止まった酵素の「手前」と「先」を読む―21-水酸化酵素欠損症の検査値はすべて経路図が教えてくれる
第100回医師国家試験 B問題 第62問
国試問題にチャレンジ
21-水酸化酵素欠損症〈先天性副腎皮質過形成〉でみられるのはどれか。
- a.血清ナトリウム高値
- b.血清カリウム低値
- c.代謝性アシドーシス
- d.血清ACTH低値
- e.血清17-ヒドロキシプロゲステロン低値
対話形式の解説
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ドクターまとめ
21-水酸化酵素欠損症は先天性副腎皮質過形成の約9割を占め、コルチゾールとアルドステロンの両方が合成できなくなる疾患です。コルチゾール低下でACTHが上昇して副腎が過形成となり、酵素の手前に17-OHPが蓄積して(新生児マススクリーニングの指標)、余った前駆体はアンドロゲン過剰を招きます。塩類喪失型ではアルドステロン不足により腎集合管でのNa再吸収とK⁺・H⁺排泄が障害され、低Na血症、高K血症、代謝性アシドーシスと脱水・ショックをきたします。治療はヒドロコルチゾン補充を基本とし、塩類喪失型では鉱質コルチコイドと食塩を加えます。高血圧・低K血症を伴う11β-水酸化酵素欠損症や17α-水酸化酵素欠損症との対比も含め、検査値の向きを経路図から論理的に導く力は、内分泌疾患全般の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
本問は、21-水酸化酵素欠損症でみられる検査所見を、副腎皮質ステロイド合成経路の知識から導く問題である。
ステロイド合成経路のどこが止まるか
副腎皮質ではコレステロールからプレグネノロン、プロゲステロン・17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)を経て、3系統のホルモンが作られる。 ・鉱質コルチコイド系: プロゲステロン →(21-水酸化)→ 11-デオキシコルチコステロン(DOC)→ コルチコステロン → アルドステロン ・糖質コルチコイド系: 17-OHP →(21-水酸化)→ 11-デオキシコルチゾール → コルチゾール ・副腎アンドロゲン系: 17-OHPなど → アンドロステンジオン、DHEA(21-水酸化を必要としない) 21-水酸化酵素(CYP21A2)が欠損すると、コルチゾールとアルドステロンの両方が作れなくなる。
そこから起こること
(1) コルチゾール低下 → 下垂体への負のフィードバックが外れ、ACTHが高値となる。 (2) ACTHの持続的刺激で副腎皮質が過形成となり、酵素の手前に前駆体(17-OHP、プロゲステロン)が蓄積する。 (3) 行き場を失った前駆体は、21-水酸化を必要としないアンドロゲン合成経路に流れ込み、副腎アンドロゲンが過剰となる(女児の外性器男性化、男女とも偽性思春期早発など)。 (4) アルドステロン不足(塩類喪失型)→ 腎集合管でのNa再吸収とK・H+の排泄が低下し、低ナトリウム血症、高カリウム血症、代謝性アシドーシスをきたす。 したがって、選択肢の中で本症に合致するのは代謝性アシドーシスである。検査値の方向(高いか低いか)を経路図から一つずつ確認すれば、他の選択肢はすべて逆向きであることがわかる。
選択肢考察
- ×a. 血清ナトリウム高値
塩類喪失型ではアルドステロンが欠乏するため、腎集合管でのNa再吸収が低下し、尿中にNaが失われる。その結果、血清ナトリウムは低値となり、脱水・循環不全をきたす。コルチゾール不足も自由水排泄の低下を介して低ナトリウム血症を助長する。高ナトリウム血症にはならない。
- ×b. 血清カリウム低値
アルドステロンは集合管でNa再吸収と引き換えにKを尿中へ排泄させる。塩類喪失型ではアルドステロン(および同様の作用をもつDOC)が低下するためK排泄が障害され、高カリウム血症となる。単純男性型(アルドステロン産生がある程度保たれる病型)では血清Kは正常範囲にとどまる。いずれの病型でも低カリウム血症にはならない。低カリウム血症を伴うのは、DOCが過剰になる11β-水酸化酵素欠損症や17α-水酸化酵素欠損症である。
- ○c. 代謝性アシドーシス
アルドステロンは集合管の間在細胞からのH+分泌(プロトンポンプ)を促進し、また主細胞でのNa再吸収によって管腔内を陰性に保つことでK+・H+の分泌を助けている。塩類喪失型ではアルドステロンとDOCがともに低下するため、H+の尿中排泄が障害され、高カリウム血症を伴う代謝性アシドーシス(4型尿細管性アシドーシスに類似した病態)をきたす。高カリウム血症自体もアンモニア産生を抑えて酸排泄を減らし、アシドーシスを悪化させる。
- ×d. 血清ACTH低値
コルチゾールが合成できないため、視床下部・下垂体への負のフィードバックが働かず、CRHとACTHの分泌が亢進してACTHは高値となる。この過剰なACTH刺激が副腎皮質過形成の原因であり、皮膚・粘膜の色素沈着の原因にもなる。治療として糖質コルチコイドを補充するのは、コルチゾールを補うと同時にACTHを抑制し、過剰なアンドロゲン産生を抑えるためである。
- ×e. 血清17-ヒドロキシプロゲステロン低値
17-OHPは21-水酸化酵素の基質(酵素が働きかける前の物質)であり、酵素欠損により11-デオキシコルチゾールへ変換されずに蓄積する。さらにACTH過剰による刺激も加わるため、血清17-OHPは著明な高値となる。この性質を利用し、わが国では新生児マススクリーニングで乾燥ろ紙血の17-OHPを測定して本症を早期発見している。
先天性副腎皮質過形成(CAH)の概要
副腎皮質ステロイド合成酵素の先天的欠損による常染色体潜性(劣性)遺伝疾患の総称で、そのうち約90%が21-水酸化酵素欠損症である。原因遺伝子はCYP21A2(6番染色体短腕のHLA領域)。
21-水酸化酵素欠損症の病型
・塩類喪失型: 酵素活性がほぼ消失。生後1〜2週頃から哺乳不良、嘔吐、体重増加不良、脱水、低Na・高K血症、代謝性アシドーシス、ショック(副腎クリーゼ)をきたし、治療しなければ致死的となる。 ・単純男性型: アルドステロン産生はある程度保たれ、電解質異常は目立たない。女児の外性器男性化、男女とも成長加速・骨年齢促進・陰毛早期発生などの偽性思春期早発。骨端線が早く閉じるため最終身長は低くなる。 ・非古典型: 軽症で、思春期以降の多毛・月経異常・不妊などで気づかれる。
性別による表現型
・女児(46,XX): 胎児期からのアンドロゲン過剰で陰核肥大・陰唇癒合などの外性器男性化を示す。内性器(子宮・卵巣)は正常。 ・男児(46,XY): 出生時の外性器はほぼ正常なため気づかれにくく、塩類喪失型では新生児期のクリーゼで発見されることがある。色素沈着が手がかりになる。
治療
糖質コルチコイド(ヒドロコルチゾン)補充でコルチゾールを補いACTHを抑制する。塩類喪失型では鉱質コルチコイド(フルドロコルチゾン)と食塩を補充する。ストレス時は糖質コルチコイドを増量する。
他の酵素欠損との比較
・11β-水酸化酵素欠損症: DOC蓄積により高血圧・低K血症、アンドロゲン過剰で男性化。 ・17α-水酸化酵素欠損症: DOC・コルチコステロン過剰で高血圧・低K血症、性ステロイド欠乏で性腺機能低下(46,XYでも女性型外性器)。
POINT
・21-水酸化酵素欠損症はCAHの約90%。コルチゾール↓・アルドステロン↓・アンドロゲン↑。 ・ACTH↑、17-OHP↑(新生児マススクリーニングの指標)。 ・塩類喪失型: 低Na血症、高K血症、代謝性アシドーシス、脱水・ショック。 ・女児の外性器男性化、皮膚色素沈着。 ・治療はヒドロコルチゾン(+塩類喪失型ではフルドロコルチゾン・食塩)。 ・高血圧・低K血症を伴うのは11β-水酸化酵素欠損症と17α-水酸化酵素欠損症。
