寄り目の正体は「遠視」だった―調節性内斜視は眼鏡から始める
第100回医師国家試験 F問題 第12問
国試問題にチャレンジ
2歳の女児。1歳5か月ころから眼が内側に寄るのに家族が気付いて来院した。左眼の内斜視を認め,交代視は可能である。中間透光体と眼底とに異常はない。調節麻痺薬点眼下で屈折は両眼ともに+5.0ジオプトリーである。 最初に行う治療はどれか。
- a.近方注視訓練
- b.右眼の遮閉治療
- c.完全矯正の眼鏡装用
- d.副交感神経遮断薬点眼
- e.両眼の内直筋後転術
対話形式の解説
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ドクターまとめ
1歳半〜3歳ごろに発症し、中等度の遠視を伴い、中間透光体や眼底に器質的異常のない内斜視は、屈折性調節性内斜視が典型です。遠視の眼は常に強い調節を必要とし、調節に連動した過剰な輻輳によって眼が内に寄るため、最初の治療は調節麻痺下屈折検査に基づく完全矯正眼鏡の常用であり、正位化すれば診断も確定します。近方注視訓練は輻輳を強めて逆効果で、健眼遮閉は片眼弱視が判明した場合の追加治療、手術は眼鏡で残る斜視や乳児内斜視が対象です。高AC/A比による非屈折性調節性内斜視、部分調節性内斜視、偽内斜視との区別も合わせて押さえておくと、小児の斜視を原因から整理して治療の順番を判断できるようになります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・2歳の女児で、1歳5か月ごろから眼が内側へ寄ることに家族が気付いた。発症は1歳半前後で、生後6か月以内に発症する乳児内斜視とは時期が異なる。 ・左眼の内斜視があるが、交代視(左右どちらの眼でも固視できる)が可能である。これは片眼の強い弱視がないことを示唆する。 ・中間透光体(角膜・水晶体・硝子体)と眼底に異常はなく、白内障や網膜芽細胞腫などの器質的疾患による感覚性斜視は否定的である。 ・調節麻痺薬点眼下の屈折は両眼とも+5.0 D(ジオプトリー)で、左右差のない中等度の遠視である。
診断へのプロセス
遠視眼は、ピントを合わせるために遠くを見るときでも調節を働かせる必要があり、近くを見るときにはさらに強い調節が必要になる。調節と輻輳(両眼を内側へ寄せる運動)は連動している(調節性輻輳)ため、強い調節に伴って過剰な輻輳が起こり、内斜視となる。1歳半〜3歳ごろに発症し、中等度以上の遠視を伴い、器質的異常がないという本例の特徴は、屈折性調節性内斜視に典型的である。
設問の考え方
原因は未矯正の遠視による過剰な調節であるから、まず調節麻痺下で測定した遠視を完全矯正する眼鏡を常用させ、調節を不要にして内斜視が改善するかをみる。眼鏡で眼位が正位化すれば屈折性調節性内斜視と確定し、手術は不要である。眼鏡装用で残る斜視角が大きい場合に初めて手術などを検討する。
選択肢考察
- ×a. 近方注視訓練
近くを見るには強い調節が必要で、それに連動して輻輳も強まる。調節性内斜視の児に近方を注視させる訓練を行うと、内寄せをかえって助長することになり、治療として不適切である。
- ×b. 右眼の遮閉治療
健眼遮閉は、片眼の弱視がある場合に弱視眼を使わせる目的で行う治療である。本例は交代視が可能で、遠視度数にも左右差がないため、明らかな片眼弱視は示唆されず、最初に行う治療ではない。また遮閉は斜視の原因である遠視を矯正しない。なお、眼鏡装用後に片眼の弱視が判明すれば、その時点で追加する治療である。
- ○c. 完全矯正の眼鏡装用
調節性内斜視の原因は、遠視を補うための過剰な調節に連動した輻輳である。調節麻痺下で測定した遠視度数(本例では+5.0 D)を完全に矯正する凸レンズの眼鏡を常時装用させると調節の必要がなくなり、過剰な輻輳が消えて眼位が改善する。治療であると同時に、眼鏡で正位化するかどうかで屈折性調節性内斜視であることを確かめる診断的な意味ももつため、最初に行うべき治療である。
- ×d. 副交感神経遮断薬点眼
アトロピンやシクロペントラートなどの副交感神経遮断薬は毛様体筋を麻痺させて調節を止めるため、小児の遠視度数を正確に測定する調節麻痺下屈折検査に用いる。本例ではすでにこの検査が行われている。治療としては、健眼に点眼して見えにくくする弱視治療(ペナリゼーション)に使うことがあるが、散瞳による羞明や近見障害を伴い長期の常用には向かないため、調節性内斜視の第一選択ではない。
- ×e. 両眼の内直筋後転術
内直筋後転術は内斜視に対する手術であるが、屈折性調節性内斜視は遠視を矯正すれば眼位が改善するため、原則として手術の適応はない。手術は、眼鏡で完全矯正しても残る斜視(部分調節性内斜視の非調節成分など)や、乳児内斜視に対して検討される。最初に行う治療ではない。
調節性内斜視
・発症:1歳半〜3歳ごろに多い。初めは間欠的で、近くを見るときや疲れたときに目立つ。 ・分類: 屈折性調節性内斜視:中等度以上の遠視(おおむね+2〜+6 D程度)が原因で、完全矯正眼鏡で正位化する。 非屈折性調節性内斜視:AC/A比(調節1 Dあたりに生じる調節性輻輳量)が高いため、遠見では正位でも近見で内斜視が大きくなる。遠視矯正に加えて二重焦点眼鏡などを用いる。 部分調節性内斜視:眼鏡で斜視角は減るが残存する。残った斜視角に対して手術を検討する。 ・検査:小児は調節力が強く、調節を止めないと遠視が過小評価されるため、アトロピンやシクロペントラートを点眼して調節麻痺下で屈折を測る。 ・治療:遠視の完全矯正眼鏡を常用する。弱視があれば健眼遮閉などを併用する。
乳児内斜視との比較
・生後6か月以内に発症し、斜視角が大きく、遠視は軽度であることが多い。 ・眼鏡では改善しないため、両眼視機能の発達のために早期(おおむね2歳ごろまで)の手術を考慮する。
偽内斜視
・乳幼児は鼻根部が低く内眼角贅皮があるため内斜視のように見えるが、角膜反射や遮閉試験では正位である。治療は不要である。
POINT
・1歳半〜3歳ごろ発症の内斜視+中等度の遠視+器質的異常なし→屈折性調節性内斜視。 ・最初の治療は、調節麻痺下屈折検査に基づく遠視の完全矯正眼鏡の常用である。 ・近方視は調節性輻輳を強めるため逆効果である。 ・手術は眼鏡で矯正しきれない斜視や乳児内斜視が対象である。
