StudyMed医師国家試験

透析25年目の膝と踵の痛み―PTHが語る副甲状腺の暴走と骨の悲鳴

第101回医師国家試験 A問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第101回 A問題 第37問

75歳の女性。膝と踵との痛みを主訴に来院した。25年前から糸球体腎炎による末期腎不全のため血液透析を受けている。6か月前から歩行時の両膝の痛みを自覚し,最近は踵にも痛みを感じるようになった。血液所見:赤沈40mm/1時間,赤血球360万,Hb 10.8g/dL,Ht 32%。血液生化学所見:尿素窒素86mg/dL,クレアチニン9.2mg/dL,ALP 600U/L(基準260以下),Na 140mEq/L,K 5.3mEq/L,Cl 106mEq/L,Ca 11.5mg/dL,P 6.4mg/dL,PTH 880pg/mL(基準10~60)。動脈血ガス分析(自発呼吸,room air):pH 7.43,PaO2 82Torr,PaCO2 47Torr,HCO3- 28mEq/L。 ほかに行う検査として適切なのはどれか。2つ選べ。

  1. a.腎生検
  2. b.頭部CT
  3. c.頸部超音波検査
  4. d.副腎シンチグラフィ
  5. e.手指骨エックス線撮影

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、長期透析患者の骨の痛みから背景にある病態を見抜き、次に何を調べるべきかを選ぶ問題だ。注目してほしいのは、PTHとALPの著しい高値、そしてカルシウムとリンのバランス。腎不全と骨がどうつながるのかを順に考えよう。
医学生医学生
PTHがここまで高いと副甲状腺機能亢進症ですよね。腎不全があるので二次性でしょうか。
ドクタードクター
その通り。腎臓が働かなくなるとリンが排泄できずに高リン血症になり、活性型ビタミンDも作れないので腸からのカルシウム吸収が落ちる。さらにFGF23も上がる。これらがずっと副甲状腺を刺激し続けて、PTHが過剰に出る。これが二次性副甲状腺機能亢進症だ。
医学生医学生
でも、二次性ならカルシウムは低めになるはずだと腎臓内科の講義で習いました。この方は高カルシウム血症ですよね。
ドクタードクター
鋭いね。そこがこの症例の大事なポイントだ。刺激が何年も続くと、副甲状腺はびまん性過形成から結節性過形成へと進み、カルシウムが高くてもPTH分泌が抑えられない自律的な状態になる。いわゆる三次性副甲状腺機能亢進症だ。PTHが高いまま高カルシウム血症を来すのはそのためだよ。
医学生医学生
25年という透析歴の長さが効いてくるわけですね。では骨の痛みはPTHのせいですか。
ドクタードクター
過剰なPTHは骨吸収を進め、高回転型の骨病変である線維性骨炎を起こす。骨痛や骨折の原因になるし、ALPの上昇は骨代謝回転が亢進していることを示している。だから次に調べたいのは2つ。PTHの出どころである副甲状腺と、PTH過剰による骨の変化だ。
医学生医学生
副甲状腺を見るなら頸部超音波検査ですね。甲状腺の裏側に腫れた腺が見えるかどうか。
ドクタードクター
そう。二次性では原則4腺すべてが過形成になる。超音波で腫大した腺の数や大きさ、位置を評価する。目安として体積0.5 cm3以上や長径1 cm以上の腺は結節性過形成に進んでいる可能性が高く、薬が効きにくい。高カルシウム血症を伴う今回のような症例では副甲状腺摘出術を検討するから、術前の局在診断としても重要だ。
医学生医学生
骨の評価は手指骨のエックス線ですか。でも痛いのは膝と踵なのに、なぜ手なんでしょう。
ドクタードクター
いい疑問だね。線維性骨炎のもっとも特徴的な所見は、手指骨、特に第2・3指の中節骨橈側の骨膜下骨吸収なんだ。痛む場所ではなく、所見が最も出やすい場所を撮る。ほかに末節骨先端の吸収や褐色腫と呼ばれる骨嚢胞、頭蓋骨のごま塩様陰影、脊椎のラガージャージ像も知られている。
医学生医学生
放射線科の実習で、頭蓋骨のsalt and pepper像を見せてもらったのを思い出しました。
ドクタードクター
それも同じ病態の表れだね。では外れる選択肢も確認しよう。腎生検はどうかな。
医学生医学生
腎炎の診断には腎生検、と反射的に考えそうになりますが、25年も透析しているならもう腎機能は廃絶していますね。
ドクタードクター
そう。今さら組織を調べても治療は変わらない。長期透析の腎臓は萎縮して後天性の多発嚢胞を伴うことが多く、出血のリスクに見合う利益がない。今の骨痛の原因検索にも役立たない。頭部CTは、神経症状がない以上行う理由がないし、基底核石灰化の評価が意味をもつのはむしろ副甲状腺機能低下症のほうだ。
医学生医学生
副腎シンチグラフィは、副甲状腺と名前が似ていて紛らわしいです。CBTの勉強のときも混同しました。
ドクタードクター
間違えやすいところだね。副腎シンチはアドステロールで原発性アルドステロン症やCushing症候群、MIBGで褐色細胞腫を調べる検査だ。副甲状腺の局在診断に使うのは99mTc-MIBIシンチグラフィで、異所性副甲状腺の検索に超音波やCTと組み合わせて使う。
医学生医学生
原因の臓器を超音波で、結果としての骨病変をエックス線で見る、という2本立てなんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での発展知識を。腎不全に伴うカルシウム・リン・PTH・ビタミンDの異常は、骨だけでなく血管石灰化を通じて心血管疾患や生命予後にも関わるので、CKD-MBDという全身疾患として捉える。治療はリン制限やリン吸着薬、活性型ビタミンD製剤、シナカルセトなどのカルシウム受容体作動薬が基本で、効かない高度例では副甲状腺摘出術を考える。
医学生医学生
長期透析の人の関節痛で、ほかに考えるべき原因はありますか。
ドクタードクター
透析アミロイドーシスは必ず思い浮かべてほしい。β2ミクログロブリン由来のアミロイドが骨や関節、腱に沈着して、手根管症候群やばね指、肩関節痛、破壊性脊椎関節症、骨嚢胞を起こす。透析歴が10年を超えると増えてくる。手指のエックス線は手根骨の骨嚢胞や異所性石灰化も評価できるから、その意味でも有用な検査なんだ。

まとめ

長期血液透析患者の骨痛にPTHとALPの著明な上昇を伴う場合は、二次性副甲状腺機能亢進症による線維性骨炎を考えます。高リン血症や活性型ビタミンD低下による刺激が長く続くと副甲状腺は結節性過形成となり、高カルシウム血症を伴う自律的なPTH分泌(いわゆる三次性)に至ります。追加検査としては、腫大した副甲状腺を評価する頸部超音波検査と、中節骨橈側の骨膜下骨吸収を確認する手指骨エックス線撮影が適切で、腎機能が廃絶した透析患者に腎生検は行いません。内科治療に抵抗する高度例では副甲状腺摘出術が検討され、長期透析患者では透析アミロイドーシスも骨関節痛の鑑別に挙がります。腎不全による骨ミネラル代謝異常をCKD-MBDという全身病態として理解することは、透析医療に携わるうえで欠かせない視点です。

解答・解説

正解はc, eです

所見の整理

75歳の女性で、糸球体腎炎による末期腎不全のため25年間という長期にわたり血液透析を受けている。半年前から歩行時の両膝痛があり、最近は踵にも痛みが出てきた。 検査では、ALP 600 U/L(骨型ALPの上昇=骨代謝回転の亢進を示唆)、PTH(副甲状腺ホルモン)880 pg/mLと著明な高値を示す。血清Ca 11.5 mg/dLと高カルシウム血症、P 6.4 mg/dLと高リン血症を伴う。軽度の貧血(Hb 10.8 g/dL)は腎性貧血として矛盾しない。BUN・クレアチニン高値は透析患者として想定内であり、血液ガスのわずかなHCO3-上昇も透析の影響で説明でき、本問の本質ではない。

診断へのプロセス

慢性腎臓病では、①腎からのリン排泄低下による高リン血症、②腎での活性型ビタミンD(1,25(OH)2D)産生低下による腸管Ca吸収の低下と低Ca傾向、③FGF23の上昇、などが持続的に副甲状腺を刺激し、PTH分泌が増える。これが二次性(続発性)副甲状腺機能亢進症である。過剰なPTHは骨吸収を促し、線維性骨炎(高回転型の骨病変)を来して骨痛や骨折の原因となる。本例の骨痛、ALP高値、PTH著増はこれに合致する。 通常の二次性副甲状腺機能亢進症では血清Caは低〜正常であるが、本例ではCaが上昇している。刺激が長期間続くと副甲状腺はびまん性過形成から結節性過形成へ進み、Caによる抑制が効かない自律的な分泌を示すようになる(いわゆる三次性副甲状腺機能亢進症)。この段階ではPTHが高いまま高Ca血症を来す。本例はこの状態と考えられる。 なお、25年の長期透析という背景からは、β2ミクログロブリンが骨・関節に沈着する透析アミロイドーシス(手根管症候群、破壊性脊椎関節症、骨嚢胞、関節痛)も骨関節痛の原因として鑑別に挙がる。

設問の考え方

「ほかに行う検査」として求められるのは、①PTHの供給源である腫大した副甲状腺を確認する画像検査(治療方針、特に副甲状腺摘出術の適応判断に必要)と、②PTH過剰による骨病変(線維性骨炎)を確認する検査である。前者が頸部超音波検査、後者が手指骨エックス線撮影である。

選択肢考察

  1. ×a.  腎生検

    不適切。腎生検は腎疾患の組織診断を行い、治療方針を決めるための検査である。本例は25年前から透析中の末期腎不全で、腎機能はすでに廃絶しており、組織を調べても治療方針は変わらない。長期透析患者の腎臓は萎縮し、後天性の多発嚢胞(後天性嚢胞性腎疾患)を伴うことが多く、出血の危険に見合う利益がない。現在の症状(骨痛)の原因検索にも役立たない。

  2. ×b.  頭部CT

    不適切。本例には意識障害、頭痛、麻痺など頭蓋内病変を疑う神経症状がなく、頭部CTを行う理由がない。頭部CTで大脳基底核の石灰化を評価することは副甲状腺機能低下症(低Ca・高P)などで意味をもつが、本例は副甲状腺機能亢進の病態であり、骨痛の原因検索としても目的に合わない。

  3. ○c.  頸部超音波検査

    適切。二次性副甲状腺機能亢進症では4腺すべてが過形成となるのが原則であり、頸部超音波検査で腫大した副甲状腺の数・大きさ・位置を評価する。腺の推定体積が大きい(目安として0.5 cm3以上や長径1 cm以上)ものは結節性過形成に進んでいる可能性が高く、薬物療法(活性型ビタミンD製剤、カルシウム受容体作動薬であるシナカルセトなど)に抵抗性であることが多い。本例のように高Ca血症を伴う高度の二次性副甲状腺機能亢進症では副甲状腺摘出術(PTx)の適応を検討するため、術前の局在診断としても重要である。異所性副甲状腺の検索には99mTc-MIBIシンチグラフィやCTを併用する。

  4. ×d.  副腎シンチグラフィ

    不適切。副腎シンチグラフィは、131I-アドステロールを用いて原発性アルドステロン症やCushing症候群の責任病変(腺腫の局在や左右差)を調べる検査、または123I-MIBGを用いて褐色細胞腫を検索する検査である。本例の病態は副甲状腺の異常であり、副腎疾患を疑う所見(低カリウム血症を伴う高血圧、Cushing徴候など)はない。副甲状腺の局在診断に用いるのは99mTc-MIBIシンチグラフィであり、副腎シンチグラフィとは別の検査である。

  5. ○e.  手指骨エックス線撮影

    適切。PTH過剰による線維性骨炎の特徴的所見は、手指骨(特に第2・3指の中節骨の橈側)の骨膜下骨吸収であり、手指骨エックス線撮影はこれを検出するのに最も適した撮影部位である。そのほか末節骨先端の吸収(acro-osteolysis)、骨嚢胞(褐色腫)、頭蓋骨のごま塩様陰影(salt and pepper skull)、脊椎のラガージャージ像なども線維性骨炎の所見として知られる。また手指のエックス線では、血管や関節周囲の異所性石灰化や、透析アミロイドーシスによる手根骨の骨嚢胞も評価でき、長期透析患者の骨関節痛の原因検索に有用である。

CKDに伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)

慢性腎臓病では、リン・カルシウム・PTH・ビタミンDの代謝異常が、骨病変だけでなく血管石灰化を介して心血管疾患や生命予後にも関わる。この全身性の病態をCKD-MBD(chronic kidney disease-mineral and bone disorder)と総称する。骨病変(腎性骨異栄養症)には、PTH過剰による高回転型の線維性骨炎、PTHが過度に抑制された低回転型の無形成骨、骨石灰化障害による骨軟化症などがある。

二次性副甲状腺機能亢進症の進展

高リン血症・活性型ビタミンD低下・低Ca傾向・FGF23上昇 → PTH分泌亢進 → びまん性過形成 → 結節性過形成(ビタミンD受容体やカルシウム感知受容体の発現が低下し、薬が効きにくい) → 自律的PTH分泌(高Ca血症を伴う、いわゆる三次性)。

治療

・リン管理:食事のリン制限、リン吸着薬(炭酸カルシウム、炭酸ランタン、セベラマーなど)、十分な透析。 ・PTH抑制:活性型ビタミンD製剤、カルシウム受容体作動薬(シナカルセト、エボカルセト、エテルカルセチド)。 ・内科治療に抵抗する高度の症例(高Ca血症、高P血症、骨病変の進行、著明な副甲状腺腫大など):副甲状腺摘出術(全摘+自家移植など)。

長期透析患者の骨関節痛の鑑別

・線維性骨炎(二次性副甲状腺機能亢進症):PTH・ALP高値、手指骨の骨膜下吸収。 ・透析アミロイドーシス:β2ミクログロブリン由来のアミロイドが骨・関節・腱に沈着。手根管症候群、ばね指、肩関節痛、破壊性脊椎関節症、骨嚢胞。透析歴10年以上で増加する。 ・異所性石灰化による関節周囲炎、偽痛風など。

POINT

・長期透析患者の骨痛+PTH・ALP著高=二次性副甲状腺機能亢進症による線維性骨炎。 ・高Ca血症を伴えば、結節性過形成による自律的PTH分泌(いわゆる三次性)を考え、副甲状腺摘出術を検討する。 ・副甲状腺の評価:頸部超音波検査(+99mTc-MIBIシンチグラフィ、CT)。 ・線維性骨炎の評価:手指骨エックス線撮影で中節骨橈側の骨膜下骨吸収。ほかに頭蓋骨のsalt and pepper像、褐色腫。 ・透析歴の長い患者では透析アミロイドーシス(β2ミクログロブリン)も鑑別。 ・末期腎不全の透析患者に腎生検は行わない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。