梗塞5日目の新しい雑音―ショックの裏に潜む「心臓の穴」を見抜く
第100回医師国家試験 F問題 第26問
国試問題にチャレンジ
74歳の女性。前胸部痛で緊急入院した。前胸部痛は4日前に起こり,徐々に改善したが,悪心を伴う胸部圧迫感が持続している。20年来高血圧の治療を受けている。入院翌日,突然胸部苦悶感が出現し,血圧72/40mmHgまで低下した。前胸部に全収縮期雑音を新たに聴取する。心電図(A)と心エコー図(B,C)とを別に示す。 診断はどれか。

- a.梗塞後狭心症
- b.乳頭筋断裂
- c.心タンポナーデ
- d.心室中隔穿孔
- e.右室梗塞
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
急性心筋梗塞の発症から数日後、特に3〜5日目頃に突然のショックと新たな全収縮期雑音が出現した場合は、機械的合併症として心室中隔穿孔と乳頭筋断裂をまず考えます。両者は聴診だけでは区別しにくく、心エコーで中隔の欠損と左→右短絡血流が見えれば心室中隔穿孔、僧帽弁の逸脱と重症逆流が見えれば乳頭筋断裂と判断します。自由壁破裂による心タンポナーデは雑音を伴わず頸静脈怒張や奇脈を呈し、右室梗塞は右冠動脈閉塞に伴い低血圧・頸静脈怒張・肺野清明が特徴です。中隔穿孔では右心カテーテルでのoxygen step-upも診断の助けとなり、補助循環で血行動態を安定させたうえでの緊急手術が必要です。梗塞後数日間の注意深い聴診と心エコーによる迅速な評価は、致死的な合併症を見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・74歳女性、20年来の高血圧(冠危険因子) ・4日前に前胸部痛で発症し、その後も悪心を伴う胸部圧迫感が持続 → 発症から数日経過した急性心筋梗塞(AMI) ・入院翌日(発症から約5日目)、突然の胸部苦悶感と血圧72/40mmHgへの低下(ショック) ・前胸部に新たな全収縮期雑音 ・心電図(A):V1~V5でQ波(QS型)とST上昇、Ⅱ・Ⅲ・aVFでもST上昇 → 前壁中隔から下壁に及ぶ広範な貫壁性梗塞 ・心エコー図(B):心室中隔の心尖部寄りに、心筋が途切れた欠損部がみられる ・カラードプラ(C):その欠損部を通って左室から右室へ向かう異常なシャント血流(モザイク状の短絡血流)がみられる
診断へのプロセス
心電図は胸部誘導のST上昇とQ波に加えて下壁誘導にもST上昇があり、前壁中隔から下壁まで及ぶ広範な梗塞である。心尖部を回り込んで下壁まで灌流する長い左前下行枝(wrap-around LAD)の閉塞が考えやすい。 AMI発症から数日後に、急な血行動態の悪化と新たな全収縮期雑音が出現した場合、機械的合併症として心室中隔穿孔と乳頭筋断裂(急性僧帽弁閉鎖不全)の二つをまず考える。どちらも全収縮期雑音とショックをきたすため、聴診だけでの区別は難しく、心エコーで判定する。本例では心エコーで中隔の欠損と左→右シャント血流が直接描出されており、心室中隔穿孔と診断できる。 なお、心室中隔穿孔は高齢、女性、高血圧、初回梗塞、前壁梗塞(心尖部寄りの中隔穿孔)などで起こりやすく、発症から1週以内、特に3~5日目頃に好発する。本例はこれらの特徴にもよく当てはまる。
選択肢考察
- ×a. 梗塞後狭心症
梗塞後狭心症は、心筋梗塞発症後の早期(おおむね24時間以降~数週以内)に、残存する虚血心筋によって再び狭心痛が起こる病態で、再梗塞の前兆となりうる。胸痛の再燃や心電図変化は起こるが、新たな全収縮期雑音の出現は説明できず、心エコーでの中隔欠損とシャント血流とも一致しない。
- ×b. 乳頭筋断裂
乳頭筋断裂も梗塞後数日で起こり、急性の重症僧帽弁逆流による全収縮期雑音、急激な肺水腫、ショックをきたすため、本例の臨床像とよく似ている。雑音は心尖部で最強となり、腋窩へ放散することが多い。乳頭筋断裂は血流支配が単一の後内側乳頭筋に多く、下壁梗塞に合併しやすい。しかし本例の心エコーでは、僧帽弁の逸脱や左室から左房への逆流ではなく、心室中隔を通る左→右短絡血流がみられるため、乳頭筋断裂ではない。
- ×c. 心タンポナーデ
心筋梗塞後の心タンポナーデは主に左室自由壁破裂で起こり、突然のショックや無脈性電気活動(PEA)をきたす。頸静脈怒張、奇脈、心音減弱が特徴で、新たな全収縮期雑音は生じない。心エコーでは心嚢液貯留と右房・右室の拡張期虚脱がみられるはずであり、本例の所見とは合わない。
- ○d. 心室中隔穿孔
梗塞に陥った中隔の心筋が壊死・軟化して穿孔し、収縮期に左室から右室へ血液が短絡する病態である。左室の前方への拍出が減るため急激な低血圧・ショックとなり、右室・肺血流の増加で右心不全や肺うっ血も加わる。聴診では胸骨左縁下部を中心に前胸部で新たな粗い全収縮期雑音を聴取し、振戦(thrill)を触れることが多い。本例は、広範な前壁梗塞(中隔を含む)発症後約5日目という好発時期、新たな全収縮期雑音とショック、心エコーで中隔欠損とその部位を通る左→右シャント血流が確認されたことから、心室中隔穿孔と診断できる。
- ×e. 右室梗塞
右室梗塞は主に右冠動脈近位部の閉塞による下壁梗塞に合併し、低血圧、頸静脈怒張、肺野清明(肺うっ血を伴わない)が三徴である。右側胸部誘導(V4R)のST上昇が診断に有用である。本例は下壁誘導のST上昇もあるが、発症数日後に突然起こった新たな全収縮期雑音とショック、心エコーでの中隔シャント血流は右室梗塞では説明できない。なお、右室梗塞の治療は輸液による前負荷の維持が中心で、硝酸薬や利尿薬で血圧が下がりやすい点も重要である。
急性心筋梗塞の機械的合併症
発症数日~2週以内(特に1週以内)に起こり、いずれも致死的で緊急手術の適応となる。 ・心室中隔穿孔:前壁梗塞(心尖部寄り)や下壁梗塞(基部寄り)で起こる。新たな全収縮期雑音(胸骨左縁、振戦を伴う)、ショック、右心不全。心エコーで中隔欠損と左→右短絡。 ・乳頭筋断裂:下壁梗塞で後内側乳頭筋に多い。心尖部の全収縮期雑音、急性肺水腫、ショック。心エコーで僧帽弁尖の逸脱(flail leaflet)と重症僧帽弁逆流。 ・左室自由壁破裂:高齢女性、高血圧、初回の貫壁性梗塞に多い。心タンポナーデ、PEA、突然死。雑音はない。心エコーで心嚢液貯留。
心室中隔穿孔の診断と治療
・右心カテーテル(Swan-Ganzカテーテル)で血液酸素飽和度を測定すると、右房から右室・肺動脈にかけて酸素飽和度が急上昇する(oxygen step-up)。乳頭筋断裂では肺動脈楔入圧波形に巨大v波がみられ、両者の鑑別に役立つ。 ・治療:大動脈内バルーンパンピング(IABP)などの機械的補助循環や血管拡張薬で左室後負荷を下げて短絡量を減らし、血行動態を安定させて外科的修復(パッチ閉鎖)を行う。内科治療のみでは予後は極めて不良である。
その他の心筋梗塞合併症
・不整脈:心室細動・心室頻拍(発症早期に多い)、房室ブロック(下壁梗塞で多い) ・心不全・心原性ショック ・心室瘤、壁在血栓(塞栓症の原因) ・心膜炎:早期の梗塞後心膜炎、数週後のDressler症候群
POINT
・AMI発症数日後の「新たな全収縮期雑音+ショック」→ 心室中隔穿孔か乳頭筋断裂 ・鑑別は心エコー:中隔を通る左→右短絡なら中隔穿孔、僧帽弁の逸脱と重症逆流なら乳頭筋断裂 ・中隔穿孔は右心カテーテルで右室以降の酸素飽和度上昇(step-up) ・自由壁破裂による心タンポナーデは雑音を伴わない(PEA、頸静脈怒張、奇脈) ・機械的合併症は緊急手術の適応(IABPなどで安定化しつつ)
