StudyMed医師国家試験

固定・可動・固定・可動―大腸と腹膜の関係を「リズム」で覚える

第101回医師国家試験 B問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第36問

後腹膜に固定されているのはどれか。2つ選べ。

  1. a.虫垂
  2. b.上行結腸
  3. c.横行結腸
  4. d.下行結腸
  5. e.S状結腸

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は大腸の各部位と腹膜の関係を問う解剖の問題だ。考えるべきことはひとつで、その部位が間膜でぶら下がって動けるのか、後腹壁に貼りついて固定されているのか。大腸を口側から順にたどってみよう。
医学生医学生
後腹膜臓器というと、腎臓や副腎、膵臓を思い浮かべます。大腸にもあるんですか。
ドクタードクター
あるよ。まず言葉を整理しよう。腹膜内臓器はほぼ全周を腹膜に包まれ、間膜で後腹壁から吊り下げられているので動ける。後腹膜臓器は前面だけが腹膜に覆われ、後面は後腹壁に直接ついて固定されている。
医学生医学生
腎臓のように、はじめから腹膜の後ろにできる臓器だけではないんですね。
ドクタードクター
そう。後腹膜臓器には2種類あるんだ。腎臓や副腎、尿管のようにはじめから腹膜の後ろに発生する一次性と、発生の途中で間膜が後腹壁の腹膜と癒合して固定された二次性。十二指腸の大部分や膵臓、そして大腸の一部が二次性にあたる。
医学生医学生
発生学の講義で、中腸が回転したあとに腹壁に癒合していく図を見ました。あれがそうでしょうか。
ドクタードクター
まさにそれだ。では大腸を順に見ていこう。盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸の順に、可動、固定、可動、固定、可動、固定と交互に並ぶ。だから後腹膜に固定されているのは上行結腸と下行結腸だ。
医学生医学生
交互になっているなら覚えやすいです。横行結腸には横行結腸間膜、S状結腸にはS状結腸間膜がありますね。
ドクタードクター
その通り。横行結腸は間膜で吊られていて可動性が大きく、立位では骨盤内まで垂れ下がることもある。前面には大網がついているね。ただ両端の肝弯曲・脾弯曲のあたりは比較的固定されている。
医学生医学生
虫垂は盲腸の一部なので、固定されているのかと思いました。
ドクタードクター
そこは間違えやすいね。虫垂には虫垂間膜という小さな間膜があって動けるんだ。だから位置の個人差が大きく、盲腸の後ろや骨盤内などさまざまな場所にある。盲腸自体も多くは腹膜に包まれていて、ある程度動ける。
医学生医学生
外科の実習で、虫垂が盲腸の後ろにあると腸腰筋徴候が出やすいと教わりました。位置で症状が変わるのは、そういう理由なんですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。虫垂炎の圧痛の場所が典型的でない人がいるのも、虫垂が動ける臓器だからなんだ。一方、上行結腸と下行結腸は前面と側面だけが腹膜に覆われていて、後面は後腹壁に固定されている。
医学生医学生
動ける部分は、ねじれやすいということにもなりますか。
ドクタードクター
いい発想だ。軸捻転は間膜をもつ部位に起こりやすい。最も多いのはS状結腸軸捻転で、間膜の付け根が短くて腸管が長い高齢者や慢性便秘の人に起こりやすい。次に多いのが盲腸軸捻転で、上行結腸や盲腸の癒合が不完全で間膜が残っている移動盲腸が背景になる。
医学生医学生
本来固定されているはずの部分が固定されていないと、ねじれる原因になるんですね。
ドクタードクター
そういうこと。外科的な意義もある。大腸癌の手術では、後腹膜に固定された上行結腸や下行結腸を癒合筋膜の層ではがして動かしてから切除する。また、上行・下行結腸の後壁は腹膜に覆われていないので、そこで穿孔すると内容物が腹腔内ではなく後腹膜腔に広がることがあり、腹膜刺激症状がはっきりしないことがある。発生と解剖を知っていると、画像や症状の読み方も変わってくるよ。

まとめ

腹部臓器は、間膜をもち可動性のある腹膜内臓器と、後面が後腹壁に固定された後腹膜臓器に分けられ、後腹膜臓器には発生途中で間膜が癒合して固定された二次性のものも含まれます。大腸では盲腸(虫垂を含む)・横行結腸・S状結腸が間膜をもって可動性があり、上行結腸と下行結腸は後腹壁に固定され、直腸も大部分が腹膜外にあります。「可動・固定」が交互に並ぶと覚えると整理しやすくなります。可動性の部位は軸捻転の好発部位で、S状結腸軸捻転が最多、次いで移動盲腸を背景とする盲腸軸捻転が続きます。腹膜との関係の理解は、虫垂炎の症状の多様性、大腸癌手術での授動、後腹膜穿孔の評価など、臨床の多くの場面に生きてきます。

解答・解説

正解はb, dです

本問は、大腸の各部位が腹膜とどのような関係にあり、後腹壁に固定されているか、それとも間膜をもって可動性があるかを問う解剖学の問題である。

考え方

腹部臓器は腹膜との関係から、次のように分けられる。 ・腹膜内臓器:ほぼ全周が臓側腹膜に包まれ、間膜によって後腹壁からぶら下がるため可動性がある。 ・後腹膜臓器(腹膜後器官):前面だけが腹膜に覆われ、後面は後腹壁に直接接して固定されている。発生の途中で間膜が後腹壁の腹膜と癒合して固定されたもの(二次性後腹膜臓器)も含む。 大腸では、間膜をもつ部分ともたない部分が交互に並ぶと覚えるとよい。盲腸(虫垂を含む)→上行結腸→横行結腸→下行結腸→S状結腸→直腸の順に、「可動・固定・可動(横行結腸間膜)・固定・可動(S状結腸間膜)・固定」となる。したがって後腹膜に固定されているのは上行結腸と下行結腸である。

選択肢考察

  1. ×a.  虫垂

    虫垂は盲腸の後内側壁から出る細長い盲端の管で、虫垂間膜という小さな間膜をもつため可動性がある。位置の個人差が大きく、盲腸後方、骨盤内、回腸の前後などさまざまな位置をとる。このため虫垂炎の圧痛点や症状は位置によって異なり、盲腸後方にある場合は腸腰筋徴候(psoas sign)が陽性となりやすい。盲腸も多くは腹膜に包まれ、ある程度の可動性をもつ。

  2. ○b.  上行結腸

    上行結腸は発生過程で間膜が後腹壁の腹膜と癒合し、前面と側面だけが腹膜に覆われ、後面は後腹壁に固定された二次性の後腹膜臓器である。このため通常は可動性に乏しい。癒合が不完全で上行結腸・盲腸に間膜が残る(移動盲腸)と、盲腸軸捻転の原因となることがある。

  3. ×c.  横行結腸

    横行結腸は横行結腸間膜によって後腹壁から吊り下げられた腹膜内臓器であり、可動性が大きい。立位では骨盤内まで垂れ下がることもある。前面には大網が付着している。なお、左右端の結腸曲(肝弯曲・脾弯曲)付近は比較的固定されている。

  4. ○d.  下行結腸

    下行結腸も上行結腸と同様に、間膜が後腹壁と癒合して固定された二次性の後腹膜臓器であり、前面と側面のみが腹膜に覆われる。脾弯曲部から腸骨稜付近まで左側腹部の後腹壁に沿って下行し、S状結腸へ移行する。

  5. ×e.  S状結腸

    S状結腸はS状結腸間膜をもつ腹膜内臓器であり、可動性が大きい。とくに間膜の付着部が短く、腸管自体が長い場合(高齢者や慢性便秘など)には、腸管が間膜を軸としてねじれるS状結腸軸捻転を起こしやすい。これは大腸の捻転の中で最も頻度が高い。

腹膜との関係による腹部臓器の分類

・腹膜内臓器(間膜をもち可動性あり):胃、十二指腸球部、空腸、回腸、盲腸、虫垂、横行結腸、S状結腸、肝臓、脾臓、卵巣、卵管など ・後腹膜臓器(後腹壁に固定):  一次性(はじめから腹膜の後ろに発生):腎臓、副腎、尿管、腹部大動脈、下大静脈など  二次性(間膜が後腹壁と癒合して固定):十二指腸(球部を除く大部分)、膵臓(膵尾部は脾腎ヒダ内で可動性をもつことがある)、上行結腸、下行結腸 ・直腸:上部は前面・側面が、中部は前面のみが腹膜に覆われ、下部は腹膜反転部より下で腹膜に覆われない(腹膜外)。

大腸の区分と固定性

盲腸(可動)→上行結腸(固定)→横行結腸(可動)→下行結腸(固定)→S状結腸(可動)→直腸(固定)

臨床的意義

・軸捻転は間膜をもつ可動性の部位に起こりやすく、S状結腸軸捻転が最多、次いで盲腸軸捻転(移動盲腸を背景とする)である。 ・大腸癌手術では、後腹膜に固定された上行結腸・下行結腸を授動するため、癒合筋膜(Toldtの癒合筋膜)の層で剝離を行う。 ・上行・下行結腸の後壁は腹膜に覆われていないため、この部位の穿孔では遊離ガスや内容物が腹腔内ではなく後腹膜腔へ広がることがある。

POINT

・大腸で後腹膜に固定されているのは上行結腸と下行結腸(直腸も大部分は腹膜外)。 ・盲腸・虫垂、横行結腸、S状結腸は間膜をもち可動性がある。 ・固定と可動が交互に並ぶ:盲腸(可動)→上行(固定)→横行(可動)→下行(固定)→S状(可動)→直腸(固定)。 ・可動性の部位は軸捻転の好発部位(S状結腸>盲腸)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。