待てない・止まれない・聞いていない―ADHDを自閉スペクトラム症・チック症と見分ける
第100回医師国家試験 B問題 第9問
国試問題にチャレンジ
注意欠陥多動性障害〈ADHD〉について正しいのはどれか。
- a.衝動性がみられる。
- b.興味が限定される。
- c.まばたきを繰り返す。
- d.常同行動がみられる。
- e.中学生に多く発症する。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
ADHD(注意欠如多動症)は不注意・多動性・衝動性を中核症状とする神経発達症で、順番を待てない、出し抜けに答えるといった衝動性はその代表的な症状です。症状は12歳以前(DSM-IVでは7歳以前)から複数の場面で認められ、小学校入学前後に気づかれることが多く、中学生で新たに発症する疾患ではありません。興味の限局や常同行動は自閉スペクトラム症、まばたきの反復はチック症の特徴であり、これらはADHDと併存しうるものの、ADHDそのものの症状ではありません。治療は環境調整やペアレント・トレーニングなどの心理社会的治療を基本とし、必要に応じて中枢刺激薬や非中枢刺激薬を用います。各神経発達症の中核症状を区別して理解しておくことは、併存例の多い小児・精神科臨床で適切な評価と支援を行う土台になります。
解答・解説
正解はaです
注意欠陥多動性障害〈ADHD: attention-deficit/hyperactivity disorder〉の特徴を、ほかの神経発達症(発達障害)と区別できるかを問う問題である。ADHDは、現在のDSM-5-TR(米国精神医学会の診断基準)の日本語訳では「注意欠如多動症」と呼ばれる。
ADHDの中核症状
ADHDは、年齢や発達の水準に見合わない次の3つを中核症状とする。 ・不注意: 集中が続かない、忘れ物やケアレスミスが多い、話を聞いていないように見える ・多動性: じっと座っていられない、しゃべりすぎる ・衝動性: 順番を待てない、質問が終わる前に答えてしまう、他人の会話や活動に割り込む これらの症状は、次の条件を満たす必要がある。 ・12歳以前から存在する ・家庭と学校など2つ以上の場面でみられる ・生活に支障をきたしている
ほかの疾患との区別
選択肢には、ほかの疾患に特徴的な症状が並んでいる。 ・興味の限局と常同行動: 自閉スペクトラム症〈ASD〉の特徴 ・まばたきを繰り返す: チック症の代表的な運動チック したがって、ADHDの中核症状である衝動性を挙げたaが正しい。
選択肢考察
- ○a. 衝動性がみられる。
衝動性は、不注意・多動性と並ぶADHDの中核症状である。DSMの診断基準では、多動性と衝動性は一つの症状群(多動性−衝動性)にまとめられている。 具体的には次のような行動としてみられる。 ・順番を待つことが苦手 ・質問が終わる前に出し抜けに答える ・他人の会話やゲームに割り込む ・危険を顧みずに行動する 衝動性は、けがや事故、友人とのトラブルにつながりやすく、学校生活や社会生活での困難の大きな原因となる。したがって本選択肢は正しい。
- ×b. 興味が限定される。
興味の対象が狭く限られ、特定の事柄に強く没頭することは、自閉スペクトラム症〈ASD〉の特徴である。ASDは、かつての自閉症(小児自閉症)やAsperger症候群を含む概念である。 ASDの診断基準は次の2本柱である。 ・社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応の持続的な障害 ・限定された反復的な行動・興味・活動 興味の限局は後者に含まれる。 ADHDの子どもは、好きなことには過度に集中することがある。しかし、興味が特定の対象に限局することは診断上の特徴ではない。なお、ADHDとASDは併存することが少なくない。
- ×c. まばたきを繰り返す。
突発的・急速・反復的で、リズムのない不随意的な運動や発声をチックという。まばたきの反復は、その最も多い形である単純運動チックの典型例である。ほかに次のようなものがある。 ・運動チック: 顔しかめ、首振り、肩すくめ ・音声チック: 咳払い、鼻鳴らし チック症は幼児期〜学童期に発症することが多い。多くは一過性である。多彩な運動チックと音声チックが1年以上続くものをTourette症(Tourette障害)という。 チック症はADHDと併存することも多い。しかし、まばたきの反復はADHDそのものの症状ではない。
- ×d. 常同行動がみられる。
常同行動とは、同じ動作を目的なく反復することである。例として次のようなものがある。 ・手をひらひらさせる ・体を前後に揺する ・物を並べ続ける 常同行動は、同一性へのこだわりや興味の限局とともに、自閉スペクトラム症の「限定された反復的な行動・興味・活動」に含まれる代表的な症状である。重度の知的障害などでもみられることがある。 ADHDの多動は、落ち着きなく動き回る、そわそわするといった目的の定まらない活動の多さであり、同じ動作を繰り返す常同行動とは性質が異なる。
- ×e. 中学生に多く発症する。
ADHDは神経発達症であり、症状は幼児期から学童期早期にかけて明らかになることが多い。特に、集団生活や着席が求められる小学校入学前後に気づかれることが多い。 診断基準でも、症状の出現年齢に次のような条件がある。 ・DSM-5以降: 不注意または多動性−衝動性の症状のいくつかが12歳以前から存在すること ・かつてのDSM-IV: 7歳以前から存在すること したがって、中学生になってから発症する疾患ではない。なお、年齢とともに多動は目立たなくなる傾向がある。一方、不注意は思春期・成人期まで持続することが多く、成人になって初めて診断されることもある。その場合も、幼少期から症状が存在していたことが前提となる。
ADHDの概要
・有病率: 学齢期の子どもの約5%前後。男児に多い(男女比はおおむね2〜4:1程度)。女児では不注意優勢型が多く、見逃されやすい ・病型: 不注意優勢、多動・衝動優勢、混合 ・病態: 前頭前野−線条体系の機能異常や、ドパミン・ノルアドレナリン系の神経伝達の関与が想定されている。遺伝的要因の寄与が大きい ・併存症: 学習障害(限局性学習症)、自閉スペクトラム症、チック症、反抗挑発症、不安症、うつ病など
治療
・心理社会的治療が基本: 環境調整(刺激を減らす、指示を短く具体的にする、座席の工夫)、ペアレント・トレーニング、ソーシャルスキル・トレーニング ・薬物療法 中枢刺激薬: メチルフェニデート徐放錠、リスデキサンフェタミン 非中枢刺激薬: アトモキセチン(選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、グアンファシン(α2A受容体作動薬)
主な神経発達症の鑑別ポイント
・ADHD: 不注意、多動性、衝動性 ・自閉スペクトラム症: 対人的相互反応・コミュニケーションの障害、限定された反復的な行動・興味(常同行動、同一性へのこだわり、興味の限局、感覚の過敏・鈍麻) ・チック症: まばたき、首振り、咳払いなどの突発的・反復的な運動・音声。Tourette症は多彩な運動チックと音声チックが1年以上続くもの ・限局性学習症: 知的発達に大きな遅れがないのに、読み・書き・計算など特定の学習能力に著しい困難がある
POINT
・ADHDの三主徴は不注意・多動性・衝動性である。 ・症状は12歳以前から存在し(DSM-5以降。DSM-IVでは7歳以前)、複数の場面で認められる。幼児期〜学童期早期に気づかれることが多い。 ・興味の限局と常同行動は自閉スペクトラム症、まばたきの反復はチック症の特徴である。 ・ADHDは自閉スペクトラム症、チック症、学習障害と併存しやすい。
