StudyMed医師国家試験

抜歯のあとに続く熱―弁の「疣贅」が菌をばらまく感染性心内膜炎

第100回医師国家試験 I問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第100回 I問題 第18問

40歳の男性。1週前からの39℃ の発熱を主訴に来院した。以前から心雑音を指摘されていた。1か月前に抜歯の既往がある。身長174cm,体重60kg。体温37.6℃。呼吸数18/分。脈拍92/分,整。血圧134/78mmHg。眼瞼結膜に貧血を認めない。心尖部に汎収縮期雑音を聴取する。心エコー図を示す。 この患者で予想される検査結果はどれか。

第100回 I問題 第18問の問題画像
  1. a.血清鉄増加
  2. b.CRP陰性
  3. c.血液培養陽性
  4. d.ガンマグロブリン減少
  5. e.クレアチンキナーゼ増加

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、発熱が続く患者さんの背景と心エコー所見から病態を見抜き、そこから予想される検査結果を選ぶ問題だ。注目点は「もともと心雑音がある」「1か月前の抜歯」「心エコーでの弁の異常」の3つ。これらがどう結びつくか考えてみよう。
医学生医学生
弁膜症がある人が抜歯をして、そのあと熱が続いている……感染性心内膜炎でしょうか。
ドクタードクター
その通り。心尖部の汎収縮期雑音は僧帽弁閉鎖不全症を示唆していて、心エコーの傍胸骨長軸像では、僧帽弁の弁尖に弁とは別にゆらゆら動く塊状の高輝度エコーが付いている。これが疣贅、つまり血小板とフィブリンと細菌が固まった塊だ。
医学生医学生
抜歯で菌が血液に入るというのは、口の中の常在菌ですか。
ドクタードクター
そう。抜歯のような歯科処置では一過性の菌血症が起こり、ふつうは自然に消える。でも弁膜症で弁の表面が傷んでいると、そこに菌が付着して住み着いてしまう。抜歯後に亜急性の経過をとる場合、起炎菌の代表は緑色レンサ球菌だ。
医学生医学生
微生物学の講義で、緑色レンサ球菌は口腔内常在菌で心内膜炎の原因になると習いました。つながりました。
ドクタードクター
では本題。弁に細菌の巣があって、そこから何が起きると思う?
医学生医学生
疣贅から菌が血液中に流れ続ける……だから血液培養が陽性になる、ということですね。
ドクタードクター
正解。持続的な菌血症こそがこの病気の本質で、血液培養陽性は修正Duke診断基準でも、心エコーでの疣贅などの心内膜病変と並ぶ2大基準なんだ。しかも起炎菌と薬剤感受性がわかるから、抗菌薬選択にも欠かせない。
医学生医学生
ほかの選択肢は、炎症の向きを考えればいいんでしょうか。血清鉄は、感染があると下がる気がします。
ドクタードクター
よく気づいたね。炎症が続くとIL-6などのサイトカインで肝臓がヘプシジンを作り、腸からの鉄吸収とマクロファージからの鉄放出が抑えられる。だから血清鉄は下がり、貯蔵鉄の指標であるフェリチンは逆に上がる。慢性炎症に伴う貧血の機序で、亜急性IEでもよくみられる。
医学生医学生
CRPは陰性どころか上がりますよね。1週間以上39℃の熱が続く細菌感染ですから。
ドクタードクター
そう、CRPはIL-6刺激で肝臓から作られる急性期蛋白だから、上昇するのが普通だ。白血球増加や赤沈亢進も伴う。ガンマグロブリンについてはどうかな。
医学生医学生
感染が続けば抗体が増えるので、減少ではなく増加だと思います。
ドクタードクター
その通り、多クローン性に増える。亜急性IEではリウマトイド因子陽性や免疫複合体の形成、補体低下もみられ、免疫複合体は糸球体腎炎の原因にもなる。最後にクレアチンキナーゼは?
医学生医学生
心臓の病気だから上がりそうに思ってしまいましたが、CKは筋肉が壊れたときの酵素でしたね。
ドクタードクター
そこがひっかけだね。CKは心筋梗塞や横紋筋融解症、筋炎で上がる。IEは心内膜、特に弁の感染で、筋組織を壊す病態ではないから特徴的な所見とはいえない。疣贅が冠動脈に飛んで心筋梗塞を起こすような例外を除けば、予想される結果ではない。
医学生医学生
血液培養は、抗菌薬を始める前に取るのが大事なんですよね。臨床実習の循環器内科で、指導医の先生が「熱があるからとりあえず抗菌薬、は絶対ダメ」と言っていました。
ドクタードクター
まさにそれが臨床で一番大事なポイントだ。抗菌薬を先に入れると培養が陰性化して、診断も治療方針も立たなくなる。時間と穿刺部位を変えて、通常3セット採取する。経胸壁心エコーで疣贅がはっきりしなければ、感度の高い経食道心エコーを考える。
医学生医学生
身体所見では、Osler結節やJaneway病変、Roth斑も探すんですよね。
ドクタードクター
そう。指腹の有痛性結節がOsler結節、手掌・足底の無痛性出血斑がJaneway病変、網膜出血がRoth斑だ。脳や腎、脾への塞栓も起こりうる。治療は起炎菌に合わせた殺菌性抗菌薬の4〜6週程度の静注が基本で、心不全、制御できない感染、塞栓リスクの高い大きな疣贅などでは手術を検討する。また、高リスクの心疾患がある人では歯科処置前の抗菌薬予防投与が推奨されているよ。
医学生医学生
不明熱の患者さんで心雑音があったら、まず血液培養と心エコー、と覚えておきます。
ドクタードクター
それが一番の教訓だね。熱の原因がわからないまま抗菌薬を始める前に、必ずIEを思い浮かべよう。

まとめ

弁膜症という素地をもつ患者が、抜歯などの菌血症の契機ののちに持続する発熱を来し、心エコーで弁に疣贅を認めれば感染性心内膜炎を考えます。疣贅から菌が持続的に血中へ放出されるため血液培養陽性が最も特徴的な検査所見であり、心エコーでの心内膜病変とともに修正Duke診断基準の大基準となります。炎症を反映してCRP上昇、白血球増加、赤沈亢進、γグロブリン増加がみられ、ヘプシジンを介して血清鉄は低下しフェリチンは上昇します。抜歯後の亜急性例では緑色レンサ球菌が代表的な起炎菌で、血液培養は抗菌薬開始前に時間と部位を変えて複数セット採取することが診断と治療の鍵です。発熱と心雑音の組み合わせからIEを想起し、検査の優先順位を正しく判断する力は、不明熱診療の基本となります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・40歳男性、1週間続く39℃台の発熱。来院時も37.6℃と発熱が続いている。 ・以前から心雑音を指摘されていた → 基礎に弁膜症がある可能性。 ・1か月前に抜歯 → 口腔内の常在菌(緑色レンサ球菌など)が一過性に血中へ入る菌血症の契機となる。 ・心尖部の汎収縮期雑音(収縮期全体にわたる雑音) → 僧帽弁閉鎖不全症(MR)を示唆する。 ・心エコー図(傍胸骨長軸像):左室・左房・大動脈・右室が描出され、左室と左房の間にある僧帽弁の弁尖に、弁とは別に揺れ動く塊状の高輝度エコーが付着している。これは疣贅(ゆうぜい:血小板・フィブリン・細菌の塊)と考えられる。

診断へのプロセス

弁膜症という素地のある患者が、抜歯という菌血症の契機ののちに持続する発熱を来し、心エコーで弁に疣贅を認める。この組み合わせは感染性心内膜炎(IE:infective endocarditis)の典型像である。抜歯後に亜急性の経過をとることから、起炎菌として緑色レンサ球菌(viridans group streptococci)が最も考えやすい。

設問の考え方

IEは「弁に細菌の巣があり、そこから持続的に菌が血中に流れ出る」病態である。したがって血液培養が陽性になることが最も特徴的な検査所見であり、修正Duke診断基準でも「血液培養陽性」と「心エコーでの心内膜病変(疣贅など)」が2大基準である。そのほか、全身の炎症を反映した所見(CRP上昇、赤沈亢進、白血球増加、γグロブリン増加、炎症に伴う貧血と血清鉄低下)が予想される。選択肢はこの炎症パターンと逆向きのものが並んでいる点に注意して読む。

選択肢考察

  1. ×a.  血清鉄増加

    感染や炎症が続くと、IL-6などの炎症性サイトカインにより肝臓でヘプシジンが増える。ヘプシジンは腸管からの鉄吸収とマクロファージ(網内系)からの鉄放出を抑えるため、鉄は体内にあっても利用できなくなり、血清鉄は低下する。貯蔵鉄の指標であるフェリチンは逆に増加する。これが慢性炎症に伴う貧血(正球性〜軽度小球性)の機序であり、亜急性IEでもしばしばみられる。血清鉄は増加ではなく減少する。

  2. ×b.  CRP陰性

    CRP(C反応性蛋白)は炎症時にIL-6の刺激で肝臓から産生される急性期蛋白である。1週間以上39℃の発熱が続く細菌感染症であるIEでは、CRPは上昇(陽性)し、白血球増加や赤沈亢進も伴うのが通常である。陰性は予想されない。

  3. ○c.  血液培養陽性

    IEでは弁に付着した疣贅から細菌が持続的に血中へ放出されるため、血液培養が陽性となる。これは診断の根幹であると同時に、起炎菌の同定と薬剤感受性の判定によって抗菌薬を選ぶために欠かせない。抗菌薬投与前に、時間と穿刺部位を変えて複数セット(通常3セット)採取する。本例は抜歯後であり、緑色レンサ球菌の検出が予想される。

  4. ×d.  ガンマグロブリン減少

    持続する感染により抗体産生が亢進し、多クローン性にγグロブリンが増加する。亜急性IEではリウマトイド因子陽性や免疫複合体の形成、補体低下などの免疫学的所見もみられ、免疫複合体は糸球体腎炎の原因となる。γグロブリンは減少ではなく増加する。

  5. ×e.  クレアチンキナーゼ増加

    クレアチンキナーゼ(CK)は骨格筋や心筋が壊死・損傷したときに血中へ漏れ出る酵素で、急性心筋梗塞、横紋筋融解症、筋炎などで上昇する。IEそのものは筋組織の破壊を来す病態ではなく、CK上昇はIEの特徴的な所見ではない。疣贅が冠動脈に塞栓して心筋梗塞を起こすという例外的状況を除けば、予想される検査結果とはいえない。

感染性心内膜炎(IE)の概要

弁膜や心内膜、大血管内膜に細菌などが感染し、疣贅を形成する全身性の敗血症性疾患である。

危険因子

・弁膜症(僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁疾患など)、先天性心疾患(心室中隔欠損症など)、人工弁、IEの既往。 ・菌血症の契機:歯科処置(抜歯など)、静注薬物使用、カテーテル留置、泌尿器・消化管処置など。

起炎菌

・亜急性の経過:緑色レンサ球菌(口腔内常在菌、歯科処置後)、腸球菌など。 ・急性の経過:黄色ブドウ球菌(静注薬物使用者、カテーテル関連)。弁破壊が速く重症化しやすい。

臨床所見

発熱、新たな心雑音または雑音の変化、心不全、塞栓症状(脳梗塞、腎梗塞、脾梗塞など)、皮膚・眼の所見(点状出血、Osler結節:指腹の有痛性結節、Janeway病変:手掌・足底の無痛性出血斑、Roth斑:網膜出血)、脾腫、糸球体腎炎など。

修正Duke診断基準の大基準

1. 血液培養陽性:IEに典型的な菌が2回の別々の血液培養から検出される、または持続的な菌血症。 2. 心内膜病変の証拠:心エコーでの疣贅、膿瘍、人工弁の新たな部分的離開、あるいは新たな弁逆流。 大基準2つ、または大基準1つ+小基準3つ、または小基準5つで確定診断とする。小基準には素因(弁膜症など)、38℃以上の発熱、血管現象(塞栓など)、免疫学的現象(糸球体腎炎、Osler結節、Roth斑、リウマトイド因子)、大基準を満たさない微生物学的所見がある。

検査・治療のポイント

・血液培養は抗菌薬開始前に複数セット採取する。 ・経胸壁心エコーで疣贅が確認しにくい場合は、経食道心エコーが感度に優れる。 ・治療は起炎菌に合わせた殺菌性抗菌薬の長期(4〜6週程度)静注。心不全、コントロール不能な感染、大きな疣贅による塞栓リスクなどは外科手術の適応となる。 ・高リスク心疾患患者では歯科処置前の抗菌薬予防投与(アモキシシリン内服など)が推奨される。

POINT

・弁膜症の既往+抜歯後の持続する発熱+心エコーで弁の疣贅 → 感染性心内膜炎。 ・診断の二本柱は血液培養陽性と心エコーでの疣贅(修正Duke基準の大基準)。 ・血液培養は抗菌薬開始前に、時間と部位を変えて複数セット採取する。 ・炎症所見:CRP上昇、赤沈亢進、白血球増加、γグロブリン増加、血清鉄低下・フェリチン上昇(慢性炎症に伴う貧血)。 ・抜歯後の亜急性IEの起炎菌は緑色レンサ球菌が代表。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。