血管も神経もない「白いクッション」―関節軟骨は何でできているか
第101回医師国家試験 B問題 第43問
国試問題にチャレンジ
成人の正常な関節軟骨に存在するのはどれか。2つ選べ。
- a.コラーゲン
- b.ヘモグロビン
- c.ヒアルロン酸
- d.アセチルコリン
- e.ハイドロキシアパタイト
対話形式の解説
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ドクターまとめ
成人の関節軟骨は硝子軟骨で、少数の軟骨細胞と大量の細胞外基質からなり、基質の大部分は水、固形成分の主体は2型コラーゲンとプロテオグリカン(アグリカン)です。アグリカンはヒアルロン酸に多数結合して巨大凝集体をつくり、水を保持してクッションとして働き、コラーゲン線維網がそれを支えます。関節軟骨は血管・神経・リンパ管を欠くためヘモグロビンやアセチルコリンは存在せず、主部は石灰化していないのでハイドロキシアパタイトも含まれません。無血管ゆえに修復能が乏しいこと、軟骨自体は痛みを感じないこと、偽痛風などでの軟骨石灰化が病的所見であることも押さえておきましょう。正常組成を理解することは、変形性関節症や関節リウマチなどの関節疾患の病態を考える基礎になります。
解答・解説
正解はa, cです
関節軟骨は骨の関節面を覆う硝子軟骨であり、その組成を問う問題である。 関節軟骨は、少数の軟骨細胞と、それを取り囲む大量の細胞外基質からなる。基質の重量の大部分(約70〜80%)は水で、残りの固形成分の主体は2型コラーゲンとプロテオグリカン(代表はアグリカン)である。アグリカンはヒアルロン酸の長い鎖にリンクタンパクを介して多数結合し、巨大な凝集体をつくる。この凝集体は負に荷電したグリコサミノグリカン(コンドロイチン硫酸・ケラタン硫酸)を豊富にもつため大量の水を引きつけ、コラーゲン線維網がそれを枠のように保持することで、荷重を受け止めるクッション(弾性と圧縮抵抗)が生まれる。 また、成人の関節軟骨には血管・神経・リンパ管がなく、栄養は関節液からの拡散に頼っている。したがって、血液成分や神経伝達物質は正常な軟骨内には存在しない。さらに、関節軟骨の主部は石灰化しておらず、骨の無機成分であるハイドロキシアパタイトは含まれない。 以上より、基質の構成成分であるコラーゲンとヒアルロン酸を選べばよい。
選択肢考察
- ○a. コラーゲン
コラーゲンはプロテオグリカンと並ぶ関節軟骨の細胞外基質の主成分で、固形成分(乾燥重量)の半分以上を占める。硝子軟骨の主体は2型コラーゲンで、ほかに9型・11型なども少量含まれる。コラーゲン線維は網目状の骨組みをつくり、引っ張り強度を担うとともに、プロテオグリカンを基質内に保持する役割をもつ。
- ×b. ヘモグロビン
ヘモグロビンは赤血球内に存在する酸素運搬タンパクである。成人の関節軟骨は無血管組織で、赤血球が入り込むことはないため、正常な関節軟骨にヘモグロビンは存在しない。血管がないことは、軟骨の損傷が自然修復されにくい理由の一つでもある。
- ○c. ヒアルロン酸
ヒアルロン酸は硫酸基をもたない長鎖のグリコサミノグリカンで、関節軟骨の基質中ではアグリカン(プロテオグリカン)がリンクタンパクを介して多数結合する軸となり、巨大なプロテオグリカン凝集体を形成している。この凝集体が水を保持することで軟骨の弾性が生まれる。ヒアルロン酸は関節液(滑液)の粘性をもたらす主成分でもあり、変形性膝関節症に対する関節内注射にも用いられる。
- ×d. アセチルコリン
アセチルコリンは運動神経終末(神経筋接合部)や副交感神経、自律神経節などで放出される神経伝達物質である。関節軟骨には神経が分布しないため、正常な関節軟骨には存在しない。軟骨そのものに痛覚がないのもこのためで、変形性関節症の痛みは滑膜・関節包・軟骨下骨などに由来する。
- ×e. ハイドロキシアパタイト
ハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウムの結晶)は骨や歯の無機成分であり、骨の硬さを担う。関節軟骨の主部は石灰化していない硝子軟骨で、ハイドロキシアパタイトを含まない。なお、関節軟骨の最深部には、タイドマーク(石灰化前線)を境に軟骨下骨へ移行する薄い石灰化軟骨層があるが、これは骨との移行部であり、関節軟骨の基質成分として問われるものではない。
関節軟骨(硝子軟骨)の構成
・細胞:軟骨細胞(全体積の数%程度と少ない)。基質を合成・分解して維持する。 ・水分:湿重量の約70〜80%。 ・コラーゲン:主に2型。線維網として形態と引っ張り強度を保つ。 ・プロテオグリカン:主にアグリカン。コアタンパクにコンドロイチン硫酸・ケラタン硫酸が結合し、さらにヒアルロン酸に多数結合して巨大凝集体をつくる。水を保持し圧縮力に抵抗する。
関節軟骨の特徴
・血管・神経・リンパ管を欠き、栄養は滑液からの拡散で受ける。 ・そのため損傷後の自己修復能が乏しい。 ・層構造:表層(線維が表面に平行)→中間層→深層→タイドマーク→石灰化軟骨層→軟骨下骨。
軟骨の種類とコラーゲン
・硝子軟骨(関節軟骨、肋軟骨、気管軟骨など):2型コラーゲン ・線維軟骨(椎間板の線維輪、関節半月、恥骨結合など):1型コラーゲンが多い ・弾性軟骨(耳介、喉頭蓋など):2型コラーゲンに加え弾性線維
病態との関連
変形性関節症ではプロテオグリカンの減少とコラーゲン線維網の破綻により軟骨が摩耗する。関節リウマチでは滑膜炎(パンヌス)により軟骨が破壊される。偽痛風(ピロリン酸カルシウム結晶沈着症)では関節軟骨や半月に石灰化が生じるが、これは病的状態である。
POINT
・関節軟骨の基質の主成分は水、2型コラーゲン、プロテオグリカン(アグリカン)。 ・アグリカンはヒアルロン酸に結合して巨大凝集体をつくり、水を保持してクッションとなる。 ・関節軟骨は無血管・無神経で、栄養は滑液から拡散で受ける。修復能が低い。 ・ハイドロキシアパタイトは骨・歯の成分で、正常関節軟骨の主部は石灰化していない。
