StudyMed医師国家試験

血管も神経もない「白いクッション」―関節軟骨は何でできているか

第101回医師国家試験 B問題 第43問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第43問

成人の正常な関節軟骨に存在するのはどれか。2つ選べ。

  1. a.コラーゲン
  2. b.ヘモグロビン
  3. c.ヒアルロン酸
  4. d.アセチルコリン
  5. e.ハイドロキシアパタイト

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は成人の正常な関節軟骨の成分を問う問題だ。ポイントは2つ。軟骨の基質を何がつくっているか、そして関節軟骨には「何がないか」だ。まず関節軟骨は軟骨の3種類のうちどれに当たるかな。
医学生医学生
硝子軟骨です。組織学の実習で、すりガラスのように均一な基質の中に軟骨細胞が小腔に収まっている像を見ました。
ドクタードクター
その通り。関節軟骨は細胞が少なく、大部分は細胞外基質だ。基質の湿重量の7〜8割は水で、残りの固形成分の主体が2型コラーゲンとプロテオグリカンなんだ。
医学生医学生
ということはコラーゲンは確実に入りますね。でも、ほかの選択肢は軟骨の成分というより全く別の場所の物質に見えます。
ドクタードクター
いい着眼点だ。コラーゲン線維は網目状の骨組みをつくり、引っ張りに強い形を保つ。そしてもう一つの柱がプロテオグリカン、代表はアグリカンだ。アグリカンはどこに結合しているか覚えているかな。
医学生医学生
生化学の講義で習った気がします……ヒアルロン酸の長い鎖に、ブラシのようにたくさんくっついているんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。アグリカンはリンクタンパクを介してヒアルロン酸に多数結合し、巨大な凝集体をつくる。そこには負に荷電したコンドロイチン硫酸やケラタン硫酸が豊富で、大量の水を引きつける。その水をコラーゲンの網が枠として閉じ込めることで、荷重を受け止めるクッションになるんだ。だから正解はコラーゲンとヒアルロン酸だね。
医学生医学生
ヒアルロン酸は関節液の成分というイメージが強かったので、軟骨そのものにもあるとは意外でした。
ドクタードクター
関節液の粘性の主成分でもあるから、そのイメージも正しいよ。整形外科の外来で変形性膝関節症にヒアルロン酸の関節内注射をするのを見たことがあるかもしれないね。では残りの選択肢を見ていこう。ヘモグロビンはどうかな。
医学生医学生
赤血球の中のタンパクですよね。関節軟骨に血管がないなら、存在しないはずです。
ドクタードクター
正解。成人の関節軟骨は無血管組織で、栄養は関節液からの拡散で受け取っている。血流がないことは、軟骨がいったん傷つくと自然には治りにくい理由の一つでもあるんだ。アセチルコリンはどうだろう。
医学生医学生
神経筋接合部や副交感神経の伝達物質なので、神経がなければ存在しませんね。……あれ、でも変形性関節症の患者さんは痛がっていますよね。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。軟骨自体には神経がないので痛みを感じない。変形性関節症の痛みは、滑膜や関節包、軟骨下骨などに由来すると考えられている。だから軟骨のすり減りが進んでから症状が出ることも多いんだ。最後にハイドロキシアパタイトは?
医学生医学生
骨や歯の硬さを担うリン酸カルシウムの結晶ですね。軟骨は骨より柔らかいので含まれないと考えました。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。関節軟骨の主部は石灰化していない。厳密には最深部にタイドマークを境として軟骨下骨へ移行する薄い石灰化軟骨層があるけれど、これは骨との移行部で、関節軟骨の基質成分として問われるものではないよ。
医学生医学生
軟骨の種類ごとにコラーゲンの型も違いましたよね。
ドクタードクター
そう。硝子軟骨は2型、椎間板の線維輪や半月のような線維軟骨は1型が多い。耳介や喉頭蓋の弾性軟骨は2型に加えて弾性線維をもつ。臨床とのつながりでは、変形性関節症ではプロテオグリカンの減少とコラーゲン網の破綻で軟骨が摩耗し、関節リウマチでは滑膜のパンヌスが軟骨を破壊する。偽痛風では軟骨や半月にピロリン酸カルシウムが沈着して石灰化が見えるけれど、これは病的な状態だね。
医学生医学生
正常では石灰化しないからこそ、X線で半月に石灰化が見えたら異常のサインになるんですね。
ドクタードクター
その通り。正常な構造を知っていると、画像で「あるはずのないもの」に気づけるんだ。

まとめ

成人の関節軟骨は硝子軟骨で、少数の軟骨細胞と大量の細胞外基質からなり、基質の大部分は水、固形成分の主体は2型コラーゲンとプロテオグリカン(アグリカン)です。アグリカンはヒアルロン酸に多数結合して巨大凝集体をつくり、水を保持してクッションとして働き、コラーゲン線維網がそれを支えます。関節軟骨は血管・神経・リンパ管を欠くためヘモグロビンやアセチルコリンは存在せず、主部は石灰化していないのでハイドロキシアパタイトも含まれません。無血管ゆえに修復能が乏しいこと、軟骨自体は痛みを感じないこと、偽痛風などでの軟骨石灰化が病的所見であることも押さえておきましょう。正常組成を理解することは、変形性関節症や関節リウマチなどの関節疾患の病態を考える基礎になります。

解答・解説

正解はa, cです

関節軟骨は骨の関節面を覆う硝子軟骨であり、その組成を問う問題である。 関節軟骨は、少数の軟骨細胞と、それを取り囲む大量の細胞外基質からなる。基質の重量の大部分(約70〜80%)は水で、残りの固形成分の主体は2型コラーゲンとプロテオグリカン(代表はアグリカン)である。アグリカンはヒアルロン酸の長い鎖にリンクタンパクを介して多数結合し、巨大な凝集体をつくる。この凝集体は負に荷電したグリコサミノグリカン(コンドロイチン硫酸・ケラタン硫酸)を豊富にもつため大量の水を引きつけ、コラーゲン線維網がそれを枠のように保持することで、荷重を受け止めるクッション(弾性と圧縮抵抗)が生まれる。 また、成人の関節軟骨には血管・神経・リンパ管がなく、栄養は関節液からの拡散に頼っている。したがって、血液成分や神経伝達物質は正常な軟骨内には存在しない。さらに、関節軟骨の主部は石灰化しておらず、骨の無機成分であるハイドロキシアパタイトは含まれない。 以上より、基質の構成成分であるコラーゲンとヒアルロン酸を選べばよい。

選択肢考察

  1. ○a.  コラーゲン

    コラーゲンはプロテオグリカンと並ぶ関節軟骨の細胞外基質の主成分で、固形成分(乾燥重量)の半分以上を占める。硝子軟骨の主体は2型コラーゲンで、ほかに9型・11型なども少量含まれる。コラーゲン線維は網目状の骨組みをつくり、引っ張り強度を担うとともに、プロテオグリカンを基質内に保持する役割をもつ。

  2. ×b.  ヘモグロビン

    ヘモグロビンは赤血球内に存在する酸素運搬タンパクである。成人の関節軟骨は無血管組織で、赤血球が入り込むことはないため、正常な関節軟骨にヘモグロビンは存在しない。血管がないことは、軟骨の損傷が自然修復されにくい理由の一つでもある。

  3. ○c.  ヒアルロン酸

    ヒアルロン酸は硫酸基をもたない長鎖のグリコサミノグリカンで、関節軟骨の基質中ではアグリカン(プロテオグリカン)がリンクタンパクを介して多数結合する軸となり、巨大なプロテオグリカン凝集体を形成している。この凝集体が水を保持することで軟骨の弾性が生まれる。ヒアルロン酸は関節液(滑液)の粘性をもたらす主成分でもあり、変形性膝関節症に対する関節内注射にも用いられる。

  4. ×d.  アセチルコリン

    アセチルコリンは運動神経終末(神経筋接合部)や副交感神経、自律神経節などで放出される神経伝達物質である。関節軟骨には神経が分布しないため、正常な関節軟骨には存在しない。軟骨そのものに痛覚がないのもこのためで、変形性関節症の痛みは滑膜・関節包・軟骨下骨などに由来する。

  5. ×e.  ハイドロキシアパタイト

    ハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウムの結晶)は骨や歯の無機成分であり、骨の硬さを担う。関節軟骨の主部は石灰化していない硝子軟骨で、ハイドロキシアパタイトを含まない。なお、関節軟骨の最深部には、タイドマーク(石灰化前線)を境に軟骨下骨へ移行する薄い石灰化軟骨層があるが、これは骨との移行部であり、関節軟骨の基質成分として問われるものではない。

関節軟骨(硝子軟骨)の構成

・細胞:軟骨細胞(全体積の数%程度と少ない)。基質を合成・分解して維持する。 ・水分:湿重量の約70〜80%。 ・コラーゲン:主に2型。線維網として形態と引っ張り強度を保つ。 ・プロテオグリカン:主にアグリカン。コアタンパクにコンドロイチン硫酸・ケラタン硫酸が結合し、さらにヒアルロン酸に多数結合して巨大凝集体をつくる。水を保持し圧縮力に抵抗する。

関節軟骨の特徴

・血管・神経・リンパ管を欠き、栄養は滑液からの拡散で受ける。 ・そのため損傷後の自己修復能が乏しい。 ・層構造:表層(線維が表面に平行)→中間層→深層→タイドマーク→石灰化軟骨層→軟骨下骨。

軟骨の種類とコラーゲン

・硝子軟骨(関節軟骨、肋軟骨、気管軟骨など):2型コラーゲン ・線維軟骨(椎間板の線維輪、関節半月、恥骨結合など):1型コラーゲンが多い ・弾性軟骨(耳介、喉頭蓋など):2型コラーゲンに加え弾性線維

病態との関連

変形性関節症ではプロテオグリカンの減少とコラーゲン線維網の破綻により軟骨が摩耗する。関節リウマチでは滑膜炎(パンヌス)により軟骨が破壊される。偽痛風(ピロリン酸カルシウム結晶沈着症)では関節軟骨や半月に石灰化が生じるが、これは病的状態である。

POINT

・関節軟骨の基質の主成分は水、2型コラーゲン、プロテオグリカン(アグリカン)。 ・アグリカンはヒアルロン酸に結合して巨大凝集体をつくり、水を保持してクッションとなる。 ・関節軟骨は無血管・無神経で、栄養は滑液から拡散で受ける。修復能が低い。 ・ハイドロキシアパタイトは骨・歯の成分で、正常関節軟骨の主部は石灰化していない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。