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止まった酵素の「手前」と「先」を読む―21-水酸化酵素欠損症の検査値はすべて経路図が教えてくれる

第100回医師国家試験 B問題 第62問

国試問題にチャレンジ

第100回 B問題 第62問

21-水酸化酵素欠損症〈先天性副腎皮質過形成〉でみられるのはどれか。

  1. a.血清ナトリウム高値
  2. b.血清カリウム低値
  3. c.代謝性アシドーシス
  4. d.血清ACTH低値
  5. e.血清17-ヒドロキシプロゲステロン低値

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、21-水酸化酵素欠損症で検査値がどちらに動くかを問う問題だ。丸暗記で臨むと高いか低いかで迷いやすいけれど、副腎皮質のステロイド合成経路を頭に描き、「どこで流れが止まり、その結果何が足りなくなって何が余るのか」を考えれば、一つずつ確実に判断できる。まず、この酵素が欠けると何が作れなくなるかな。
医学生医学生
生化学の講義で経路図を書かされた記憶はあるんですが……コルチゾールが作れなくなる、というところまでは覚えています。
ドクタードクター
そこが出発点だね。副腎皮質ではコレステロールからプロゲステロンや17-ヒドロキシプロゲステロン、略して17-OHPができて、そこから3系統に分かれる。プロゲステロンが21-水酸化を受けてアルドステロンへ向かう鉱質コルチコイド系、17-OHPが21-水酸化を受けてコルチゾールへ向かう糖質コルチコイド系、そして21-水酸化を必要としない副腎アンドロゲン系だ。
医学生医学生
ということは、21-水酸化酵素が欠けると、コルチゾールだけでなくアルドステロンも作れなくなるんですね。
ドクタードクター
その通り。これがこの病気の核心だ。ではコルチゾールが下がると、下垂体はどう反応するだろう。
医学生医学生
負のフィードバックが外れるので、ACTHは上がるはずです。ACTHが低値という選択肢は逆向きですね。
ドクタードクター
正解。ACTHの持続的な刺激で副腎皮質が過形成になるから「先天性副腎皮質過形成」という名前がついている。ACTH過剰は皮膚や粘膜の色素沈着の原因にもなるよ。次に、酵素が止まった場所の「手前」には何が起こるかな。
医学生医学生
基質がたまるので、17-OHPは高くなります。そういえば小児科の臨床実習で、新生児マススクリーニングで17-OHPを測っていると聞きました。
ドクタードクター
よく結びついたね。17-OHPは21-水酸化酵素の基質そのもので、ACTH刺激も加わって著明な高値になる。だから17-OHP低値も逆向き。そして行き場を失った前駆体は、21-水酸化を必要としないアンドロゲン系へ流れ込む。これが女児の外性器男性化や、男女ともにみられる偽性思春期早発の原因だ。
医学生医学生
残るのは電解質と酸塩基ですね。アルドステロンが足りないから……Naは高くなる、でしたっけ。
ドクタードクター
そこは逆に考えてしまいやすいところだ。アルドステロンは腎集合管でNaを再吸収し、その代わりにKとH⁺を尿へ排泄させるホルモンだよね。それが不足したらどうなる?
医学生医学生
Naを再吸収できず尿に失われるので低ナトリウム血症、Kを捨てられないので高カリウム血症になります。高Naも低Kも、どちらも方向が逆でした。
ドクタードクター
そう。さらにコルチゾール不足は自由水の排泄を妨げるので、低Na血症を助長する。そして最後のH⁺がポイントだ。アルドステロンは間在細胞からのH⁺分泌を促し、主細胞でのNa再吸収によって管腔内を陰性に保つことでK⁺やH⁺の分泌を助けている。これが働かなくなるとH⁺を排泄できず、代謝性アシドーシスになる。
医学生医学生
腎臓の講義で習った4型尿細管性アシドーシスと同じ仕組みですね。高K血症を伴うアシドーシス。
ドクタードクター
まさにそれに類似した病態だ。しかも高K血症そのものが腎でのアンモニア産生を抑えて酸排泄を減らすので、アシドーシスに拍車がかかる。だからこの問題で本症に合致するのは代謝性アシドーシスで、ほかの選択肢はすべて実際とは逆向きになっているんだ。
医学生医学生
経路図で「止まる場所」「手前にたまるもの」「足りなくなるもの」を順に追えば、方向は自然に決まるんですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。少し発展させよう。本症は先天性副腎皮質過形成の約9割を占める常染色体潜性遺伝の疾患で、病型が3つある。酵素活性がほぼ消失する塩類喪失型は、生後1〜2週頃から哺乳不良、嘔吐、脱水、そして今話した電解質異常とアシドーシスを起こし、放置すれば副腎クリーゼで命に関わる。アルドステロンがある程度保たれる単純男性型は電解質異常が目立たず、男性化や成長加速が主体。軽症の非古典型は思春期以降の多毛や月経異常で見つかる。
医学生医学生
男の子だと外性器では気づけないので、マススクリーニングがとくに大事になりそうですね。
ドクタードクター
その通り。男児は出生時の外性器がほぼ正常だから、塩類喪失型でも新生児期のクリーゼで初めて見つかることがある。色素沈着も手がかりになる。治療はヒドロコルチゾンの補充で、コルチゾールを補うと同時にACTHを抑えて過剰なアンドロゲン産生を止める。塩類喪失型ではフルドロコルチゾンと食塩も補い、発熱などのストレス時にはヒドロコルチゾンを増量する。
医学生医学生
ほかの酵素欠損との違いも聞かれそうです。高血圧になるタイプもありましたよね。
ドクタードクター
いい質問だ。11β-水酸化酵素欠損症や17α-水酸化酵素欠損症では、鉱質コルチコイド作用をもつ11-デオキシコルチコステロンが過剰になるので、高血圧と低K血症が出る。11βは男性化を伴い、17αは性ステロイドが作れず性腺機能低下になる。21-水酸化酵素欠損症は「低Na・高K・アシドーシス」、11βと17αは「高血圧・低K」と対比して覚えておくと、どの酵素欠損でも経路図から答えを導けるよ。

まとめ

21-水酸化酵素欠損症は先天性副腎皮質過形成の約9割を占め、コルチゾールとアルドステロンの両方が合成できなくなる疾患です。コルチゾール低下でACTHが上昇して副腎が過形成となり、酵素の手前に17-OHPが蓄積して(新生児マススクリーニングの指標)、余った前駆体はアンドロゲン過剰を招きます。塩類喪失型ではアルドステロン不足により腎集合管でのNa再吸収とK⁺・H⁺排泄が障害され、低Na血症、高K血症、代謝性アシドーシスと脱水・ショックをきたします。治療はヒドロコルチゾン補充を基本とし、塩類喪失型では鉱質コルチコイドと食塩を加えます。高血圧・低K血症を伴う11β-水酸化酵素欠損症や17α-水酸化酵素欠損症との対比も含め、検査値の向きを経路図から論理的に導く力は、内分泌疾患全般の理解に役立ちます。

解答・解説

正解はcです

本問は、21-水酸化酵素欠損症でみられる検査所見を、副腎皮質ステロイド合成経路の知識から導く問題である。

ステロイド合成経路のどこが止まるか

副腎皮質ではコレステロールからプレグネノロン、プロゲステロン・17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)を経て、3系統のホルモンが作られる。 ・鉱質コルチコイド系: プロゲステロン →(21-水酸化)→ 11-デオキシコルチコステロン(DOC)→ コルチコステロン → アルドステロン ・糖質コルチコイド系: 17-OHP →(21-水酸化)→ 11-デオキシコルチゾール → コルチゾール ・副腎アンドロゲン系: 17-OHPなど → アンドロステンジオン、DHEA(21-水酸化を必要としない) 21-水酸化酵素(CYP21A2)が欠損すると、コルチゾールとアルドステロンの両方が作れなくなる。

そこから起こること

(1) コルチゾール低下 → 下垂体への負のフィードバックが外れ、ACTHが高値となる。 (2) ACTHの持続的刺激で副腎皮質が過形成となり、酵素の手前に前駆体(17-OHP、プロゲステロン)が蓄積する。 (3) 行き場を失った前駆体は、21-水酸化を必要としないアンドロゲン合成経路に流れ込み、副腎アンドロゲンが過剰となる(女児の外性器男性化、男女とも偽性思春期早発など)。 (4) アルドステロン不足(塩類喪失型)→ 腎集合管でのNa再吸収とK・H+の排泄が低下し、低ナトリウム血症、高カリウム血症、代謝性アシドーシスをきたす。 したがって、選択肢の中で本症に合致するのは代謝性アシドーシスである。検査値の方向(高いか低いか)を経路図から一つずつ確認すれば、他の選択肢はすべて逆向きであることがわかる。

選択肢考察

  1. ×a.  血清ナトリウム高値

    塩類喪失型ではアルドステロンが欠乏するため、腎集合管でのNa再吸収が低下し、尿中にNaが失われる。その結果、血清ナトリウムは低値となり、脱水・循環不全をきたす。コルチゾール不足も自由水排泄の低下を介して低ナトリウム血症を助長する。高ナトリウム血症にはならない。

  2. ×b.  血清カリウム低値

    アルドステロンは集合管でNa再吸収と引き換えにKを尿中へ排泄させる。塩類喪失型ではアルドステロン(および同様の作用をもつDOC)が低下するためK排泄が障害され、高カリウム血症となる。単純男性型(アルドステロン産生がある程度保たれる病型)では血清Kは正常範囲にとどまる。いずれの病型でも低カリウム血症にはならない。低カリウム血症を伴うのは、DOCが過剰になる11β-水酸化酵素欠損症や17α-水酸化酵素欠損症である。

  3. ○c.  代謝性アシドーシス

    アルドステロンは集合管の間在細胞からのH+分泌(プロトンポンプ)を促進し、また主細胞でのNa再吸収によって管腔内を陰性に保つことでK+・H+の分泌を助けている。塩類喪失型ではアルドステロンとDOCがともに低下するため、H+の尿中排泄が障害され、高カリウム血症を伴う代謝性アシドーシス(4型尿細管性アシドーシスに類似した病態)をきたす。高カリウム血症自体もアンモニア産生を抑えて酸排泄を減らし、アシドーシスを悪化させる。

  4. ×d.  血清ACTH低値

    コルチゾールが合成できないため、視床下部・下垂体への負のフィードバックが働かず、CRHとACTHの分泌が亢進してACTHは高値となる。この過剰なACTH刺激が副腎皮質過形成の原因であり、皮膚・粘膜の色素沈着の原因にもなる。治療として糖質コルチコイドを補充するのは、コルチゾールを補うと同時にACTHを抑制し、過剰なアンドロゲン産生を抑えるためである。

  5. ×e.  血清17-ヒドロキシプロゲステロン低値

    17-OHPは21-水酸化酵素の基質(酵素が働きかける前の物質)であり、酵素欠損により11-デオキシコルチゾールへ変換されずに蓄積する。さらにACTH過剰による刺激も加わるため、血清17-OHPは著明な高値となる。この性質を利用し、わが国では新生児マススクリーニングで乾燥ろ紙血の17-OHPを測定して本症を早期発見している。

先天性副腎皮質過形成(CAH)の概要

副腎皮質ステロイド合成酵素の先天的欠損による常染色体潜性(劣性)遺伝疾患の総称で、そのうち約90%が21-水酸化酵素欠損症である。原因遺伝子はCYP21A2(6番染色体短腕のHLA領域)。

21-水酸化酵素欠損症の病型

・塩類喪失型: 酵素活性がほぼ消失。生後1〜2週頃から哺乳不良、嘔吐、体重増加不良、脱水、低Na・高K血症、代謝性アシドーシス、ショック(副腎クリーゼ)をきたし、治療しなければ致死的となる。 ・単純男性型: アルドステロン産生はある程度保たれ、電解質異常は目立たない。女児の外性器男性化、男女とも成長加速・骨年齢促進・陰毛早期発生などの偽性思春期早発。骨端線が早く閉じるため最終身長は低くなる。 ・非古典型: 軽症で、思春期以降の多毛・月経異常・不妊などで気づかれる。

性別による表現型

・女児(46,XX): 胎児期からのアンドロゲン過剰で陰核肥大・陰唇癒合などの外性器男性化を示す。内性器(子宮・卵巣)は正常。 ・男児(46,XY): 出生時の外性器はほぼ正常なため気づかれにくく、塩類喪失型では新生児期のクリーゼで発見されることがある。色素沈着が手がかりになる。

治療

糖質コルチコイド(ヒドロコルチゾン)補充でコルチゾールを補いACTHを抑制する。塩類喪失型では鉱質コルチコイド(フルドロコルチゾン)と食塩を補充する。ストレス時は糖質コルチコイドを増量する。

他の酵素欠損との比較

・11β-水酸化酵素欠損症: DOC蓄積により高血圧・低K血症、アンドロゲン過剰で男性化。 ・17α-水酸化酵素欠損症: DOC・コルチコステロン過剰で高血圧・低K血症、性ステロイド欠乏で性腺機能低下(46,XYでも女性型外性器)。

POINT

・21-水酸化酵素欠損症はCAHの約90%。コルチゾール↓・アルドステロン↓・アンドロゲン↑。 ・ACTH↑、17-OHP↑(新生児マススクリーニングの指標)。 ・塩類喪失型: 低Na血症、高K血症、代謝性アシドーシス、脱水・ショック。 ・女児の外性器男性化、皮膚色素沈着。 ・治療はヒドロコルチゾン(+塩類喪失型ではフルドロコルチゾン・食塩)。 ・高血圧・低K血症を伴うのは11β-水酸化酵素欠損症と17α-水酸化酵素欠損症。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。