StudyMed医師国家試験

音が語る弁の形―opening snapとクリックで読み解く心音・心雑音

第101回医師国家試験 B問題 第72問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第72問

組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.Ⅰ音亢進 ―― 心房中隔欠損症
  2. b.連続性雑音 ―― 三尖弁閉鎖不全症
  3. c.opening snap ―― 僧帽弁狭窄症
  4. d.収縮中期クリック ―― 僧帽弁逸脱症候群
  5. e.Austin Flint雑音 ―― 動脈管開存症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心音や心雑音と疾患の組合せを判断する問題だ。丸暗記で挑むと混乱しやすいけれど、「その音がどんな機序で、心周期のどのタイミングで生じるか」を考えれば、自然に答えが導けるよ。まずは基本から。Ⅰ音とⅡ音はそれぞれ何の音だったかな。
医学生医学生
Ⅰ音が房室弁の閉鎖音、Ⅱ音が大動脈弁と肺動脈弁の閉鎖音です。生理学の講義で心周期の図を何度も描かされました。
ドクタードクター
その通り。そしてⅠ音の大きさは、心室が収縮し始める瞬間に房室弁がどれだけ大きく開いているかで決まる。開いている弁が長い距離を勢いよく閉じるほど、大きな音になるんだ。では、Ⅰ音亢進と心房中隔欠損症の組合せはどう思う?
医学生医学生
心房中隔欠損症は右心系の容量負荷なので、三尖弁を通る血流が増えてⅠ音も大きくなるのかと思いました。
ドクタードクター
発想としては悪くないけれど、心房中隔欠損症で国試的に押さえるべき所見はⅠ音亢進ではなく、Ⅱ音の固定性分裂だ。呼吸しても分裂幅が変わらないのが特徴だね。加えて、肺血流増加による相対的肺動脈弁狭窄で肺動脈弁領域に収縮期駆出性雑音、短絡量が多ければ相対的三尖弁狭窄による拡張期ランブルも聴かれる。Ⅰ音亢進の代表はむしろ僧帽弁狭窄症なんだ。
医学生医学生
僧帽弁狭窄症では左房圧が高いので、拡張末期まで弁が大きく開いたまま収縮が始まるからですね。
ドクタードクター
そう、まさに今説明した機序どおりだ。そして僧帽弁狭窄症にはもう一つ大事な過剰心音がある。それがopening snapだ。リウマチ性変化などで肥厚・癒合した硬い弁尖が、拡張早期に開く瞬間に急に張って、高調で鋭い音を出す。Ⅱ音の直後に聴かれ、その後に低調な拡張期ランブルが続くよ。
医学生医学生
Ⅱ音からopening snapまでの間隔が短いほど重症、というのもCBTの問題集で見た気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。左房圧が高いほど弁が早く開くから、間隔は短くなる。ただし弁が高度に石灰化して動かなくなると、opening snapは逆に弱くなったり消えたりする点も知っておこう。というわけで、opening snapと僧帽弁狭窄症は正しい組合せだ。
医学生医学生
収縮中期クリックと僧帽弁逸脱症候群も、弁の形の異常から出る音ですか。
ドクタードクター
その通り。粘液腫様変性で弁尖や腱索が伸びると、収縮期に弁尖が左房側へ落ち込み、それがピンと張る瞬間にクリックが生じる。接合が不十分なら、クリックに続いて僧帽弁逆流による収縮後期雑音が聴かれる。これも正しい組合せだね。
医学生医学生
残りは連続性雑音と三尖弁閉鎖不全症ですが、逆流が続くなら連続性になりそうな気もします。
ドクタードクター
そこがよくある誤解だ。三尖弁の逆流は収縮期にしか起こらないから、汎収縮期雑音になる。吸気で静脈還流が増えて増強するRivero-Carvallo徴候が特徴だ。連続性雑音は、収縮期も拡張期も圧較差が保たれる短絡で生じる。代表が動脈管開存症で、第2肋間胸骨左縁の機械様雑音として有名だね。ほかにValsalva洞動脈瘤破裂、冠動脈瘻、動静脈瘻もある。
医学生医学生
ということは、Austin Flint雑音と動脈管開存症の組合せも誤りですね。Austin Flint雑音は大動脈弁閉鎖不全症だったと思います。
ドクタードクター
正解。大動脈から左室への逆流ジェットが僧帽弁前尖に当たって開放を妨げ、機能的な僧帽弁狭窄をつくる。だから心尖部で低調な拡張期ランブルが聴かれるんだ。弁そのものは正常なので、opening snapやⅠ音亢進を伴わないのが真の僧帽弁狭窄症との鑑別点になる。
医学生医学生
つまり、正しいのはopening snapと僧帽弁狭窄症、収縮中期クリックと僧帽弁逸脱症候群の2つですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、僧帽弁逸脱症のクリックは体位で動くことも覚えておこう。立位やValsalva法で左室容積が小さくなると逸脱が早く起こり、クリックはⅠ音側へ移動して雑音は長くなる。蹲踞で左室容積が増えると逆にクリックは遅れる。
医学生医学生
循環器内科の実習で、患者さんに立ったりしゃがんだりしてもらいながら聴診している先生がいました。あれはそういう意味だったんですね。
ドクタードクター
そう、聴診は負荷をかけて変化を見ることで情報量が一気に増える。心エコーが普及した今でも、聴診で異常に気づけるかどうかが検査につなげる第一歩になる。音の「時相」と「機序」をセットで理解しておけば、ベッドサイドでも迷わないよ。

まとめ

心音・心雑音は、心周期のどの時相に、どんな機序で生じるかを理解すると疾患との対応が整理しやすくなります。opening snapは肥厚・癒合した僧帽弁が拡張早期に開く音で僧帽弁狭窄症に特徴的であり、Ⅱ音との間隔が短いほど重症です。収縮中期クリックは逸脱した弁尖や腱索が急に張る音で僧帽弁逸脱症に見られ、立位やValsalva法でⅠ音側へ移動します。一方、Ⅰ音亢進の代表は僧帽弁狭窄症、心房中隔欠損症はⅡ音の固定性分裂、連続性雑音は動脈管開存症などの短絡性疾患、Austin Flint雑音は大動脈弁閉鎖不全症で聴かれる機能的な拡張期ランブルです。機序に基づく理解は、国試だけでなく日常の聴診で異常を拾い上げる力の土台になります。

解答・解説

正解はc, dです

心音・心雑音と疾患の対応を問う一般問題である。聴診所見は「いつ(収縮期か拡張期か、その中のどの時相か)」「どこで」「どんな性状で」聴こえるかを、その音が生じる機序と結びつけて理解しておくと、丸暗記に頼らず判断できる。

考え方

・Ⅰ音は房室弁(僧帽弁・三尖弁)の閉鎖音、Ⅱ音は半月弁(大動脈弁・肺動脈弁)の閉鎖音である。Ⅰ音の強さは、心室収縮が始まる瞬間に房室弁がどれだけ大きく開いているか(弁尖の移動距離)と弁の可動性、心室収縮力で決まる。 ・過剰心音のうち、拡張早期の「opening snap(僧帽弁開放音)」は硬くなった僧帽弁が開くときの音、収縮中期の「クリック」は逸脱した弁尖や腱索が急に張る音である。いずれも弁の形態異常を直接反映する。 ・連続性雑音は、収縮期と拡張期の両方を通じて高圧側から低圧側へ血流が続く短絡(動脈管開存症など)で生じる。弁逆流だけでは連続性雑音にはならない。 ・Austin Flint雑音は疾患名ではなく「どの疾患で聴かれる、どんな機序の雑音か」を押さえる必要がある。大動脈弁閉鎖不全症の逆流ジェットが僧帽弁前尖の開放を妨げて生じる、機能的な拡張期ランブルである。 以上から、組合せとして正しいのは「opening snap ―― 僧帽弁狭窄症」と「収縮中期クリック ―― 僧帽弁逸脱症候群」である。

選択肢考察

  1. ×a.  Ⅰ音亢進 ―― 心房中隔欠損症

    誤り。Ⅰ音亢進の代表は僧帽弁狭窄症である。狭窄により左房圧が高く、拡張末期まで僧帽弁が大きく開いたまま心室収縮を迎えるため、弁尖が長い距離を勢いよく閉じて大きな音になる。そのほか、PQ時間の短縮、頻脈、貧血・甲状腺機能亢進症・発熱・運動などの高心拍出状態でもⅠ音は亢進する。心房中隔欠損症(ASD)の特徴的な聴診所見は、Ⅰ音亢進ではなく、Ⅱ音の固定性分裂(呼吸で分裂幅が変わらない)、肺動脈弁領域の収縮期駆出性雑音(右室からの肺血流増加による相対的肺動脈弁狭窄)、短絡量が多い場合の三尖弁領域の拡張期ランブル(相対的三尖弁狭窄)である。

  2. ×b.  連続性雑音 ―― 三尖弁閉鎖不全症

    誤り。三尖弁閉鎖不全症では、収縮期に右室から右房へ血液が逆流するため、胸骨左縁下部で汎収縮期雑音が聴かれる。この雑音は吸気時に静脈還流が増えて増強する(Rivero-Carvallo徴候)のが特徴で、僧帽弁閉鎖不全症との鑑別に役立つ。一方、連続性雑音は収縮期から拡張期まで途切れずに続く雑音で、動脈管開存症(第2肋間胸骨左縁の機械様雑音)、Valsalva洞動脈瘤破裂、冠動脈瘻、動静脈瘻などの、収縮期・拡張期を通じて圧較差が保たれる短絡性疾患で聴かれる。

  3. ○c.  opening snap ―― 僧帽弁狭窄症

    正しい組合せである。僧帽弁狭窄症(MS)では、リウマチ性変化などで弁尖が肥厚・癒合してドーム状になる。拡張早期に左室圧が左房圧を下回って弁が開く瞬間、硬い弁尖が急に張ることで高調で鋭い過剰心音(僧帽弁開放音、opening snap: OS)が生じる。OSはⅡ音の直後、心尖部から胸骨左縁下部で聴かれ、その後に拡張期ランブル(低調な輪転様雑音)と前収縮期雑音が続く。Ⅱ音からOSまでの間隔(Ⅱ-OS時間)は左房圧が高い、すなわち狭窄が高度なほど短くなる。弁が高度に石灰化して動かなくなるとOSは減弱・消失する。

  4. ○d.  収縮中期クリック ―― 僧帽弁逸脱症候群

    正しい組合せである。僧帽弁逸脱症(MVP)では、粘液腫様変性などで弁尖や腱索が延長し、収縮期に弁尖が左房側へ落ち込む。逸脱した弁尖と腱索が急に張る瞬間に、高調で短い過剰心音(収縮中期〜後期クリック)が生じる。弁の接合が不十分になると、クリックに続いて収縮後期雑音(僧帽弁逆流による)が聴かれる。立位やValsalva法の負荷相などで左室容積が小さくなると逸脱が早く起こり、クリックはⅠ音側へ移動し雑音は長くなる。蹲踞(しゃがみ込み)で左室容積が増えると逆にクリックは遅れる。

  5. ×e.  Austin Flint雑音 ―― 動脈管開存症

    誤り。Austin Flint雑音は大動脈弁閉鎖不全症(AR)で聴かれる。拡張期に大動脈から左室へ逆流する血流が僧帽弁前尖に当たって開放を妨げ、機能的な僧帽弁狭窄の状態をつくるため、心尖部で低調な拡張中期〜後期ランブルが生じる。僧帽弁自体に器質的病変はないので、opening snapやⅠ音亢進は伴わない点が、真の僧帽弁狭窄症との鑑別点である。動脈管開存症で聴かれるのは連続性雑音である。

主な心音異常と代表的疾患

・Ⅰ音亢進:僧帽弁狭窄症、PQ短縮、頻脈、高心拍出状態(貧血、甲状腺機能亢進症、発熱) ・Ⅰ音減弱:僧帽弁閉鎖不全症、PQ延長(Ⅰ度房室ブロック)、心収縮力低下、心膜液貯留 ・Ⅱ音の固定性分裂:心房中隔欠損症 ・Ⅱ音の奇異性分裂:完全左脚ブロック、大動脈弁狭窄症など左室駆出が遅れる病態 ・Ⅱ音(Ⅱp)亢進:肺高血圧症 ・Ⅲ音:心不全(左室拡張末期圧上昇)、僧帽弁閉鎖不全症。若年者では生理的なこともある ・Ⅳ音:左室肥大、肥大型心筋症、高血圧性心疾患など心室壁が硬い病態 ・opening snap:僧帽弁狭窄症 ・収縮中期クリック:僧帽弁逸脱症 ・駆出音(ejection sound):大動脈弁狭窄症(二尖弁)、肺動脈弁狭窄症

主な心雑音と代表的疾患

・収縮期駆出性雑音:大動脈弁狭窄症、肺動脈弁狭窄症、肥大型閉塞性心筋症、ASD(相対的肺動脈弁狭窄) ・汎収縮期雑音:僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症 ・拡張期灌水様雑音(高調・漸減性):大動脈弁閉鎖不全症、肺動脈弁閉鎖不全症(肺高血圧に伴うものはGraham Steell雑音) ・拡張期ランブル(低調):僧帽弁狭窄症、Austin Flint雑音(AR)、Carey Coombs雑音(急性リウマチ熱の僧帽弁炎) ・連続性雑音:動脈管開存症、Valsalva洞動脈瘤破裂、冠動脈瘻、動静脈瘻

呼吸と雑音

右心系の雑音(三尖弁・肺動脈弁由来)は吸気で増強し、左心系の雑音は呼気で相対的に明瞭になる。

POINT

・opening snap は僧帽弁狭窄症。Ⅱ-OS時間が短いほど重症 ・Ⅰ音亢進の代表も僧帽弁狭窄症 ・収縮中期クリック+収縮後期雑音は僧帽弁逸脱症 ・Austin Flint雑音は大動脈弁閉鎖不全症で聴かれる機能的な拡張期ランブル ・連続性雑音は動脈管開存症、Valsalva洞動脈瘤破裂などの短絡性疾患 ・心房中隔欠損症はⅡ音の固定性分裂

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。