真夜中の胸痛とST上昇―冠攣縮性狭心症を「起こすもの」を見抜く
第100回医師国家試験 F問題 第25問
国試問題にチャレンジ
42歳の男性。就寝中に出現する前胸部痛を主訴に来院した。日中には自覚症状はない。安静時心電図に異常を認めないが,ホルター心電図では,症状出現時に一致してST上昇を認めた。 発作を誘発するのはどれか。2つ選べ。
- a.酸素
- b.過食
- c.過換気
- d.α受容体遮断薬
- e.アセチルコリン
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
夜間から早朝の安静時に起こり、発作時にST上昇を示し、間欠期の心電図が正常な胸痛は、冠動脈の一過性攣縮による冠攣縮性狭心症(異型狭心症)を示唆します。過換気は呼吸性アルカローシスにより血管平滑筋の収縮性を高め、アセチルコリンは内皮機能障害がある血管ではNOによる拡張よりも平滑筋への直接収縮作用が優位となるため、いずれも攣縮を誘発し、診断のための誘発試験にも利用されます。酸素やα遮断薬は誘発因子ではなく、過食は主に労作性狭心症の誘因です。治療は発作時の硝酸薬と予防のカルシウム拮抗薬、禁煙が柱で、β遮断薬単独投与は攣縮を悪化させうるため避けます。需要増加による労作性狭心症と供給途絶による冠攣縮性狭心症を対比して理解することが、病態と薬物選択の両面で役立ちます。
解答・解説
正解はc, eです
所見の整理
・42歳男性、就寝中(夜間~早朝の安静時)に出現する前胸部痛 ・日中の労作時には症状がない ・発作のない時の安静時心電図は正常 ・ホルター心電図(24時間心電図)で、胸痛に一致したST上昇
診断へのプロセス
労作と関係なく、夜間から早朝の安静時に起こる胸痛は、冠動脈が一過性に強く収縮する冠攣縮(spasm)による狭心症を示唆する。冠動脈が攣縮によってほぼ完全に閉塞すると心筋が貫壁性に虚血となり、発作時にST上昇を示す。このようにST上昇を伴う冠攣縮性狭心症を異型狭心症(Prinzmetal狭心症)と呼ぶ。一方、労作性狭心症では労作で心筋酸素需要が増えたときに症状が出て、発作時の心電図は通常ST低下を示す。発作が数分~十数分で自然に治まり、発作間欠期の心電図が正常であることも冠攣縮性狭心症に合致する。日本人を含む東アジア人に多く、喫煙が最大の危険因子である。
設問の考え方
冠攣縮を誘発する因子を選ぶ。冠攣縮は、血管内皮機能障害と血管平滑筋の過収縮性を背景に起こり、自律神経の変動(夜間~早朝の副交感神経優位からの切り替わり)、過換気、寒冷、飲酒、喫煙、アセチルコリンやエルゴノビン(エルゴメトリン)などの薬物で誘発される。これらの一部は、冠動脈造影の際に冠攣縮を人為的に起こして診断する誘発試験(冠攣縮誘発試験)にも利用される。
選択肢考察
- ×a. 酸素
酸素は冠攣縮の誘発因子ではない。狭心症発作時や心筋虚血で低酸素血症を伴う場合に補助的に投与されることがあるもので、発作を起こす方向に働くものとしては扱われない。冠攣縮発作の治療の中心は硝酸薬(ニトログリセリン舌下など)であり、予防にはカルシウム拮抗薬が用いられる。
- ×b. 過食
食後は消化管への血流増加や心拍数増加により心筋酸素需要が増えるため、器質的狭窄をもつ労作性狭心症では食後に発作が出やすいことがある。しかし過食は冠攣縮の代表的な誘発因子ではなく、本症例のような夜間安静時に起こる冠攣縮性狭心症の発作誘発因子としては該当しない。
- ○c. 過換気
過換気によって二酸化炭素が過剰に呼出されると、呼吸性アルカローシスとなる。アルカローシスは血管平滑筋の収縮性を高め(細胞内Ca2+の上昇や収縮系のCa2+感受性亢進が関与)、また血管拡張作用をもつCO2が減少することもあって、冠攣縮が起こりやすくなる。このため、過換気は冠攣縮の誘発因子であり、過換気負荷試験として診断にも用いられる。
- ×d. α受容体遮断薬
血管平滑筋のα1受容体刺激は血管収縮を起こすため、α受容体遮断薬はむしろ血管を拡張させる方向に働き、冠攣縮を誘発しない。注意すべきはβ受容体遮断薬である。非選択的β遮断薬などで血管拡張性のβ2作用が遮断されると、相対的にα作用が優位となって冠攣縮を悪化・誘発させうるため、冠攣縮性狭心症では単独投与を避ける。
- ○e. アセチルコリン
アセチルコリンは、正常な血管内皮では一酸化窒素(NO)の産生を促して血管を拡張させる。しかし冠攣縮性狭心症のように内皮機能が障害されているとNOが十分に産生されず、平滑筋のムスカリン受容体への直接作用による収縮が前面に出て、冠攣縮が誘発される。この性質を利用し、冠動脈造影中にアセチルコリンやエルゴノビンを冠動脈内に注入する薬物誘発試験が確定診断に用いられる。夜間~早朝の副交感神経活動の変化が発作と関係すると考えられている点とも整合する。
冠攣縮性狭心症の概要
冠動脈が一過性に異常収縮(攣縮)して心筋虚血を起こす狭心症である。器質的狭窄が軽度または無い部位でも起こる。 ・好発:夜間~早朝の安静時。日中の労作では起こりにくいが、早朝の軽い労作で誘発されることはある ・危険因子:喫煙(最大)、飲酒、ストレス、脂質異常症など。日本人に多い ・心電図:発作時にST上昇(異型狭心症)またはST低下。発作間欠期は正常が多い
誘発因子
過換気、寒冷、飲酒、喫煙、精神的ストレス、マグネシウム欠乏、薬物(アセチルコリン、エルゴノビン、β遮断薬、コカインなど)
診断
・発作時の心電図変化の記録(ホルター心電図が有用) ・冠攣縮誘発試験:冠動脈造影中にアセチルコリンまたはエルゴノビンを冠動脈内に注入し、攣縮と虚血所見の出現を確認する ・過換気負荷試験:過換気で発作を誘発する
治療
・発作時:硝酸薬(ニトログリセリン舌下・スプレー) ・予防:カルシウム拮抗薬(第一選択)、長時間作用型硝酸薬、ニコランジル。禁煙は必須 ・β遮断薬の単独投与は冠攣縮を悪化させうるため避ける
労作性狭心症との比較
労作性狭心症:器質的狭窄による需要増加時の虚血、発作時ST低下、β遮断薬が有効 冠攣縮性狭心症:攣縮による供給低下、夜間~早朝安静時、発作時ST上昇が多い、カルシウム拮抗薬が有効
POINT
・夜間~早朝の安静時胸痛+発作時ST上昇 → 冠攣縮性狭心症(異型狭心症) ・誘発因子:過換気、アセチルコリン、エルゴノビン、寒冷、飲酒、喫煙 ・誘発試験:アセチルコリン/エルゴノビン冠動脈内注入、過換気負荷 ・治療はカルシウム拮抗薬と硝酸薬。β遮断薬単独は禁忌的(攣縮を悪化させる)
