StudyMed医師国家試験

平地はOK、階段で遅れる―Hugh-Jones分類は「どこで息が切れるか」で決まる

第100回医師国家試験 I問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第100回 I問題 第10問

70歳の男性。労作時の息切れを主訴に来院した。平地なら同年輩の友人と同様に歩行できるが,地下鉄の階段では遅れてマイペースでないと昇れない。40年前,肺結核に対し胸郭形成術を受けた。 この患者の息切れの程度はHugh-Jones分類の何度か。

  1. a.Ⅰ度
  2. b.Ⅱ度
  3. c.Ⅲ度
  4. d.Ⅳ度
  5. e.Ⅴ度

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、息切れの程度をHugh-Jones分類で判定する問題だ。この分類は、日常のどんな動作で息切れが出るかで重症度を段階分けするもの。着目点は「平地」と「階段」で、健常な同年代の人と比べてどうか、という2点だ。
医学生医学生
呼吸器内科の講義で習いましたが、Ⅱ度とⅢ度の違いがいつも曖昧になってしまいます。
ドクタードクター
そこが一番の混乱ポイントだね。コツは、軽いほうから順に「できるか」をチェックしていくこと。まずⅠ度は、仕事も歩行も坂道・階段も同年代の健常者と同じようにできる状態。次にⅡ度は、平地なら健常者と同様に歩けるけれど、坂道や階段は健常者並みには昇れない状態だ。
医学生医学生
今回の患者さんは、平地は友人と同じように歩けて、階段では遅れてしまう。そのままⅡ度の定義に当てはまりますね。
ドクタードクター
その通り、正解はⅡ度だ。ここで、なぜⅢ度ではないかを確認しておこう。Ⅲ度はどんな状態だったかな。
医学生医学生
えっと……階段が自分のペースでないと昇れないから、Ⅲ度の「マイペースなら歩ける」に近い気がして迷いました。
ドクタードクター
いいところでつまずいてくれたね。Ⅲ度の「自分のペースなら」は平地の話なんだ。平地でさえ健常者並みには歩けないが、自分のペースなら1マイル、約1.6km以上は歩ける、というのがⅢ度。今回は平地は友人と同様に歩けているから、Ⅲ度より軽いと判断できる。
医学生医学生
なるほど。「マイペース」という言葉に引っ張られず、それが平地のことか階段のことかを見るんですね。
ドクタードクター
そう。さらに重いⅣ度は、休みながらでなければ50ヤード、約46mも歩けない状態。Ⅴ度は会話や着替えでも息切れがして、外出もできない最重症だ。まとめると「平地」「坂・階段」「1マイル」「50ヤード」「会話・着替え」の5つのキーワードで覚えるといい。
医学生医学生
Ⅰ度が階段も平気、Ⅱ度が階段でアウト、Ⅲ度が平地でもアウト、と考えると整理しやすいです。
ドクタードクター
うまい整理だね。では背景にも目を向けよう。40年前に肺結核で胸郭形成術を受けている。これがどんな手術か知っているかな。
医学生医学生
臨床実習で呼吸器外科を回ったときにも見たことはないです。今は行われていない手術ですよね。
ドクタードクター
そうだね。抗結核薬が十分に普及する前に行われた外科治療で、肋骨を切除して胸壁を陥没させ、病巣のある肺を潰して虚脱させる手術だ。術後は胸郭の変形と肺容量の減少から拘束性換気障害になり、数十年たって慢性呼吸不全に進むことが多い。いわゆる肺結核後遺症だ。
医学生医学生
拘束性なら、スパイロメトリーでは%肺活量が下がるパターンですね。CBTの対策で、閉塞性は1秒率、拘束性は%肺活量と覚えました。
ドクタードクター
そのとおり。そしてもう一つ大事なのが、肺胞低換気によってPaCO2が上がるⅡ型呼吸不全になりやすいこと。だから感染や、酸素を多く投与しすぎたことをきっかけにCO2ナルコーシスを起こすことがある。在宅酸素療法や非侵襲的陽圧換気が治療の選択肢になるんだ。
医学生医学生
酸素をたくさん吸わせればいいわけではない、という点は救急外来でも気をつけるべきですね。
ドクタードクター
まさに臨床で重要なポイントだ。最後に、現在はCOPDなどの評価でmMRC息切れスケールが国際的によく使われていることも知っておこう。0から4のGradeで、平地を同年代より遅くしか歩けない、あるいは自分のペースでも息継ぎで立ち止まるのがGrade 2。GOLDの評価ではmMRC 2以上が症状の多い群とされる。Hugh-Jones分類と段階の区切りが違うから、混同しないようにね。
医学生医学生
問診で「どこまで歩けますか」「階段はどうですか」と具体的に聞くことが、そのまま重症度評価になるんですね。OSCEの医療面接でも使えそうです。
ドクタードクター
そう、息切れは主観的な症状だからこそ、具体的な動作に落とし込んで聞くことが大切なんだ。経過を追うときにも同じ物差しで比べられるのが、こうした分類の価値だよ。

まとめ

Hugh-Jones分類は、息切れが生じる日常動作によって呼吸困難をⅠ〜Ⅴ度に分ける指標で、「平地」「坂・階段」「1マイル」「50ヤード」「会話・着替え」の順に判定します。平地は同年代の健常者と同様に歩けるが坂道や階段で遅れる場合はⅡ度であり、Ⅲ度の「自分のペースなら1マイル以上歩ける」は平地歩行についての記載である点に注意が必要です。胸郭形成術後の肺結核後遺症は拘束性換気障害を主体とし、肺胞低換気によるⅡ型呼吸不全を来しやすいため、感染や過剰な酸素投与によるCO2ナルコーシスに注意し、在宅酸素療法や非侵襲的陽圧換気が選択肢となります。国際的にはmMRC息切れスケールも広く用いられており、段階の区切りが異なるため区別して覚えておきましょう。息切れを具体的な動作に置き換えて評価する姿勢は、問診や経過観察の質を高める基本となります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

70歳男性で、40年前に肺結核の治療として胸郭形成術を受けている。主訴は労作時の息切れで、「平地は同年代の友人と同じように歩ける」「地下鉄の階段は遅れてしまい、自分のペースでなければ昇れない」という状態である。

背景となる病態

胸郭形成術は、抗結核薬が十分に普及する以前に行われた外科治療で、肋骨を切除して胸壁を陥没させ、結核病巣のある肺を虚脱させる手術である。術後は胸郭の変形と肺容量の減少により拘束性換気障害を来し、数十年を経て慢性呼吸不全(結核後遺症)に進展することが多い。高二酸化炭素血症を伴うⅡ型呼吸不全となりやすく、在宅酸素療法や非侵襲的陽圧換気(NPPV)の対象となることもある。

設問へのアプローチ

Hugh-Jones(ヒュー・ジョーンズ)分類は、日常の身体活動のどの段階で息切れが生じるかによって呼吸困難の程度をⅠ〜Ⅴ度に分ける指標である。判定のポイントは次の順に確認するとよい。 ①平地を健常な同年代者と同じように歩けるか ②坂道や階段を健常者と同じように昇れるか ③平地を自分のペースなら1マイル(約1.6km)以上歩けるか ④休みながらでなければ50ヤード(約46m)も歩けないか ⑤会話や着替えでも息切れするか 本症例は①は可能、②は不可能であるため、Ⅱ度に該当する。

選択肢考察

  1. ×a.  Ⅰ度

    Ⅰ度は、同年代の健常者と同じように仕事ができ、歩行も坂道・階段の昇降も健常者並みに行える状態である。本症例は階段で友人から遅れ、自分のペースでなければ昇れないため、Ⅰ度には当たらない。

  2. ○b.  Ⅱ度

    Ⅱ度は、平地は同年代の健常者と同様に歩けるが、坂道や階段は健常者並みには昇れない状態と定義される。本症例は「平地は友人と同様に歩行できる」「地下鉄の階段では遅れてマイペースでないと昇れない」と、この定義にそのまま一致する。

  3. ×c.  Ⅲ度

    Ⅲ度は、平地でさえ健常者並みには歩けないが、自分のペースであれば1マイル(約1.6km)以上歩ける状態である。本症例は平地歩行が健常者と同等であるため、Ⅲ度より軽い。

  4. ×d.  Ⅳ度

    Ⅳ度は、途中で休みながらでなければ50ヤード(約46m)も歩けない状態である。平地を友人と同様に歩ける本症例には当てはまらない。

  5. ×e.  Ⅴ度

    Ⅴ度は最重症で、会話や衣服の着脱といった軽い動作でも息切れがあり、息切れのために外出もできない状態である。本症例とはかけ離れている。

Hugh-Jones分類

Ⅰ度:同年齢の健常者と同様に労作ができ、歩行・坂道や階段の昇降も健常者並みにできる。 Ⅱ度:同年齢の健常者と同様に平地を歩行できるが、坂道・階段は健常者並みには昇れない。 Ⅲ度:平地でも健常者並みには歩けないが、自分のペースなら1マイル(約1.6km)以上歩ける。 Ⅳ度:休みながらでなければ50ヤード(約46m)も歩けない。 Ⅴ度:会話・衣服の着脱でも息切れがする。息切れのため外出できない。

mMRC(modified British Medical Research Council)息切れスケール

現在、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの評価で国際的によく用いられるのはmMRCスケールである。 Grade 0:激しい運動をしたときだけ息切れがある。 Grade 1:平地を急ぎ足で移動する、または緩やかな坂を歩いて登るときに息切れがある。 Grade 2:息切れのため同年代の人より平地歩行が遅い、または自分のペースで平地を歩いていても息継ぎのために立ち止まることがある。 Grade 3:平地を約100m、あるいは数分歩くと息継ぎのため立ち止まる。 Grade 4:息切れがひどく家から出られない、あるいは衣服の着替えでも息切れがする。 COPDの総合評価(GOLD)では、mMRC 2以上を「症状が多い」群とする。

肺結核後遺症

胸郭形成術や広範な胸膜肥厚・肺の荒廃により、拘束性換気障害(%肺活量の低下)を主体とする慢性呼吸不全を来す。肺胞低換気によるⅡ型呼吸不全(PaCO2上昇)を呈しやすく、感染や過度の酸素投与を契機にCO2ナルコーシスを起こすことがある。在宅酸素療法やNPPVが治療選択肢となる。

POINT

・Hugh-Jones分類は「平地」「坂・階段」「1マイル」「50ヤード」「会話・着替え」の5段階で判定する。 ・平地は健常者並みだが坂・階段で遅れる → Ⅱ度。 ・平地でも遅れるが自分のペースなら1マイル以上歩ける → Ⅲ度。 ・胸郭形成術後の結核後遺症は拘束性換気障害・Ⅱ型呼吸不全を来しやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。