血的手術):角膜混濁でレーザーが困難な場合など。 ・水晶体再建術(白内障手術):厚くなった水晶体を薄い眼内レンズに置き換えて前房を深くし、隅角を開く。レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症(角膜内皮障害)が問題となったこともあり、近年は第一選択として選ばれる場面が増えている。 3.僚眼(反対側の眼)への対応 他眼も同様に浅前房であることが多く、発作を起こす危険が高いため、予防的なレーザー虹彩切開術などが検討される。

POINT

・中高年女性の片眼の急な霧視・充血+頭痛・嘔吐は急性緑内障発作(急性原発閉塞隅角緑内障)を疑う。 ・初期治療は薬物で眼圧を急速に下げる:高浸透圧薬点滴(マンニトール・グリセリン)、アセタゾラミド、ピロカルピン点眼、房水産生抑制点眼。 ・眼圧が下がったらレーザー虹彩切開術(または水晶体再建術)で瞳孔ブロックを解除し再発を防ぐ。 ・散瞳薬や抗コリン作用をもつ薬は閉塞隅角緑内障の発作を誘発するため禁忌。 ・β遮断薬は緑内障では点眼で用いる。ステロイドは発作治療の主役ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。