熱が下がってから出る発疹―「順番」が教える突発性発疹とHHV-6
第100回医師国家試験 I問題 第39問
国試問題にチャレンジ
2歳の女児。発熱と発疹とを主訴に来院した。3日前から39℃ 台の発熱がみられた。今日は37℃ 台に下がったが,顔面,胸腹部および背部に半米粒大の紅斑が出現し,手足に広がってきた。機嫌は悪くなかった。胸部聴診と腹部触診とに異常を認めない。頸部に小豆大のリンパ節を数個触れる。咽頭に軽度の発赤を認める。白血球7,200。CRP 0.7mg/dL。 原因として最も考えられるのはどれか。
- a.アデノウイルス
- b.コクサッキーウイルスA16
- c.ヒトパルボウイルスB19
- d.ヒトヘルペスウイルス6
- e.EBウイルス
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
乳幼児で3〜4日の高熱が続き、解熱と入れ替わるように体幹から顔面・四肢へ広がる小紅斑が出現し、機嫌がよく白血球やCRPが上がらない場合は突発性発疹を考えます。原因は主にヒトヘルペスウイルス6(特にHHV-6B)で、一部はHHV-7によります。発疹と熱の時間関係が鑑別の要であり、麻疹は二峰性発熱の再上昇期、伝染性単核球症(EBウイルス)は発熱中に発疹が出るほか、伝染性紅斑(パルボウイルスB19)は頬の紅斑、手足口病(コクサッキーウイルスA16など)は口腔・手足の小水疱、咽頭結膜熱(アデノウイルス)は結膜炎を伴う点で区別できます。突発性発疹は対症療法で自然に治りますが、熱性けいれんの合併が多く、まれに脳炎・脳症を起こすため保護者への説明が重要です。「熱と発疹の順番」で考える習慣は、小児の発疹性疾患全般を見分ける土台になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・2歳の女児 ・39℃台の高熱が約3日間続き、来院当日に37℃台へ下がった ・解熱に合わせて、顔面・胸腹部・背部に半米粒大の小さな紅斑が出現し、手足へ広がりつつある ・機嫌は悪くない(高熱のわりに全身状態が保たれている) ・胸部・腹部の診察で異常なし。頸部に小豆大のリンパ節を数個触れ、咽頭に軽い発赤がある ・白血球7,200/μLと増えておらず、CRP 0.7mg/dLと軽度上昇にとどまる
診断へのプロセス
乳幼児の発熱と発疹では、「熱と発疹がどのような時間関係で現れたか」が鑑別の最大の手がかりになる。本例では、3日ほどの高熱が下がったところで発疹が出てきた。この「解熱と入れ替わりに現れる発疹」は突発性発疹に典型的な経過である。 発疹は小さな紅斑で、体幹から顔面・四肢へ広がっている点も突発性発疹に合う。頸部リンパ節の軽い腫大や咽頭の軽い発赤も、本症でよくみられる随伴所見である。白血球増多がなくCRPも低いことから細菌感染は考えにくく、機嫌がよいことも重症感染症を否定する方向に働く。 他の発疹性ウイルス感染症では、麻疹は発疹期にむしろ熱が再上昇し(二峰性発熱)、伝染性単核球症の発疹は発熱の最中に現れ、伝染性紅斑は頬の紅斑から始まり高熱を伴わないことが多い。これらと比べると、本例は突発性発疹と診断するのが最も自然である。
設問の考え方
突発性発疹の原因ウイルスは主にヒトヘルペスウイルス6(HHV-6、特にHHV-6B)であり、一部はヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)による。したがって原因として最も考えられるのはHHV-6である。
選択肢考察
- ×a. アデノウイルス
アデノウイルスは、咽頭結膜熱(プール熱:発熱・咽頭炎・結膜炎の3徴)、流行性角結膜炎、出血性膀胱炎、胃腸炎、肺炎などの原因となる。高熱が5日前後続くことが多く、白血球数やCRPが比較的高くなりやすい。滲出性扁桃炎や結膜充血が目立つのが特徴で、解熱と同時に全身へ広がる紅斑という経過は典型的ではない。本例には結膜炎の記載もなく、合わない。
- ×b. コクサッキーウイルスA16
コクサッキーウイルスA16はエンテロウイルス71などとともに手足口病の代表的な原因ウイルスであり、ヘルパンギーナの原因にもなりうる。手足口病では口腔粘膜の小水疱・アフタと、手掌・足底・殿部などの小水疱性発疹が特徴で、発熱は軽いか短期間であることが多い。本例は口腔内の水疱やアフタがなく、発疹も水疱ではなく紅斑で体幹から広がっているため、手足口病の像とは異なる。
- ×c. ヒトパルボウイルスB19
ヒトパルボウイルスB19は伝染性紅斑(りんご病)の原因である。好発は幼児から学童で、頬に境界明瞭な紅斑が出て「平手打ち様」となり、続いて四肢伸側にレース状(網目状)の紅斑が現れる。発疹が出る時期にはすでにウイルス排出はほぼ終わっており、発熱はないか軽度であることが多い。本例のように3日間の高熱の後に小紅斑が体幹中心に広がる経過とは合わない。なお本ウイルスは赤芽球系前駆細胞に感染するため、溶血性貧血患者での無形成発作(aplastic crisis)や、妊婦感染による胎児水腫の原因としても重要である。
- ○d. ヒトヘルペスウイルス6
ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6、主にHHV-6B)は突発性発疹の主な原因ウイルスである。突発性発疹は生後6か月から2歳ごろの乳幼児に好発し、38〜40℃の高熱が3〜4日続いた後、解熱と前後して体幹を中心に小さな紅斑や丘疹が出現し、顔面・四肢へ広がる。高熱のわりに機嫌がよいこと、発疹は数日で色素沈着を残さずに消えることも特徴である。本例は年齢、熱と発疹の時間関係、全身状態、炎症反応の低さのいずれもがこれに一致する。
- ×e. EBウイルス
EBウイルス(Epstein-Barrウイルス)は伝染性単核球症の原因である。発熱・咽頭扁桃炎(白苔を伴うことが多い)・頸部を中心とした全身のリンパ節腫脹の3徴に加え、肝脾腫、肝機能障害、末梢血の異型リンパ球増加がみられる。発熱は1〜2週間程度持続することが多く、発疹が出る場合も発熱の時期と重なる。特にアンピシリンなどのペニシリン系抗菌薬を投与すると高率に発疹が出ることが知られている。本例は3日で解熱し、その後に発疹が現れているため合わない。
突発性発疹の概要
・原因:HHV-6B(大部分)、HHV-7。HHV-7による場合は、HHV-6による突発性発疹を経験した後の2回目の突発性発疹として現れることがある。 ・感染経路:多くは唾液中にウイルスを排出している家族(主に親)から乳児へ感染する。いったん感染するとウイルスは体内に潜伏し続ける(ヘルペスウイルス科に共通の性質)。 ・好発年齢:生後6か月〜2歳ごろ。母体からの移行抗体が減る時期に一致し、多くの子どもにとって「初めての高熱」になりやすい。 ・経過:突然の高熱が3〜4日続く → 解熱と前後して体幹中心の紅斑・丘疹が出現し、顔面や四肢へ広がる → 発疹は3日前後で色素沈着を残さず消える。 ・随伴症状:機嫌が比較的よい、軽い下痢、大泉門膨隆、頸部リンパ節腫脹、口蓋垂の根元の両側にみられる紅色の粘膜疹(永山斑)など。 ・検査:白血球数は正常〜減少することが多く、CRPは低値。 ・合併症:熱性けいれんが比較的多い。まれに脳炎・脳症を起こす。 ・治療:特異的な治療はなく、解熱薬や水分補給などの対症療法で自然に治る。
乳幼児の主な発疹性ウイルス感染症と原因
・突発性発疹:HHV-6、HHV-7 … 解熱とともに発疹 ・麻疹:麻疹ウイルス … カタル期の後、いったん下がった熱が再上昇するのと同時に発疹(二峰性発熱)、コプリック斑 ・風疹:風疹ウイルス … 発熱と同時に発疹、耳介後部・後頭部のリンパ節腫脹 ・水痘:水痘・帯状疱疹ウイルス(HHV-3) … 紅斑・丘疹・水疱・痂皮が混在 ・伝染性紅斑:ヒトパルボウイルスB19 … 頬の平手打ち様紅斑、四肢のレース状紅斑 ・手足口病:コクサッキーウイルスA16、エンテロウイルス71など … 口腔・手足の小水疱 ・伝染性単核球症:EBウイルス(HHV-4) … 発熱・咽頭扁桃炎・リンパ節腫脹、ペニシリン系で発疹
ヒトヘルペスウイルスの番号と代表的疾患
HHV-1/2(単純ヘルペスウイルス1型/2型):口唇ヘルペス・性器ヘルペスなど、HHV-3(水痘・帯状疱疹ウイルス)、HHV-4(EBウイルス)、HHV-5(サイトメガロウイルス)、HHV-6/7(突発性発疹)、HHV-8(カポジ肉腫)。
POINT
・「3〜4日の高熱 → 解熱とともに発疹」は突発性発疹の典型的な経過である。 ・突発性発疹の原因はHHV-6(主にHHV-6B)で、一部はHHV-7による。 ・好発は生後6か月〜2歳ごろで、高熱のわりに機嫌がよく、白血球数やCRPは上がりにくい。熱性けいれんの合併に注意する。 ・発疹と熱の時間関係で鑑別する:麻疹は二峰性発熱の再上昇期に発疹、突発性発疹は解熱とともに発疹、伝染性単核球症は発熱中に発疹。 ・原因ウイルスの対応:伝染性紅斑=パルボウイルスB19、手足口病=コクサッキーA16・エンテロウイルス71、咽頭結膜熱=アデノウイルス、伝染性単核球症=EBウイルス。
