飲み明かした翌朝、片脚が腫れた―若者を襲う深部静脈血栓症の見抜き方
第101回医師国家試験 A問題 第23問
国試問題にチャレンジ
25歳の男性。突然の左下肢全体の腫脹と疼痛とを主訴に来院した。昨夜,飲酒後に就寝したところ,明け方に痛みのため覚醒し,次第に左下肢が腫大してきた。体温36.5℃。下肢に明らかな感染巣を認めない。左下肢は腫脹し,一部暗赤色の発赤を認める。 最も考えられる病態はどれか。
- a.特発性浮腫
- b.リンパ流障害
- c.深部静脈血栓症
- d.血小板減少に伴う出血
- e.凝固因子異常に伴う出血
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
急性発症で片側下肢全体が痛みを伴って腫れ、暗赤色のうっ血色を示す場合は、まず深部静脈血栓症を考えます。Virchowの3徴(血流うっ滞・血管内皮障害・凝固能亢進)に照らすと、飲酒による脱水と長時間同じ姿勢での睡眠は、若年者でも血栓形成の誘因になりえます。下肢DVTは左総腸骨静脈が右総腸骨動脈に圧迫されやすいため左側に多く、発熱や感染巣がなければ蜂巣炎は考えにくく、緩徐・無痛性のリンパ浮腫や両側性の特発性浮腫、出血性疾患とも発症様式や分布で区別できます。診断はDダイマー(除外に有用)と下肢静脈エコーで行い、最大の合併症である肺血栓塞栓症を防ぐため抗凝固療法を速やかに始めることが重要です。浮腫を「片側か両側か・急性か慢性か・痛みの有無」で整理する考え方は、日常診療のあらゆる場面で役立ちます。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・25歳の男性。前夜に飲酒してから就寝し、明け方に疼痛で目が覚め、その後左下肢が徐々に腫れてきた。 ・腫脹は左下肢全体に及び、片側性・急性発症・有痛性である。 ・体温36.5℃で発熱はなく、下肢に感染の入り口となる病変は見当たらない。 ・左下肢には一部暗赤色の発赤(うっ血による色調変化)がある。
診断へのプロセス
片側の下肢が「急に」「全体的に」「痛みを伴って」腫れる場合、まず考えるべきは深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)である。深部静脈が血栓で閉塞すると、その末梢に静脈血がうっ滞し、静脈圧と毛細血管内圧が上昇して組織間に水分が漏れ出す。その結果、閉塞部より末梢側全体の腫脹、緊満痛、暗赤色〜紫色調の皮膚変色(うっ血)が生じる。腫脹が下肢「全体」に及ぶことは、大腿静脈〜腸骨静脈レベルの中枢型(近位型)DVTを示唆する。 血栓形成の3要因(Virchowの3徴)は、①血流のうっ滞、②血管内皮の障害、③血液凝固能の亢進である。本例は若年で一見リスクに乏しいが、飲酒にはアルコールの利尿作用(抗利尿ホルモン分泌の抑制)があり、血管内脱水から血液濃縮が起こる。さらに酩酊状態で長時間同じ姿勢のまま眠ることで下肢の血流がうっ滞する。これらが重なって血栓形成の誘因になったと考えられる。 また左側に生じている点もDVTに合致する。左総腸骨静脈は、その前方を横切る右総腸骨動脈と後方の腰椎との間に挟まれて圧迫されやすく(腸骨静脈圧迫症候群、May-Thurner症候群)、下肢DVTは左側に多い。
鑑別
片側下肢の発赤・腫脹・疼痛では蜂巣炎(蜂窩織炎)が重要な鑑別となるが、発熱がなく、感染巣も認めないことから否定的である。そのほか、全身性・両側性の浮腫をきたす病態、無痛性で緩徐に進行するリンパ浮腫、出血性疾患による血腫なども、発症様式や分布から本例には合わない。 以上より、最も考えられる病態は深部静脈血栓症である。
選択肢考察
- ×a. 特発性浮腫
特発性浮腫は、心・腎・肝疾患や甲状腺機能低下症などの明らかな原因がないのに浮腫を繰り返す病態で、生殖年齢の女性に多い。立位で増悪し、夕方にかけて顔面・手・下肢などに両側性・全身性にむくみが出て、日内で体重が変動するのが特徴である。急性発症の片側性・有痛性の下肢腫脹という本例の像とは合わない。
- ×b. リンパ流障害
リンパ流障害(リンパ浮腫)は、悪性腫瘍手術でのリンパ節郭清や放射線治療後、フィラリア感染などを原因として、数か月〜数年かけて緩徐に進行する浮腫である。通常は痛みを伴わず、慢性化すると皮膚が硬く厚くなる。一晩で疼痛とともに急に腫れ、うっ血による暗赤色調を示す本例の経過とは異なる。
- ○c. 深部静脈血栓症
急性発症の片側下肢全体の腫脹・疼痛・暗赤色の変色は、深部静脈の閉塞による静脈うっ滞を示す典型像である。飲酒に伴う脱水と長時間の同一姿勢での睡眠が血液濃縮と血流うっ滞をもたらし、Virchowの3徴のうち2つが満たされた状況と考えられる。左側に多い(左総腸骨静脈が右総腸骨動脈に圧迫されやすい)点、発熱や感染巣がなく蜂巣炎が考えにくい点も合致する。したがって最も考えられる病態である。
- ×d. 血小板減少に伴う出血
血小板減少による出血は、点状出血・紫斑などの皮膚粘膜出血や鼻出血、歯肉出血が中心で、全身の皮膚・粘膜にみられるのが普通である。外傷もないのに片側下肢全体が一晩で腫れ上がる形をとることは考えにくい。本例は出血ではなく静脈還流障害の病態である。
- ×e. 凝固因子異常に伴う出血
血友病などの凝固因子異常では関節内出血や筋肉内出血(深部出血)が特徴であり、筋肉内血腫で局所の腫脹・疼痛をきたすことはある。しかし通常は幼少期からの出血傾向の既往があり、腫脹は出血した関節や筋肉に限局する。既往の記載がなく、下肢全体が腫脹しうっ血色を示す本例は、出血ではなくDVTと考えるのが妥当である。
深部静脈血栓症(DVT)の概要
・定義:下肢や骨盤内などの深部静脈に血栓が形成され、静脈還流が障害される病態。膝窩静脈より中枢側を中枢型(近位型)、下腿静脈に限局するものを末梢型(遠位型)と呼ぶ。 ・病因(Virchowの3徴):①血流うっ滞(長期臥床、長時間の座位、術後、妊娠、肥満、下肢の麻痺・ギプス固定)、②血管内皮障害(手術、外傷、カテーテル留置)、③凝固能亢進(悪性腫瘍、経口避妊薬・エストロゲン製剤、脱水、抗リン脂質抗体症候群、プロテインC・プロテインS・アンチトロンビン欠乏症などの先天性血栓性素因)。 ・症状:片側下肢の腫脹、疼痛、圧痛、皮膚の色調変化(暗赤色〜紫色)、表在静脈の怒張。Homans徴候(足関節を背屈させると腓腹部に痛みが出る)は古典的な所見だが感度・特異度とも低い。 ・左側に多い理由:左総腸骨静脈は右総腸骨動脈と腰椎の間で圧迫されやすい(腸骨静脈圧迫症候群、May-Thurner症候群)。
検査
・Dダイマー:フィブリン分解産物であり、陰性であればDVTの除外に有用(陰性的中率が高い)。一方、術後・妊娠・炎症・悪性腫瘍などでも上昇するため陽性だけでは確定できない。 ・下肢静脈超音波検査:第一選択の画像検査。プローブで圧迫しても静脈がつぶれない(非圧縮性)ことや、内腔の血栓エコー、血流信号の欠如で診断する。 ・造影CT:骨盤内静脈の血栓や肺塞栓症の合併評価に有用。
合併症と治療
・最も重要な合併症は肺血栓塞栓症で、血栓が遊離して肺動脈を閉塞すると突然の呼吸困難・胸痛・ショックをきたし致死的となりうる(DVTと肺塞栓症をまとめて静脈血栓塞栓症と呼ぶ)。慢性期には静脈弁の破壊により血栓後症候群(下肢の慢性的な腫脹・色素沈着・潰瘍)を残すことがある。 ・治療の基本は抗凝固療法(ヘパリン、直接経口抗凝固薬〈DOAC〉、ワルファリンなど)。重症例では血栓溶解療法やカテーテル治療、抗凝固療法が行えない例などでは下大静脈フィルターが検討される。 ・予防:早期離床、弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法、十分な水分補給。
片側下肢腫脹の主な鑑別
・蜂巣炎:発熱、局所熱感、境界不明瞭な発赤、感染の入り口(外傷、足白癬など)。 ・リンパ浮腫:緩徐進行、無痛性、リンパ節郭清・放射線治療歴。 ・Baker嚢腫破裂:膝窩部の嚢腫が破れて下腿に腫脹・疼痛をきたし、DVTと紛らわしい。 ・筋肉内血腫・肉離れ:外傷や出血傾向の背景。
POINT
・急性発症の片側下肢全体の有痛性腫脹と暗赤色の変色は深部静脈血栓症をまず考える。 ・Virchowの3徴:血流うっ滞・血管内皮障害・凝固能亢進。脱水(飲酒、下痢、利尿薬など)や長時間の同一姿勢は若年者でも誘因になる。 ・下肢DVTは左側に多い(左総腸骨静脈が右総腸骨動脈に圧迫される:May-Thurner症候群)。 ・発熱・感染巣がなければ蜂巣炎は考えにくい。リンパ浮腫は緩徐・無痛性、特発性浮腫は女性・両側性。 ・診断はDダイマー(除外に有用)と下肢静脈超音波。最大の合併症は肺血栓塞栓症。
