StudyMed医師国家試験

尿管は「前」を通る―後腹膜から骨盤へたどる尿路の立体解剖

第100回医師国家試験 G問題 第45問

国試問題にチャレンジ

第100回 G問題 第45問

正しいのはどれか。

  1. a.腎臓は腹膜腔内に存在する。
  2. b.右精巣静脈は右腎静脈に流入する。
  3. c.尿管は大腰筋の背側を走行する。
  4. d.尿管は総腸骨動脈の腹側を走行する。
  5. e.尿道は精囊を貫いて走行する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、腎臓から尿道までの尿路と、その周りの血管・筋・臓器との位置関係を問う解剖の問題だ。ポイントは、尿路を上から下へ一本の流れとして頭の中でたどれるかどうか。まずは出発点の腎臓から。腎臓はお腹のどこにあるかな。
医学生医学生
背中側、後腹膜にあるはずです。解剖実習では腹膜をはがしてから、脂肪に埋もれた腎臓を掘り出しました。
ドクタードクター
その通り。腎臓は壁側腹膜より背側にある後腹膜臓器で、腎周囲脂肪とGerota筋膜に包まれている。副腎、尿管、腹部大動脈、下大静脈、膵臓の大部分、十二指腸の大部分も後腹膜臓器だ。だから腹膜腔内にあるという記述は誤り。背中から経皮的に腎生検ができるのも、この位置関係のおかげだね。
医学生医学生
次に精巣静脈ですが、左右で流入先が違ったような……。右も腎静脈に入るんでしたっけ。
ドクタードクター
そこは非対称なんだ。左精巣静脈は左腎静脈に直角に流入するけれど、右精巣静脈は下大静脈に直接、鋭角に流入する。右腎静脈には入らない。
医学生医学生
あっ、それで精索静脈瘤は左に多いんですね。泌尿器科の実習で、立位で左の陰嚢を触ると虫の袋みたいだと教わりました。
ドクタードクター
まさに。左は腎静脈に直角に入るうえ、左腎静脈が大動脈と上腸間膜動脈の間で挟まれること(ナットクラッカー現象)もあって、静脈圧が上がりやすい。逆に右側だけの精索静脈瘤や急に出てきた精索静脈瘤では、後腹膜腫瘍などによる圧迫を疑う必要があるよ。
医学生医学生
では尿管です。大腰筋の後ろを通るというのは、なんとなく背中寄りのイメージで正しそうに思えたんですが。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。大腰筋は腰椎の椎体と横突起から起こって脊柱の両脇を下る筋で、その背側には横突起や腰方形筋があり、尿管が通るすき間はない。尿管は腹膜の後ろで、大腰筋の前面、つまり腹側に沿って下行する。造影CTの横断像で、大腰筋のすぐ前に造影された尿管が点のように見えるのを思い出すといい。
医学生医学生
放射線科の実習でCTウログラフィーを見たとき、確かに大腰筋の前に尿管が並んでいました。では、総腸骨動脈との関係は?
ドクタードクター
尿管は骨盤上口の分界線付近で、総腸骨動脈の分岐部あたり、側によっては外腸骨動脈の起始部の前面を横切って骨盤腔に入る。つまり総腸骨動脈の腹側を走るという記述が正解だ。その後は骨盤側壁に沿って下り、膀胱底の後外側から膀胱壁を斜めに貫く。
医学生医学生
腹部でも骨盤の入り口でも、尿管は「前」を通るんですね。この交差部は、尿管結石が引っかかりやすい生理的狭窄部位の一つでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。生理的狭窄部位は、腎盂尿管移行部、総腸骨動脈との交差部、尿管膀胱移行部の3か所で、膀胱壁内が最も狭い。最後に尿道と精嚢の関係はどうかな。
医学生医学生
尿道が貫くのは前立腺で、精嚢ではなかったと思います。前立腺肥大症で排尿障害が出るのも、尿道を取り囲んでいるからですよね。
ドクタードクター
正解。精嚢は膀胱底の背面、前立腺の上方にある一対の分泌腺で、その導管が精管膨大部と合流して射精管になり、前立腺を貫いて前立腺部尿道の精丘に開口する。精嚢自体を尿道が貫くことはないんだ。
医学生医学生
精嚢は射精管を介してつながるだけで、尿道の通り道ではないということですね。
ドクタードクター
その通り。臨床で特に大事な発展知識も押さえておこう。尿管は精巣・卵巣動静脈の背側を通り、骨盤内では男性なら精管の下、女性なら子宮動脈の下をくぐる。女性では「橋の下を水が流れる」と覚えるといい。子宮摘出術で子宮動脈を結紮するとき、すぐ下を走る尿管を誤って損傷しやすいから、婦人科手術では尿管の確認が欠かせないんだ。
医学生医学生
解剖の知識が、そのまま手術の安全につながるんですね。
ドクタードクター
そう。結石の嵌頓部位、精索静脈瘤の左右差、手術時の尿管損傷など、尿路の位置関係は臨床のあちこちで顔を出す。一本の線として立体的にたどれるようにしておこう。

まとめ

腎臓と尿管は壁側腹膜より背側にある後腹膜臓器で、尿管は大腰筋の前面(腹側)を下行し、骨盤上口付近で総腸骨動脈の分岐部付近の前面(腹側)を横切って骨盤腔に入ります。右精巣静脈は下大静脈に直接流入し、左精巣静脈は左腎静脈に流入するため、精索静脈瘤は左側に多く発生します。男性の尿道が貫くのは前立腺であり、精嚢は射精管を介して前立腺部尿道の精丘に分泌物を送ります。尿管の生理的狭窄部位(腎盂尿管移行部・総腸骨動脈交差部・尿管膀胱移行部)は結石の嵌頓しやすい場所であり、骨盤内で子宮動脈の下をくぐる走行は子宮摘出術での尿管損傷の原因となります。尿路を上から下へ周囲構造との前後関係を含めて立体的に理解しておくことは、画像診断や結石・手術合併症の理解に直結します。

解答・解説

正解はdです

本問は腎・尿管・精巣静脈・尿道といった尿路と周辺構造の位置関係を問う解剖学の問題である。 尿路系の臓器はほとんどが腹膜の外(後腹膜腔や腹膜下腔)にあり、腹膜腔内に入り込むことはない。尿路の位置関係を立体的に整理するには、次の流れで追うとよい。 1. 腎臓は第12胸椎〜第3腰椎の高さで、脊柱の両側の後腹膜腔にあり、背側には大腰筋・腰方形筋が接する。 2. 腎盂から出た尿管は、大腰筋の前面(腹側)に沿って下行する。途中、精巣(卵巣)動静脈と交差し、その背側を通る。 3. 骨盤上口(分界線)の付近で、尿管は総腸骨動脈の分岐部付近(または外腸骨動脈起始部)の前面(腹側)をまたいで骨盤腔に入る。 4. 骨盤内では骨盤側壁に沿って走り、男性では精管の下(背側)、女性では子宮動脈の下(背側)をくぐって膀胱底の後外側から膀胱壁を斜めに貫く。 5. 男性の尿道は膀胱頸部から前立腺を貫き(前立腺部尿道)、尿生殖隔膜(隔膜部)、尿道海綿体(海綿体部)を経て外尿道口に至る。 この流れを頭に描ければ、「尿管は大腰筋の腹側、総腸骨動脈の腹側を通る」ことが自然に導かれ、正解はdとわかる。CTの横断像で、大腰筋の前面に造影された尿管が見えることを思い出すと覚えやすい。

選択肢考察

  1. ×a.  腎臓は腹膜腔内に存在する。

    誤り。腎臓は壁側腹膜より背側の後腹膜腔にある後腹膜臓器である。腎臓は腎周囲脂肪組織に包まれ、さらに腎筋膜(Gerota筋膜)で囲まれている。副腎・尿管・腹部大動脈・下大静脈・膵臓(尾部の一部を除く)・十二指腸の大部分なども後腹膜臓器である。腎生検を背側から経皮的に行えたり、腎・尿管手術で腹膜を開けずに到達する後腹膜到達法が可能なのは、この位置関係による。

  2. ×b.  右精巣静脈は右腎静脈に流入する。

    誤り。右精巣静脈は下大静脈の右前面へ直接、鋭角に流入する。左精巣静脈は左腎静脈に直角に流入する。この左右差のため、左精巣静脈は静脈圧が上がりやすく、さらに左腎静脈が腹部大動脈と上腸間膜動脈の間で圧迫されることもある(ナットクラッカー現象)。そのため精索静脈瘤は左側に多く発生する(約90%が左側)。右側だけの精索静脈瘤や、急に出現した精索静脈瘤では、後腹膜腫瘍などによる圧迫を疑う。

  3. ×c.  尿管は大腰筋の背側を走行する。

    誤り。大腰筋は腰椎の椎体と横突起から起こり、脊柱の両脇を下行する筋である。尿管はこの大腰筋の前面(腹側)を、腹膜の後ろに沿って下行する。CT横断像では、腰椎のすぐ外側にある大腰筋の前方に尿管が位置する。大腰筋の背側には横突起や腰方形筋などがあり、尿管が通る場所はない。

  4. ○d.  尿管は総腸骨動脈の腹側を走行する。

    正解。尿管は大腰筋の前面を下行したのち、骨盤上口(分界線)の付近で、総腸骨動脈の分岐部付近(または外腸骨動脈起始部)の前面(腹側)を横切って骨盤腔に入る。その後、内腸骨動脈の前方で骨盤側壁に沿って下行し、膀胱に達する。この交差部は、尿管の三つの生理的狭窄部位(腎盂尿管移行部、総腸骨動脈との交差部、尿管膀胱移行部)の一つであり、尿管結石が引っかかりやすい部位でもある。

  5. ×e.  尿道は精囊を貫いて走行する。

    誤り。男性の尿道が貫くのは精嚢ではなく前立腺である。精嚢は膀胱底の背面、前立腺の上方にある左右一対の分泌腺である。精嚢の導管は精管膨大部と合流して射精管となり、前立腺を貫いて前立腺部尿道の精丘に開口する。つまり精嚢は尿道と直接つながらず、射精管を介して前立腺部尿道に分泌物を送り出す。

尿管の走行と周囲構造との位置関係

・腹部: 大腰筋の前面(腹側)を下行する。精巣(卵巣)動静脈が尿管の前方を斜めに横切る(尿管は性腺血管の背側)。 ・骨盤上口: 総腸骨動脈分岐部付近(外腸骨動脈起始部)の前面(腹側)をまたぐ。 ・骨盤内(男性): 精管が尿管の前上方を横切る(尿管は精管の下・背側)。 ・骨盤内(女性): 子宮頸部の外側約2cmで、子宮動脈が尿管の前上方を横切る。「橋の下を水が流れる(water under the bridge)」と覚える。子宮摘出術で子宮動脈を結紮するとき、尿管を損傷しやすい部位である。

尿管の生理的狭窄部位

1. 腎盂尿管移行部 2. 総腸骨動脈との交差部 3. 尿管膀胱移行部(膀胱壁内尿管)…最も狭い いずれも尿管結石が嵌頓しやすい。

性腺静脈の還流の左右差

・右: 下大静脈へ直接流入する。 ・左: 左腎静脈へ流入する(左副腎静脈も左腎静脈に流入する)。 → 左精索静脈瘤が多い。左腎腫瘍の腎静脈内進展で、左精索静脈瘤が急に出現することがある。

男性尿道の区分

前立腺部 → 隔膜部(膜様部。外尿道括約筋がある) → 海綿体部(尿道球部・振子部)。前立腺部尿道の後壁には精丘があり、射精管と前立腺小室が開口する。

POINT

・腎臓・尿管は後腹膜臓器であり、腹膜腔内にはない。 ・尿管は大腰筋の腹側を下行し、総腸骨動脈(分岐部付近)の腹側を横切って骨盤腔へ入る。 ・右精巣静脈は下大静脈へ、左精巣静脈は左腎静脈へ流入する → 精索静脈瘤は左に多い。 ・男性尿道が貫くのは前立腺であり、精嚢ではない。 ・尿管の生理的狭窄部位は、腎盂尿管移行部・総腸骨動脈交差部・尿管膀胱移行部の3か所である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。