StudyMed医師国家試験

止まらない咳と対側の縦隔リンパ節―「切れない肺癌」をどう治すか

第101回医師国家試験 A問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第101回 A問題 第16問

67歳の女性。咳嗽を主訴に来院した。1か月前から,夕方から夜にかけて咳嗽が出現し,近医で鎮咳薬の投与を受けたが改善しない。喫煙20本/日を40年間。意識は清明。身長156cm,体重45kg。体温36.5℃。脈拍64/分,整。血圧128/98mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。尿所見:蛋白(-),糖(-),潜血(-)。血液所見:赤血球348万,白血球5,300,血小板38万。血液生化学所見:AST 31U/L,ALT 24U/L。CRP 0.8mg/dL。胸部エックス線写真(A)と胸部造影CT(B)とを示す。入院後の精査で扁平上皮癌と診断されたが,胸郭外病変はない。全身状態は良好である。 治療法として最も適切なのはどれか。

第101回 A問題 第16問の問題画像
  1. a.対症療法
  2. b.外科治療
  3. c.放射線治療単独
  4. d.抗癌化学療法単独
  5. e.抗癌化学療法,放射線治療併用

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肺癌と診断がついたあとの「治療方針」を問う問題だ。肺癌の治療は、TNM分類で決まる病期と全身状態の2本柱で決まる。特に画像で、どこのリンパ節まで広がっているかに注目してほしい。
医学生医学生
喫煙歴が長く、鎮咳薬の効かない咳が続いているので、まず肺癌を疑う流れですね。
ドクタードクター
そうだね。喫煙指数800の重喫煙者に続く咳だ。扁平上皮癌は喫煙との関連が強く、中枢の太い気道に発生しやすいから、咳や血痰で見つかることが多い。炎症反応が乏しいことも、肺炎などの感染症より腫瘍を考えさせる。
医学生医学生
呼吸器の講義で、扁平上皮癌は中枢型、腺癌は末梢型と習いました。PTHrPによる高カルシウム血症もありましたね。
ドクタードクター
よく覚えているね。では画像を見よう。胸部エックス線写真では右上肺野の縦隔寄りに腫瘤影があり、縦隔陰影の右上部が広がっている。造影CTでは、右上葉の肺門〜縦隔に接する分葉状の腫瘤に加えて、気管の前方から左側、大動脈弓の近くに腫大リンパ節と考えられる軟部組織影がある。この左側の病変をどう解釈する?
医学生医学生
原発は右なので、左側の縦隔リンパ節は同側ではありません。N2ではなくN3でしょうか。
ドクタードクター
正解。N1は同側の肺門・肺内、N2は同側の縦隔、N3は対側の縦隔・肺門や鎖骨上窩のリンパ節転移だ。胸郭外病変がないからM0。N3・M0ならT因子にかかわらずⅢ期で、現行の分類ではⅢB期かⅢC期になる。出題当時の分類ではⅢB期とされていた。
医学生医学生
Ⅲ期なら遠隔転移はないので、手術で取りきれないかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だね。非小細胞肺癌で手術が標準となるのは原則Ⅰ〜Ⅱ期で、同側縦隔リンパ節転移を伴うⅢA期の一部で検討されるにとどまる。対側縦隔まで広がったN3は、切除しても予後が改善しないから手術適応にならない。いわゆる切除不能の局所進行肺癌なんだ。
医学生医学生
呼吸器外科を回ったとき、術前にPET-CTや超音波気管支鏡で縦隔リンパ節を丁寧に調べていたのは、そのためだったんですね。
ドクタードクター
まさにそう。N因子が手術できるかどうかを分けるからね。では切除できないとき、何を選ぶか。全身状態は良好で、病変は胸郭内に限られている。
医学生医学生
局所の病変なので放射線治療単独でもよさそうに思えますが、それでは足りないのでしょうか。
ドクタードクター
放射線は原発巣と縦隔リンパ節の局所制御には有効だ。ただ局所進行癌では、画像に写らない微小な遠隔転移が潜んでいる可能性が高い。だから全身治療である化学療法を一緒に行う。化学療法には放射線の効果を高める増感作用もある。プラチナ製剤を含む化学療法と胸部放射線治療の同時併用、つまり化学放射線療法が標準で、根治をめざす治療だ。放射線単独は、化学療法に耐えられない高齢者や合併症のある人などに限られる。
医学生医学生
逆に、化学療法単独はどんなときに選ぶのですか。
ドクタードクター
遠隔転移のあるⅣ期や、病変が広範で一つの照射野に収まらない場合だね。今回は胸郭内に限局しているから、放射線で局所を叩く意義が大きい。対症療法のみは、全身状態が悪く積極的治療に耐えられない場合や本人が望まない場合の選択で、今回は当てはまらない。もっとも、緩和ケア自体は診断時から治療と並行して提供するものだよ。
医学生医学生
病期で手術の可否を決め、全身状態と病変の範囲で放射線と化学療法の組み合わせを決める、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。発展知識として、化学放射線療法は順次に行うより同時に行うほうが生存率が高く、放射線は通常60Gy/30回程度だ。さらに現在は、化学放射線療法後に病勢進行がなければ、抗PD-L1抗体のデュルバルマブによる地固め療法を追加するのが標準になっている。
医学生医学生
Ⅳ期だと、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子を調べて分子標的薬を選ぶんでしたよね。
ドクタードクター
そう。ドライバー遺伝子異常は腺癌に多く、Ⅳ期ではPD-L1の発現なども踏まえて薬物療法を選ぶ。臨床では、同時併用の化学放射線療法は食道炎や放射線肺臓炎などの副作用も出やすいから、治療中・治療後の咳や発熱には注意が必要だ。病期を正確に決めることが、最適な治療を届ける第一歩なんだよ。

まとめ

喫煙者に続く咳嗽と肺門部の腫瘤は、中枢発生の多い扁平上皮癌を想起させます。原発巣と反対側の縦隔リンパ節転移はN3にあたり、遠隔転移がなくてもⅢ期の切除不能局所進行肺癌となるため、手術の適応はありません。全身状態が良好で病変が一つの照射野に収まる場合は、プラチナ製剤を含む化学療法と胸部放射線治療の同時併用(化学放射線療法)が根治をめざす標準治療で、現在はその後にデュルバルマブによる地固め療法を行います。放射線単独は化学療法が困難な例、化学療法単独はⅣ期など照射野に収まらない例、対症療法のみは積極的治療に耐えられない例が対象です。非小細胞肺癌では「Ⅰ〜Ⅱ期は手術、切除不能Ⅲ期は化学放射線療法、Ⅳ期は薬物療法」という病期別の大枠を、N因子の判定とあわせて押さえておくことが治療選択の土台になります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・67歳女性、喫煙指数800(20本×40年)の重喫煙者。肺癌、とくに扁平上皮癌や小細胞癌など喫煙との関連が強い組織型の高リスク群である。 ・1か月続く咳嗽が鎮咳薬で改善しない。遷延性の咳嗽は、中枢気道に発生しやすい扁平上皮癌の代表的な症状である。 ・発熱はなく、白血球5,300、CRP 0.8mg/dLと炎症所見は乏しく、肺炎などの感染症は考えにくい。 ・胸部エックス線写真(A):右上肺野の縦隔寄りに腫瘤影があり、縦隔陰影の右上部が拡大している。 ・胸部造影CT(B):右上葉の肺門〜縦隔に接する分葉状の腫瘤に加え、気管の前方〜左側、大動脈弓の近くに腫大したリンパ節と考えられる軟部組織腫瘤を認める。これは原発巣の反対側(左側)の縦隔リンパ節転移と読める。 ・精査で扁平上皮癌と診断され、胸郭外病変(遠隔転移)はない。全身状態は良好(performance status良好)である。

病期の判定

肺癌の治療方針はTNM分類による病期と全身状態で決まる。本例は、原発巣(T)に加え、原発巣と反対側の縦隔リンパ節への転移があり、これはN3に相当する。遠隔転移はないのでM0である。N3・M0は、T因子にかかわらずⅢ期(Ⅲ B期〜Ⅲ C期。T1〜2ならⅢB期、T3〜4ならⅢC期)に分類される。出題当時の分類ではⅢB期とされていた。

設問の考え方

非小細胞肺癌では、手術で根治をめざせるのは原則としてⅠ〜Ⅱ期と一部のⅢA期(同側縦隔リンパ節転移N2の一部など)までである。N3(対側縦隔や鎖骨上窩のリンパ節転移)は切除しても予後が改善しないため、手術の適応とならない。遠隔転移のない切除不能局所進行Ⅲ期で、全身状態がよく、病変が一つの放射線照射野に収まる場合の標準治療は、プラチナ製剤を含む化学療法と胸部放射線治療の同時併用(化学放射線療法)であり、根治をめざす治療となる。

選択肢考察

  1. ×a.  対症療法

    対症療法(緩和ケアのみ)は、全身状態が不良で積極的な抗癌治療に耐えられない場合や、患者が治療を望まない場合に選ばれる。本例は全身状態が良好で遠隔転移もなく、化学放射線療法により根治をめざせる局所進行期であるため、積極的な治療を行うべきである。なお緩和ケアは治療と並行して診断時から提供されるものである。

  2. ×b.  外科治療

    対側縦隔リンパ節転移(N3)がある非小細胞肺癌は切除不能と判断され、外科治療の適応はない。手術が標準となるのはⅠ〜Ⅱ期(リンパ節転移が肺内・同側肺門リンパ節(N1)までの症例)であり、同側縦隔リンパ節転移(N2)を伴うⅢA期の一部で術前・術後治療と組み合わせて手術が検討されるにとどまる。

  3. ×c.  放射線治療単独

    放射線治療は原発巣と縦隔リンパ節の局所制御に有効だが、局所進行癌では画像に写らない微小な遠隔転移が潜在している可能性が高く、単独では再発・遠隔転移を抑えられない。全身状態が良好な患者では化学療法を同時に併用したほうが生存率が高いため、放射線治療単独は化学療法が困難な高齢者や合併症のある患者などに限られる。

  4. ×d.  抗癌化学療法単独

    化学療法単独は、遠隔転移を有するⅣ期や、病変が広範で一つの照射野に収まらない場合の治療である(現在は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬も用いられる)。本例は胸郭内に限局しており、放射線治療による局所制御を加えることで生存率が改善するため、化学療法単独は最適ではない。

  5. ○e.  抗癌化学療法,放射線治療併用

    遠隔転移がなく、全身状態が良好な切除不能局所進行(Ⅲ期)非小細胞肺癌の標準治療は、化学放射線療法である。放射線治療で原発巣と縦隔リンパ節の局所制御を図り、化学療法で潜在的な微小転移を抑えるとともに放射線増感効果を得る。プラチナ製剤(シスプラチンまたはカルボプラチン)を含む化学療法を胸部放射線治療(通常60Gy/30回程度)と同時に行う同時併用が、順次併用よりも生存率が高く推奨される。現在は、化学放射線療法後に病勢進行がなければ、免疫チェックポイント阻害薬デュルバルマブ(抗PD-L1抗体)による地固め療法を追加することが標準となっている。

肺癌の組織型と特徴

・腺癌:最も多い。末梢発生が多く、非喫煙者・女性にもみられる。EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子などのドライバー遺伝子異常が多い。 ・扁平上皮癌:喫煙との関連が強く、中枢(肺門部)に発生しやすい。咳嗽、血痰、無気肺・閉塞性肺炎で発見されることが多い。空洞形成や高カルシウム血症(PTHrP産生)がみられることがある。腫瘍マーカーはSCC、CYFRA 21-1。 ・大細胞癌:末梢発生の大きな腫瘤。 ・小細胞癌:喫煙と関連し、中枢発生。増殖が速く早期に転移する。化学療法・放射線治療の感受性が高い。ProGRP、NSEが上昇。SIADHやLambert-Eaton症候群を合併しうる。

肺癌のN因子(TNM分類第8版)

・N0:所属リンパ節転移なし ・N1:同側の気管支周囲・肺門・肺内リンパ節転移 ・N2:同側の縦隔リンパ節(気管分岐部下を含む)転移 ・N3:対側の縦隔・肺門リンパ節、または同側・対側の斜角筋前・鎖骨上窩リンパ節転移

非小細胞肺癌の病期別治療の概要

・Ⅰ〜Ⅱ期:外科切除(標準は肺葉切除+リンパ節郭清)。病期に応じて術後補助化学療法(Ⅰ期の一部ではテガフール・ウラシル、Ⅱ期以降ではプラチナ併用療法)を行う。手術不能例では定位放射線治療など。 ・ⅢA期:一部は手術を中心とした集学的治療。切除不能例は化学放射線療法。 ・ⅢB〜ⅢC期(N3やT4など切除不能例):化学放射線療法(同時併用)→デュルバルマブによる地固め療法。 ・Ⅳ期:薬物療法が中心。ドライバー遺伝子異常があれば分子標的薬、なければPD-L1発現などに応じて免疫チェックポイント阻害薬(単独または化学療法との併用)、細胞傷害性抗癌薬。

小細胞肺癌の治療

限局型では化学放射線療法(早期であれば手術も検討)、進展型では化学療法(+免疫チェックポイント阻害薬)が中心となる。

POINT

・喫煙者の遷延する咳嗽+肺門部腫瘤 → 扁平上皮癌を想起する。 ・肺癌の治療方針はTNM病期と全身状態(PS)で決まる。 ・対側縦隔リンパ節転移はN3で手術適応はない。 ・遠隔転移がなく全身状態の良い切除不能Ⅲ期非小細胞肺癌の標準治療は、プラチナ製剤を含む化学療法と放射線治療の同時併用(化学放射線療法)であり、その後デュルバルマブによる地固め療法を行う。 ・Ⅰ〜Ⅱ期は手術、Ⅳ期は薬物療法が中心。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。