1秒率が下がるのはどっち?―「吐き出す速さ」と「膨らむ量」で読み解く換気障害
第100回医師国家試験 G問題 第102問
国試問題にチャレンジ
呼吸機能について正しいのはどれか。
- a.無気肺では1秒率が低下する。
- b.慢性気管支炎では1秒率が低下する。
- c.肺気腫では肺活量は保たれる。
- d.間質性肺炎では1秒率が低下する。
- e.肺線維症では肺活量は保たれる。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
呼吸機能検査では、1秒率70%未満を閉塞性換気障害、%肺活量80%未満を拘束性換気障害として評価します。慢性気管支炎や肺気腫などのCOPDは気流が制限される閉塞性障害で1秒率が低下し、肺気腫では残気量の増加により肺活量も低下しえます。間質性肺炎・肺線維症は肺が硬く膨らみにくい拘束性障害で、肺活量は低下しますが1秒率は保たれるか上昇し、無気肺も換気に使える肺容積の減少により拘束性のパターンを示します。肺拡散能は肺気腫や間質性肺炎・肺線維症で低下し、慢性気管支炎では比較的保たれる点も鑑別に役立ちます。疾患の病態から「吐く速さ」と「膨らむ量」のどちらが障害されるかを考える習慣は、呼吸機能検査の解釈と呼吸器診療の基礎になります。
解答・解説
正解はbです
呼吸機能検査(スパイロメトリー)で換気障害を評価するときは、次の2つの指標を組み合わせて考える。 ・%肺活量(%VC):年齢・性別・身長から求めた予測肺活量に対する実測肺活量の割合。80%未満を「拘束性換気障害」とする。肺そのものが膨らみにくい、または換気できる肺の量が減った状態を反映する。 ・1秒率(FEV1%):努力肺活量(FVC、最大吸気位から一気に最大努力で吐き出した量)のうち、最初の1秒間に吐き出せた量(1秒量、FEV1)の割合。70%未満を「閉塞性換気障害」とする。気道が狭くなり、息を速く吐き出せない状態を反映する。 両方が基準を下回るものを混合性換気障害と呼ぶ。 各疾患をこの枠組みにあてはめると、慢性気管支炎や肺気腫などのCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は閉塞性障害で1秒率が低下する。一方、間質性肺炎・肺線維症は肺が硬くなって膨らみにくくなる拘束性障害であり、肺活量は低下するが1秒率は保たれる。無気肺は肺の一部がつぶれて含気がなくなる状態で、換気に使える肺が減るため肺活量が低下する(拘束性のパターン)。 本問では、疾患ごとに「閉塞性か拘束性か」を判断し、それに応じて1秒率と肺活量のどちらが変化するかを考えればよい。
選択肢考察
- ×a. 無気肺では1秒率が低下する。
無気肺は気管支の閉塞(痰、腫瘍、異物など)や外からの圧迫によって、その先の肺胞が虚脱し空気が入らなくなった状態である。換気に参加できる肺の容積が減るため肺活量が低下し、拘束性のパターンを示す。残った肺の気道は正常であり、息を吐き出す速さそのものは障害されないため、1秒率は基本的に保たれる。
- ○b. 慢性気管支炎では1秒率が低下する。
慢性気管支炎は、痰を伴う咳が年に3か月以上、2年以上連続してみられる状態と定義され、主な原因は喫煙である。気道の慢性炎症により気道壁が肥厚し、粘液腺の増生と過剰な分泌物の貯留によって気道内腔が狭くなる。その結果、息を吐くときの気流が制限され、閉塞性換気障害となって1秒率が低下する。気流閉塞を伴うものはCOPDに含まれる。
- ×c. 肺気腫では肺活量は保たれる。
肺気腫は肺胞壁が破壊されて気腔が拡大した状態で、肺の弾性収縮力(縮もうとする力)が失われる。そのため息を吐くときに末梢の気道がつぶれやすくなり(エアトラッピング)、空気が肺内に残って残気量が増加する。全肺気量は増えるが、それ以上に残気量が増えるため、肺活量(全肺気量から残気量を引いたもの)は低下する。進行した肺気腫では肺活量は保たれない。
- ×d. 間質性肺炎では1秒率が低下する。
間質性肺炎は肺胞壁などの間質に炎症や線維化が起こる疾患で、肺が硬くなって膨らみにくくなる(肺コンプライアンスの低下)。そのため肺活量が低下する拘束性換気障害を示す。気道の狭窄はなく、硬くなった肺は縮もうとする力がむしろ強いため、息は速やかに吐き出され、1秒率は保たれるか、かえって高値になる。また、肺拡散能(DLCO)の低下も特徴的である。
- ×e. 肺線維症では肺活量は保たれる。
肺線維症(代表は特発性肺線維症)は間質性肺炎が進行し、肺に線維化が広がった状態である。肺が硬く縮んで十分に膨らまないため、肺活量・全肺気量がともに低下する典型的な拘束性換気障害を示す。したがって肺活量が保たれるという記述は誤りである。1秒率は保たれ、肺拡散能が低下する。
換気障害の分類
・正常:%VC 80%以上、FEV1% 70%以上 ・拘束性換気障害:%VC 80%未満、FEV1% 70%以上 ・閉塞性換気障害:%VC 80%以上、FEV1% 70%未満 ・混合性換気障害:%VC 80%未満、FEV1% 70%未満
代表的な疾患
・閉塞性:COPD(慢性気管支炎、肺気腫)、気管支喘息(発作時)、びまん性汎細気管支炎、閉塞性細気管支炎、気管支拡張症など ・拘束性:間質性肺炎、肺線維症、じん肺、無気肺、肺切除後、胸膜癒着・胸水、胸郭変形(高度の脊柱側弯症など)、神経筋疾患(筋萎縮性側索硬化症、重症筋無力症など)、高度肥満など
肺気腫の呼吸機能の特徴
・1秒率低下(閉塞性障害) ・残気量増加、全肺気量増加、残気率(残気量/全肺気量)上昇 ・肺活量は進行とともに低下する ・肺胞壁の破壊によりガス交換面積が減るため、肺拡散能(DLCO)が低下する ・肺の弾性収縮力が低下し、静肺コンプライアンスは増加する
慢性気管支炎と肺気腫の違い
慢性気管支炎は症状(慢性の咳・痰)で定義される気道病変、肺気腫は病理形態(肺胞壁の破壊)で定義される肺実質病変である。いずれも喫煙が最大の原因で、実際の患者では両者が混在していることが多く、気流閉塞を伴えばCOPDとしてまとめて扱われる。COPDの診断には、気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーで1秒率70%未満であることが必要である。慢性気管支炎では肺胞の破壊は乏しいため、肺拡散能は比較的保たれる点が肺気腫と異なる。
間質性肺炎・肺線維症の呼吸機能の特徴
・肺活量、全肺気量の低下(拘束性障害) ・1秒率は正常ないし上昇 ・肺拡散能(DLCO)の低下(早期から出やすい) ・静肺コンプライアンスの低下 ・労作時の低酸素血症
POINT
・1秒率70%未満は閉塞性、%肺活量80%未満は拘束性換気障害。 ・慢性気管支炎、肺気腫(COPD)は閉塞性障害で1秒率が低下する。 ・肺気腫では残気量が増えるため、全肺気量は増えても肺活量は低下する。 ・間質性肺炎、肺線維症、無気肺は拘束性障害で肺活量が低下し、1秒率は保たれる。 ・肺拡散能は肺気腫と間質性肺炎・肺線維症で低下する。
