StudyMed医師国家試験

「流し込めるか」で決まる―大腸内視鏡前処置、洗浄薬が使える腸と使えない腸

第101回医師国家試験 B問題 第91問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第91問

大腸内視鏡検査で経口腸管洗浄薬による前処置が可能なのはどれか。2つ選べ。

  1. a.大腸憩室性疾患
  2. b.中毒性巨大結腸症
  3. c.早期大腸癌
  4. d.腸閉塞
  5. e.消化管穿孔

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は大腸内視鏡検査の前処置、特に経口腸管洗浄薬を使ってよい病態を選ぶ問題だ。暗記で解こうとすると迷うけれど、「洗浄薬が腸の中で何をするのか」を考えれば自然に答えが出る。まず、洗浄薬がどう効くか説明できるかな。
医学生医学生
ポリエチレングリコールの入った液を2Lくらい飲んで、腸の中の便を洗い流すんですよね。消化器内科の実習で、患者さんが待合室で一生懸命飲んでいるのを見ました。
ドクタードクター
そう。大量の液体を一気に腸に送り込んで、内容物を肛門側へ押し出すわけだ。ということは、腸の中の圧が上がり、蠕動も強まる。そこから「どんな腸だと危ないか」を考えてみよう。
医学生医学生
出口が詰まっている腸だと、液体が溜まって破裂しそうです。
ドクタードクター
その通り。まず1つ目の危険は「通過障害」。腸閉塞では閉塞部より口側に洗浄液が貯留して腸管がさらに拡張し、穿孔したり、嘔吐から誤嚥を起こしたりする。だから腸閉塞やその疑いがある患者には禁忌なんだ。2つ目は何だと思う?
医学生医学生
もう穴が開いている場合でしょうか。消化管穿孔なら、流した液が腹腔に漏れてしまいます。
ドクタードクター
正解。穿孔では腸管内容がさらに腹腔内へ漏れ出し、腹膜炎を悪化させる。穿孔を疑ったら内視鏡ではなく、腹部単純X線やCTで遊離ガスを確認するのが先だね。そして3つ目が「壁が極端に薄く脆い腸」だ。
医学生医学生
中毒性巨大結腸症ですね。潰瘍性大腸炎の講義で、重症例の怖い合併症として習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。潰瘍性大腸炎の重症例や偽膜性腸炎などで結腸が著明に拡張し、発熱や頻脈といった全身中毒症状を伴う。壁は炎症で菲薄化していて、内圧を上げれば穿孔の引き金になる。洗浄薬は禁忌だし、内視鏡検査そのものも原則避ける。むしろ大腸内視鏡や注腸造影が誘因になりうる病態なんだ。
医学生医学生
では、大腸憩室はどうでしょう。壁が袋状に飛び出しているなら、そこが弱くて破れそうな気もします。
ドクタードクター
もっともな疑問だね。でも憩室症そのものは通過障害もないし、壁が破れているわけでもない。実際、大腸内視鏡で偶然憩室が見つかることはとても多くて、普通に前処置をして検査しているんだ。ただし、急性憩室炎の極期や憩室穿孔が疑われるときは、内視鏡も前処置も控える。炎症で狭窄している場合も慎重に判断する。
医学生医学生
病名だけで決めずに、今その腸が詰まっていないか、破れていないかを見るわけですね。早期大腸癌はどうですか。癌というだけで身構えてしまいますが。
ドクタードクター
早期大腸癌は浸潤が粘膜内か粘膜下層までにとどまり、腫瘍も小さいから、内腔を狭めることはほとんどない。通過障害がないので通常どおり前処置ができるし、EMRやESDといった内視鏡治療のときも同じ前処置を行う。だから正解は大腸憩室性疾患と早期大腸癌の2つだ。
医学生医学生
逆に、進行癌で狭窄が強いと危ないということですね。
ドクタードクター
そこが臨床で一番注意したい点だよ。狭窄を伴う進行大腸癌では、前処置中に腸閉塞や穿孔を起こした報告がある。だから洗浄薬を渡す前に、腹痛・嘔吐・腹部膨満・排便停止など腸閉塞を疑わせる症状がないかを必ず確認する。便が細い、何日も出ていないといった訴えも見逃さないことだ。
医学生医学生
OSCEの医療面接で排便習慣を聞く意味が、こういうところにもつながるんですね。
ドクタードクター
まさにそう。ほかにも、前日の低残渣食や就寝前の刺激性下剤を併用したり、PEG製剤以外にクエン酸マグネシウム製剤などの選択肢があったりする。PEG含有電解質液は等張で体液バランスへの影響が少ないのも利点だ。中毒性巨大結腸症については、腹部X線で横行結腸がおおむね6cmを超える拡張が目安で、低カリウム血症や抗コリン薬・オピオイドも誘因になると覚えておこう。
医学生医学生
「詰まっている」「破れている」「破れそう」の3つを除外する、と整理しておきます。
ドクタードクター
それで十分戦える。薬の作用を理解していれば、禁忌は丸暗記しなくても導けるんだ。

まとめ

経口腸管洗浄薬は大量の液体で腸管内容を押し流すため、腸管内圧の上昇が危険となる病態では禁忌です。具体的には、通過障害のある腸閉塞(疑いを含む)、すでに壁が破綻している消化管穿孔、壁が菲薄化し穿孔しやすい中毒性巨大結腸症が該当します。一方、通過障害も壁の破綻もない大腸憩室症や早期大腸癌では通常どおり前処置を行え、早期癌ではEMR・ESDの際にも同様です。ただし急性憩室炎・憩室穿孔の疑いや、高度狭窄を伴う進行癌では慎重な判断が必要で、投与前には腸閉塞症状の有無を必ず確認します。「腸が詰まっていないか・破れていないか・破れそうでないか」という視点は、前処置の安全管理全般に応用できる考え方です。

解答・解説

正解はa, cです

経口腸管洗浄薬とは

大腸内視鏡検査では、腸管内の便を完全に除去しないと粘膜を十分に観察できない。そのため検査前に、ポリエチレングリコール(PEG)含有電解質液などの経口腸管洗浄薬を約2Lほど短時間で飲ませ、腸管内を洗い流す(前処置)。この方法は、大量の液体を消化管内に送り込み、腸管内容を肛門側へ押し出すことで効果を発揮する。

禁忌の考え方

大量の液体が腸管内に流入すれば、腸管内圧が上昇し、蠕動も亢進する。したがって、次のような状態では重大な合併症を招くため投与してはならない。 ・腸管の通過が障害されている(腸閉塞、またはその疑い):洗浄液が閉塞部より口側に貯留し、腸管が過度に拡張して穿孔を起こしたり、嘔吐・誤嚥を誘発したりする。 ・腸管壁がすでに破綻している(消化管穿孔):腸管内容が腹腔内へさらに漏れ出し、腹膜炎を悪化させる。 ・腸管壁が極度に菲薄化・脆弱化している(中毒性巨大結腸症):内圧上昇が穿孔の引き金となる。

設問へのアプローチ

各選択肢について「通過障害があるか」「穿孔している、または穿孔しやすい状態か」を確認すればよい。これらに該当しない疾患、すなわち腸管の通過性が保たれ、腸管壁も健常に近い疾患では、通常どおり経口腸管洗浄薬による前処置を行って大腸内視鏡検査を実施できる。

選択肢考察

  1. ○a.  大腸憩室性疾患

    大腸憩室症(大腸壁の一部が袋状に外側へ突出した状態)そのものは通過障害を伴わず、腸管壁が破れているわけでもない。そのため経口腸管洗浄薬による前処置を行い、大腸内視鏡検査を実施できる。実際、大腸内視鏡検査で偶然憩室が見つかることは非常に多い。ただし、急性憩室炎の極期や憩室穿孔が疑われる場合には、内視鏡検査そのものを控え、前処置も行わない。高度の炎症による狭窄がある場合も注意を要するため、状態に応じて慎重に判断する。

  2. ×b.  中毒性巨大結腸症

    中毒性巨大結腸症は、潰瘍性大腸炎の重症例や偽膜性腸炎(Clostridioides difficile感染症)などで結腸が著明に拡張し、発熱・頻脈などの全身中毒症状を伴う病態である。腸管壁は炎症で脆弱化・菲薄化しており、蠕動も低下している。ここに大量の洗浄液を投与すると腸管内圧がさらに上昇し、穿孔を引き起こす危険が高いため禁忌である。本症では大腸内視鏡検査自体も原則として避ける。

  3. ○c.  早期大腸癌

    早期大腸癌は癌の浸潤が粘膜内または粘膜下層までにとどまるもので、腫瘍は小さく、腸管内腔を狭窄・閉塞させることはほとんどない。通過障害がないため、経口腸管洗浄薬による前処置を行って大腸内視鏡検査を施行でき、診断のみならず内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などの内視鏡治療を行う際にも同様の前処置が用いられる。なお、進行癌で高度の狭窄がある場合は腸閉塞のリスクがあり、前処置には注意を要する。

  4. ×d.  腸閉塞

    腸閉塞(イレウス)では腸管内容の通過が障害されている。経口腸管洗浄薬を投与すると、閉塞部より口側に大量の液体が貯留して腸管がさらに拡張し、腸管穿孔を引き起こすおそれがある。また嘔吐を誘発し、誤嚥性肺炎の原因にもなる。したがって腸閉塞およびその疑いのある患者には禁忌である。

  5. ×e.  消化管穿孔

    消化管穿孔ではすでに腸管壁に孔が開いている。ここに経口腸管洗浄薬を投与すると、洗浄液とともに腸管内容物が腹腔内へさらに漏出し、腹膜炎を増悪させる。したがって禁忌である。消化管穿孔が疑われる場合は、内視鏡検査ではなく腹部単純X線やCTで遊離ガスを確認し、外科的治療などを検討する。

大腸内視鏡検査の前処置

・経口腸管洗浄薬:PEG含有電解質液、アスコルビン酸含有PEG液、クエン酸マグネシウム製剤、リン酸ナトリウム錠などがある。PEG含有電解質液は等張で体液バランスへの影響が少ないのが特徴である。 ・前日の低残渣食、就寝前の刺激性下剤の内服などを併用することが多い。 ・腸管洗浄薬の投与前には、腹痛・嘔吐・腹部膨満・排便停止など腸閉塞を疑わせる症状がないかを必ず確認する。狭窄を伴う進行大腸癌などでは、前処置中の腸閉塞・穿孔の報告がある。

経口腸管洗浄薬の主な禁忌

・胃腸管閉塞症・腸閉塞またはその疑い ・腸管穿孔 ・中毒性巨大結腸症

中毒性巨大結腸症

・原因:潰瘍性大腸炎の重症例、偽膜性腸炎、感染性腸炎など ・所見:腹部X線で横行結腸径がおおむね6cmを超える拡張、発熱・頻脈・白血球増多などの全身中毒症状 ・誘因:低カリウム血症、抗コリン薬・オピオイドの使用、注腸造影や大腸内視鏡検査など ・治療:絶食、補液、原疾患の治療。改善しない場合や穿孔時は結腸全摘術を行う。

POINT

・経口腸管洗浄薬は大量の液体で腸管を洗い流すため、腸管内圧を上げると危険な病態では禁忌となる。 ・禁忌:腸閉塞(疑いを含む)、消化管穿孔、中毒性巨大結腸症。 ・通過障害のない大腸憩室症や早期大腸癌では通常どおり前処置が可能である(急性憩室炎・憩室穿孔、高度狭窄を伴う進行癌では注意)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。