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心臓だけが持つ「名札」―心筋トロポニンが心筋梗塞診断の主役である理由

第100回医師国家試験 B問題 第29問

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第100回 B問題 第29問

急性心筋梗塞の診断で最も特異的なのはどれか。

  1. a.AST
  2. b.LD
  3. c.心筋トロポニン
  4. d.クレアチンキナーゼ
  5. e.コリンエステラーゼ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、急性心筋梗塞の診断に使う血液検査のうち、どれが一番心筋に特異的かを問う問題だ。心筋が壊死すると、細胞の中の酵素や蛋白が血中に漏れ出す。これが心筋マーカーだけれど、考えるポイントは「その物質が心臓以外にもどれだけ含まれているか」なんだ。心臓以外にも多ければ、心臓以外の病気でも上がってしまうからね。
医学生医学生
CBTの勉強では、心筋梗塞といえばCKとトロポニンを覚えました。でもASTやLDも上がると聞いたことがあります。
ドクタードクター
そう、どれも心筋梗塞で上がりうる。ただし特異度はまったく違う。まずASTから見よう。ASTはどこに一番多い酵素かな。
医学生医学生
肝臓です。肝機能検査の代表なので、肝炎でもすごく上がりますよね。
ドクタードクター
正解。ASTは肝臓に最も多く、骨格筋や赤血球にも存在するから、肝障害、筋疾患、溶血でも上昇する。心筋梗塞では発症後半日ほどで上がるけれど、特異度が低いので、いまでは診断目的にはほとんど使われないんだ。
医学生医学生
LDも同じように全身にあるイメージです。血液内科の実習で、リンパ腫の患者さんのLDが高かったのを覚えています。
ドクタードクター
よく結びつけたね。LDは心筋、肝臓、骨格筋、赤血球、腫瘍など全身の多くの組織にあって、溶血や悪性腫瘍でも上がる。心筋梗塞では1〜2週間ほど高値が続くので、昔は発症から時間が経った症例の推定に使われた。アイソザイムでは心筋に多いLD1がLD2を上回るのが心筋障害の手がかりだけれど、溶血でも同じ変化が起こりうるから決め手にはならない。
医学生医学生
クレアチンキナーゼは心筋梗塞のマーカーとして有名なので、特異的だと思っていました。
ドクタードクター
実はそこが引っかかりやすいところなんだ。総CKの大部分は骨格筋由来のCK-MMで、筋肉注射や激しい運動、横紋筋融解症、筋炎、甲状腺機能低下症でも上がる。心筋に比較的多いCK-MBを測れば特異度は高まるけれど、骨格筋にも少し含まれるから、それでも一番にはならない。一方でCKのピーク値は梗塞サイズの推定に、再上昇は再梗塞の手がかりに使えるという長所もあるよ。
医学生医学生
コリンエステラーゼは、そもそも心臓と関係あるんでしょうか。
ドクタードクター
関係ないね。コリンエステラーゼは肝臓で合成される酵素で、肝臓の蛋白合成能の指標だ。肝硬変や低栄養で下がり、有機リン中毒では著明に低下する。逆にネフローゼ症候群や脂肪肝では上がる。心筋梗塞の診断には使わないよ。
医学生医学生
ということは、正解は心筋トロポニンですね。でも、トロポニンって骨格筋の収縮にも関わる蛋白じゃなかったでしたっけ。
ドクタードクター
鋭い指摘だ。生化学や生理学で習ったとおり、トロポニンは横紋筋の収縮を調節する複合体で、C・I・Tの3つがある。ただ、トロポニンTとIは心筋型と骨格筋型でアミノ酸配列が違うんだ。だから心筋型だけを認識する抗体で測れば、骨格筋の障害と区別できる。いわば心臓だけが持つ名札を見ているわけだ。
医学生医学生
なるほど、同じトロポニンでも型が違うから特異的なんですね。時間経過はどうでしょう。
ドクタードクター
発症後3〜6時間ほどで上がり始め、高感度測定法ならさらに早く検出できる。壊死した心筋から持続的に放出されるので1〜2週間ほど高値が続き、時間が経ってから来院した人の診断にも役立つ。感度も特異度も優れているから、心筋梗塞の国際定義でも心筋傷害の判定の中心に据えられているんだ。
医学生医学生
最も早く上がるのはどれでしたっけ。救急外来で発症直後の患者さんが来たときに困りそうです。
ドクタードクター
早期に上がるのはミオグロビンや心臓型脂肪酸結合蛋白で、1〜2時間ほどで上昇する。ただミオグロビンは骨格筋にも多いので特異度は低い。早さと特異度は別の軸で整理しておこう。
医学生医学生
トロポニンが高ければ、心筋梗塞と確定してよいのでしょうか。
ドクタードクター
そこは臨床で特に注意したい点だ。トロポニンは心筋梗塞に特異的というより、心筋傷害に特異的なんだ。心筋炎、たこつぼ心筋症、心不全、肺塞栓症、敗血症、腎機能障害などでも上がることがある。だから胸痛などの症状、心電図、心エコーの壁運動と合わせて判断し、経時的な上昇や下降を確認することが大切だよ。そしてST上昇型心筋梗塞なら、マーカーの結果を待たずに心電図で診断して、速やかに再灌流療法へ進む。
医学生医学生
検査値はあくまで診断の一部で、ST上昇があれば採血結果を待っていてはいけないということですね。循環器内科の実習でも、時間との勝負だと何度も言われました。
ドクタードクター
その通り。マーカーは心臓以外にどれだけあるかで特異度を、いつ上がっていつまで続くかで使いどころを考える。この2軸で整理すれば、どんな選択肢が来ても迷わないよ。

まとめ

急性心筋梗塞で最も特異的な血液マーカーは心筋トロポニン(T・I)であり、心筋型と骨格筋型でアミノ酸配列が異なるため、心筋型のみを測定することで骨格筋障害と区別できます。ASTやLDは肝臓・骨格筋・赤血球など全身に、CKは主に骨格筋に存在するため特異度が低く、CK-MBでもトロポニンには及びません。コリンエステラーゼは肝臓の蛋白合成能の指標で、心筋梗塞の診断には用いません。トロポニンは発症後数時間で上昇し1〜2週間持続しますが、心筋炎や心不全、肺塞栓症、腎機能障害など心筋梗塞以外でも上昇しうるため、症状・心電図・画像と合わせ経時変化を確認して判断します。各マーカーを「特異度」と「時間経過」の2軸で整理しておくことは、救急の胸痛診療で迅速かつ正確な判断を下すための基本となります。

解答・解説

正解はcです

急性心筋梗塞(acute myocardial infarction:AMI)の診断に用いる血液検査(心筋マーカー、心筋逸脱酵素)のうち、心筋障害に最も特異的なものを選ぶ問題である。 心筋が壊死すると、心筋細胞内の酵素や構造蛋白が血中に漏れ出す。これを測定するのが心筋マーカーだが、マーカーごとに「どの臓器に含まれているか(特異度)」と「発症後いつ上昇し、いつまで高値が続くか(時間経過)」が異なる。 特異度を考えるときのポイントは、その物質が心筋以外の組織(肝臓、骨格筋、赤血球など)にも多く含まれるかどうかである。AST、LD、CK(総CK)は心筋以外にも広く分布しているため、心筋以外の障害でも上昇する。これに対し心筋トロポニン(トロポニンT・トロポニンI)は、心筋型と骨格筋型でアミノ酸配列が異なり、心筋型のみを認識する抗体で測定するため心筋障害に対する特異度が非常に高い。感度も高く、微小な心筋壊死でも検出できることから、現在の心筋梗塞の国際定義(第4次心筋梗塞国際定義)でも、心筋傷害の判定には心筋トロポニンを用いることが推奨されている。 なお、コリンエステラーゼは肝臓で合成される酵素で、心筋梗塞の診断とは関係がない。 したがって最も特異的なのは心筋トロポニンである。

選択肢考察

  1. ×a.  AST

    AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)は心筋梗塞でも発症後6〜12時間ほどで上昇し、数日で正常化する。しかし肝臓に最も多く含まれ、骨格筋や赤血球にも存在するため、肝炎などの肝障害、筋疾患、溶血などでも上昇する。心筋に対する特異度は低く、現在は心筋梗塞の診断目的ではほとんど用いられない。最も特異的とはいえない。

  2. ×b.  LD

    LD(乳酸脱水素酵素、LDHとも表記)は心筋梗塞で発症後およそ半日〜1日で上昇し始め、数日でピークとなり、1〜2週間ほど高値が続くため、発症から時間が経った症例の推定に用いられた。しかし心筋、肝臓、骨格筋、赤血球、腫瘍など全身の多くの組織に存在し、溶血や肝障害、悪性腫瘍などでも上昇するため特異度は低い。アイソザイムでは心筋に多いLD1がLD2を上回る(LD1/LD2比の逆転)ことが心筋障害を示唆するが、溶血でも同様の変化が起こりうる。最も特異的ではない。

  3. ○c.  心筋トロポニン

    トロポニンは横紋筋の収縮を調節する蛋白複合体(トロポニンC・I・T)である。このうちトロポニンTとトロポニンIは心筋型と骨格筋型で構造が異なるため、心筋型を特異的に測定することで骨格筋障害と区別できる。発症後3〜6時間程度で上昇し(高感度測定法ではさらに早期から検出可能)、壊死心筋から持続的に放出されるため1〜2週間程度高値が続くので、発症から時間が経った症例の診断にも役立つ。感度・特異度ともに優れ、心筋梗塞の国際定義でも心筋障害の診断の中心となるマーカーであるため、最も特異的である。ただし心筋炎、心不全、肺塞栓症、敗血症、腎機能障害などでも上昇しうるため、症状や心電図と合わせて判断し、経時的な上昇・下降を確認することが重要である。

  4. ×d.  クレアチンキナーゼ

    クレアチンキナーゼ(CK)は心筋梗塞で発症後4〜6時間ほどで上昇し、約1日でピーク、3〜4日で正常化する。ピーク値は梗塞サイズの推定に用いられ、再上昇は再梗塞の手がかりとなる。しかし総CKの大部分は骨格筋由来(CK-MMアイソザイム)であり、筋肉注射、激しい運動、横紋筋融解症、筋炎、甲状腺機能低下症などでも上昇するため、特異度は心筋トロポニンに劣る。心筋に比較的多いCK-MBアイソザイムを測定すると特異度は高まるが、骨格筋にも少量含まれるためトロポニンには及ばない。最も特異的ではない。

  5. ×e.  コリンエステラーゼ

    コリンエステラーゼ(ChE、血清中のものは偽コリンエステラーゼ)は肝臓で合成される酵素で、肝臓の蛋白合成能の指標である。肝硬変・肝不全や低栄養で低下し、有機リン中毒でも著明に低下する。一方、ネフローゼ症候群や脂肪肝では上昇する。心筋梗塞の診断には用いられないため誤りである。

心筋梗塞の診断

心筋梗塞は、①胸痛などの虚血症状、②心電図変化(ST上昇、新たな異常Q波など)、③心筋マーカー(主に心筋トロポニン)の上昇、④画像検査(心エコーでの新たな局所壁運動異常など)を組み合わせて診断する。ST上昇型心筋梗塞では、マーカーの結果を待たずに心電図で診断し、速やかに再灌流療法(経皮的冠動脈インターベンション:PCIなど)を行う。

主な心筋マーカーの時間経過(目安)

・ミオグロビン:1〜2時間で上昇し最も早いが、骨格筋にも多く特異度は低い。 ・心臓型脂肪酸結合蛋白(H-FABP):1〜2時間で上昇し、早期診断に用いられる。 ・CK・CK-MB:4〜6時間で上昇、約24時間でピーク、3〜4日で正常化。 ・心筋トロポニンT・I:3〜6時間で上昇(高感度法ではより早期)、1〜2週間程度持続。特異度が最も高い。 ・AST:6〜12時間で上昇、4〜5日で正常化。 ・LD:半日〜1日で上昇、1〜2週間持続。

特異度の整理

心筋特異性:心筋トロポニン>CK-MB>CK・ミオグロビン・AST・LD 心筋トロポニンは心筋梗塞以外の心筋傷害(心筋炎、たこつぼ心筋症、心不全、肺塞栓症、敗血症など)や腎機能障害でも上昇することがある点にも注意する。

POINT

・急性心筋梗塞に最も特異的な血液マーカーは心筋トロポニン(T・I)である。 ・心筋トロポニンは心筋型と骨格筋型で構造が異なるため特異度が高く、1〜2週間ほど高値が持続する。 ・AST、LD、CKは肝臓・骨格筋・赤血球などにも存在し、特異度が低い。CK-MBは心筋に比較的特異的だがトロポニンに劣る。 ・最も早く上昇するのはミオグロビンやH-FABPである。 ・コリンエステラーゼは肝臓の蛋白合成能の指標で、心筋梗塞とは無関係である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。