StudyMed医師国家試験

眼窩の「中」と「外」を見極める―涙腺・視交叉・海綿静脈洞の住所録

第100回医師国家試験 G問題 第35問

国試問題にチャレンジ

第100回 G問題 第35問

眼窩内に存在するのはどれか。

  1. a.涙腺
  2. b.視索
  3. c.鼻涙管
  4. d.視交叉
  5. e.海綿静脈洞

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、眼の周りの構造が「眼窩の中」にあるのか、それとも「頭蓋内」や「鼻腔側の骨管」にあるのかを整理する問題だ。眼窩という骨の部屋の境界をどこに引くかがポイントになる。まず、眼窩がどんな形の空間か説明できるかな。
医学生医学生
解剖の講義で、7つの骨に囲まれた四角錐の骨腔だと習いました。前に開いていて、奥がとがっている形ですよね。
ドクタードクター
その通り。前頭骨、頬骨、上顎骨、蝶形骨、篩骨、涙骨、口蓋骨の7つだ。奥の先端部には視神経管と上眼窩裂があって、そこを境に頭蓋内へつながる。中には眼球、外眼筋、視神経の眼窩内部分、眼動静脈、眼窩脂肪、そして涙腺などが入っている。
医学生医学生
視神経が眼窩の中を通っているなら、その続きの視交叉や視索も眼窩の中にありそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。視神経は眼窩内を走ったあと、視神経管を通って頭蓋内に入る。そしてトルコ鞍の上、つまり下垂体の上方で左右が合流して視交叉をつくる。だから視交叉の時点でもう頭蓋内なんだ。
医学生医学生
下垂体腺腫で両耳側半盲になるのは、視交叉が下垂体のすぐ上にあるからでしたね。脳神経外科の実習で見たMRIを思い出しました。
ドクタードクター
いい結びつけ方だ。鼻側網膜からの線維が交叉するところを下から圧迫されるから、両耳側半盲になる。そして視交叉の後ろから外側膝状体へ向かうのが視索。これも当然頭蓋内で、障害されると反対側の同名半盲になる。
医学生医学生
では海綿静脈洞はどうでしょう。眼の症状が出る病気と関係が深いので、眼窩に近い気がします。
ドクタードクター
確かに眼窩とは密接につながっている。上眼静脈などが上眼窩裂を通って海綿静脈洞に流れ込むからね。でも海綿静脈洞自体はトルコ鞍の両側にある硬膜静脈洞で、頭蓋内の構造だ。洞の中を内頸動脈と外転神経が通り、外側壁には動眼神経、滑車神経、三叉神経の第1枝と第2枝が走っている。
医学生医学生
内頸動脈海綿静脈洞瘻で眼球突出や結膜充血が出るのは、眼窩の静脈血が戻れなくなるからですか。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。眼窩の静脈還流先だから、瘻や血栓症では眼球突出、結膜の充血や浮腫、複数の眼球運動神経の麻痺といった眼症状が出る。でも場所としてはあくまで眼窩の外だ。残るは鼻涙管と涙腺だね。
医学生医学生
涙の通り道はどちらも眼のまわりなので、両方とも眼窩内に思えてしまいます。
ドクタードクター
そこを区別するのが今回の肝だね。鼻涙管は涙嚢の下端から下へ続く管で、上顎骨・涙骨・下鼻甲介がつくる骨の管の中を通って、鼻腔の下鼻道に開く。眼窩の内側下方から鼻腔へ抜ける骨管の中の構造だから、眼窩内とはいえない。
医学生医学生
ということで、眼窩内にあるのは涙腺ですね。眼窩の上外側にあるんでしたっけ。
ドクタードクター
正解。涙腺は前頭骨の涙腺窩、つまり眼窩の上外側に収まる外分泌腺で、上眼瞼挙筋の腱膜によって奥の眼窩部と手前の眼瞼部に分かれる。導管は上結膜円蓋の外側に開口しているよ。
医学生医学生
涙腺でつくられた涙が、涙点、涙小管、涙嚢、鼻涙管を経て下鼻道に流れる、という順番で覚えるとよさそうです。
ドクタードクター
そう、産生は眼窩の上外側、排出は内眼角から鼻へ、という流れで覚えると位置関係も一緒に整理できる。眼科外来では、鼻涙管の開口部にあるハスナー弁の開通が遅れて起こる先天鼻涙管閉塞にもよく出会う。乳児の流涙や眼脂が続くときに考える病態だ。
医学生医学生
眼窩先端部を通るものも整理しておいた方がよさそうですね。
ドクタードクター
ぜひそうしよう。視神経管には視神経と眼動脈、上眼窩裂には動眼・滑車・外転神経と眼神経の枝、上眼静脈が通る。この交通路を押さえておくと、眼窩先端部や海綿静脈洞の病変でどの神経がまとめて障害されるかを推測できるようになるよ。

まとめ

眼窩は7つの骨に囲まれた四角錐状の骨腔で、眼球、外眼筋、視神経の眼窩内部分、眼動静脈、眼窩脂肪とともに、上外側の涙腺窩に涙腺が収まっています。視神経は視神経管を通って頭蓋内に入り、トルコ鞍の上で視交叉、その後方で視索となるため、これらは頭蓋内の構造で、障害されるとそれぞれ両耳側半盲、反対側の同名半盲をきたします。海綿静脈洞はトルコ鞍両側の硬膜静脈洞で、眼窩の静脈血を受けるため病変で眼症状を起こしますが、眼窩外にあります。鼻涙管は骨性の管の中を下行して下鼻道に開口する構造です。各構造の「住所」を視覚路・涙液の流れ・静脈還流に沿って整理しておくと、視野障害や眼窩・海綿静脈洞病変の局在診断に役立ちます。

解答・解説

正解はaです

眼窩(orbit)は、前頭骨・頬骨・上顎骨・蝶形骨・篩骨・涙骨・口蓋骨の7つの骨で囲まれた、前方に開いた四角錐状の骨腔である。内部には眼球のほか、外眼筋、視神経(眼窩内部分)、眼動脈・上下眼静脈、動眼・滑車・外転・三叉神経第1枝などの神経、眼窩脂肪、そして涙腺が収まっている。 本問は、選択肢の各構造が「眼窩の中」「頭蓋内」「鼻腔側の骨管内」のどこにあるかを整理できるかを問うている。眼窩の後端(眼窩先端部)には視神経管と上眼窩裂があり、ここを境に頭蓋内へつながる。視覚路では、眼窩内を走る視神経が視神経管を通って頭蓋内に入り、トルコ鞍の上で視交叉をつくり、その後方が視索となる。したがって視交叉・視索はすでに頭蓋内の構造である。海綿静脈洞もトルコ鞍の両側にある頭蓋内の硬膜静脈洞である。一方、涙の排出路のうち鼻涙管は、眼窩内側壁の涙嚢窩から下方へ伸びる骨管の中を通り、下鼻道へ開く。このように位置関係を順に追えば、眼窩内にあるのは涙腺だけであるとわかる。

選択肢考察

  1. ○a.  涙腺

    涙腺は眼窩の上外側、前頭骨の涙腺窩に収まる外分泌腺で、涙液(基礎分泌・反射性分泌)を産生する。上眼瞼挙筋の腱膜によって、奥側の大きな眼窩部と手前の小さな眼瞼部に分けられ、両者は眼窩隔膜の後方・前方にそれぞれ位置する。いずれにしても眼窩という骨腔の範囲内にある構造であり、眼窩内に存在するものとして正しい。導管は上結膜円蓋の外側に開口する。

  2. ×b.  視索

    視索は視交叉の後方から始まり、大脳脚の外側を回って間脳(視床)の外側膝状体に至る視覚路の線維束である。視交叉で半交叉した後の線維からなり、頭蓋内の構造であって眼窩内には存在しない。視索が障害されると、反対側の同名半盲が生じる。

  3. ×c.  鼻涙管

    鼻涙管は涙嚢の下端から下方へ続く長さ約1.5cm前後の管で、上顎骨・涙骨・下鼻甲介がつくる骨性の鼻涙管の中を通り、鼻腔外側壁の下鼻道に開口する。眼窩の内側下方から鼻腔へ抜ける骨管内の構造であり、眼窩内にあるとはいえない。なお開口部にはハスナー弁と呼ばれる粘膜ひだがあり、その開通が遅れると先天鼻涙管閉塞の原因となる。

  4. ×d.  視交叉

    視交叉は左右の視神経が視神経管を通って頭蓋内に入ったのち、トルコ鞍の上方(下垂体の上)で合流する部位である。ここで両眼の鼻側網膜由来の線維が交叉する。頭蓋内の構造であり眼窩内には存在しない。下垂体腺腫などで下方から圧迫されると両耳側半盲をきたすことはよく知られている。

  5. ×e.  海綿静脈洞

    海綿静脈洞はトルコ鞍(蝶形骨体)の両側にある硬膜静脈洞で、頭蓋内の構造である。眼窩からは上眼静脈(および下眼静脈)が上眼窩裂を通ってここへ流入する。洞内を内頸動脈と外転神経が通り、外側壁には動眼神経・滑車神経・三叉神経第1枝(眼神経)・第2枝(上顎神経)が走る。眼窩と密接に交通するが、眼窩内の構造ではない。

眼窩の構成と交通路

眼窩は7つの骨(前頭骨、頬骨、上顎骨、蝶形骨、篩骨、涙骨、口蓋骨)で構成される。後方の主な交通路は次のとおりである。 ・視神経管:視神経、眼動脈が通る。 ・上眼窩裂:動眼神経、滑車神経、外転神経、眼神経(三叉神経第1枝)の枝、上眼静脈が通る。 ・下眼窩裂:上顎神経の枝(眼窩下神経)、下眼静脈の枝などが通る。

涙液の分泌と排出路

涙腺で産生された涙液は、瞬目によって眼表面に広がり、内眼角の上下涙点 → 涙小管 → 涙嚢 → 鼻涙管 → 下鼻道の順に排出される。涙嚢は眼窩内側壁の涙嚢窩に位置し、鼻涙管はそこから骨管内を下行する。

視覚路と障害部位

網膜 → 視神経(眼窩内・視神経管内・頭蓋内)→ 視交叉 → 視索 → 外側膝状体 → 視放線 → 後頭葉一次視覚野。眼窩内にあるのは視神経の一部までで、視交叉以降は頭蓋内である。視神経障害では患眼の視力低下・視野欠損、視交叉障害では両耳側半盲、視索障害では反対側の同名半盲となる。

海綿静脈洞と眼症状

海綿静脈洞は眼窩の静脈血を受けるため、内頸動脈海綿静脈洞瘻や海綿静脈洞血栓症では、眼球突出、結膜充血・浮腫、複数の眼球運動神経麻痺などの眼症状が出る。

POINT

・眼窩内にあるもの:眼球、外眼筋、視神経(眼窩内部分)、眼動静脈、涙腺、眼窩脂肪など。 ・涙腺は眼窩上外側の涙腺窩にあり、眼窩部と眼瞼部に分かれる。 ・視交叉(トルコ鞍上)、視索、海綿静脈洞(トルコ鞍両側)は頭蓋内の構造である。 ・鼻涙管は骨性の鼻涙管内を通って下鼻道に開口する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。