「死んでもいや」の真意はどこに―同意済みの手術を当日拒まれたとき、担当医が最初にすべきこと
第101回医師国家試験 C問題 第6問
国試問題にチャレンジ
成人患者が手術の当日に「手術は死んでもいやです」と担当看護師に訴えている旨の報告を受けた。既に,手術について説明し同意は得られている。 担当医の対応として適切なのはどれか。
- a.予定どおり手術を行う。
- b.手術以外の治療法を考える。
- c.ほかの病院への転院を勧める。
- d.患者の説得を家族に依頼する。
- e.患者から直接話を聴いてから判断する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
インフォームド・コンセントは一度得れば確定するものではなく、患者は処置の前であればいつでも同意を撤回できます。同意済みの手術を当日拒否していると看護師から伝え聞いた場合、担当医はまず自ら患者のもとへ行き、拒否の理由と真意を直接聴くことが最優先です。不安や誤解であれば再説明や不安への対処で解決できることがあり、判断能力のある成人が十分な説明のうえで拒否するなら、その意思を尊重して代替治療を提示し、診療を継続します。本人の意思確認を飛ばした手術の強行、治療方針の独断変更、転院勧奨、家族への説得依頼はいずれも不適切です。傾聴、意思決定能力の評価、再説明、記録という一連の流れは、あらゆる治療拒否の場面に応用できる臨床の基本姿勢です。
解答・解説
正解はeです
本問は、事前に同意を得ていた手術を、当日になって患者が拒否していると伝え聞いたときの担当医の初期対応を問う問題である。
状況の整理
・患者は成人であり、原則として自分で医療上の意思決定をする能力を持つと推定される。 ・手術の説明と同意(インフォームド・コンセント)は既に得られている。 ・しかし手術当日、看護師に「手術は死んでもいやです」と訴えている。担当医はこれを看護師からの報告という形で間接的に聞いたにすぎない。
考え方
インフォームド・コンセントは一度同意書に署名すれば確定するものではなく、患者はいつでも同意を撤回できる。したがって、同意書があることを理由に手術を強行することはできない。一方で、この訴えが本当に手術そのものの拒否なのか、手術への強い不安や恐怖の表出なのか、説明の誤解や新たな疑問によるものなのか、あるいは家族関係・経済的事情などの別の要因によるものなのかは、伝聞だけでは判断できない。 そこで最初に行うべきは、担当医自身が患者のもとへ行き、直接話を聴いて拒否の理由と本人の真意を確認することである。そのうえで、不安の軽減や再説明で納得が得られれば手術を行い、なお拒否の意思が明確であれば手術を中止し、代替治療を含めて改めて相談する。他の対応はいずれも、この「本人の意思確認」を飛ばしている点で最初の対応としては不適切である。
選択肢考察
- ×a. 予定どおり手術を行う。
不適切である。同意は手術開始までいつでも撤回でき、事前に同意書があっても、撤回の可能性がある状態で手術を強行すれば患者の自己決定権を侵害する。判断能力のある成人に対し、本人の意思に反して侵襲的な処置を行うことは、倫理的にも法的にも許されない(同意のない手術は違法な侵襲とみなされうる)。まず本人の意思を確認することが先決である。
- ×b. 手術以外の治療法を考える。
最初の対応としては不適切である。拒否の理由が不明な段階で、医師が一方的に治療方針を変更するのは早計である。訴えの内容が一時的な不安や誤解によるものであれば、再説明によって手術を受ける意思が確認される可能性もある。話を聴いた結果、本人が手術を望まないと確認された場合には、代替治療を提示して改めて本人に選択してもらうことになる。つまり、代替治療の検討は意思確認の後の段階で行うものである。
- ×c. ほかの病院への転院を勧める。
不適切である。手術を拒否したことを理由に転院を勧めるのは、患者を見放すことに等しく、診療を継続する医師の責務に反する。患者が院内の規則に著しく違反する場合などには転院や退院を勧めることもありうるが、本例はそれに当たらない。仮に最終的に手術を行わないことになっても、担当医は他の治療法を含めて最善の医療を提供し続けるべきである。
- ×d. 患者の説得を家族に依頼する。
最初の対応としては不適切である。患者は判断能力のある成人であり、意思決定の主体は本人である。本人と話をする前に家族に説得を任せるのは、医師の説明責任を家族に転嫁することになり、本人の意思を軽視することにもなる。本人の同意のもとで家族に同席してもらい、一緒に話し合うことはありうるが、それも担当医が本人から直接話を聴いた後の選択肢である。
- ○e. 患者から直接話を聴いてから判断する。
適切である。担当医は看護師からの報告で間接的に訴えを知ったにすぎず、拒否の理由や本人の真意は不明である。担当医が自ら患者と向き合い、何が不安なのか、どのような理由で手術を拒むのかを傾聴することで、誤解の解消や不安への対処、必要に応じた再説明が可能になる。そのうえで本人の意思を再確認し、手術を行うか否か、行わない場合にどの治療を選ぶかを本人とともに決定する。これが同意撤回の可能性に対する正しい初期対応である。
インフォームド・コンセントの要素
1. 情報の開示:病名・病状、検査や治療の目的・方法、期待される効果と危険性(合併症)、代替手段、治療を行わない場合の見通しを説明する。 2. 理解:患者が説明内容を理解している。 3. 判断能力:患者に意思決定能力がある。 4. 自発性:強制や不当な誘導がなく、自発的に決定している。 5. 同意(または拒否)。
同意の撤回
同意は処置の実施前であればいつでも撤回できる。撤回によって患者が診療上不利益な扱いを受けないことも保障されるべきであり、同意書にも「同意の撤回が可能である」旨を記載するのが一般的である。
治療拒否への対応の流れ
1. 本人から直接、拒否の理由を傾聴する(不安、誤解、痛みへの恐怖、費用、家庭の事情、宗教的理由など)。 2. 意思決定能力を評価する(せん妄や重度のうつ状態などで判断能力が損なわれていないか)。 3. 誤解があれば再説明し、不安には具体的に対応する。 4. それでも拒否が明確で判断能力があれば、その意思を尊重し、代替治療を提示する。 5. 経過と話し合いの内容を診療録に記載する。
チーム医療の視点
看護師は患者の本音を聞く機会が多い。看護師からの報告を受けた医師が速やかに対応し、情報を共有することが、患者中心の医療につながる。
POINT
・同意書があっても、患者は処置前ならいつでも同意を撤回できる。 ・手術拒否の訴えを伝聞で知ったら、まず担当医が本人から直接話を聴き、理由と真意を確認する。 ・本人の確認なしに、手術の強行、治療方針の独断変更、転院勧奨、家族への説得依頼を行うのは不適切である。 ・判断能力のある成人が十分な説明のうえで拒否すれば、その意思を尊重し、代替治療を提示して診療を継続する。
